10月 家族会例会より
  
心の病・薬物療法とリハビリ

           講師 慶應義塾大学精神神経科 水野雅文先生

(新宿家族会では分裂病の改名を望み、講師の先生方の病名部分を「スキゾフレニア」(分裂病の英語名)として表現しています。今回、水野先生はフレンズの意向を汲んでいただき、講演中の言葉として「スキゾフレニア」と表現していただきました。)

 今回はリハビリ療法を中心にお話したいと思いますが、参考書として『精神科リハビリテーション・ワークブック』(中央法規出版 水野雅文/村上雅昭・編著)を見ていただけたらと思います。主にスキゾフレニアの患者さんのリハビリを中心に書いてありますが、それだけに限りません。リハビリ療法は心理社会療法ともいい、薬物療法以外の精神科の治療法と考えていただければいいと思います。薬物療法とリハビリ療法は対になっているものですから、そのことからご説明しましょう。

 「脆弱性ストレスモデル」といって、スキゾフレニアをはじめ精神病がどうして起こるかという説明モデルがあります。どうして再発するか、どうして起こるか、ということを考えるときにも、最近ではこの脆弱性ストレスモデルが医学的には広く採用されています。これは日本だけでなく、国際的にもスキゾフレニアの原因を考えるときには、このモデルを参考に、研究的戦略的方法をどう組んでいくかを考えているわけです。

 基本的に精神科の病気というのは、長くなってくると障害もかぶさってくるのですが、医学的にはやはり脳の病気と考えています。脳の病気なのですが、現状では、最新のMRI、PETといった研究機材を使っても、脳の中の異常は明確には出てきません。スキゾフレニアの方とそうでない方を多数集めての比較では、この部位がこう違うのではないかといった研究はたくさんあります。ただ、一人ずつの方を考えたときに、脳がこうだからこれが原因になっている、と言えるほどには、はっきりはしていないのです。何か脳の中の機能が原因になっているだろうという視点で、医学的には研究されているのですけれども。

 みんながみんな、最初から調子悪いわけでは決してなくて、あるところから調子悪くなってしまうことは、みなさんよくご存知だと思います。この脆弱性ストレスモデルの「脆弱性」というのは、脳そのものの、あるいは体のヴルネラビリティ=病気になりやすさというふうに、理解していただければいいと思います。例えば、病気によっては親御さんの病気がそっくり子供に伝達されるものも、遺伝性の疾患としてありますけれども、精神科の病気の場合にはそのようなはっきりしたものはありません。ただ、親子であれば、顔つきや体型、体質が似るように、脳についてもおそらくかなり似たようなものが子に引き継がれるということは、あまり想像に難くないと思います。

 そうした意味で、ストレスに対する弱さというものは、例えば、がん家系とかウイルス性疾患にかかりやすい方ですとか、そういう体に特徴があるように、脳にそうした脆弱性がありやすい方、ということは多少なりともあるんじゃないか、とも想像できるだろうと思います。ですから、脳の特質としての脆弱性というものが一つには考えられるわけですけれども、この脆弱性ストレスモデルというのは、それだけではありません。

 強い人も弱い人もいるけれども、例えば一卵性双生児であれば同じ遺伝子を持っているのに、一人の方は発病し、もう一人の方はなぜ発病しないのか? これが完全に一致すれば、体質のせいだろうということが言えるわけですけれども、一致する率は非常に低いわけです。全く同じ遺伝子をもっていても、およそ4割くらいというのがいま国際的な評価ではないでしょうか。一致しない方が多いわけです。なぜかということを考えるうえで、このモデルはその説明に耐えるものなのです。

 体質だけでは発病しない。それに何が加わるかというと、もう一方のストレスです。ストレスというのは、非常に身近な言葉になっています。ストレスがない方はいないと思います。ストレスは活用の仕方によっては、例えば、私もいまみなさんの視線を感じて緊張して、ストレスを感じているわけですけれども、これはいい緊張であって、あまりリラックスしすぎて話をしても内容がまとまらず、話も聞きづらいことになると思います。
 ですから、活用の仕方ということになりますが、過ぎたるは及ばざるが如しとも言いまして、ストレスがありすぎてもいけないんです。まず、恒常的な生活上のストレス、普段、日頃からあるストレスというものがあります。日常的にずっとあるストレスです。みなさんそれぞれの状況の中で、普段そう簡単に変わらないストレスというのがあると思います。例えば、朝起きて、朝ごはんをつくるというのも一つのストレスかもしれませんし、会社や学校に行くこと、友達とつきあうこと、つきあいでお酒を飲まなきゃいけないこと、あるいは会社に行って向かい側に上司が座っている、学校に行くといつも苦手な友達がいる、といった、恒常的なストレス。想像に難くないように、家族の中にも当然ストレスというのは、生まれてまいります。
 この日常のストレスが高い状況から低い状況まであるわけですけれども、そこに、さらにライフイベントが重なってきます。ライフイベントというのは、これは日常的でないストレスです。つまり、結婚式とか、家族が亡くなったりしたお葬式、試験に合格したとか落ちたとか、そういった非日常的な出来事です。ストレスとひと口で言っても、日常的にずっとあるストレスと、あるときエピソーディック(一時的に)にポンポンと来るストレス、合計してはじめて、その方のその日々のストレスだと考えることができるだろうと思います。

 さて、脆弱性ストレスモデルでは、ストレスに耐えられる「閾値(いきち)」というのがあって、この閾値がまさにその脆弱性、つまり生物学的な要因です。日常的なストレスが比較的高い状況の中では、ちょっとしたライフイベントによるストレスがあるだけで、閾値を越えてしまう。何も出来事がなければ、ストレスに対する閾値を越えることはないけれども、そういったことがあるわけです。もっと日常的なストレスが低い状況であれば、同じくらいのストレスの波が来ても、その方の耐えられる閾値が同じだとしたら、越えずにすむということになります。
 同様に、普段のストレスを非常に低く抑えている方でも、とてつもなく大きなストレスがボーンと来ますと、閾値を越えてしまうことになってしまうわけです。ですから、なんとか閾値を越えないように生活していくことが、これは精神科の病気に限らないかもしれませんが、普段からストレスがあって、そこにさらにストレスがやってきて、ギリギリの線を越えてしまうと痛くなるのであって、普段のストレスを減らしておくか、大きいストレスを来なくするか、この2つがストレスの面から見た閾値を越えないポイントになってくると思います。

 このようにストレスをコントロールするという方法と別に、もう一方で、できれば、閾値のバーを少しでも高く上げておきたい。そのために、もともと閾値のバーが低い場合には、お薬を飲むわけです。つまり、薬理学的な、生物学的な治療で、強さを高いほうに保っておく。そういう理屈になります。まとめると、閾値のバーを上げておくか、ストレスを下げておく、この2つのどちらかをあるいは両方をうまくやっておけば、ストレスに耐えられる閾値をいつまでも越えずにすむ、ということになるのです。

 ですから、今回のテーマに戻りますと、薬物療法と、薬物以外のリハビリ療法、心理社会的な療法、あるいはストレスコーピングとも呼びますが、そういった治療というのは、まさに車の両輪であって、お薬だけ飲んでいくら閾値のバーを上げておいても、日常のストレスが高まっていて、そこへ高い波が押し寄せれば、簡単に越えてしまうわけです。逆に、お薬を飲まずにバーが下がっていても、これはやはり越えやすくなってしまうということですから、2つの療法がともにうまく回りだすといい方向に向かってくるとわかっていただけるかと思います。
 ここで、お薬のことにふれますと、参考書の3章にも「効果的な薬の使い方」ということで、お薬の作用とかメリット、デメリットについての説明があります。よく体験されることだと思いますが、診察に行って症状をおっしゃると、先生はそれを聞いていちばんいい処方を考えて出します。そのとき、できれば、お薬の量というのは少なく出したい。1回の量も少なく出したいわけですし、長期的にも長く飲んでいる間の総服薬量がなるべく少なくなるようにお薬を出したいと思って考えるわけですけれども、肝心なことはその薬を飲んでいるということなんです。でも、お薬の中にはいろいろな好ましくない作用もありますし、1日に何回も定期的にお薬を飲むというのはけっこう面倒なことですから、つい飲まなくなってしまうこともあります。

 けれども、お薬を飲むということは、飲むことそのものが薬物療法というだけとはちょっと違うわけです。その飲むという生活習慣とか、あるいはその飲むことに対してその意味とか、あるいは、お薬そのものについても、眠気の強いお薬だったとしたらやはり飲むのがイヤになってしまいますから、できれば飲み心地というか、飲んで気持ちのいい、そういうお薬を開発していただきたいと思います。飲んだほうが明らかに体験としてイイなぁと感じられれば、その薬を飲むこと自体がそれほど大きな問題ではなくなるんだろうと思います。薬物の中には、いいあまりに続けて飲んで依存的になるアルコールのようなものもありますが、アルコールは好きで飲む人がいっぱいいても、お薬となるとイヤがる。お薬もきちんとした薬効を持っていながら、飲み心地がいいということがあってもいいはずです。

 比較的飲みやすいとか飲んで気分がよくなると感じやすいお薬もあれば、飲むとどうも眠くなるとかなんとなく気が重くなると言われてしまうお薬もあります。飲んだ方がどう感じているかについて、よく注意を向けている先生ですと、それは感じていらっしゃるし、経験的にどういうお薬がいいかを知っていると思います。ですから、そうしたことを改善していって、飲み方も1日3回飲まなきゃいけないのか、1回でもいいのか、あるいは注射なら月1回ですむとか、いろいろな工夫がありますから、その方の体質とか生活スタイルに合わせたものにすることで、きちんとお薬を飲んで、実質的に効果的に薬物療法が進んでいくということになります。

 それをするのは、心理社会的な、例えば、情報提供とかあるいは話し合いとかです。ただ飲みなさいと言って飲めば簡単ですが、ご存知のようになかなかうまくいかないわけで、お薬についていろいろメリットやデメリットをよく知っていただいて、どうやったらきちんと飲めるのか、例えば、カレンダーを使ったりとか、いろんな工夫をしていただけるように、この『精神科リハビリテーション・ワークブック』にも書かれております。このように、薬物療法とリハビリ療法はいつもからみあって効果を上げているわけです。

 ほかに、心理社会的、リハビリ療法として、私たちは10項目くらいを上げて考えているわけですけれども、ここにないものもいくつもあります。今回は、代表的なもののアプローチや考え方をご説明します。もし薬で全て解決、再発しない。あるいは1回飲むと、2週間飲むと治ってしまうというような特効薬が開発されれば、いちばんいいわけですが、なかなかそうはいかないということは、みなさんよくご存知のところです。

 そこで、再発防止のための治療効果の研究について、お話したいと思います。これは、スキゾフレニアになってから、いったんお薬を飲んだり入院したりしてよくなった後の話ですけれども、偽薬といって本物のお薬と全く同じ形をしていながら中身はお薬ではないものを使った、ある種の実験です。同意を得て、「本物が入っているかどうかはわかりませんけど、トライアルに参加してください」という形で試みたもので、偽薬を飲んだ方では70%の方が1年以内に再発。

 一方、本物のお薬では38%が再発という結果が出ました。わずか10年前のものです。ここで大事なことは、偽薬を飲んでいても、3割の方が再発していないということです。つまり、これは、科学的にはお薬を飲んでいないのと同じことです。ただ厳密に飲んでいないのと同じかというと、錠剤は飲んでいたわけです。つまり、1日3回薬を飲まなきゃいけないという健康に対する配慮とか、生活リズムを整えることとか、あるいは家族の方もお薬を飲まなきゃいけない状況なんだなと思って接し方に注意をしたりとか、そういうことは当然なされていたのです。言ってみれば、お薬以外の治療はしていった分と読みかえることができると思います。

 それによって3割の人が全く再発しないで過ごすことができている。これも注目しなければいけない事実だと思うんです。逆に、本物のお薬だけきちんと飲んでいた人たちでも、3〜4割の人が再発してしまう。これも事実なのです。つまり、お薬だけ飲んで安心していたのでは、やはり再発してしまう。お薬でいくら閾値のバーを下げていても、日常のストレスが高くなっていたり、ふいのライフイベントがあったりして、再発してしまうことがあるのです。

 そこで、さらに、当事者中心のストレスマネジメント、援助者中心のストレスマネジメントをした2つのグループがあります。当事者はお薬を飲んでいる方自身に、援助者は一般的にいえば家族です。家族の方たちに対してもストレスマネジメントするというのは、介護や援助によって非常にストレスを受けている、大変な思いをしている、そうしたことを解決する手段や、治療者や周囲の方たちから十分な理解を示したり、協力をしていく、広い意味でのマネジメントです。

 当事者の方が作業所へ行ったり、リハビリ療法、SSTをやったり、ご本人だけを一生懸命、治療するだけでは、なかなかお薬プラスアルファの効果は出てきません(薬物+当事者中心のストレスマネジメントでは再発が36パーセント)。同時に、その家族や援助者に対して、例えばご本人とのかかわり方を学習していただくとか、ご本人たちのストレス発散方法について勉強していただく、そういうことを重ねていくと、再発率がグッと下がる。それがこの4番目のグループの13%という低さということになります。

 では、実際に、どんなことが家族の方のストレスマネジメントとして、大事になってくるのかと言いますと、感情表出、EEというのを聞いたことがあると思います。これは、家族の方、身近な方が当事者の方に向けて出す、感情の表現のことです。1950年代に、欧米を中心に脱施設化といって、入院中心型の精神医療から地域での精神医療への大きな転換の流れがあったときに、長期入院されていた方たちがどんどん退院していったのですが、家族のもとに帰った方とやむなくアパ−トで一人暮らしを始めた方で、回転ドアと言って病院へ戻ってきてしまう。再発率を比較したところ、どちらが高かったでしょうか。
 
 私も16年前に医者になってこの話を聞いたときには、家族のもとに帰れば、例えば、服薬や食事の世話をしてくれたり、いろんな意味で安心して過ごせるだろうと思って、非常に驚いたんですが、家族のもとに帰ったほうが再発率が高かったんです。その後、くわしく分析が進んで、それぞれの家の状況の違いでみると、一日中いっしょに過ごしている家庭のほうが再発率が高い。ますます不思議になりますが、考えてみればそうかなと思う部分もあると思います。それが感情表出ということにつながってくるのです。

 あまり身近でみていますと、仕事も見つからないで一日中うちで過ごしている方に、ついカッカカッカという感情が出てくる。批判的な言動といわれる言い方があまり多いと、本人にとってかなりストレスになるということが、だんだん明らかになって、あまり近づきすぎてもよくないのです。もう一つ特徴的なのは、逆にすごく大事にしてしまって、何でもかんでも当事者の方の思うように、批判はしないけど、合理的なでないことまで思い通りに行動してしまったり、周りの方が振り回されてしまっているようなことがあって、オーバーインボルブメント、巻き込まれすぎの状態といいます。ですから、批判的すぎてもいけないし、接近しすぎて何もかもやってあげるのもよくない。

 こうした観察で、家族の方のいろいろなメッセージが本人にはときにストレスになり、日常的なストレスを上げてしまうことがわかってきたのです。それを下げるために、家族の方に本人への接し方、かかわり方をいっしょに練習していただく。そう考えられるようになってきたわけです。

 実際にどうやるかは、いまいろいろな試みががされだしていますが家族中でやるといかに効果的かという研究結果が数多く出てきています(参考書の図2)。通常の外来治療をしただけのグループと比べると、家族の方も含めた治療を行ったグループでは、1年以内の再発率が劇的に下がっています。世界各地で追試がされて、文化が違えば家族と本人の関係も違ってきますから結果はかなり違うと思われたのですが、それほど違いは大きくなくて、しかも、それぞれの国の医療体制の中での調査ですから、なかには逆の結果もありそうなものですが、程度の差こそあれ、家族の方も含めてストレスマネジメントしたほうが再発は半分〜2、3割に下がることがわかってきたのです。もういまでは、精神科医の間では常識になっていることなのですが、日本の精神医療の中では、さっそくこの援助者中心のストレスケアマネジメントを受けたいと思われても、日本ではこういう治療を受けることがほとんどできないのです。

 保険点数化されていないために、病院でこういう治療をトータルに受けることが現実的には非常に難しいことになっています。こうすれば再発が防げるとわかって、20年もたっているのですが、現実の医療のレベルではなかなかできない。
 それでも、なんとか家族の中で普及していったり、せめて自主的に勉強できるようにしていきたいというのが私たちの願いで、参考書では、例えば家族とご本人とのコミュニケーションの仕方をのせています。

 この本の中でも「問題解決と目標の達成」として、話し合いをするときの一種のコツをのせています(参考書の6章)。この問題解決目的達成ワークシートというのは、非常に使い勝手のいいものなので、身に付けていただきたいのですが、例えば、うちの中でちょっとした混乱状態が起こったとします。食事のあとで当事者の方である息子さんが洗い物をしない、朝でも夜でも少し遅れてきて、食卓に参加しないけど、ずっと食べていたり残したりする。そういうときに、台所がどうも汚くて、「いつもあなたが来るのが遅くて、私は一日中お勝手していなきゃならない」とお母さんがプンプン怒っている。そういうときに、問題としては、台所をなんとか片付けようと・・・ でも、「片付けなさい!」とお母さんがプン!と出て行ったら、それで終わりなんです。それでうまくいくなら簡単ですが、そうはいかないので、問題解決シートを使って相談しましょう、ということをこの家ではやり出しました。問題解決シートの使い方については『精神科リハビリテーション・ワークブック』をご参照ください。

 それから、「嫌な気分を軽くするため」の心がけも参考書にあります。お母さんに言われたあのひと言がすごくイヤだった、あるいは家族の方でも、当事者の方の思わず言ったひと言が胸に突き刺さって解消できない、ということがあります。

 つい別のときにワーッと気持ちが高まって言ってしまうとか、いくらでもあることです。そういうときに、どうしたら、うまく自分のストレスも下げられて、相手にもストレスにならずに、相手の方が上手に別の言い方を身に付けることができるような、伝え方ができるか。やはり、相手の方の顔をみて、いまの自分の感情にふさわしい態度で、もし自分が困っていたら、ただ強圧的に怒りをぶち返すのではなく、自分がいかに困っているのかを素直に伝える。それから、実際に何が自分の気持ちの中でモヤモヤになっているか、ということをうまく伝える。それをどういうふうに自分が感じているかということも話す。そのためにはどうしてほしいのか? あのときワッと言ってしまったけど、もうちょっと、例えば私のそばに来て静かに言ってくれれば、こんなにつらい思いをしなくて、あとのこともうまくいくのに、というようなちょっと面倒な、回りくどいことかもしれませんが、それを上手に伝えるということが大事になってきます。

 同じように、いいことについても、何か物事を頼むときとか、うれしい気持ちを伝えるときも、「上手な頼み方」というのもあります。例えば「お母さん、ジュース買ってきといてね」というだけでなく、「いつも買い物たいへんだけど、ジュース重いけど、荷物が少ないときでいいから、買ってきてくれる?」とか。「〜していただけませんか」「〜だとありがたいのですが」「〜だとうれしいな」というのは、親しさの度合いによって、家族に頼むとき、作業所で誰かに頼むとき、関係性によって言い方が違ってきて、さまざまだと思います。

 上手に頼んで何かしてくれたときには、「感謝の気持ちの伝え方」というのも心がけていただきたいです。ありがとう、うれしかったと、当たり前だと言えばそうなのですが、なかなか言葉にして伝えるということは、つい省略しがちなんじゃないかなと思います。ですから、こういったことをうまく使えるようになると、相手の方にも気持ちよく、またやってあげようかなという気持ちを起こさせることにつながるんじゃないかと思います。

 この『精神科リハビリテーション・ワークブック』では、各章の本文の中に、より具体的に、実際にやるためには、どう考えていったらいいのか、どんな場面で練習したらいいのか、ということが書かかれています。ほかにも、ストレスコーピングなどの「不快な体験に上手に対処するために」という、持続する幻聴への対処法とか、いわゆる認知行動療法と呼ばれるものも含まれています。

 今回は、まず一種のコミュニケーションスキルといった部分を中心にお話をしてきたのですが、薬物療法以外の治療の中にはこうしたいろいろな手立てがあります。「再発を防ぐための早期警告サイン」というのもあります(参考書)。

 これはコミュニケーションそのものではありませんけれども、だいたい再発のときのパターンというのは、それぞれの患者さんごとに決まっていて、いつも眠くなるとか、不機嫌になって始まるとか、だいたいサインが決まっているものですから、それを早めに家族の方がつかむ。みんなが知っていることが大切です。ご自分が調子悪くなるときにはどんなサインがあるのか、先ほどの話と同じように、できるだけ具体的に対応策をとっておく。サインが出たら医者に行くというだけではなく、家族でも話し合ったり、あるいはお医者さんが休みの日もあるでしょうからそういうときはどうするのか、というようなことを具体的に決めておく。

 それから電話でも連絡がつくような先生であれば、電話番号でも書いておく。そうすれば、家族の方も安心して旅行に行けたりする。そういう手立てをいろいろ書いて、コピーして貼っておいたり、あるいは留守番の人に渡しておいたり、そういうことを積極的にやっておくことによって、周りの方のストレスも下がっていく、ということになっています。

 ですから、なかなか簡単にはいかず、時間もかかりますが、そういうことをうまく組み合わせていく中で、効果が上がってくると思います。例えば、アクティブリスニングというのは、再発兆候、早期警告サインを相談するときに、「あなたいつもこうなったらダメじゃないの! 薬ちゃんと飲んでなさいよ」というようなやりとりだけでなく、早期警告サインについてはみんなで相談して合意を得て、そしてここに書いておいて、対応をとるというようなことをやっていくことなのですから、みんな連関しているわけです。なかなか、ここだけ練習すればすごく便利に上手にということは難しいところもあると思いますが、複合的に組み合わせていって、お薬の力を最大限に活用できる状況を整えていただくことがコツではないかと考えています。
 以上、お話はこの辺で終わります。質問のある方はどうぞ。

司会 それでは、質問のある方はどうぞ。
質問1 本人にはこういった本(参考書)があるだけでも嫌がるのですが、見せてもよろしいものでしょうか?

先生 病院には通ってらっしゃるんですよね?それでしたら、そこのところは少し掛け橋を作っていっていいんじゃないでしょうかね?それとなく、テーブルなどに置いといたらいかがですか?

質問2 (参考書の)マークシートのことなのですが、これを使って話し合いできればと思うのですが、本人からはおしつけとうけとられないかと不安なのですが…
先生 本を出すと嫌がる方もいらっしゃいますので、例えば、切り貼りできるところをさりげなく貼っておくとか、導入としては家族がやるのにつきあってもらうというか、あなたが主役であなたのために周りがつきあうのではなくて、周りのためにあなたがつきあってくれる?っていうふうなすすめ方のほうがオススメだと思います。もうひとつはそっと置いておいていただいたり…

質問3 精神分裂病(スキゾフレ二ア)という病気は治るものなのでしょうか?それとも治らないものなのでしょうか?

先生 それはもちろん治るものと考えてよろしいものではないでしょうか?少なくとも私は個人的には治るものと考えておりますが、治らないと考えるような風潮はありますね。これは病気ですから一つには治療のタイミングですね、それから治る治らないというのは他の病気と同じ様なものですよね。治る方は分裂病でも治りますし、ただ、昔の大先生が治らないものをスキゾフレニアと名付けたような医学上の流れがありますので、そういうイメージが固定されてしまうのですが、治ってる方もいっぱいいるわけです。治る方というのはいずれ退院して社会復帰される訳で、そうすると医療者の目につきませんから…。

 医師も教育をうける段階で病気の重い段階を知らなければというわけで慢性期の重い患者さんばかりを診るわけです。それは、一概に大事なことなんですけど、治ってる方が病院に来なくなるという当り前の事実も今まであまり強調されてなかったんですね。どうしても治らない病気だということが言われるようになってきた部分はあると思います。しかし、現実的には治ると考える方が増えている。今は入れ替わりの時期ではないでしょうか?

司会 「治る」という基準について、医療者のいう「治る」と、我々当事者や家族のいう「治る」ということが解釈が違うのではという気がいているのですが…

先生 大事なポイントだと思います。この病気にかかるのは20代前半と非常に若い時期ですよね。家族の方にも非常に期待感の大きい時期です。そしてきっと、あの病気にさえならなければ今はこうはならなかっただろう、前の時代と今の時点を比較しますから…その期待はずっと前の期待ですから、そうすると同じにはなってませんよね。別に病気をしなくても思春期のお子さんが無事成人して「昔はいい子だった」と言うじゃありませんか、それは当り前ですよね。小学生ですから、この子が大きくなって言うこときかなくなっても、グレたとは思わないですよね。こういうときは「大人になった」っていいますよね。

 ですから、病気が治んないのか病気は治っているけど、それはひょっとしたら病気になる前とは違いがありますよね?それをいつまでも病気が残っている障害が残っているというのは周りにとっても本人にとってもハッピーなのかというと大きなクエスチョンマークがつきますよね。それから医学的にも病気自体が回復したとしかいいようのない所見もたくさんあるわけですから。やはり治る方は治ると考えるべきでしょう。それを言うと、それは誤診だったスキゾフレニアではなかったという先生もいるかもしれませんが、どこまでいうかということになりますが、それが現状だと思います。

司会 それは現実に病院からフェードアウト(徐々に消えていく)して社会に入っていったという事例はある訳ですよね?

先生 まさに発病寸前の介入がうまくいって発病せずに済んだという印象をよく持ちます。どうみても発病するパターンに経過はなっているけれども発病せずに済んだという経験をたくさんしております。

司会 そこのところは、どういう理由があって留まったとお考えですか?

先生 これはストレス脆弱性の話に戻るのですが、本人のストレスを周りが下げてあげるというのが一つのポイントですし、もう一つは最近は積極的に、予防的な意味も含めて、今までは完全に発病したとみなされないと出されなかったお薬を、副作用の少ないものが出てきているものですから、決まらなくても飲んでもらおうと、もちろんよくお話しをして合意いただいた上でのことですけれども、そういうアプローチになってきてますね。(アメリカやオーストラリアではそうなってます)

 日本では保険診療という形をとっておりますので、なかなかそこまで踏み込めないというのは現状なのですが、例えば、坑不安薬などを出して、様子をみるという形に変わってきてますね。私自身は早く出して良かったと思うことが多々あります。発病するかしないかギリギリでずっといって、そのなかで家族や周りの状況が変わるなかで本人のライフステージが変わるなかでストレスが下がっていってお薬をやがて抜くことができる、本来はそういう病気だと思います。かなりクライシスに入ることは誰でも同じ状況を経験することだと思うのですが、そこを何とか現状に踏み留まらせる努力をどこでかかわれるかというのが一つのポイントになってきています。
<中略>
…これは無理もないんですよね。そういう病気があることを知らないわけですから、風邪は熱出して病院へいくというのは誰でも分かりますし体験もありますす。も、こころの病というのは病気としてあって、誰でもなりうるもので、しかもそれはわかってるわけです。10代後半から20代前半というのは仕事もしなければならない、学校にも行かなければならない、年齢的にも身体が最終的に変わる時期でもある。。脳の発達のなかで小さいときに始まって最後にまとまるのは20代後半から30代くらいのところでドラスティックに変わってくるわけですよね。そこのところに対して何ら予防的なアプローチもされてない訳ですからそ、こを変えていかなくてはならないと思うんですよね。。そういうことが広がってくれば病気が始まり出したところから治療にのるまでの期間がどんどん短くなってくる訳ですよね。そうすると普通の病気と同じように早期発見早期治療で効果も結果もいいということになる訳で、そういうことが大事なんじゃないかな?と思っております。

質問4 私も自分の子どもが高校生のときに、たぶん一回目の何かがあったと思うんですよね。それは、たぶん一日ぐらいで消えてしまって、5〜6年くらい経ってからあぁ、あれだったんだと思うのですが、、それがやはり悔やまれるから、こういう家族会か何かで高校の入学式みたいなときに、家族会の名前で「高校時代というのはこういう病気がありますから注意したほうがいいと思いますよ」ということをやるべきではないかと思うのですが?

司会 そうですね。私は、もう、そのことはずっと前から思っていました。他の区では作業所を始め、グループホーム、生活支援センターなどの一覧紹を写真入りで紹介しています。私は高校生では遅く、中学生の春の一年生の入学式にPTAで家族に全員配ってしまってもいいのではないかと、ずっと考えていたことなのです。今登校拒否から家庭内暴力といった問題は14歳か15歳からそういう事例がありますからね。

先生 私もいま小学校高学年から高校1・2年生までの教科書を書こうと思っているんですけれども、たくさんの授業は無理なのですが各学年ごとに5時間とか3時間とかこれをマスターしてもらう。
 それから、ストレスを下げるためのお酒の問題解決ですとか、子どもが受けるストレスというのはたくさんあるわけです。いじめの問題とかたばこの誘惑がありますよね、思春期の、それをきちんとした情報でそういうことがあるというは、実態がわからないものというのは怖いですけれども、まずきちんと情報を知ることは大事だと思うのでそういうことはしていきたいと思うのですが…

質問5 薬の加減というのは親がやるものなのでしょうか?

先生 私がよくやってもらうのは、新聞の折り込み広告などに入っているカレンダーに服薬するところに印をつけてチェックしてねという方が多いですよね。あとは主治医のところにもってきてもらう…、あとはお薬のシートに日付を書く方もいらっしゃいます。飲まないときにパスした方がいいのか。まとめて飲んだ方がいいのかということにつきましては主治医の先生とよく御相談いただいた方がよろしいかと思います。回数を減らしたときの飲み合わせの問題もありますし、飲みたくないという本人の意志もありますが、薬をはじくこれはいいけどこれはダメっていうのは白黒ハッキリさせしすぎてるんですよね、きっと。飲んでもいいかいけないかというところに処方を少し変えてもらったらいかがですか?嫌なお薬は理由がある訳ですから、だいたい重い薬が多いわけですよね昔からのお薬で沈静系のお薬というのは、単純に変えていいというものではないのですが、本人が飲みやすいというのを探してもらってもいいんじゃないでしょうかね。(早期警告サインというのはこういう症状になったときにはすぐに連絡してくださいということですか?)おうちによって内容も連絡先も違いますから、(要するに具合が悪くなるのは本人にはわからないわけですから、病院の先生を呼んでくださいということですか)

 早期のサインというのは御本人がわからないようじゃ困るんですよ。もっと本人がわかりづらいうちにもっと早く、たとえば二日寝られなかったとか三回お薬を飲まれなかったとか、もっと前のことでないと、もうそれがでちゃったら入院というはもう遅発サインなんです。早期サインというのはもっと前の、(そのうえで親が病院に電話をするということですか?)病院に電話するだけでなくても友達に電話するでもいいですし、薬を飲んでたか確認するでもいいですし、それはそれぞれの方のパターンがありますのでそこを相談していただくことがよろしいと思います。
(紙面の都合で、ここで講演記録は終わります)
テープ起こし
渡辺信嘉/菊池太一(新宿区社協ボランティア)
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本文中の参考書:「精神科リハビリテーション・ワークブック」について
監修------イアンR.H.ファルーン+鹿島晴雄
編著------水野雅文+村上雅昭
著---------慶應義塾大学医学部精神神経科総合社会復帰研究班
目次;1.治療・援助チームを作ろう
   2.自分の目標を立てよう
   3.効果的な薬の使い方
   4.タバコやアルコールに頼らないために
   5.アクティブリスニング---聴き上手になるために
   6.問題解決と目標の達成
   7.自分の気持ちを上手に伝えよう
   8.不快な体験に上手に対処するために
   9.早期警告サイン---再発を防ぐために---
   10.危機介入
   11.活動性を高める  など
発行------中央法規出版株式会社
    電話 03-3379-3861 Fax 03-5358-3719
定価------¥2200(税別)
(今回の家族会勉強会の開催に当たってはヤンセン協和株式会社より多大な御支援をいただきました。紙面をかりて御礼申し上げます)


編集後記

 先月、全家連から分裂病の名称問題が提起された。スキゾフレニア、クレペリン・ブロイラー症候群、統合失調症の3つ名前が候補として上がっていた。
 我フレンズも3年前から「スキゾフレニア」を提唱してきた。全家連の投票では、新聞によると「統合失調症」が4割を占めたという。いずれにしても、これで「精神分裂病」という名称は日本語から消えていく・・・と思われる。
 この「分裂病」という名称は、当事者、いやそれ以上に家族にとっては余りにも厳しい名称である。これは身内にこの病いの家族がいる者にしか分からない感概ではないだろうか。
 フレンズホームページでも提唱してきたが、これまでに約10名の反応があった。賛成と反対がほぼ同数。賛成は当事者か身内に分裂病の家族を抱えている人。反対の方は躁鬱等、分裂以外の精神系の病気の方、あるいは精神医療、福祉等の学生であったりである。
 病名改名が叫ばれておよそ10年になるという。それが遅々として進まなかった理由の一つは、当事者、家族が抱くこの病名への感情が第三者には伝わらないところにあるのではないだろうか。さらに、言葉の響きの悪さと同時に、分裂病そのものへの偏見が、より当事者、家族をして治療や介護の面で不利益を生んでいると思う。    

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新宿家族会 E-mail: frenz@big.or.jp