10月 新宿区後援事業 新宿フレンズ講演会

  精神科病院の現状と地域への働きかけ

 
        講師 東邦大学医学部 教授 水野雅文 先生

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【日本の病院の現状と、地域重視のイタリア】

 精神科病院について、日本は今世界的に見ても精神科の病床が多いとよく言われ、33〜34万床ほどあります。これは人口比に直すと多いのですが、精神科病床の定義が国によって違い、日本では非常に広い定義なのです。
 30数万床の中には、玄関に鍵のかからない開放病棟、鍵がかかる閉鎖病棟の両方があり、精神疾患のための閉鎖病棟ベッド数は、10数万床になると思います。そう考えると、一見、病床数が多いからといって「日本は精神障害を地域から疎外して、病院に閉じ込めている」という批判は正しくないと思います。

 日本の場合は状態が悪ければ入院して、医療環境の中で安心して過ごすことが治療に役立つという発想があります。諸外国もそうですが患者さん1人に対して、入院治療の場の広さが何平米とか、職員は何人、医師数は何人と決まっています。他科に比べて問題はありますが、一応それに従って運営されているので、今日、患者さんの処遇に極端な問題がある病院は少ないといわれていて、全体的な質は向上してきていると思います。

 病院の在り方は、単に病院での治療スタイルだけではなく、精神科医療サービス全体のあり方にも影響を及ぼします。精神疾患は私たち誰でもがかかりうるものと考えると、精神科治療・精神科病院は利用者だけの問題ではなく、社会の問題としてどうあるべきかを、皆で大いに議論すべきだと思います。

【社会的入院と退院の問題】

 現在急いで解決すべき課題は、34万床の入院者の中に、適切な援助があれば明日にも退院できる方が7万数千人もいることです。何をもって適切な援助とするかは難しい問題ですが、かつては精神科病院にいったん入院すると長期にわたる場合が多く、日本の入院期間の平均は1年ですが、10年以上の長期入院患者が4分の1もいるのです。

 さて、精神疾患は働き盛りに起きやすい病気ですから、長期入院していた人は収入もありません。しかも、この10年で生活に浸透した携帯電話やコンビニ、スイカなど、皆が使っているものが使い慣れない。条件が整ったら退院していいと言われても、社会の変化に適応できないので、実際には難しいのです。

 何よりも7万数千人の退院を考えた時に、地域に同じ数だけの住まい、ベッドを確保しなければなりません。入院が長引くと退院後、家族が引き受ける数が非常に減ってきます。1年を超えて入院した場合、家族のもとに帰れる方は非常に少なくて、社会復帰施設などに退院するケースが多いのです。

 入院が数十年になれば、親御さんは亡くなっているか高齢の場合が多く、兄弟姉妹には家族がある。例えば兄さんがしばらくぶりに退院してくるとなって、数日間ならば弟妹の家庭に泊ることはできても、ずっと一緒に暮らすのは大変なことです。それなら仕事もお金もない兄のためにアパートを借りてあげようとすると、奥さんは「1人暮らしで火事でも出したらどうするの?」と待ったをかける。こうなると退院先がないわけです。

 それではグループホームを作ろうとなっても、建設反対運動が起きる。「退院できる人がいるのに退院させない病院はひどい」といわれることがありますが、妨げになっているのは、国民1人1人の精神障害に対するスティグマ(偏見)なのです。社会的入院を解決するには、病床を減らす分、地域に受け入れるという受容的な社会が必要です。

【医師の不足と偏在】

 イタリアが精神科病院を廃止していった背景に、総合病院の精神科の設置があり、数は限定されていても必ず開放型の病床を設けています。

 一方、日本の精神科医療は、大変な医師不足と偏在を招いています。精神科医も諸外国と比べると少ないのですが、大学病院や精神科病院から医師がどんどん辞めていって、開業が増えています。精神科病床がある病院には働き盛りの精神科医が減って、若い医師が診察も当直も勤めて、疲れ果てて辞めていくという悪循環を繰り返しています。総合病院の精神科は危機に瀕しているのです。

 入院治療をあてにしなければならないという今の形を変えて、農業でいえば地産地消のような、基本的に地域で起こったメンタルの問題は地域の中で解消できるよう、地域で支えるシステムを厚くしようということになります。これからの地域精神医療がどうあるべきか、家族や当事者の立場からいろんな議論をして、声をあげていただきたいと思います。

【地域にセーフティネットを】

 さて、入院か通院かの判断は個人差の大きい話で、患者さんやご家族のおかれた環境、病気の時期によっても変わってくるので、なかなか一般化しにくい話です。

 大切なことの1つは救急医療です。急に具合が悪くなったときにも安心して診てもらえるシステム、主治医がたまたま不在でも診てもらえるシステムが整っていることが重要です。病院のいいところは精神科の医師が複数いることで、突然病院に行っても、特に入院の経験がある場合、顔を知らない医師が出てくることはあまりありません。ところが開業医は1人が多いですから、緊急時にバックアップするシステムが弱い。地域の中の治療のセーフティネットを充実させることは重要だと思います。

【寛容な国民性】

 日本の精神科病院は、戦前は大変少なかったのです。明治以降、精神障害者を守る法律はいくつかできました。明治のころは各県に1つ、精神科病院を作ることにやっとなりました。病院が少ないと、極端な例ですが自宅監置と言って、家の中にしばりつけておくということもありましたが、多くの障害者は地域の中で、何とか生活していたのです。

 ところが1960年代、東京オリンピックが開催されてインフラ(社会資源)が整備されたときに、街に棲む精神障害を持つ人を何とかしようと、精神科病院が一気に設置されました。

 精神科病院という近代の欧米から来たシステムは、本当は日本文化に馴染んでいないのではないか。新たな地域化を進めていけば、地域の中で受け入れてともに暮らしていく素地があるのではないかと思います。

【薬物依存症と精神障害の違い】

 さて、いわゆる外来性の物質によってなる「薬物依存」や「アルコール依存」は、昔はなかった病気です。身体・精神には一部の薬物やお酒に依存しやすい傾向があり、また精神疾患の発病間際には頭がボーッして薬物に手を出してしまうケースもあるのですが、いわゆる精神障害とは性質が違います。

 イタリアでは精神科医師は薬物依存症の患者は診ませんし入院もさせません。ですから日本のマスコミで話題になるような薬物依存への社会の非難と、精神障害が重ねられて誤解されることはありません。日本はその線引きがあいまいで、以前は精神科病棟の中に統合失調症も、認知症も、薬物依存の人も入院していました。薬物依存の人は元気ですから、他の患者と合わないところも多いのです。今では多くの精神科病院では、薬物依存症は受け入れなかったり病棟を分けたりして、それぞれ専門的な治療を受けるようになっています。

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 メンタルの問題については、今後も患者が減ることはないと思います。1人1人の身近な問題として、偏見を無くし、より良い地域医療への地道な努力をしていかないと、良い解決には至らないと感じています。

質疑応答(省略)

紹介:『シナプスの笑い』という雑誌は年3回の発刊で、発行元のラグーナ出版(T&F099-221-9321)は当事者の人たちが運営しています。精神障害者の体験を自らの言葉で描き、パロディも笑えて読み応えのある冊子です。偏見を笑い飛ばす当事者の投稿を待っているとのことですから、投稿をなさるのもいいでしょう。

http://lagunapress.sakura.ne.jp/


                                              

平成17年4月からの新宿フレンズホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿フレンズでは4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿フレンズ会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
どうぞ、この機会に是非賛助会員になっていただけますよう、お願い申し上げます。

賛助会員になる方法        



新宿家族会へのお誘い 

 新宿家族会では毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
入会方法 


編集後記

 十一月のカレンダーをめくった途端に、街にはクリスマスツリーと年賀状のポスターが目に入る。時の流れをこうした商戦の中からしか感じられなくなった。

 今月は水野先生から日本の精神科医療の基盤のお話を伺った。イタリアにおいて精神科医療を学ばれた先生には、より日本の医療環境の問題点が明確なのであろう。

 常に感じるのは、精神の問題は罹患した当事者も家族もほとんど「初めての経験」であることだ。確かに他の病気においても「初めての経験」であることは変わりないが、精神が違うのは「予備知識がない」ことだ。

 人類の歴史とほぼ同じ歴史を持つ精神の病であるにも関わらず、人はこの病気について知ろうともせず、教育指導者もこの病気についての情報を持たない。結果、多くの人たちは「偏見」を持ち、当事者、家族は逃げたり、伏せたりという対処をとる。市井の人たちは近くに精神科の施設ができることに反対したりという悲しい話を聞く。

 我々家族がなんとも残念なのは、昨日まで全く通常のお付き合いをしていた人が、我が当事者に対し、1ランクも2ランクも落とされ、白い目で見られるようになることだ。これも他の病気との大きな違いであろう。

 こんな時、水野先生が絶えず申されることは「家族が声を上げよ」である。「家族会の意義とは何か」を考えるとき、水野先生のこの一言が痛烈に脳裡に響く。

 日本の政治が大きく変わったとき、これを我々にも吹いた「追い風」として利用しない手はない。やるなら今だ。みなさん!       

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新宿家族会 E-mail: frenz@big.or.jp