12月 新宿区後援事業 新宿フレンズ講演会

  統合失調症の診断をめぐって

 
                講師 東邦大学医学部 教授 水野雅文 先生

ホームページでの表示について

 診断とは基本的に「医師が診察をして決めること」つまり、医学的知識のまとめそのものです。最初に「どういう風に診断するか」を、一般的な身体の病気の場合と、精神科での違いと類似点を考えることから、病名について、他の病気との区別についてなどをお話します。

【身体の病気の診察】

 咳があり身体がだるくて「風邪かな」と思えば、「温かくして栄養を摂って寝よう」というのが正しい風邪の治し方です。病院ではまず名前と年齢を聞き、どんな生活史を持った方か確認します。これは重要で、同じ熱があっても海外から帰国したばかりなら、まだ日本にない新型ウイルスのインフルエンザかもしれません。また既往歴といって、以前にどんな病気をしたことがあるかも尋ねます。そして、現時点の困った症状がいつ始まったのかを聞き出し、いつがピークだったかも聞きます。(中略)

 そして総合的に考えて気管支炎とか、肺炎でしょう、という診断になります。さらに「この地域で流行っているのはこの病気だから、この抗生物質をのむとよく効くと思います」というように診察を進めていきます。

【精神科の診察】

 精神科の診察も大体同じです。ところが精神科の診断の場合には、睡眠や食欲など身体の症状で受診する方もいますが、主にこころの症状で受診する方が多い。だからといって採血やレントゲンを撮ることで神経そのものの変化を客観的に見ることはないわけです。ここが身体の診察と大きく違うところです。(中略)

 何度も話を交わし、心が通じ合い、打ち解けあう必要があります。例え、患者さんの方から治療を求めてきても、初対面で全部話せるわけではないですから、信頼関係ができてくる中で話が出てくる。そこで「話をつなぎ合わせるとこういう病気かな」と考え始めることが出来ます。こういった診察の流れの中で診断名を考えていくわけです。

【対症療法が大切】

 例えば患者さんが「眠れない」と訴えている。眠れないだけが中心症状である病気は少なく、たいていは、うつ病があって眠れない、統合失調症で興奮して眠れない、あるいは心配があって、昼間に寝過ぎて、寝る前にコーヒーを飲むから眠れない、などという要因があるわけです。

 そうはいっても「眠れない」と患者さんは訴えているわけですから、診察をして3つほど質問をします。「寝つきが悪い」のか、それとも「熟睡感がない」のか、あるいは「早朝覚醒、起きたくないような朝早い時間に目が覚め、そのあと眠れない」のか。

 眠れない要因はさまざまですが、医師としては眠れるようにしなければなりませんから、眠るコツとして部屋の温度や明るさなどから相談をして、それでも眠れないのであれば軽い睡眠導入剤を処方します。

【病名は何に必要なのか】

 そう考えると「診断名(病名)は重要なのか?」ということになります。つまり当座の治療においては、病名が分からないと治療できないというものではない。むしろ大体どういう病気か、今後の予測としてこういうことが起こりそうだ、あるいは年齢なども考慮することで、かなり当たりがつく。そのあたりで、患者さんが困っている点に関して、慎重に薬を使っていく。さらに環境調整やストレスマネジメントをしてストレスを下げていき、全体的な改善を図る、というのが一般的な治療の仕方といえます。

では、診断名は何に使うのか。例えば障害年金とか自立支援法の申請など書類を出すときには役所や制度が病名を求めてきます。これは書かないと通りません。この病名にはこういう対応が出来るという決まりになっているからです。個人が年金やサービスを受けるときに、どのような障がいがあるかというのは重要です。

【治療と病名】

 医師は実際の治療場面で病名を考えるわけですが、絶対確実にこの病気と言えない場合もあるわけです。言えないときは難しいところですが「分かりません」というのが嘘偽りのない答えでありまして、「病名も分からずに治療が出来るのか、やぶ医者!」ということではないのです。

 この病気の可能性80%、あの病気の可能性20%、もしかしたら両方かぶっているかもしれない。統合失調症グループと気分障害グループとどちらに近いのか、分からない場合もたくさんあります。でも何か病名を付けないと書類が通らない。そうした場合、「この病名で診断書を出しますから」と説明して、とりあえずは付けるというのが現実的な方法だと思います。

【病名告知とタイミング】

 患者さんにいつどんなタイミングで病名を伝えるかというのも難しい問題です。書類を書くときにはご本人に手渡しですから病名が見えます。統合失調症という語感からどのようなイメージをもたれるかは、各個人の病気に対する考え方や知識量、思い、社会的立場、スティグマ(偏見)によって違うと思います。

 病名をつけられて、いい気持ちのする人はあまりいないと思います。「病名を知る」ことがその患者さんにとってどんな意味があるかをよく考えて説明する、というやり方もケースバイケースです。「書類だから書いておくよ」と伝える場合もあれば、「実はこういう病気で、こういう意味があるからこういう風にやっていきましょう」とお話しする方まで個々に違えています。

【診断基準−ICDとDMS】

 さて、病気の分類からいえば、WHO(世界保健機関)が決めている世界共通のICD(疾病及び関連保健問題の国際統計分類)があります。この分類を書いてある本は、すでに10回改訂作業をしていて『ICD−10』といいます。現在、11回目の改訂作業が始まったところです。

 『ICD−10』には「精神および行動の障害」がまとめてあり、多くの精神科の症状は、F00−F99の中に分類されます。この中のF20が統合失調症ですが、その中でもいくつかのグループに分かれています。F20.0、F20.1、F20.2…F20.9と分かれていて、それぞれは例えば妄想型、破瓜型、緊張型となっており、このどれにも当てはまらない場合はF20.9の“統合失調症特定不能のもの”に分類されます。

 つまり『ICD−10』に基づけば、あらゆる病気が必ずどこかに入るように分類されており、例えばこの診断基準のうちの3項目に当てはまれば、その病気と診断されます。どうしても名前を付けたい場合には、この『ICD−10』の分類を行えば診断できるわけです。

 しかし実際には、こういう本を使っても医師によって診断が一致しないことがしばしばあります。患者さんの一言をどの所見として取るか、例えば真実なのか、思い込みなのか、控え目過ぎるか、気にし過ぎなのか、そこで意見が分かれると、病名の部分で一致することは困難ということになります。

 もうひとつ、『DSM(精神障害の診断と統計の手引き)』という、アメリカの精神医学会が作った本があります。現在は第4版で、第5回目の改訂作業が始まっているところです。

 第3版を作るときに詳しく分類がされたのですが、当時、どちらも英語圏のアメリカとイギリスで、アメリカのいう統合失調症とイギリスのいう統合失調症があまりにも違ったのです。同じ人を見ても一致しない。

 そういうことでみんなが一致するように一つ一つ条件を決めましょうとなりました。これを操作的診断といいます。その代表的なものが『ICD』と『DSM』なのです。これらを使うと診断をつけることができて、別のドクターが見ても診断が一致することが多いように出来ています。

 では『ICD』と『DSM』で同じ病気に同じ名前がついているかというと、違う病名があったり、違う見方があったりします。ですから必ずしも一致しないわけです。人工的に作った診断基準でさえも、価値観や伝統の違いによって病気の名前の付け方には違いがあります。そういう意味で、なかなか病気の境界線を引くのは難しい作業ですし、今も、『ICD-11』をめぐっては、F20.0、F20.1…それぞれにワーキンググループが出来て検討し直しており、日本も含む各国が意見をまとめてWHOに持っていきます。このように病気の周辺症状、あるいはどちらに入るか分からないというような微妙な問題になってくると、非常に難しいものなのです。

【多軸診断−多面的に診る】

 ボーダーラインとか非定型とか、似たような病名との区別について、わかりやすい例として、『DSM』での診断についてご紹介しようと思います。

1軸 臨床診断

2軸 パーソナリティ障害、精神遅滞 

3軸 一般身体疾患 

4軸 心理社会的および環境的問題

5軸 機能の全体的評定(GAF)

特徴は多軸診断です。私たちは一般的には1軸を診断とか病名と考えます。これを従来診断といいまして、統合失調症、うつ病、ノイローゼ…大きなグループの病気の名前、これが2軸に相当する臨床疾患名です。

 ところがパーソナリティ障害(性格の大きな偏り)と精神遅滞(知的能力の程度が低い)は2軸で、これは統合失調症とかうつ病とは別の扱いです。ですから例えば、性格がすごく明るい方と静かで穏やかな方、この二人が病気を得てしまった場合、もともと明るかった方がすごく元気になるのと、控えめな方が少し元気になるのとでは、出てくる結果が違ってきますし区別の仕方も違います。パーソナリティと病気を分けるのです。

【病名にこだわるよりも】

 非定型精神病やパーソナリティ障害の特殊なもので、統合失調症と見分けがつきにくいものは実に多々あります。典型的な統合失調症も少なくはないですし、うつ病との間かなということもよくあります。また、どこから病気が始まったのか分からない、もともと難しい方だったけれど、ここから病気が始まったのか、あるいは性格の発展と考えるのか区別がつきにくい、ということも診察場面ではよくあります。

 いつも医師は悩みながら診察しているわけですが、起きている問題に対して治療を考える対症療法が必然的な手順となっています。ですから家族も当人も、どうしても診断名がはっきりしないと気がすまないという関わり方ではなくて、現在の対症療法で良くなっているのか、何が治療の対象となり病院で取り扱うところなのか、福祉的援助が必要か、というところの区別が大切だろうと思います。

 いろんな時点で家族の方は、病名を医師から言われたり医師にたずねたりされていると思いますが、それに対する治療方法やかかわり方は時代と共に変わっていくものです。ご自身の中にあまり固定した病気や治療の概念を持たないで、治療も変わるものというつもりで構えておられることが大切ではないかと思います。

                                                     

平成17年4月からの新宿家族会ホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿家族会では4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿家族会会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
どうぞ、この機会に是非賛助会員になっていただけますよう、お願い申し上げます。

賛助会員になる方法        



新宿家族会へのお誘い 

 新宿家族会では毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
入会方法 


編集後記

 好天に恵まれた東京の正月。しかし、生活面では不景気風が吹き荒れ、各地から悲鳴が聞こえた。予算削減と言いながら2兆円ものあぶく銭をばらまく政府のやり方は、お粗末至極である。

 さて、今号では水野先生の「統合失調症の診断をめぐって」と題して、医療者の立場から精神科診療の裏側をお聞きした。特に内科、外科等との違いをお聞きしたのはわかりやすい説明であった。

 編集子も年齢相応に高血圧の治療で月1回通院している。毎回が3分間治療である。血圧を測り、1カ月の生活状態で変わったことがなければ、「では、同じ薬を」で終わる。

 しかし、精神科は「こころの症状で受診する」方が多いという。ここが精神科医の難しいところであろう。中には高血圧の診療と同じに考えている精神科医もいるかも知れない。そのとらえ方の違いが医師の力量となって表れるのではないだろうか。

 そして、器質的に問題がなく、それでいて睡眠ができない、幻覚、幻聴があるなどとなった場合、精神科としての治療がスタートするという。つまり、内科、外科の範疇での疾病がある場合でも精神の病に見られる症状があるらしい。

 病名においてもすぐには判断を下さず、診断の段階を踏んで、データを積み上げたのちにこれは○○だろう、となる。

 我々は「病名を教えてくれない」と主治医をヤブ呼ばわりすることがないだろうか。そして病名にこだわり過ぎていることはないだろうか。こころの症状を治療する精神科医のこころとは・・・家族のこころとは・・・                               

※勉強会INDEXに戻るには左のMENUの勉強会をクリックして下さい


新宿家族会 E-mail: frenz@big.or.jp