10月 新宿区後援事業 新宿フレンズ講演会

  認知行動療法について

 
                講師 東邦大学医学部 教授 水野雅文 先生

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 認知行動療法の「認知」というのは意味の広い言葉ですが、いわゆる「認知行動療法」という場合は、ものの見方や捉え方や考え方、考える方法を変える、また、それを検討することによって、行動を変容させることを目指す治療と考えてください。

【ストレスと再発の関係】

 「脆弱性ストレスモデル」(図)は、統合失調症をはじめとする心の病の、特に再発に関してのモデルで、ストレスを受けると、発症する閾値(いきち・境界の値)のラインを超えてしまい悪化、再発する。それを、ストレスを上手に回避したり受け止めたり、薬の力を借りてラインに届かないように、また、そのラインを高くして、再発しないようにすることを説明しています。

 ご家族にもいろいろなタイプがありますが、「一緒にいる時間が長いほど再発する」というのはキーワードのひとつです。そこから研究が始まって、一体、家族同居の何が再発につながっているのかが疑問になったわけです。

 再発は、家族の言動がきついからというほど単純なものではないのですが、誰でも、あまりワーワーと「仕事に行け」と言われても気分が乗りませんし、「薬をのみなさい」と言われれば言われるほど飲みたくなくなるものです。そうしたストレスが蓄積されて再発につながることがあるわけです。

【ストレスを下げるために】

 家族の対応の拙さが積み重なっての再発となると、家族の言動を変えない限り、再発→家族の干渉→再発→家族の干渉といった悪循環が断てません。家族が情緒的にも安定して当事者と適切なかかわりが持てるように、心理教育ないし家族療法を行う目的は「感情表出(EE)を下げる」ことです。

 患者さん側から見れば高EEのご家族の言動は、まぎれもなくストレスになります。認知行動療法は、そのストレスを下げて、それによってご家族の負担感も減って機嫌も良くなるという、いい循環が産まれることを目指しています。

生活には日常的なストレスがありますが、これに加えて人生にはいろんなイベントがあり、思いがけないストレスがあります。例えば誰かが病気になったり亡くなったり、試験に失敗したり、ふられたり。また進学や就職や結婚など、うれしいこともストレスになります。

このストレスは、日常のストレスに上乗せされます。この合計がストレスに耐えられる閾値を越えてしまうと、再発ということになります。これを避けるためにはどうしたらよいでしょう。

・ストレスに耐える閾値を簡単に越えないようにする

・大きなストレスを小さく感じるようになること

・ストレスに耐えられる閾値のラインを高くする。

これらの3つの働きかけによって、再発のない状態を維持していこうというのが、治療のうえでのひとつの大きな戦略です。

【アクティヴ・リスニングとは】

 ストレスを減らすには、一方的な物言いを無くすことが大切です。

 アクティヴ・リスニングとは「積極的傾聴」、つまり相手の思っていることを上手に聞き出し、相手の話に関心があることを示すテクニックです。具体的には、「相手の話をよく聴いて、相手に合わせて適切な質問をする」、つまりは、日常のコミュニケーションの基本です。

 『精神科リハビリテーション・ワークブック』(中央法規出版・2310円)では、ご本人とご家族が本を一緒に見ながら問題演習をして、項目の内容を身につけるという仕組みになっています。

 この中に、「問題点を明らかにして適切な目標を定めよう」とあります。日常生活の中で何が問題で、何を目標とするのかを決めることは容易ではありません。しかし、一人ではなかなか決められないことでも、仲の良い友人や家族と一緒に話し合えば、問題点や目標がよりはっきりすることがしばしばあります。

 本人の考え方やその実行に当たっては、周りの人のサポートが必要です。話をよく聞き、聞いたうえで、「それを実現するためにアドバイスをしているんだよ」ということ、及びそのアドバイスの内容が、きちんと本人に伝わっていることが大切です。

 自分の関心を持っていることが相手に伝わったと分かると、それによって話しやすい気分になります。テレビのほうを向きながら口だけは「いったい、どうしたいの?」では、「どうせ本気で聞いてないんだ」と見え透いてしまうでしょう。

 普段は口ごもってなかなか言えなかったことを正しく伝え、受け止めるために、互いの気持ちを明らかにしていく。そうした中で本当の問題点や目標も明らかになってくるというのが大事な点です。

【アクティヴ・リスニングのポイント】

 アクティヴ・リスニングには重要なポイントが二つあります。

・話し手が言っていることをよく聞いて、それをこちらが理解していることを伝える

・相手の話したい内容が具体的になるような質問をする

・二人で話すときは、話し手を見る。相手の顔、目を見て話す

・テレビや音楽など気が散るものを消して、集中して聞く

・話をきちんと聴いていることを示すために、相槌を打つ

・何が一番の問題点で、目標が何であるかを明確にするようにする

・分からないことがあれば、答えやすいように具体的な質問をする

・聴いた内容は確認し、よく覚えておく

 そして、次に同じ話が出たときに忘れていたのでは、「何のための話だったの?」ということになりますので、大事なことはメモなどに残しましょう。

こうした態度はくり返さないと身につきませんから、ぜひ何度もアクティヴ・リスニングを実践していただきたいと思います。本には演習問題が表になってまとまっています。

【問題解決技法を使って】

 さて、『精神科リハビリテーション・ワークブック(中央法規出版)』12章のうちの5、6章についてお話しました。6章は問題解決技法の例が載っています。

ステップ1「問題を見つける」ところまでが、大きな山です。テーマが絞れないと話し合いも難しいので、ぜひアクティヴ・リスニングを使って、ご家庭での問題点を見出してください。またその問題を解決すべきための目標は、大きすぎる目標ではなく小さく分けて考えること、つまりダウンサイジングが大事です。

ステップ2「解決可能な方法をたくさん挙げる」ことをします。

ステップ3「それぞれの方法の利点と欠点を挙げる」ことをした後、

ステップ4「一番よい方法を選択」します。ここまでが通常の問題解決技法です。

ステップ5「どう実行していくか具体的な計画を立てる」ことをします。例えば「毎食後、食器を順番に洗う」という目的を立てた場合、「じゃあ順番にしよう」とだけいって席を立ってしまうと、実際は順番も決まっていないわけです。

「問題解決技法」は、認知行動療法の中でも非常に基本的で応用範囲が広いといわれています。具体的方法は6章の説明にあります。この『精神科リハビリテーション・ワークブック』では、そのほかに、「自分の気持ちの伝え方」や、「活動性を高める」というような章もあり、「薬の使い方」、「タバコやアルコールに頼らないための方法」なども「問題解決技法」が出ています。応用して家で試していただきたいと思います。

【質疑応答】

Q1.34歳女性で16歳から通院していますが、病識はありません。家族に対し敵意があるのは、被害妄想があるからでしょうか? その場合、認知行動療法は有効ですか?

A.敵意は統合失調症の症状の1つで、ご家族や親しい方に対して、場にそぐわない攻撃的な感情を持つことがあります。病気になる前の人柄と比べて人が変わったように敵意を持つ、ということであれば統合失調症の症状と考えられます。

 病識を持つのはなかなか難しいことで、100回言ったから分かるというものでもありません。ご本人がすとんと納得するのが正しい病識とするならば、病識が完全につくというのは難しいと思います。

 病識はずっとないといけないわけではなく、ましてや病識がついたらよい行動ができるかというと、そう簡単なものではありません。病識が治療目標でもないし、薬をのむことが目標でもありません。本人がやってみたいことができること、本人が望む人生を獲得していくことが大事なのです。そのあたりをご家族で考えてほしいと思います。

Q2.胃がムカムカするので薬を飲まなくなってしまいました。医者は夜飲んでムカムカするなら昼でもよいというが、本人は「自分はこんなに元気だから」といって飲まない。幻聴を取るためにも、きちんと服薬できるようにするにはどうしたらよいでしょうか。

A.ムカムカ感は、長く服薬していると胃炎などが起きる場合があります。ご本人が慣れてしまったり痛みに鈍くなっていて訴えないこともあるので、ご家族が気をつけてあげて、内科で胃カメラなど通常の検査を受けることをお勧めます。

 「効果的な薬の使い方」という章が、『ワークブック』にもありますが、「薬を飲みなさい」と言っても、きちんと服薬するようにはなりません。何度も何度も時間をかけて説得していく必要があります。

例えば薬には幻聴をとる効果がありますが、幻聴が聞こえなくなってよかったというだけでなく、薬の効果は他にもあると思います。本人が気付いてない良くなった部分も掘り起こして、薬をのむことのよさをいろんな角度から気付かせてください。

Q3.統合失調症感情障害で通院中の32歳の女性です。いつも母子一緒、外部との接触がないので、外の世界に目を向けるきっかけが必要と思いますが、どうしたらよいでしょうか。

A.デイケアは費用も安く、病気の方たち向けのメニューをやっています。そうしたことが必要な時期もありますが、あまり長くはありません。

むしろ社会復帰に向けて、図書館など地域の施設や催しを利用するのは大事なことだと思います。カルチャーセンターやスポーツジムなどの利用もいいと思います。費用はかかりますが、陰性症状が多少残ってボ〜ッとしていても、お客様として丁寧に対応してくれます。

ここでも本人がやりたいものをアクティヴ・リスニングをして選んでください。ご家族は治療によかれ、病気に良かれ、と思っていろんなことを勧めますが、カルチャーセンターやジムはお稽古事ですから興味を持てることが大事です。

そしてそのこと自体を楽しむとともに、新しい人と知り合うとか、グループで付き合うなど、人間関係も発展してくるとよいと思います。

                                             −了−

平成17年4月からの新宿家族会ホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿家族会では4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿家族会会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
どうぞ、この機会に是非賛助会員になっていただけますよう、お願い申し上げます。

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新宿家族会へのお誘い 

 新宿家族会では毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
入会方法 


編集後記

十一月。当然だが急に寒くなった。街路樹の葉が黄ばみ始め、これから落ち葉のラッシュが始まる。

 さて、今号では水野先生から「認知行動療法」についてお聞きした。先生は冒頭「認知行動療法とはものの見方や捉え方や考え方、考える方法を変える、また、それを検討することによって、行動を変容させることを目指す治療」と述べている。その一つとしてアクティブリスニングをあげて、検証した。

 TV、インターネット、雑誌、携帯電話など、世の中の情報が氾濫し、私たちは「ながら生活」を余儀なくしている。TV見ながら新聞を広げ、携帯電話でメールを打つ。

 隣の人と話をするにも、気は別なところに行っていることはないだろうか。そんな癖がアクティブリスニングの必要性を生んだと思うのだが、もし、当事者の方々が「親父と話していても何も親身が伝わって来ない」などと言われたら、病竃は親父にあるのか当事者にあるのか。一考を要する問題だ。

 さて、今号にマンガが登場した。「フレニー(インコ)とスキ蔵爺(フクロウ)のショーショート」。作者は漫画家の中村ユキさん。中村さんは雑誌社の漫画を描きながら、自らの体験を基にした「わが家の母はビョウキです」の単行本の漫画も企画、近々発売予定だ。精神障害の母との苦しい生活も何のその!、笑いとペーソスとヒューマンなタッチで、ストーリーを構成している。(HPはTOPページにリンクボタンからサイドウインドーに表記)

 そんな中村さんが、フレンズに加わって、精神障害を一人でも多くの人に理解してもらいたいとマンガを提供してくれた。こうした動きが世界を変える一つの種ではないか。   

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