6月 勉強会より
  
新しい抗精神病薬について

             慶應義塾大学精神神経科学教室 水野雅文先生

(永年新宿家族会の顧問医的にお世話になった岩下 覚先生に替わり、今回より、水野先生が精神医療面のご講演していただけることになりました。また、会では引き続き「分裂病」の病名改名を願って、先生の病名部分を英語名「スキゾフレニア」と書き換えて表現しています。皆様のご意見をお寄せください)
    

初めまして、水野と申します。JR信濃町駅の近くにある慶應病院に精神科医として勤務しています。大学病院なものですから、通常の外来は、診察時間が限られ、薬物療法が治療の中心になっています。大学は治療と同時に研究や、教育が大事な仕事であります。また大学の活動と離れますけれども、今港区の方で「みなとネット21」という特定非営利活動法人(NPO)で、地域の中で精神障害の方をどうサポートしていくかというシステムや、プロジェクトの開発を明治学院大学の社会学の先生達と一緒にしています。

慶應を含め多くの大学病院自体には、例えば作業所やデイケア、心理教育などの、薬物療法以外の治療手段が残念ながらありません。現在それぞれのシステムをはじめとして治療効率の良い方法について検討しているところです。なかでもこれまでのリハビリに関しては、再発の予防にお薬をきちんと飲むことが役立つこと、家族の感情表出によって起こってくる当事者のストレスも再発の引き金となりえるということ、薬物だけでは100%の治療は出来ず、周りの状況を変えることでかなり効果があがること、またそれについてもいろんな技術的開発があり、例えばSSTやその他いろいろな認知行動療法と呼ばれる働きかけについて、それらの再発予防への有効性に関する研究を進めています。また、これらをうまく組み合わせていくことが、大切になってきているわけです。なかなか一人ひとりの方に対して、すべてを上手く組み合わせると言うのは難しい部分もあるかと思いますが、それを地域の中で、どのようにチームを組み、すでにある施設をどのように活用していくか、勉強しているところです。

東京都には八王子や多摩地区に精神科の病院がたくさんあります。多くの方は精神科の患者さんが発病して、少し重くなってから入院します。その時に措置とか、医療保護入院とかいろいろ形で、どうしても閉鎖病棟に入院することが多くなります。そうすると病院は多摩とか八王子とか少し遠くにありますので、その病院の主治医ととてもいい信頼関係を築けても退院した後、自宅が新宿区だとすると、いくら中央線がまっすぐ通っていたとしても、40km離れている病院に退院した後そこに通院するわけです。

40km、2時間かけて通院してくる患者さんに「2週間に1回通院してください」と言いつづけるということは、医療を提供する側にとっても、これは大きな負担なのです。ただ、これは箱ものですから、構造上の欠陥としてどうしてもそういう状況でやっていかざるを得ないのです。しかし、本当はやはり自宅の近くで、家庭での関わりが困難となる前に、もう少し相談しやすい医療機関が近くにあることで状況はだいぶ変わってくるのではないか、そういう考え方で、地域の中で見守って支えていくにはどのような方法があるかということを、港区という地域で、ある意味では実験的に試みているところです。

港区には慈恵会医科大学の病院の精神科病棟に50床あります。人口が13万くらいのところです。そこに50床あるのですが、大学病院ですので、実際には地域に開かれた病棟とはいい難いこともあります。ほとんど病床がないといった状態です。そういう中で、慢性期あるいは急性期の患者さんを地域で見ていくには、非常に大変な部分がありまして、早く医療にかかっていただくという努力とともに、やはり、地域で見るには、患者さんのところへ訪問する、そういった活動が認められていかないと実際には難しい部分があります。

そのことについて慶應義塾大学と明治学院大学とが研究として行うことによって実験的に利用者の方にも説明した上で、今10件くらいの方々に訪問と言う形で診療しているところです。また一人の医師が大勢の患者さんを診るのは難しいものですから、実際には多職種の、例えば看護婦、ソーシャルワーカー、薬剤師とチームを組んで訪問診療をする形となります。そうしますと医師以外の方にも医師が診察する場面で使っているスキルを身に付けて、各自の独自の専門性にプラスαした技能を持った人たちが、交代で訪問していくことが必要になってきます。実際訪問を続けていくと、さらに必要となってくることがありました。

例えば病院の外来でも2週間に1回5分から10分の診療が現状だと思います。そのほかの残りの時間、患者さんにじかに触れている方々が目の前の患者さんに関してのスペシャリストになっていただけるような、ある程度は知識についても技能についても身に付けていただいて、利用者がいない時間にでも専門的な関わりをしていただけるようなことが必要だとひしひしと感じられます。

ご存知のように再発とか病状が悪くなるときとか、その方が薬を飲まなくなるとき、そういった状況にはある程度の枠というか、繰り返しのパターンがみたいなのがあります。こうなると、悪くなってしまう、こうなると薬を飲まなくなってしまう、そういった状況については、それぞれのご家族はよく知っている場合が多いです。

一つ一つの対応方法に何も分厚い医学の教科書を全部読む必要はないわけです。このような技能を家族の方が身につけていて、家で起こる問題に対して積極的に取り組んでいっていただく。こうした考え方は私達が考え出したのではなく、海外ではたくさん例がありまして、一番知られているのは慶應義塾大学が日本では中心的にやっていますけど、イアン・ファルーンと言う人が、OTP、オプティマル・トリートメント・プロジェクトと言う名前で、地域の中で患者さんをどう見ていくかということで訪問を中心とした、治療方法についての技能を非常に積極的に作り上げています。私達の大学の研究室では翻訳をしまして、リハビリテーションの方法として作ったのがこの本「精神科リハビリテーション・ワークブック(中央法規出版)」です。

さて、前置きはこのくらいにしまして、本題に入りたいと思います。今日は新しい抗精神病薬をめぐってと言うお話の依頼を受けておりますので、その話をしたいと思います。
先ほど紹介した「精神科リハビリテーション・ワークブック」の中にも「第3章 効果的な薬の使い方」という効果的な薬の使用方法という項目がありまして、内容は薬の知識と服薬によるメリット、デメリットにどんなものがあるかということをまとめています。服薬で気を付ける点、なぜ服薬するのか、服薬後の副作用について、新しい抗精神病薬は改善されている点もありますが、さほど大きく変わっていない点もあります。

私もそうですが、皆さんも新しい薬が出ると言うことで大きな期待をもっていることと思います。医師として、自分も使いたいという思いがありますが、薬を切り替えるべきか迷うことが多々あります。例えば、ある薬を飲んで6割の方の症状が改善したという報告があっても、これは1人の方がその薬を飲んで6割の確率で症状が改善するのとは全然違います。この場合は0か1、良くなるか悪くなるかだけなのです。この点がとても大事ですので、今日の話は薬の生化学的な作用効果ではなく、新しい薬を迎えるに当たり、どう受け止め、どう関わるかという総論的なものにしたいと思います。その中で参考にしていただければ、皆さんがいかに選択するか主治医の先生とよく相談のうえで考えていただければいいと思います。

これまでの抗精神病薬は、主に脳内のドーパミンという精神病の症状に関係する物質の経路に働きかけることが中心でした。つまり、ドーパミンをブロックするのです。ドーパミンという物質が精神病に直接つながるところにだけ分布していればいいのですが、脳の中だけでも大きいルートが3つあります。ですから、ドーパミンの動きを変える薬を服用すると、全身にまわり、脳全体にも行き渡りますので、もちろん、3つのルートのどれもブロックしてしまうのです。そのため、一番抑えたいルート以外のところもブロックしてしまうことで起こってくる症状が今までは副作用に直接関係していたわけです。

今回出た新しい薬の中には、必ずしもドーパミンだけに作用するのではなく、主にセロトニン、コリンと呼ばれる脳内の伝達物質などの、複数の経路に働きかけることによって、抗精神病薬の作用として1番残しておきたい部分だけは上手く残して、従来の薬がドーパミンに働きかけて困っていたところに関しては、ほかの経路にも働きかけることによって、困る部分が活発になるのを今度は同時に抑制しながら働きかけるというものを開発したということです。つまりこれまでの薬を飲むことで出てしまう副作用をドーパミン以外のところにも働きかけることによってお互いコントロールし合い、副作用を出づらくさせる薬だということが大きなトピックスです。

もう一つ期待されていることは、陰性症状(幻覚、妄想といった誰が見ても目立つ陽性症状に対して、引きこもり、意欲低下といった目立たない症状)の改善です。陽、陰性症状は、潮の流れにたとえられます。陽性症状が表面にたつ白波、三角波という目に付く症状です。潮の流れというのは表面に出ていないところで大きい強い流れがあります。それと同じように、陰性症状は上から見ただけでは分からないけれど、実は水面下で強い力を持っている症状だと考えてください。

陽性症状はドーパミンの経路によって作られることが知られていますが、陰性症状はセロトニンなどドーパミン以外の経路で作られることが知られています。このことから、今回、ドーパミン以外で働く薬が出たことにより、この症状の改善が期待されるようになりました。

たくさんの化学物質に働きかけることにより、1番の問題であった錐体外路の副作用が少なくなっているのが非定型抗精神病薬です。販売されている薬の種類、それぞれの製剤によって、どの部分の効果に重点をおいているか、各薬によって微妙に違いがあります。しかし、新しいものが出たからといって、以前から使用していたお薬がよくないものだといえるかどうかは簡単ではありません。

薬の選択に当たってはいろんなメリット、デメリットがあります。そこで薬を切り替える方がいい場合、それはどのような時かということを整理してみました。
1つ目は、今の薬を正しく服用しているが症状が軽減しない場合。この場合には、切り替えた方がいいかもしれません。

それから、2つ目として、現在の薬を服用していても、出る症状が日常生活上で妨げになっている場合も切り替えた方がいいと思います。

少し話がそれるかもしれませんが、ご本人と周りの方が見ていて、どうしても症状が残っている部分にとらわれることがあります。本来ならその症状が少しあるくらいなら日常生活に支障をきたすことはあまりありませんが、少しでも症状が残っていると新しいお薬に替えたいと思うことが多いようです。しかし薬の切りかえにはリスクがあります。ご本人自身が症状をあまり気にしないで、十分な日常生活を送れるのであればあえて薬を替えることはあまり考えなくともよいのではないでしょうか。

3つ目は陰性症状で困っている場合。先ほど言いました症状ですが、陰性症状が残るのは仕方がないとあきらめている方が多いと思います。陽性症状がなくなり、薬を持続的に飲んでいて、後は陰性症状だけという場合でも薬をかえてみる価値はあると思います。

4つ目、従来のお薬で副作用に困っている方は、新しい薬を試されると、副作用である錐体外路症状の少ない薬が多いので試す価値はあると思います。

5つ目、従来の薬では眠気が強くて困る場合。眠気に関しても随分と改善されているようですので、これも替える価値はあると思います。それから月経が止まっている場合。これも従来の薬によってドーパミンがブロックされ、プロラクチンというホルモンの調整が悪くなって周期が狂います。新しい薬では減っておりますので、これも改善が期待されます。

しかし、切り替えは実はそんなに簡単ではありません。今度は薬を替えないほうがいい場合です。
1つ目に今服用している薬が合っている場合。今の薬で十分効果がある。完全ではないが満足している場合は新しい薬に替えるだけの価値があるか大いに疑問です。今までの薬は1950年代後半から使われていた(ほかの領域で使われていた)歴史のあるもので、医師はかなりの経験をもっています。どんなことにも、予測が立ちやすいといことが挙げられます。

抗精神病薬というのは非常に安全な薬です。風邪薬を取ってみてもタイミングの悪いときに飲めば、脳炎をおこすもの、副作用がある薬には命にかかわるものがたくさんあります。その中でも抗精神病薬は医薬全般の中では安全な薬です。ですから、今飲んでいる薬が合っているのなら、歴史の浅い薬に飛びつく必要はないと思います。

2つ目は、時期の問題です。いつかのタイミングで、薬を替えたほうがいいという場合はあると思います。医師が新しい薬を採用し出したらすぐにそれに替えるのではなく、ご自身の体調、生活のリズムをみながら替えていくことが必要です。やはり、これからストレスが多い場合、例えば受験、生活上の変化(引越し、結婚)そういった時期に薬を替えることはしないほうがいいと思います。

3つ目、リスクを負いたくない時期。この時期だけは再発しては困る、大事なことが後に控えている場合は、あえて薬を替える必要はありません。新しい薬にしても副作用が全くないわけではありません。いろんな副作用があって、体重が増えやすいなどの症状が出ると気になるときは替えないほうがいいと思います。

4つ目、当然状態の不安定な時にあわてて今までとは性質の違う薬に替えると、かえって症状の改善が難しくなる場合があります。

5つ目、新しい薬が来たということで、ご本人が「飲みたい」と思うのは無理もないことです。そこで、もしご家族が薬を替えることに反対しているとき今日の話を参考にされて、家族でよく相談することが大切だと思います。

6つ目、デポ剤を使用している場合。現在デポ剤でコントロールしている方はデポ剤からの切り替えはとても難しいと思います。

7つ目、主治医が反対しているとき。この場合はなぜ反対しているのか聞いた上で判断をしたほうがいいと思います。

薬の切り替えで一番大事なことは症状が安定していることです。さらに大事なイベントが控えていないこと。それから同じ事ですが、多少症状が悪化しても我慢できる時期。

先程試験の話をしましたが、これから受験シーズンが始まるときには頭がボーっとしない薬の方がいいだろうと誰もがそう考えますが、それによって症状が悪くなる怖れもあることも考えあわせると、なるべく新しいストレスが予測されない時期に切り替えをしたいものです。

それから、旅行など新しいイベントのない時期に切り替えるというのを頭に入れておいてください。薬による様々な副作用や症状の悪化について、同じ薬を飲んでいるときの対処の仕方というのはそれまでの長い経験の中で皆さんの頭の中に蓄積されているはずですし、何か困ったことがあって主治医の先生に相談する場合でも、医師は以前のアドバイスに基づいて対処法を伝えられます。しかし、新しいお薬に切り替える場合には予測のつかないこともありますし、地方などへ行ってしまうと現地では対処しきれないということも考えられますので、なるべく症状の安定している時期にお薬の切り替えをしていただきたいと考えております。

切り替えの期間については個人差があると思うのですが、だいたい3ヵ月くらいを目安にしていただければと思います。なぜかといいますと、新しい薬の中には効果が出るまでには3ヵ月くらいかかるものがあるからです。

切り替えた薬が効果を発揮するのは長くて3ヵ月かかりますので、それぞれの薬がどのくらいの期間でどれだけの効果を発揮するのかということについては、必ずしも充分に解明されているわけではありません。たとえば頭がボーッとしているという状態があったとしてもそれが陰性症状の取れるキッカケだったりということもありますから、そういうことを含めて慌てずに替えていただきたいですし、少し替えてみてダメかなと思っても服用しているうちに効果の出ることもあります。ですから、替えたり戻したりということにあまり神経質になることもないかと思いますが、切り替えにはどのようなことに注意したら良いのかということを理解しつつ大きい方針を踏み外さないように進めてください。それでも替える時期ではないと思ったら勇気を持って切り替えをやめるということも大事だと思います。

実際に新しい薬が合わないと感じたら前の薬に戻す事も考えられます。前の薬と同じ種類のものであっても一時的に量が増えてしまうことがありますが、これは置き換えの技術として必要なことですから、あまり失敗だったなぁと、ガッカリする必要もないかと思いますし、そのうち前の量に戻ります。主治医によっては、新しい薬がうまく行かないと感じたら途中でさらに別の薬に変更をお勧めする方もいらっしゃるかもしれませんが、そのような場合でも主治医と相談して、新しい薬にする理由や前の薬が駄目で今回の薬に可能性があるのかということなどもできるかぎり理解された上で進めてください。

以上が新しい薬に切り替わるときの注意なのですが、最後に新しい薬に替えて得られた状況がもたらす新しい問題や複雑な問題について簡単に触れておきたいと思います。

「薬が変わって、副作用が減って、陰性症状が消える」文字通り解釈するといいことばかりで、当然そうあるべきなのですが、しかし、症状がすごく良くなったときにハタと我に帰るということが本人にはあります。つまり、今まで何となく症状とうまく付き合ってきたというのが、その症状がなくなってしまうことで今までの時間は何だったんだろうとか、過去の辛い症状を思い出して今後絶対に症状が来なくなる保証はあるのだろうかとか、そういうご自分のいろいろな症状や病状とのおつきあいの歴史を振り返って調子を悪くしたり、あるいは、別の次元で深刻に悩んでしまうという状況がときどき起こります。

これらの状況に対しても一人では抱えきれない問題もございますので周りのサポートというのが非常に大事になってきます。それから、薬が効き過ぎというのは不適切かもしれませんが、意欲が出てきて非常に活発になったものの、それまでの長い間、日常生活を自分でしなかったり、援助を受けていたり、お仕事から離れていたために、突然元気になってもご本人の理想と現実との間にギャップのある場合もあります。そのギャップを十分埋めるだけの技術は薬だけではできませんから、一気に新しい状況に飛び込もうとして力及ばずに落ち込んだり、非常に複雑な心の反応を示す方もいらっしゃいます。この度合が過ぎると、時には周りの方にトラブルを起こしたり、あるいは、却って元気すぎて困るということもございます。

薬によってその時点時点での症状の改善ということは確実に得られる可能性はあると思うのですが、しかし、症状が長かった期間に積み残した問題とか追い付かなかった問題が同時に解決するわけではありません。その部分に関しても、ご本人に気付けというのは難しい問題ですから、周りの方がサポートの仕方を同時に考えていただくのがとても大切だろうと思います。

以上、「新しい抗精神病薬」という題で、特定の薬剤よりも、むしろ薬を切り替えていくときのコツとか注意をしていただきたいポイントということでお話させていただきました。

司会 我々のもつ薬の認識について目から鱗が落ちたような感じがいたします。薬の切り替えということがいかに重大なことであるかということを再認識できたように思います。

<<質疑応答>>
質問1 薬を切り替えるキッカケというのは一体誰が言い出すものなのですか?主治医が言ってくれるものなのか?家族が勉強して先生に提案したほうがいいのでしょうか?

先生 前提として薬を飲むのはご本人ですので、薬を替えるという能動的な行為について理解もできて、新しい薬についていける状態がご本人にないと難しいです。ですから、誰が言い出すにせよ、それをどちらから言い出せばうまく行くかというと難しいですね。
新しい薬について積極的に勉強して情報は持ってはいても、待合室の壁に貼るような先生もいれば、話が出なければあえて触れない先生もいるでしょうから、先生のスタイルを知っておく必要はあると思います。新しい情報が入ってきて、それを選ぶというのはストレスでもあるので、情報の垂れ流しというのは必ずしも責任のある行為ではないし、本当にどれがいいのかというのは難しいことだと思います。家族の方は、ある程度は情報を取捨選択したり、全家連の雑誌などで知識を蓄えておくことは必要でしょう。

新しい薬が出たときに、例えば、私たち医師には、あの患者さんのあの症状をなんとかしたいというふうに心にひっかかっているというときがあるわけです。情報に触れたときにピンと来るような場合には、次の診察のときに状況やタイミングがよければ、すぐにでもお出しする場合もあります。でなければ、あとになってもっと早く言えばよかったかなと思ったりすることも、正直言ってあるかもしれません。だいたい新しい薬というのは2つも3つも同時に来るわけではありませんから、精神科の薬に限らず、前の薬で不都合のある方には次の診察で回って、当然言うべきだなと思って回診していくわけですから、全ての診察のときに、その新しい薬のことは頭には入っていると思います。それをあえて言うか、患者さんのほうから言われて実はちょうどそう思っていたんですという話になるかは、そのときそのときだと思います。

質問2:23歳の息子のことですが、いま急性期で暴力も出るようになって、先生も入院をすすめてくださったんですが、本人は拒否。それで月1回注射しているんですが、薬を少し強めに替えてみようかというのも拒否されてしまう。久しぶりにかなりひどい状態で、一度は警察にも来てもらいました。でも、そのときは冷静になって警察でも強制入院はむずかしいというし、かかっている病院にも、保健所にも相談したんですが、対応してもらえないんです。親としては、急性期のときになんとかしてもらいたいのですが、主治医は患者さんが拒否する場合にはできないと・・・ 入院をさせたいんですけども、何か入院できるようにする言葉というようなものがあるんでしょうか?

先生:非常にむずかしい問題ですが、1つはシステムの問題です。行政の運営上の問題もありますが、さらに元にあるのは精神保健福祉法という法律の問題ですから、個別に議論をしても、制度上変えていくというのはもっと別の動きをしないと難しいだろうと思います。現場の先生たちも、法律上できないことはできないわけで、もっと積極的な医療活動をするうえで、例えば訪問とか往診とか、あるいはご本人の意にそぐわないような入院も含めて、もう少し柔軟な運用をしたいと思っている方は大勢いると思います。

ただ、これは行き過ぎると、人権の問題も出てきますし、病気であるかという判断が往診の短い時間や一時的な興奮した状況の中で、果たしてそれが精神科の治療対象としての病気によって起こってくることなのか、あるいは状況によって起こってくるかは、いっしょに住んでいる方には実感としてはわかっても、全くの第三者がみて必ずしも正しい判断ができるとは限らないので、その予防、抑制も含めて、現状の法律では、なかなかお迎えに行って入院させるということは難しいというのが実際です。

しかし、初めて病院にかかるというのはハードルが高いと思うんですけども、例えば入院したことがあるかかりつけの病院とか、かかりつけの先生がいれば、例えば何日か前からいま具合が悪いから今度何かあったら連れてきますからベッドを空けておいてくださいというようなことは、ある程度柔軟に対応してくれる病院はあると思います。ですから、その辺はその状況の伝え方とかも工夫なさって、ご家族の困り方がよくわかるように、症状として外来ではどうしてもムリな点とか、病院のほうで協力的にやってくれるような関係を普段からつくっておくというのは大事だと思います。大事なのは、ご本人が通院しなくなって、薬にも嫌気がさして、親の言うことも聞かないような状況になる前に、ということです。

いったん悪くなってしまってから、治療の軌道にのせてうまく元のように退院してというのは、ものすごく時間もエネルギーもかかります。入院に限らず、薬の量をふやす、あるいは間隔を短くするというのも、1つの方法です。そういうことをご本人の機嫌のいいうちにやっておくというのはすごく大事なことです。

また、薬については、勧めるときに、周りの親たちが困るから薬を飲め、ではなくて、それは本人も困っているわけで、そこに効くものとして薬を提案していくということが大事だと思います。ご本人が困っていることに効くものとしての薬という位置付けをしないと、本人のメリットとはマッチしないですから、勧め方というのは一工夫必要です。それには本人が何に困っているかを普段からよく聞く姿勢とか付き合い方、本人が言いやすい関係が大事だと思います。
(この後も参加者から多くの質問が出ましたが、スペースの問題もあり、ここで打ち切らせていただきます。)

テープ起こし:菊池太一、安藤陽子、渡辺信喜(精神科ボランティアの皆さん)


編集後記

 ある家族会メンバーが言った。「数ある障害の中で、精神障害ほど無念という言葉が当てはまることはない」と。
 たしかに、精神障害に陥った子供たちの大方が幼児期、おとなしい、まじめ、成績は上位というケースだ。
 つまり、そのメンバーが言うには、内に秘めた能力がありながら、それが正当に発揮できないもどかしさが障害そのものの苦しみに加わって、他の障害にはない、「無念さ」であり「哀れさ」であるというのだ。
 しかし、私見ではあるが、精神障害に陥った子供たちに見られるもう一つの共通点として、親たちから「愛情の欠如」ということが挙げられはしないか。
 自己反省として、自らのケースを省みれば、愛情のつもりが「不当な期待」であったり、自由の名の下に「放任」ではなかったかと思う。もし、多少の弁解を許してもらえば、経済的、あるいは仕事上の理由ゆえに「放任」とせざるを得なかったということもあろう。
 この障害が最も発症しやすいとされる思春期。ワタシ的に「無念」について語れば、初めての子育てにおいて、親の時代感覚のままで、子供の思春期を捉えていた、その「無知」「無策」に対しての「無念」である。
 繰り返し言いたい。次代の親たちにはくれぐれもこの「無念」の轍は踏まないで欲しいと。
                                     

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