12月 新宿区後援事業 新宿フレンズ講演会

 統合失調症・急性期を乗り越える家族の支援

 
        講師 東邦大学医学部 教授 水野雅文 先生

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【「急性期」という言葉】

 統合失調症の説明でよく使われる「急性期」という言葉について、皆さんはどのように聞いて、感じていらっしゃるでしょうか。

 「急性期」は、「慢性期」という言葉と対になっているイメージだと思いますが、実は精神科の用語として、例えば医学部の講義などで「精神科疾患の治療の中で急性期は…」といった形での言い方はあまりしません。治療をする医師やスタッフが「急性期」という言葉を念頭において、特殊な治療戦略を持っているかというと、必ずしも一致しているとは限りません。

 おそらく、この言葉は精神科の言葉としてではなく、一般の身体疾患の治療の中で「急性期」に対し、「慢性期」つまり、ある程度長くなるリハビリテーションを必要とする病気をモデルにしたイメージから出てきた言葉だと思います。

【発症の状態はさまざま】

 では、統合失調症はいつも激しい急性期といわれる状態で始まるのかというと、必ずしもそうではありません。妄想でわけの分からないことを口走ったり、何かに怯えて大騒ぎしたり、といった劇的な症状が、最初の段階で起こる方ばかりではないのです。

 眠れない、憂鬱、口数が減った、友達と遊ばない、表情が暗い、こういったことが起こってきて、目立つ症状は無いまま、気にしながらも何となく過ごしてしまう。安定期や慢性期のような症状が最初から起こって、どこが急性期だったのか、と思うような発症もあります。「思春期の悩み?」「反抗期?」と思っているうちに、何年も経ってしまった場合もあると思います。

【治療開始と「病識」の問題】

 特に統合失調症圏の病気の治療の上で、治療開始を困難にするのは「病識」がないこと。つまり、本人が自分の症状や状態についての正確な把握ができていないことです。

 まるっきり病気とは思わないこともあれば、周りの人たちに病院を勧められて、頭では「そうだな、病院に行く方が良さそうだ」と理解していても、思った通りに行動ができないということもあります。「病院にも組織の手が回っているかもしれない」とか、「診察で話したことが筒抜けかもしれない」という妄想が起きたりするからです。

 受診するということは援助を求めることで、ふつうは治療に対して本人が積極的に協力することが前提です。ところが精神科ことに統合失調症の場合は、本人が必ずしも適切に自分の状態を把握していない。そういう状態で病院に来て急性期の治療が始まることを、家族や周囲の援助者が理解することが大事です。

【治療の最初の一歩】

 はじめて病院に来た患者さんに対して、どんな治療がされるのかについては、病院によっても多少違うと思います。また、家族会に参加の方々は、すでにご存知のことも多いでしょう。ですから再発の場合にも役立つように、急性期状態の場合、家族がどう関わるのがよいのかを話します。

 「どんな薬が出るのか」ということは、狭い意味での精神療法とか薬物療法などの治療に含まれますが、「病院を受診する」というところから広い意味で治療ととらえるのであれば、最初に当然ながら、お互いのあいさつや自己紹介から始まります。

 でも調子が悪い時に、その不安感を言葉にできるかどうか分かりません。本人が心の中を言葉でなくても何らかの形で伝えることができれば、少なくとも家族は注意深く見守ることで、本人がどんな体験をしているかを、家族の言葉で医師に伝えることができます。

【本人のつらさを理解する】

 急性期の幻覚妄想状態が強い中では、あらぬ声が聞こえてくる。それも良い内容は言わない。外に出れば周りの人が自分の行動をチラチラ見て、チェックしている気がする。こんな体験に怯え、イライラして不安になる。こんなことを想像してみてください。

 そして実際に本人が「嫌だな」、「つらいな」と思っていること、困っている状態を、治療する医師が優先的に解消し、「治療を受けたら、確かにいい方向になって良かったな」という体験を治療の早い段階で感じられるようにします。そうでないと、「続けて病院に行こう」とか、「専門家の言うことをきいて治療しよう」という意味での合意というか、当人の積極性が作り上げられません。これはとても大切なことです。

 激しい症状が出ている場合、「抗精神病薬の効果が出るまで、2週間我慢してください」と言われても、それは大変なことです。あまりに激しい症状、暴力や自傷がある場合は沈静をかけるなど、当座すぐに解消できる問題があれば、それについての対応を選択することも大事です。それには、本人や家族に説明することが必要です。家族も、こういった説明と理解ができるようになると、治療も進んでいきます。

【入院について】

 急性期の場合は、状態の把握と本人への安心を提供したあと、比較的早く効果を上げるには、薬物療法が治療の現状です。症状により薬はさまざまですが、幻覚妄想が強ければ抗ドーパミン作用のある抗精神病薬、不安や抑うつが強ければ抗不安薬や抗うつ薬が出ます。しかし、これらは飲んですぐに劇的効果が得られるものではありません。薬物療法の効果には時間がかかると考えてください。

 よく「急性期は面会を頻回にしないほうがいい」という病院もありますが、一概には言えません。まったく面会しないのがいいかというと個人によって違うでしょう。初めての入院では心細いですし、ご家族も心配で応援したい。「できれば一緒にいたいけれど、治療に専念する時期だから、時々様子を見に来ている。病状や治療方針について、主治医と相談しながらやっているから、安心して治療を受けて」というメッセージは大切なので、それを患者さんにどう伝えるかを、医師や看護師と相談するといいと思います。急性期の中でも激しい症状が出ている場合は入院して、そんな風に過ごすことになると思います。

【病名を伝えるか?】

 診断名ははっきり決まらなくても、本人や家族への病状説明や心理教育、疾患についての情報提供も、早いうちから始めるのがいいと考えられています。しかし、家族に病名を伝えることが、はたして情報として本当に有益かは、まだよく分かっていないところがあります。

 生涯で初めて統合失調症のような病状に立ち会っている段階の家族に病名を伝えると、早くてよかったという方もいれば、伝えられて調べてみれば大変な病気だと分かって混乱する方もいます。どう伝えるのがいいのかは、いろいろと意見を出し合っているところです。

 ただ大きな流れとしては、たとえばガンのように生命を左右するような病気でさえも、正確な情報を伝えることがいいのかどうかの議論は飛ばして、伝えないと後で家族が怒ったり訴訟につながる、という社会になっています。一般の医療もそういう方向になってくるでしょう。

 すると精神科だけが例外的に告知しないという考え方は、あまり受け入れられなくなってくるのが必然でしょう。事実、ご本人やご家族に早めに伝える傾向にはなってきています。それに対して本人や家族は、できるだけ伝えられた内容を消化できるように、本やインターネットで勉強し、分からないことは遠慮なく相談することが大事だと思います。主治医とゆっくり時間をとるのはなかなか難しいでしょうから、看護師やソーシャルワーカーから情報を集めるのも一つの方法です。

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最後にまとめますと、急性期の治療は、入院を含めて考える必要があり、その後、安定して症状がひと山越えたのちに寛解となります。今は薬が良くなってきたため、急性期の混乱の状態が長く続く人は、以前に較べて減ってきました。希望をもって、本人が大変な厳しい時期は、家族が「良くなる」「良くしよう」という前向きな気持ちでサポートしていくことが、一番大事だと思います。
(以下質疑応答は略)

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 新宿フレンズでは毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
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編集後記

 あけましておめでとうございます。政権が変わって初めてのお正月。期待しつつも、何か遅々としている日本の政治である。

 ならば我々だけでも颯爽と行こう!と思うのだが、この病気の場合、やはり遅々である。今月の水野先生の講演では「急性期」のテーマでお話をいただいた。手元の電子辞書で「急性」を引くと「病状の進行が早いこと」とある。

 水野先生は精神科医療において「急性期」という治療段階はないと言われた。では、誰が命名したのか。それでいて我々家族、当事者においては理解しやすい言葉である。

 精神の症状には確かに「急性期」と呼ぶに相応しい時期がある。そして、その反語である「慢性期」で表現される時期も明確にある。従って、我々がこの病気を視るとき、こうした大きな流れの中で、当事者たちがどの段階にいるのかを認識することも大切なことではないだろうか。徒に治療を早めたり、回復を急ぐのではなく、この病気は「遅々」が標準であると理解すべきではないだろうか。

 さて、前後した感があるが、新宿フレンズにおいても新年を迎え、会員の皆さまも新しい年にいろいろな期待があるのではないだろうか。ここでも「遅々」から来るイメージとしては何としても精神医療・福祉の遅々とした対策である。自立支援法が消えるとは言え、根本的な問題は解決していない。

 精神の世界にもっとも大きな問題である「偏見」。これに手をつけて欲しいものである。教育の世界で、企業の中で、地域社会の中で改善していただきたい。これが見直されれば、医療の国家予算節約さえできるのではないか。  

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