2月勉強会より
   ストレス対処法

             講師 慶應義塾大学精神神経科 水野雅文先生

さて、今日のテーマである「ストレス対処法」ですが、これは範囲がとてつもなく大きいものです。そこで、まず皆さんが家庭で感じているストレスというと、どんなものがストレスとして感じられるのか書き出していただいて、それについて考えてみたいと思います。

皆さんが患者さんと毎日接触している中で、極端にいえば、ご本人がそこにいることそのもの、あるいはご本人の症状のうちの何か、そしてご本人の発言、雰囲気とか、そういったことに対して家族の方が、心や日常生活での負担感をもっているということはよくあることです。

そこで、問題なのは家族の方が、いうなればネガティブな想いといいますか、体験を口にしづらいとか、あるいは、そんな気持ちを持つ自責の感情、というものもあろうかと思います。こうしたことは重たい問題ですが、長期戦であることもあって、事実としてあるわけです。これは健康な家族の中でも起こりうる感情ですから、それを相手が病気であるという理由から、家族や援助者が自らの感情を押し殺している場合が多々あるのではないでしょうか。

そこで、無理矢理押し殺しましょうというのは、あまりよくないと思います。誰しも持ってしまう感情というものがどうしても起こります。人間というのは自分の心の動きというものをそう簡単にコントロールできるものではないわけですから、ましてや、患者さんとの間に起こる気持ちの動揺というのは、持ちたくないと思ってもそれが先にきてしまえば、それは致し方ないことだと思います。

それから、皆さんが感じるストレスと患者さんの病状とがかなり関係しているということも言えます。ご家族が患者さんの状況に対して絶えずいっしょにいないとダメだとか、仕事に着けないとか、旅行にも行けない、こうしたご家族が犠牲となっている部分がありながら、患者さんの状態が改善されていかない、こういう状況から抜け出すにはどうしたよいか、ということが重要になってくると思います。これが長期的にみるストレスということになると思います。

そうした家族の方から患者さんに向けられる心の動きとか、感情の表出(EE)の問題としても関係してきます。ですから、これらの感情は自分だけの問題ではなく、誰の心の中にも存在するのだ、ということを知るということは一つの救いにもなることではないでしょうか。そこできょうはまず皆さんご自身のストレスを洗い出してみましょう。そこから、それに対してどんな対処方法があるだろう、と考えてみたいと思います。

ここで感情表出(Express Emotion)について簡単に説明しますと・・・

1960年代にイギリスで精神病院をどんどん閉鎖しようという動きが高まりました。その時レフという精神科医が、退院した患者さんの経過を観察していると、「回転ドア現象」と呼ばれるように、またすぐに病院に再入院(再発)となって戻ってきてしまうことに気がつきました。これを見て、どうしてこうしたことになってしまうのだろう、と不思議に思い調査を開始しました。

その内容は家族のいる自宅に帰られた患者さんと、単身生活のアパートへ帰った患者さんとの再入院する再発率の比較をする調査でした。その結果、再入院(再発)となる可能性が高いのは家族のいる自宅に戻る患者さんということでした。これはなぜだろうと研究が進められましたが、そこで明らかになってきたのがこの「感情表出・EE」ということでした。家族の方からご本人に向けられる情緒的なメッセージということです。

これには大きく分けて二つの要素があります。一つは「批判的なコメント」と言われるもので、ご家族の方が患者さんに対して、一般的にいう「厳しいこと」を言うことです。例えば日常生活について「あれしてはダメ」「これしてはダメ」というクリティカルコメントというものです。

それからもう一つは「情緒的な巻込まれ」というものです。これはご家族がご自分の中の苛立ちとか、憂鬱な想いであるとかの感情を直接患者さんに向けて発せず、黙って涙で反応するというものです。あるいは日本ではお百度参りにいくといった不合理なものも含まれます。これは患者さんにとっては煩わしいものとして感じられます。これが情緒的巻込まれです。

それでは、皆さんが患者さんとの生活で、日頃感じるストレス、そして、もし書けたら、その解決法を書き出してみてください。

ご家族のストレスというのは必ずしもご家庭の中で、ご本人との接触の中でのストレスだけでなく、ご近所への気づかいとか、あるいは病院へ行ったときに主治医とのやりとりの中でのストレスとか、色々あると思いますので、その辺を書いてみてください。

(皆さんが各々書く)

はい、ありがとうございます。ざっと拝見しますと、やはり、ご本人とのやりとりの中でのストレスというが圧倒的に多いですね。その中でも症状に困っている方と、ご本人の生活態度、服装、服薬、睡眠といったことにストレスを感じているという風に分類できそうです。

では、これらのストレスについて一つひとつ見ていきたいと思いますが、その前に、いつもの「ストレス脆弱性モデル」の図を見てみます。

このグラフの下の部分が誰でも感じる「日常的なストレス」としてあります。この日常的なストレスに加えて、身内のお葬式があったり、結婚式があったり、あるいは風邪を引くとか、つまりライフイベントという普段とは違った出来事が重なる場合があります。そうした普段のストレスにライフイベントがプラスされて、ある一定の域を超えると再発の危機に陥るということを「ストレス脆弱性モデル」というものです。

この一定の域のことを「閾値(いきち)」と言います。この「閾値」は人によって異なります。ですから、再発しやすい人、病気になりやすい方というのはこの「閾値」が低いということになります。これは病気の人ばかりでなく、誰にでも当てはまることです。ですから、皆さんもできるだけ日常的なストレスのレベルを下げておいた方が、ちょっと大きめのストレスがあった時にも「閾値」を超えない、ということが大切です。

それから、お薬を飲んでいればこの「閾値」を上げることができます。あるいはは生物学的な効果ということになりますが、十分な睡眠、正しい生活リズム、栄養豊かな食事といったことです。ですから、ストレスとなるか、ならないかはこの「閾値」の線がどの辺にあるかということになります。

ここで、ご本人に口頭で「ストレスを感じないように」と言っても、それは無理なことです。ですから、このワークブックにあるような、日常の場面でストレスマネージメントとか、認知療法ということを学んでいただくと外部からきたストレスとか、日常のストレスをかわす方法となります。

そこで、まずご家族の方がご本人に対して日常的なストレスをかけない、ということもご本人のストレスを減らすという意味で大切です。対人関係のストレスというのは、一方だけがストレスを発しているケースは少ないですね。こちらがストレスを感じていれば、相手もストレスとして受け止めることが多いです。ですから、まずご家族の方がストレスを感じないように努力することが必要です。

では、皆さんが書かれたストレスを見てみましょう。

まず、この方の場合は病院が変って、お薬が変って、主治医が「何か問題があったら電話ください」と言ってくれて、相談した。そしたら主治医がご本人が通院したときに「家族の方が過保護でありピリピリし過ぎる」と言われたそうで、家族の方はこれから主治医とどう会話をしたら良いかを考えると憂鬱となる。

この場合、ご家族としてはどんどん主治医には要望を言った方がいいと思いますが、日本の医療体制の問題でもあるのですが、病院では多くの患者を診ていますから、主治医との会話の時間は限られてしまいます。ですから、ちょっとゆっくり先生とお話をしたいと思いましたら、その場ですぐに切り出してもあとに控えている患者さんがおりますから、その時は次にゆっくりお話できる時間を予約して、日を改めて行くという方法をとられたらいいと思います。

次の方は義理の妹さんが当事者という方の場合ですね。リハビリを兼ねてこの方のところでごいっしょに住んでおられるということですね。そうすると金銭の問題とか、当事者の方が付きまとう、ということでストレスとなるケースです。

(その他の皆さんのストレスについて読み上げる)

皆さんそれぞれにストレスをお持ちであることがよくお判りになったと思います。ご自分では書かなかったものでも、他人のストレスと同じものを感じている方もいたと思います。

また、ご本人の症状に関する問題と日常の行動の問題、そして主治医との問題、あるいはご夫婦間での問題、兄弟間の問題というより、心配をしているということがありました。

いかがでしょうか。お聞きになって皆さんのご意見などありますか。

参加者1(男性) 私の場合は病気の妻がつくる料理や買い物の仕方について、日常不満があります。そうしたときに、仕事上の私の心の安定度、ということは先ほどの「ストレス脆弱性モデル」の日常のストレスの部分だと思いますが、これが高まっているときに、妻の失敗が重なると、私自身がかなり参ってしまいます。ですから、健常である私もストレスという点では病気の妻と同じ様に「閾値」を上下させているな、と感じます。ということはどこから病気でどこまでが健常というのか、難しい問題だと感じました。

先生  皆さんがストレスを感じることは当然であり、あるいは正常といえることです。患者さんの中にはストレスがあってもストレスを感じなくなっている方もいると思います。ですから、ストレスを感じることはむしろ健康と言えることだと思います。そこでむりやりストレスを押し込めてしまうというのは避けた方がいいと思いますが、問題はそのはけ口をご本人に直接向けてしまうのはちょっと困ります。

しかし、中には直接患者さんに向けてしまう方が多く見受けられます。皆さんの中で私はこうしてうまく解決しているというご意見をお持ちの方はおりませんか。

参加者2(男性) 私は息子に面会にいったときに、息子が退院したいのにできないと言ってイライラしているときに、息子が私に当たってきます。そのとき、私は話をそらさないで、では次に先生に会ったとき退院について聞いてみる、と約束してその場を治めます。これでもうまくいかない場合はケアマネジャーに相談して対処します。

先生 なるほど。そこで言い争いとせず、あとで話すと約束して、息子さんに納得させるわけですね。いい方法ですね。

参加者2 また、外泊で自宅に戻ったとき、息子は近所に散歩にいくというので、私がついていきました。それを主治医に話したら、自宅では普段の生活に戻し、あまり親がべたべた付かないほうがいい、言われました。

参加者3 私は自分ががまんできないときは台所の流しに食器を叩き付けて、ストレスを解消します。私は錯乱しているようなことはなく、状況はわかっています。だから叩き付ける食器も安いものを使います。息子もがまんできない、私もがまんできない、であれば、私がこれでストレスを解消すればいいと、主人もいて、このあとはすっきりします。

先生 しょっちゅうではないでしょう?

会場(爆笑)  まあ、判りますね。結構計画的に物を壊すこともストレスの解消の一つですね。

参加者4 最近、おばあちゃんを私の家でみることになったためか息子は妹に当たり、私にも付きまとうようになりました。ある晩、息子は私の枕もとに来ましたので、「おばあちゃんが来たので、忙しかったからあなたを優しくできなかった」と謝りました。息子は「早く言ってほしかった」ということで落ち着きました。

先生 これは「ストレス脆弱性モデル」の図における「ライフイベント」の典型ですね。おばあちゃんの同居によって家庭全体の生活リズムが変わります。健常の人ならば、こうした生活リズムの変化にも対応できますが、患者さんは母親が自分から離れていってしまうと感じて、そうした変化に対応できない場合が多くあります。しかし、こちらの方の場合のように、何日か経ち、母親の説明で納得できるようになるわけです。ですから、こうした場合、母親はライフイベントが起きることが予想されたら、そこから発生するだろうというストレスをできるだけ小さくしてあげる工夫が必要です。

しかし、患者さんは「いまストレスがあって発言する」とはいいませんから、その辺の介護する方の感覚は重要です。

でも、こうしたライフイベントは不思議に重なる場合が多いですね。この方の場合は、その辺を非常にうまく乗り越えられたと思います。症状が小さいうちに適切な対処が施されれば再発という最悪の事態は避けられるわけですから、その辺は皆さんが感覚を磨いてください。

そしてお母さんご自身のストレスはどうですか。

参加者4 主人も忙しくて私のほうから一方的に報告するだけで、でも聞いてくれてはいます。

先生 これも、直接の手助けをしてくれなくても聞いてくれる人がいるということも大事です。家族の中にそういう人がいることが理想ですが、いなければ訪問看護の方。保健婦さん、主治医といった外部の方でもいいです。とにかく自分に目を向けてくれる人がいる、ということでご自身もストレスが軽くなります。

(以下、紙面の都合で省略します)

勉強会へ参加されませんか?随時受け付けております。


勉強会講演記録CDの2枚目が完成しました。
フレンズ編集室では講師の先生方の講演記録を生の声で聞いていただこうと、CD制作を行っていきます。
まず第1弾として、9月勉強会で講演していだいた曽根晴雄さんです。
タイトル『ちょっと私の話を聞いてください』  
 =聞けば見えてくる・精神分裂病当事者が語る患者の本音=

 家族は患者本人の気持ちを知っているようで理解できていません。二十数年間この病気と戦って来た曽根さんが、自らの体験をもとに訴える精神病者の苦悩、怒り、病気のこと、希望、それはすべての精神の病いに侵された人たちの声を代弁しています。
 また、当事者仲間の先輩として語る内容は、回復しつつある皆さんのお子さんが聞いても大いに励まされます。
 そして誰よりも聞いてもらいたいのは、分裂病を全く知らない人たちです。”もしあなたのお子さんが病気になったら”という目的の他に、各地で取りざたされる障害者の事件の度に生まれる誤解や偏見を防ぐためにです。一般の方に呼びかけてください。

第2弾は
「心の病を克服 そして ホームヘルプ事業へ」 
大石洋一さんです。
収録分数;61分 CDラジカセ、パソコン、カーステレオ等で聞けます。
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   申し込みはフレンズ事務局へ E-mailでお申し込みください。frenz@big.or.jp
発売:平成14年1月
企画・制作 新宿家族会フレンズ編集室
(新宿家族会創立30周年記念事業)室
(新宿家族会創立30周年記念事業)

編集後記 

 三月だというのに、今年は慌しさがない。例年ならば年度内駆け込みの仕事で、てんてこ舞いになるのだが、今年は沈黙、冷静状態だ。

 二月後半に中部地域家族会連絡会が新宿家族会が会場当番となって開催され、三月中旬には東京つくし会主催の単会交流会が持たれたが、そんな不景気風が皮肉にも幸いしてか、私はこの二つの集会に参加することができた。

 そして、気がつけば私はこの二つの集会で同じことを提案していた。それは、私たちが取り組んでいる問題、すなわち精神の問題を教育の現場の中に持ち込むべき、ということだった。特に中学校段階の教師と父兄たちにこの精神の問題認識を浸透させるべきということである。

 それは私自身に僅かでもこの病気の知識があったなら、息子の病気をここまで悪化させることはなかっただろうという自らの反省を含め、もうこれ以上の不幸を後輩たちに味わってもらいたくないという気持ちからである。

 そこには予防医学としての意味と、中学段階の教員、父兄が真に病気を理解し、さらに児童生徒に指導を行うことによって、世のいわゆる偏見についても大いに改善が期待できる。

 それには我々家族会に参集する者の努力も必要となってくる。教育の現場に我々から積極的に入っていって、、我々の苦い体験を伝えることだけでも、結果は出るだろう。 

                                                

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