10月定例会 家族会勉強会

       「陰性症状からの脱出
          

               講師 東邦大学医学部 教授 水野雅文 先生

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【はじめに】

 今日は「陰性症状からの脱出」というお話です。脱出というと「はまり込んでしまって、もがいて逃げ出す」という感じですが、陰性症状はまさにそんな感じの症状です。陰性症状という言葉があると、確立した症状として存在しているように思われる方もいるかもしれませんが、いくつかの症状の特徴を捉えて「陰性のグループ」「陽性のグループ」に分けて考えたときに、陰性という言葉がふさわしい症状ということで、共通性に注目して付けた名前です。

 さて、どういう特徴があるかというと、陽性症状のほうが分かり易いと思うのですが、陽性症状は「普段はないものがある」という症状です。

 例えば普通の元気さの方が、普通以上に元気で、もっと言えば興奮してしまう、声も大きく活動性も高くなる。それから、本当は事実ではないある種の思い込みをしてしまって、周りが言ってもなかなか直らないし、直そうとしない。これを妄想といいます。妄想は「事実でないものがある」わけですから、陽性症状です。同じように幻覚も多くの方にとって、「聞こえないものが聞こえる」ので、「ないものがある」ということで陽性症状です。

【陰性症状の中身】

1)情動の平板化

2) 情緒的引きこもり

3)疏通性の障害

4)意欲低下に寄る引きこもり

5)抽象的思考の困難

6) 会話の自発性と流暢さの欠如

7)情動的思考

5つに分ける場合の評価尺度は、1)情動の平板化、2)思考の貧困、3)意欲発動性欠如、4)快感消失・非社交性、5)注意の障害、となります。いくつか専門的な用語があるので説明します。

【なぜ陰性症状が起こるのか】

 なぜ統合失調症の経過の中で陰性症状が起きるのかについては、いくつかの説があります。大きく分けると、まず、統合失調症の症状の1つとして陰性症状がある、という考え方があります。

 次に、続発性といって陽性症状の後にしばらく元気がなくなる、つまり、目立つ陽性症状があったあと、しばらくぐっとエネルギーが落ちてしまうという考え方があります。さらに薬の副作用として、鎮静の強い薬をのみ続けることによって自発性が抑制される、という考え方もあります。

 最後に、長く病院に入院していると外界の刺激に乏しくなりますが、そのために自発性が乏しくなるといった環境も関係して起こるといわれています。

【陰性症状への薬物療法】

 病気の経過としての一過性の陰性症状と、統合失調症の中心症状の1つとしての陰性症状は、細かく見ると、それぞれ脳の中で起こっている原因が若干違うのではないか、という説があります。別の病態ですから、違う病気と見て薬の使い方も変えて考えるべきではないかと区別されています。

 特に急性症状が起こった後の、一時的な一過性の陰性症状は、抑うつ気分、あるいはそれに伴う意欲低下が中心的で、その場合の治療は、うつ病と同じように抗うつ薬を使うのがいいといわれています。一般には統合失調症の場合、抗うつ薬は全体的に精神症状を賦活するということであまり使わない場合が多いのですが、一過性の抑うつ状態が陰性症状のようにのしかかる場合には、抗精神病薬がきちんと投与されているという前提で、抗うつ薬を少量追加することをしばしば行います。抗うつ薬を自動的に出せばいいというわけではないので、かなり経過を見て慎重に判断する必要があります。

【日常の中でできること】

 薬はすぐには当てにならないということになると、薬以外の治療では、時間のかかる地道な努力が必要とされます。『精神科リハビリテーション・ワークブック』(注・文末参照)に「活動性を高める」という章がありますので参考にしていただければと思います。

 患者さんの意欲を高めるのは非常に難しいのです。施設に長く滞在してしまう、家の一部屋に引きこもってしまう、そのために陰性症状が改善されないのであれば、やはり何とかして外に連れ出そうと考えるのが自然な流れです。

 従って活動性を高めるひとつの方法として、日常生活の中にリズムを作って、「何時になったらこれがあなたの役割よ」という形で刺激を与えるのが最初の一歩です。「そんな簡単にはできない」と思うかもしれませんが、実は難しいことは分かり切って申し上げていることで、これが1つの目指す所と認識していただければと思います。

【おわりに】

 ご本人が何もしていないとご家族がやきもきしてしまうのはわかりますが、ご本人は陰性症状が起きていることを自分ではなかなか気づけません。あまり焦っていないのですね。それがまた周囲の焦りの原因になるのですけれど、当人のペースもありますから、無理強いしても思うほどの成果は上げられないと思います。陰性症状は厄介ではありますが、脱出といっても、なくさないといけないターゲットして捉えるのではなく、全体的なリハビリテーションの中で回復してくること、日常生活を潤わせるキーポイントになることが、陰性症状からの脱出と捉えていただけたらと思います。

参考図書:

『精神科リハビリテーション・ワークブック』

監修 イアンR.H.ファルーン、鹿島晴雄

編者 水野雅文、村上雅昭

発行所 中央法規出版 

    \2,200(税別)

販売 Tel: 03-3379-3861

平成17年4月からの新宿家族会ホームページ「勉強会」の表示形式について

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編集後記

 11月。またたく間に冬の気配を感じさせる季節となった。やがて東京の道に陰を作ってくれた銀杏も葉を落とすだろう。

 陰性症状、なんともわかりにくい症状だ。しかし、水野先生の「あるはずのものがない」症状、というのは非常に分かりがいい。逆に陽性症状は「普段はないものがある」という解釈。言われてみれば確かにそうだ。そして、あるものを取り去るのは簡単だが、欠けてしまったものを戻すのは困難であるという。陽性症状を抑えるのは簡単だが、陰性症状を回復させるのは難しいのである。

 その一つには脳内機能の欠けている部分から「脳の松葉杖」ということも言われた。足が不自由なら松葉杖を使うことはすぐに思い着く。ところがそれを判断する脳の機能が欠けてしまったために、その必要性すら思いつかない。精神障害の悲劇がそこにある。そこを我々親、家族がどう理解し、支援できるかが問われているのであろう。

 わが息子も20代の最も活動的であるべき年代の5年間、じっと壁を見つめて暮らした。親をはじめとして周囲の者が焦っていろいろ外出のための提案が出た。最近ようやく外部の人たちと音楽を楽しんだり、訓練所に通うようになった。

 水野先生の最後の言葉「日常生活を潤わせるキーポイントになることが、陰性症状からの脱出と捉えていただけたらと思います。」に尽きるのではないだろうか。

 焦らず、しかし、ご本人が生きていく上で支障のない生活支援と、生きる励みになる何かを探してあげること。そしてじっと待つこと。これが家族の任務かなと思う次第。        

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