新宿区後援・12月新宿フレンズ講演会

    統合失調症の治療−継続させるには

    講師 東邦大学医学部精神神経医学講座 教授 水野雅文先生

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【通院・服薬が続かない】

 統合失調症について、ますます重要性を認識されているのは、早期発見・早期治療です。

 ところが、初回の治療が早くても通院治療が続かない。途中で薬を止めてしまう人が、実はどの病院でも非常に多いということが問題です。日本の状況だけでなく海外でも同様に認識されています。

 治療中断によって、いったん良くなった人が再発・再燃する。そして残念ながら全体的な機能・能力が徐々に落ちてしまい、回復が困難になることが知られています。通院・服薬が続かない事実を認識し直して、再発につながらないように治療継続するにはどうしたらよいか、皆さんとご一緒に考えましょう。

【欧米の調査にみる服薬中断】

 2005年にヨーロッパとアメリカで同じような大きな調査、発症して間もない2〜3年の人に、どの薬がどのように効くかという研究が、全く別々に行われました。

 オイフェストの調査には、14ヵ国50施設が参加して、平均年齢25歳(18〜40歳)の患者500人規模で、100人ずつ5剤の群に分かれて服薬してもらい、どの薬をどれくらい続けたか、逆に言えば、いつ止めてしまったかを1年にわたって追跡した研究です。論文には、各薬の継続率が詳しく書かれています。

 調査をまとめたアメリカの医師の考察では、初回エピソード統合失調症、つまり初めて発症した患者の薬物療法の特徴として、次の2つのことを挙げています。

? 薬は良く効く。幻覚や幻聴などの陽性症状がきれいに消失する。

これは皆さんにも経験があると思うのです。「こんなに簡単なんだ、反応がいいな」と若い医師が考えてしまうほどよく効く。

?しかし、治療からドロップアウト、服薬中断しやすい。

この2つの特徴があるのです。

 しかしこの研究対象となった人たちは、寛解したから止めたわけではないのです。ゼロスタートの時点で薬を飲み始めました。3ヵ月、6カ月…つまり退院してすぐ薬を止めてしまっています。それは再発するパターンだと、皆さんも経験されて、知っている人が多い。一般的には統合失調症は、病気がスッキリよくなるというより、かなり厄介な病気だと思うでしょう。問題は、それなのにどうして薬を飲み続けないかです。

【病院から電話があったら?】

 さて、病院側からみると通院患者が予約した日に来なかったら、どうするか。診察後に、その人のカルテが残ってしまいます。大きな病院では普通、初診は比較的ベテラン医師が診て、2回目以降は中堅・若手が診察して主治医になります。2回目以降にカルテが残った場合、医師は「前回は初診だったけど、今日は来ていないな、何の病気かな」などと思ってカルテを見て、経過や処方から統合失調症だと思う…とします。

Aさん 「当事者です。服薬はいやだなと思う、でも病院に行く。来なかったからといって電話までは要らないです。行かなくて悪いことをしたな…と当事者は罪悪感を味わう。通院したくない日もあるのに、電話を貰っても、うれしくないと思うのです」。

Aさん 「僕は自分の力で治癒をつかみ取って、ノウハウを得て、治すというより普通の人に近づいていくものだと考えていますが、家族は病院に行って治すものだという意識があるし、病院に行ってほしいと思っているから、病院からの電話をうれしいと感じると思います」。

Bさん 「知人の娘さんが26歳で引きこもり10年以上になります。病院には1回行っただけで、同じ薬が続いています。症状も変わっているでしょうが、本人は病院に行かない。病院からの電話は全くないそうです。親は電話で症状を主治医に話していますが、医師も本人を診察できないので薬を変えられないでいます」。

【精神科からは電話をしにくい】

 では話を変えて、体調が悪い、食欲がない、胃が痛くて調子が悪い。そこで病院に行って胃カメラを受け、細胞診検査もして「2週間後に結果が出ていますから来てください」となった。けれども2週間後、病院に行かなかった。

 医師が「来ないな」とカルテを見たら、どうも悪性の胃がんの可能性が濃い、再検診の必要がある。それを見た医師はどうするか、来週も検査結果を聞きに来なかったら胃がんは進むので「本人が無理ならご家族で結構ですので来てください」と、病院側が電話をすると思いますか?

Q 放置すると思う人? 「10人程度」

Q 電話が来ると思う人? 「10数人」

Q 悪性の病気なら、必ず連絡が来るシステムになっていると思う人? 「3人」

 さて検査を受けると、診断を下すまでが健康保険の値段です。本人に伝えて幾らということにはなっていないのですね。病院は「患者は次も来るだろう」という前提に立っています。しかし身体関連の科は、来なくて放っておくと重症化しやすい場合は、伝えようとします。悪い話を伝えるのはつらいことですが、多分「ご家族でもいいので、ちょっと来てください」と電話をするでしょう。医学部の学生向けの授業でも、悪い結果の伝え方のトレーニングがあるくらいです。

 どんなに患者に頼まれても、「喫茶店で待っていてください。すぐ行くから」などと、外では会わないことなど、患者との関係性、距離を保つことは厳しく教育を受けます。ことに経験の少ない医師では、どういう病気かはまだ分からないので、一般の身体疾患とは少し違った逡巡があります。

 さて、話を先ほどの研究に戻します。これは、調査対象の患者を何人かの医師が診ていて、病気の種類や治療や薬の必要性がハッキリしている場合です。この調査では、研究対象になることを本人が同意し、謝礼や通院の交通費なども出ているのに、3〜5割もの対象者が薬に何らかのデメリットを感じたか、必要性を感じなくて、通院しなくなり服薬しなくなった。増してや普段の診療で、調査等のモチベーション(意欲のもととなる動機)がないときは、より服薬中断し易いと考えられます。

 発病したての頃は「これは変だ」「体調悪いな」と殆どの人が感じて、「薬があれば飲みたい」という状態です。しかし、病気になってから病院に来るまでの間DUP(Duration of Untreated Psychosis精神病未治療期間)が長い場合、ずっと治療せずにやっと病院に来た頃には、治療が必要だという感覚・意識が薄らいでいる、病識が無い場合も多いのです。病状に慣れてしまうと、薬の必要性を十分に理解しません。薬は効きやすいのに、治療からこぼれ易いことが統合失調症の大きな問題です。 

【通院日に行けない時は連絡を】

 さて、たいていの病院は予約診療になっています。予約は約束ですから、カルテの準備もしています。しかし、いろいろな都合で事前に行けないと分かった場合、当日になって都合が悪くなる日も、長い治療の間にはあると思うのですが、予約をどうしますか。

Q 病院にキャンセルの電話をする人? 「多数」

Q キャンセルの連絡をしない人? 「ゼロ」

 非常に責任感の強い方ばかりですね。しかし、キャンセルの電話は意外にないのです。カルテが残っていて患者さんが来ないと分かった場合、来週の予約を医師は勝手には入れられません。キャンセルの電話をすれば、次の予約ができます。次の予約をいれないと、次にはカルテも上がってこないし、そのまま治療が中断してしまい易いのです。診察日をキャンセルする場合は電話を入れ、次回の予約をすることが通院継続のポイントです。

 医師は大勢の人を見ているので、患者さんの顔と名前が一致しない場合もありますが、病気のストーリーは覚えています。つまり、いったん来なくなってしまった人を「あの人が来なくなった…どうしたのだろう」とはなかなか思い出せないのですが、カルテの内容は覚えている場合が多いのです。

 予約して来なかった場合、病院から電話をかけてもあまり迷惑にはならないだろうと思うのですが、本人が家族に言わずに隠れて病院に行っている場合、病院からの電話を家族が受けてしまうと、上手に受け止めて「言い辛かったのかな?」と見守る人もいる一方で、「なぜ言わなかった」と親子関係のトラブルの火に油を注ぐ場合もあります。

 カルテに携帯番号が書いてあれば、個人に連絡できますが、それでも連絡をすると嫌がられる場合もあります。医療上のトラブル以外の問題が発生する可能性もあるので、病院からは電話をかけにくいのが実態です。ケース・バイ・ケースでいろいろな連絡方法を考えていきたい、工夫すれば方法があるでしょう。あらかじめ主治医と連絡を取りたい場合の話もしておくと、良い関係が作れるのではないかと考えているところです。

【クロザピンはもっと使用されていい】

 去年の6月に慶応大学の仁王進太郎先生がクロザピンについて話され、詳しくホームページにも出ていますので、(09.7月号・会報No.199)、ぜひお読みください。今日は治療継続の視点も含め、クロザピンの実情に触れたいと思います。

クロザピンは、定期的な採血・血液検査が必要です。それは無顆粒球症(血液の血球成分が著しく減る)という副作用が2〜3%の人に起きる場合があるので、最初18週間入院、退院後もかなりの頻度で通院して採血しなければならない。それは一見デメリットなのですが、そのため、非常に濃厚なモニタリングの体制ができている。これは大きなメリットです。

 通院患者が来なくなったら必ず連絡をする。薬物療法の中でこんなに丁寧にケアをする治療は他にはないくらいです。クロザピン治療は単に煩わしい難しいことと考えるのでなく、適用のある人は一つの有効な治療と見直してよいと思います。

 日本でも、それまでの薬に比べて非常に効果があったと判定している医師も多いので、各自の判断ではありますが、主治医からクロザピンの話があったとき、採血が大変、副作用が怖いので…と止めてしまうよりも、治療のチャンスを生かしてください。

薬を中断してしまう患者が多いことを思うと、このようなモニタリング・システムを上手に生かして治療を継続していく方法が無いかと考えています。 〜了〜

平成17年4月からの新宿フレンズホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿フレンズでは4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿フレンズ会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
どうぞ、この機会に是非賛助会員になっていただけますよう、お願い申し上げます。

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新宿フレンズへのお誘い 

 新宿フレンズでは毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
入会方法 


編集後記

 大震災のあと不吉な予感がした。正月早々申し訳ないが、今年の冬は大寒波なり大雪に見舞われなければ良いが、と思っていたが、予想が当たってしまった。北海道ではマイナス29度。日本海側の大雪。十年前だったろうか「暖冬異変」なんて言葉がはやっていたこともあった。地球にも暑さ、寒さのバイオリズムがあるのだろうか。

 さて、今月は久しぶりに水野先生からお話をいただいた。テーマは「治療を継続させるには」だ。
 しかし、我々(と言っては失礼かな)凡人は、なかなか先のことが読めない。先生は「なぜ薬を止めてしまうのか」と言う。それは今だから言えることで、初めての経験では、薬を飲んで回復すると、もう薬なんて要らない、となってしまう。そこに病魔が潜んでいることなど全く分かっていないからだ。

 息子の場合もそうだった。親子で「良くなったから薬を止めよう」と、何か勝負事に勝ち誇った様な感覚でいた。そして、再発は突然にやってきた。息子は激しいというか、明瞭な幻聴の世界に入ってしまった。

 余所様の家の2階に忍び込み、アイドルを探していて、家の人に見つかり110番された。警察が来た時、訳も分からず卒倒し、そして、精神科救急に運ばれ、以後十八年間の闘病生活を歩むことになる。

 いま思うと、やはりバカ親の典型だったということが分かった。もう少し病気の理解があったら息子をここまで長引く闘病をさせなくてもよかったのではないかと。息子に10年のハンデを与えて見守っている。  

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