新宿区後援・2月新宿フレンズ講演会

      心の病気の早期発見・
       
早期治療−前駆期と急性期

     講師 東邦大学医学部精神神経医学講座 教授 水野雅文先生

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【リスクは誰にでも】

 前駆期とは病気になる前の話なので、「もう発症してしまったのだから、関心がない」と思われるかもしれません。しかし、ご兄弟姉妹をお持ちの方はじめ、発症のリスクは誰にでもあることは間違いありませんし、寛解して再発の場合の参考にも知っておくことは大事です。

 精神疾患は大昔からあるのですが、早く見つけて早く治療しようという認識が、世の中にはっきり示されるようになったのは最近のことです。予防という言葉でいえば、予防の中には一次・二次・三次予防とあり、早く見つけて早く治療しようというのは二次予防に当たります。

【重症化してからの受診が多い】

 日本や先進国ですら「心の病気の早期発見・早期治療」は、あまり言われてきませんでした。昔は発症しても病院に行かず、こじらせて誰が見ても具合が悪くなるまで治療を受けない時代が長くあったのです。精神科病院の多くは人里離れたところにあり、私が医師になった、ほんの20年前までは精神科のクリニックはほとんどありませんでした。つまり重症化してから病院に行き、即入院という時代が長く続いていたのです。

 国で定める医療計画では、がん・脳卒中・急性心筋梗塞・糖尿病の4つに対しては地域の自治体が予防計画を立てていましたが、次期からこれに精神疾患が加わりました。現在、一番多いのはうつ病で、自殺が多いのは非常に深刻な課題です。しかし、「うつかな?」と感じてどこに相談に行くか、精神科の看板を見て入っていくのは、未だになかなか勇気が要るのです。

【長い未治療期間】

 日本で7か所の大学病院を中心に、精神病未治療期間(Duration of Untreated Psychosis: DUP)の調査をしました。統合失調症による精神症状、幻覚・妄想・幻聴で誰が見ても具合が悪い状態が始まってから、初めて医療機関に行って、専門家の治療を受けて抗精神病薬を飲み始める。その期間はどのくらいだと思いますか?

 1年前の調査では平均17ヵ月でした。この研究に参加した病院は、早く治療しようという熱心な医師のいる病院です。この中で何十年というような長い方を除いて、中央値300人の方の真ん中は3ヵ月でした。これは日本の調査では一番短い。皆さんは、3〜5か月の未治療期間を短いと感じるか、長いと感じるでしょうか? 

 この未治療期間は世界中で測定されています。これを短くする社会をつくらなくてはいけないと多くの国で考えられ、欧米ではキャンペーンが行われています。どうしたら短くなるでしょうか? 社会の偏見、認識を改める必要がある。偏見を減らすのは簡単なことではないのですが、これからは学校でも教え、テレビや新聞などにも偏見を無くすように訴えかけていく必要があります。

【本人に病感があるうちに初診を】

 本人が「病院に行きたくない」と言うのも初診を遅らせます。「精神病なんてはずはない」と思う。同時に家族も「ちょっと対応を変えて、ちょっとやり過ごせば治るだろう」と、何とか自分たちの中で解消しようと思ってしまうのです。

 大事なことは、本人も最初は調子が悪いと感じている。「こんな声が聞こえたことはない、変だ」と思っているうちに病院に行くことです。しかし時間が経つと幻聴に慣れてしまう。病識が無くなって「この声は本当だ」「自分は病気ではない」と病院に行くことに抵抗します。

 統合失調症は初診まで17ヵ月というのは予想範囲内でした。予想すらしていなかったのは、300人中27人が自 殺行為で初めて受診していたことです。失敗したから病院に来られた。これが初診ということは、軽く見積もっても3倍は自殺行為があり、病院に来る前に死亡した人も多いでしょう。早期の受診を促すことは非常に大事です。こじれてからでは難しいので、少しあやしいな?という時に迷わずに精神科受診をしてほしいのです。

【家庭医との連帯を】

 また、かなりの人は何らかの体の症状や眠れないなど、かかりつけの家庭医に相談していることが多いのです。体の検査をしても何も見つからない。しかし「精神科医に行ったら」と勧めると「あの先生、私に精神科に行けって言った」と怒る人もいる。ご近所なので「お宅のご主人様に風邪で診てもらったのに精神科に行けって言われちゃった」と、関係が毀れて患者を失うこともあるので、家庭医は「心の病気」とは言いづらい。いろいろ聞いて患者に「死にたい」と言われても、どうしていいか分からないので余計なことは聞かない等々、内科の家庭医は心の病気のことを面と向かっては患者に言わない風潮がありました。

 この体制を整えることは、深刻で急を要する問題です。「何か具合が悪そうだな」と思ったら、家庭医にも相談できる。本人が受診に踏み切れなければ、家族がサポートもできます。日本も家族の崩壊が進んできていますが、英国でもファミリーはつかわず、ケアラーつまり介助者・援護者という言葉を使います。イギリスではシェルターという支援センターに、両親の離婚・再婚で居場所をなくした思春期の子供がいっぱいいて、アルバイトしながら通学している。東京周辺では類似の問題も起きています。

【回復期のリハビリが重要】

 今は抗精神病薬の種類も多くなったので、早期治療の場合は陽性症状を取るのは比較的容易になってきています。その後の大事なことは、回復期リハビリテーションです。例えば脳梗塞では発病して2〜5か月に、集中的に毎日リハビリをして自宅に帰します。この回復率を査定されて、回復しないで長期療養型病院に転院すると保険診療では減点になります。

 ところが、精神科治療はリハビリ部分がまだ充実していないのです。急性期の後、デイケアや作業所はありますが、そこでパズルを嵌めたり色を塗ったり掃除したりでいいのか。この大事な時期に目指すところは完全回復、つまり学校や職場に戻りたい。そのための治療は、薬だけでなくリハビリが必要なのです。ここに費用をかけなければならない。

 いま行われている長期入院中の患者への退院支援は良いことではありますが、若い人がせっかく急性期を脱しても、国からの支援が少ない。そのために充分にリハビリができず、陰性症状が固定化してしまうことが多いのです。もっと就労支援やリカバリー(その人なりの回復)といった目的に合わせたリハビリテーションに費用をかけることが必要です。

 研究者はいろいろ考え工夫していますが、大学病院でリハビリメニューを作っても、それが全国に広がるためには、リハビリメニューに保険点数がつかなくてはならないのです。保険点数がつかないと病院はお金にならないので、運営的になかなかできません。リハビリに保険点数を付けて欲しいと医師が言うのですが、メディアはお金儲けかと叩く。

 ですから、ユーザーつまり当事者や家族から「リハビリが必要だ」という要求が国に対して出ることが必要なのです。家族会は、自分たちの問題を互いにサポートするだけでなく、新しい動きにも関心を持ってほしい。新しい治療、これからの若者のためにも働きかけをしてほしい。それが家族会の新しい課題、新しい動きにしていってほしいのです。
                                   〜了〜

平成17年4月からの新宿フレンズホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿フレンズでは4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿フレンズ会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
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新宿フレンズへのお誘い 

 新宿フレンズでは毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
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編集後記

わずかだが風にぬくもりが感じられる。そんな日々の中、水野先生から貴重なお話を伺った。心の病気に一次予防があることだ。歯磨きが虫歯の一次予防だとすれば、心の病気の一予防とはどういうことか。

 一言で言えば「ストレスを作らない生活環境」。それは家族、仲間といった人間関係、そして健康な体作り。リラックスできる、希望の持てる社会づくりであるという。

 個人的には抱える当事者の妹が最近結婚した。その時、当然に考えるのが生まれて来る子供のことだ。精神病は遺伝病ではないと言いながら、顔かたちが似るように、体質、性格も似ていよう。心ひそかにその辺の心配をしていたのは事実である。前述の一次予防の話はそんなお父さん、お母さんに嵌った話として受け入れられたのではないだろうか。

 そして、日本の精神医療の貧しさも訴えられた。それは精神科リカバリーへの予算の少なさである。急性期を過ぎて退院しても、やることが無い。就労支援が具体的に機能するようなリカバリーができないのだ。病院もそこにお金を使えない。ポイントが付かないからだ。

 講演会の最後に先生はこう締め括って終わった。「就労に繋がるリハビリが必要だ」と、家族に言ってほしいと。家族会は自らの問題をただサポートするだけではダメだ、と厳しく言われた。

 我々は日常何をやってきたのか。個人的な問題だけで終始していたのではないか。息子たちに将来への希望が持てる社会づくりのために家族会はある。これが本命であろう。             

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