新宿区後援・12月新宿フレンズ講演会

   陰性症状の対応と地域資源の活用   

    講師 東邦大学医学部精神神経医学講座 教授 水野雅文先生

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【陰性症状と陽性症状】

 統合失調症の症状には、陰性症状と陽性症状があります。
 陽性症状:陽性というくらいですから、当人に「普段は無いものがある」。たとえば、幻覚・幻聴があります。幻聴のような体験をした人は、世の中に沢山いるわけです。程度問題で、すぐ病気ではありませんが、幻覚すなわち「幻の感覚」です。「本当は無いが、本人はあるという」、普段は無いはずの体験です。
 陰性症状:これは凹んでしまう。つまり「普段あるものが無い」のが陰性症状です。例えば「元気が無い」とは、元気があるときには「普段は元気があるとは意識しない」ので「ある」とはわからないのですね。ところが、どうも「元気が無いな」と見ていると、普段と様子が違うぞとわかる。こういう「無い」状態を陰性症状といいます。

【底流にあった陰性症状】

 統合失調症は、発症当初は幻覚・妄想が激しく、病院などで鎮める薬を飲むと落ち着きます。陽性症状には薬はよく効く、よくなってくる。ところで、このときは陽性症状に目が行くので、実は前から陰性症状もあったのに、気づかないだけなのです。
 そして陽性症状が派手に出て来ると、普段無いものが見えてきますから目はそちらにいき、そのときも陰性症状は進んでいるのに、人はそれをあまり見ず、意識しません。陽性症状を取る治療に集中して、1回目は特によく取れます。
 ところが陽性症状が取れると陰性症状が目立ってくる。この残っている陰性症状が厄介です。薬で元気を出すのは、鎮めるのより難しいのです。元気を出す薬物で陽性症状を引き起こすと大変ですから、簡単には使えません。そのため薬の力だけでなく、心理社会的リハビリが大事になってきます。

【認知機能が低下した状態】

 「認知機能」という言葉があります。脳のどの範囲にあるといったものでなく、どれも脳を介した様々な症状や働きを指しています。人間の脳は前頭葉・頭頂葉・側頭葉・後頭葉と名がついてそれぞれの役割がありますが、その脳のさまざまな機能を認知機能と言います。
 しかし、もう一つの脳の働きとして、一時的な記憶や注意力の働きがあります。また運動・脊髄に関わる反射機能もありますが、統合失調症はこれらの認知機能・運動機能が低下する。例えば歩行、寝返りをうつ、眼球を動かす、手足を動かす、車が来たときパッと止まるなどの運動機能も低下しています。もちろん薬による運動機能低下もあり、錐体外路症状などによって運動しづらくなっていることもあります。
 これらの認知・運動機能の低下は、陰性症状と絡んでいて、線引きが難しいのです。精神症状としての陰性症状として語るか、脳の機能の障害つまり認知機能の低下として語るかは、どちらとも区別し難いものです。こうした症状が、統合失調症という病気の初期から晩成期まで、底流としてあることを知っておいて頂きたいと思います。

【心理社会的リハビリテーション】

 陰性症状には、薬が効きにくい。ですから、心理社会的療法つまりリハビリテーションが大事になります。つまり生物的薬物治療と、心理社会的治療をします。ところが、陽性症状がまだ残っている時は、まわりとのコミュニケーションがとりにくくなります。リハビリは大体グループでやりますから、「まわりと上手く行かないから、良くなったら来てください」と言われてしまうことも起きます。

 陽性症状を取るには薬は必須ですが、全て取ろうとすると薬の量が増えて、寝てばかりいるなど、生活の質が落ちてしまいます。難しいところですが、比較的少ない薬の量で陽性症状を抑えながら、リハビリテーションを目指すことになります。

 心理・社会的治療はカウンセリング的要素もありますが、いわゆるカウンセリングのように1対1ではなく、多くはグループの中で社会的なトレーニングをしていきます。代表的なものとしてはデイケア、ナイトケア、作業療法、作業所といった施設がその役割を果たすものと、CBT、CR、SST等の療法があります。

 認知行動療法(CBT:Cognitive Behavioral Therapy):ものの見方、捉え方を変えようとする療法です。例えばコップの中にビールが半分ある。これを「もう半分しかない」ととるか、「まだ半分ある、宴もたけなわだ」ととるか。逆から見るとこうみえるというヒントをいれる。こうした考え方は簡単には変えられないかもしれませんが、ポジティヴに楽観的に考える、捉えることを訓練するものです。

 認知矯正法(CR:Cognitive Remediation):認知機能の改善を目指す療法で、数独などのパズル、脳トレーニングなどのドリルもふくまれ、具体的に的を絞って療法します。脳トレは私の患者さんにも、デイケアのプログラムに取り入れています。これは生活時間の改善にもなっていて、宿題を出して、毎日決まった時間に紙1枚のドリルをする、そのことによってリズムある日常を続けられるので、多面的な効果もあります。

 生活技能訓練(SST:Social Skills Training):対人技能の訓練。考える順序、気持ちの伝え方、表情の出し方も習います。

これらの療法や訓練は、短時間、定期的、長期的に行うことが大事です。1回で長時間続けても効果は上がりません。本人の興味、動機づけがあるときのほうが身につき、効果が上がります。

【本人の興味を大切に】

 陰性症状は、ある日突然よくなるものではありません。長い目で見ていくことが肝心です。何事もそうですが、本人の興味・動機付けが大事です。受験生でも小・中学校では勉強しなかったが、高校では大学受験のために頑張ることもよくみられます。それがいつくるかはわからない。まわりはそのタイミングが来た時に合う環境を整えておいてやること、興味を向けてやることです。

 陰性症状では、自ら進んで情報を取りに行くことは難しいので、家族やまわりが情報をもってゆくことが大切です。例えばデイケアは、その人にふさわしいところに行くことが大切で、年齢層の離れた集団のデイケアは行けといっても無理でしょう。探せばありますから、これも身近な人がサポートしてあげればよいと思います。

 どうしても家族は急性期が治まると「もう終わった、よくなったのに」とイライラします。しかし本人は自信を失っていますから、自己評価を回復させないと良い状態はもどってきません。家族がほめて肯定することが大事です。すると心に余裕が生まれて、注意力も回復し、運動機能も回復してくるという良い循環が生まれます。こうした全体的な回復を目指してください。
                                     〜了〜

平成17年4月からの新宿フレンズホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿フレンズでは4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿フレンズ会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
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新宿フレンズへのお誘い 

 新宿フレンズでは毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
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編集後記

 新年号もこれで何回迎えただろうか。精神の世界は相変わらずである。今年あたりにはようやく保護者制度の見直しが行われるようだ。人口千人当たりの急性期病床数は下がって来ているが、まだまだダントツで高さを誇っている。

 新年早々ボヤキから始まるが、そんな時水野先生から陰性症状の対応について貴重なお話を伺った。

 まず、陰性期を述べる前に陽性期との比較から話は始まった。陽性症状には普段無いものがある・・・素人である我々は、陽性症状とは幻覚妄想が激しく、日中暴れたりする、なんていう見方をで判断する。そうではなく、無いものがある、これでいいのだ。

 そして、陰性症状は、普段あるものが無い・・・元気が無い、食欲が無い、異性欲が無い、などなど。陰性症状においては、こもりっきりだ、普段あんなに喋っていたのに、黙っている。我々一般は陰性症状なのかと思う、などと何とも心もとない判断基準しかなかった。

 普通なら朝と共に元気に起きて学びにでも勤労にでも出かけて行くのが当然であろう。そういう普段の日常行動がない、ということで、あるものが無い。これで陰性症状であると認識できる。

 そして、重要なことは陰性症状は薬で治すのが難しいということだ。陰性症状だらかと元気を出す薬を使うと陽性症状に戻る可能性があるという。この辺が精神科の難しいところである。

 息子さんの陽性期を薬で乗り越えたお母さんが、即、外に出なさい、働いてみてはどうなの、とせき立てることが如何に危険なことかがこれで分かった。今年も一歩前進二歩後退。                  嵜

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