4月定例会 拡大家族交流会

       「こころの病の予防のために
          〜家族ができること〜

               講師 東邦大学医学部 教授 水野雅文 先生

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【イギリスの家族会の活動】

 今日は心の病の早期発見の中で家族にできることをお話しいたします。このテーマにした理由は、早期発見が日本でも大事な問題として認識され始めているからです。

 欧米では心の病を早く見つけようということはごく当たり前の動きで非常に盛んになっているのに、日本では33万床を減らしましょうなどという話をしています。外国では長期入院患者を減らす話はとっくに終わっていまして、今は早く見つけて早く治療をすることに関心が集まっています。多くの学会では、前駆段階の治療の問題、一回目のエピソードの中での治療の問題が議論の中心になっています。

【早期発見が大切】

 まず、早期発見の基本的なお話をいたします。病気の早期発見・早期治療についての議論が始まったのは1990年頃です。ですからそれほど歴史があるわけではありません。そして今、「早く見つけたほうが早く良くなる」というエビデンス(科学的証拠)集めの研究が盛んに行われています。

<前駆症状での早期治療を>

 精神疾患に関しての一般常識として、早期発見・早期治療の方が軽くすむ、予後がいい。これは皆さんも直感的にお分かりになると思います。もし遅くまで待って病気が熟成・悪化してから治療をしたほうが、一気にズバッと治療できて予後がいいという病気があったら、ぜひ教えてください。人間の身体ではあり得ないのです。
 しかしなぜエビデンスが必要かというと、ある種のフライング、治療の開始が早すぎてしまってはいけないということがあるからです。たとえば、ちょっと怪しいから念のため胃カメラの検査をとか、かなり怪しいから開腹して見てなどということがありますね。どうも怪しい、かなり怪しい、絶対怪しい、こういう段階があるのです。

<治療のタイミングを逃さない>

 もうひとつ大事なことは、今日ご家族にお話しするのはつらいのですが、最近の研究で統合失調症の本当の脳機能の回復にいいタイミングというのは、顕在発症(病気が明らかになった時点)から最初の5年くらいだろうと、多くの研究で明らかになっています。社会機能・認知機能に基づく社会活動の回復や、社会生活機能をおよそ5年経ってからの回復時点で評価すると、発病して15〜20年経ったときの予後の予測が立つという研究が海外・国内で少しずつ出てきました。

【家族にできること】

<やさしく見守る>

 早期発見・早期治療は効果があるということを前提に、ご家族に何ができるかをお話しいたします。
 家族の患者さんに対するかかわり方、態度の表明、認識の仕方として、まず「病気である」という認識を持つこと、そして家族が動じずに静かにやさしく見守るという基本的な態度が、患者さんの療養環境としては一番大事ではないかと考えています。
 人間は生身ですから、理想的なかかわり方はこうであると分かっていても、周りの人のストレスの問題もありますから、常に理想的な状態を保つのは難しいものです。最近は当事者で寛解した方の体験記があるので読むのもよいでしょう(例えば、森実恵著『“心の病”をくぐりぬけて』岩波ブックレット)。

<願いを社会に発信する>

 次に家族の出来ることは、Rethink同様、家族の皆さんから、日本の精神科医療や保健サービスについて意見や注文を出すことです。あのときにこういうサービスがあったらもっとうちの子は良くなっていたはずだ、こういう情報があれば、こういう保健師さんやドクターが身近にいればもっと早く話が進んだのになど、後悔になってしまうかもしれませんが、これらは今の時代のニーズです。個人で発言してもよいですが、家族会で行えば匿名性も保たれます。

<研究への協力>

 これもご家族には言いづらいのですが、精神疾患はやはりなりやすい体質があります。発病する率の研究では、血縁に精神疾患の方がおられると、発症の確率が有意に高いのは間違いのない事実です。
 それに対して、ある種の健康チェックや、あるいは遺伝負因があるとどんな問題があるかについての今後の研究に対しても、ぜひご家族の立場でご協力いただきたいと考えています。海外では家族会の方々が被験者として研究に参加することが数多くありますが、日本では少数です。リスクのある方にターゲットを絞れることで、病気の研究も時間とお金をかけなくて済むのです。

質疑応答

Q. 統合失調症は100人に1人と高い発病率なので、他科の医師にも精神科の知識を持ってほしいです。また、高校で精神分裂症の授業を受けたとき、なったらお終いと思い、病院に行けば治療できることを知りませんでした。早期治療の範囲を広く有効にするために、最初の発病をどう見分ければよいのでしょうか。

A.  一般科の医師の精神科領域の知識・関心が乏しいのはその通りです。現に、知識がないために病気が見落とされることも多々あります。海外ではメンタルヘルスの知識や経験がないと家庭医として認められません。医学教育が最近変わって、医師免許取得後2年目に1ヵ月精神科が必修となりました。前提として精神科医にならない人を教育して、一般科のドクターが精神疾患の初期の段階を診られる訓練を行っています。以前よりはメンタルヘルスの教育を受けた医師が増えると期待されますが、今、開業している医師にどうやって知識を伝えるかは苦労するところです。メーカーの協力を得てセミナーを行うなどということがもっと必要になりますね。

若い人向けデイケアのお知らせ

 今年の5月1日から東邦大学医療センター大森病院メンタルヘルスセンターで、イル・ボスコ(森の意)Early Psychosis Unitという若い人向けのデイケアをはじめます。若い利用者さんにとって常連さんばかりのデイケアはなかなか馴染みにくいことがあります。そのため早期の若い患者さんだけを集めて治療をしようという試みです。

 こうしたアプローチはオーストラリアで早期予防(Early Psychosis)研究が一番進んでいるメルボルン大学で、その科を切り離してEPPIC(Early Psychosis Prevention and Intervention Center:早期精神病予防介入センター)という名前で始まりました。若者が抵抗なく、脳の機能の回復訓練を受けられることが重要という考えから始まったものです。

 イル・ボスコは定員が30名。プログラムは、パソコン教室や英会話など若い方が学校に行く感覚で楽しめるものです。今までの重くなってしまった方の居場所という要素よりは、もっと積極的な治療的展開をするデイケアです。今後は、各地域にこうした考えのデイケアが広まれば、早期発見・早期治療が普通というように精神科が変わってくると思います。

(講演録を終わります。まだ家族会勉強会に来られない方、是非一度お越し下さい。)

平成17年4月からの新宿家族会ホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿家族会では4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿家族会会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
どうぞ、この機会に是非賛助会員になっていただけますよう、お願い申し上げます。

賛助会員になる方法        



新宿家族会へのお誘い 

 新宿家族会では毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
入会方法 


編集後記

  五月初旬に三十度以上の真夏日があるなど、異常気象が続くきょうこのごろである。そんな中、我々の世界にも大地震が起こった。全家連の破産である。しかし、大変なことといいながら、何か皆当然という面持ちである。そして、その震度をあまり感じないというのも不思議な現象である。それは精神障害を取り巻く環境の特徴なのか。連帯のない世界。連帯を持ちにくい組織活動の結果なのか。全家連が四十年以上の歴史を持ちながら、精神の活動は十年一日の如しの姿を映している。

 今月の水野先生の講演において、イギリスの家族会・Rethinkの活動が紹介された。メンタルヘルス・リテラシーに家族会が関わり、精神疾患についての知識を一般に普及させ、早期発見を促して、これ以上の不幸をこの世の中から出さない努力がなされているという。つまり、自分のことだけを考えても社会は何も変らないと気がついたことの結論であろう。

 そして、最近全家連に代る「みんなねっと」の発会式が行なわれた。その記念講演で多摩センターの伊勢田堯先生が「家族会のこれから」と題してイギリスと日本の精神医療環境の比較と夢を語ってくれた。

 日本で「これから」と語られている「地域医療」は世界の国々では疾の昔に行なわれている。日本の集団的(3分)診察。訓練所の如き治療。日本の精神医療は鎖国状態であるという。

 それらを許してきたのは我々家族かも知れない。水野先生の早期発見、早期治療への家族の医療への協力。伊勢田先生の「進化」。これからの家族が目指す方向ではないか。   

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新宿家族会 E-mail: frenz@big.or.jp