新宿区後援・2月新宿フレンズ講演会

 うつ状態・うつ病、うつに似た病気−その対処   

    講師 東邦大学医学部精神神経医学講座 教授 水野雅文先生

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【病気と気分】

 日常会話あるいはメディアの中で、「うつっぽい」とか、「うつ状態だ」などの言葉が使われますが、ゆううつな気分が丸1日続くとか、ごく短い気分の変化でも使います。英語のDepressionも気分を指したり、全体的なうつ状態を指す場合も、うつ病そのものでもあり、幅の広い言葉です。

 このように「うつ」というのは、必ずや病的な状態を指すわけではありません。つらいことや残念なこと、あるいは体がとても疲れていて気分が落ち込むなど、うつの気分や状態というのは、誰でもいつでも体験し得るものであり、健康な方にも、また慢性期の精神疾患では当然、起きてくるものです。

【了解と共感−精神科の診断】

 うつの気分自体は、皆さんも分かりますね。「分かる」というのは、精神科の診察の中で重要なキーワードです。精神科医の診察の基本的な技術の中に「了解」と「共感」があり、精神科医になったばかりの若い先生たちに、よく味わって理解してもらいたい言葉なのです。この言葉自体は、日本語でも普通に使われる言葉で、皆さんも「OK,了解!」というでしょう。

 精神科用語でも、その通りなのですが、厳密に言うと「了解」は「知的に理解可能」ということです。「この場面でこういった心の反応が起きることは了解可能だ」。つまり、私が同じ立場だったら、この心の動きはもっともであると「分かる」、これが「了解可能」です。

「共感」は、例えば「今日は暖かくて気持ちがいいね」「そうだね」という具合に、「私もそう思う、分かる、分かる」ということですが、精神科の診察の場面では、黙って患者の話を聞くだけではなく、「私たちは分かっていますよ」「私は共感していますよ」という医師の気持ちを患者さんに伝えます。

精神科医は、この2つを診察技術として身につけているはずなんです。ことに「共感」は、診察時間を患者さんと共有することによって、「1人で病気と闘っているんじゃないのだな…」と感じてもらう。心の奥深くに「この医師には共感してもらえるな」という予感を持って通院していただく。これが診察の場面では重要なのです。

【典型的なうつ病】

 まず、最も代表的なうつ病の話をします。最近、マスコミなどで新型うつ病という話が出るくらいですから、旧型というのがあるわけで、これが真のうつ病です。真面目で融通が利きにくいような、非常に地道な方が、何かの困難とかストレスをきっかけにして調子が悪くなってしまう。普段の様子とだいぶん違う、というのがうつ病の典型的な姿です。

 一番わかりやすい症状は文字通りのゆううつな気分です。悲しいとか不安だとかいう心の動きですから、十分「了解」可能な体験です。気分や感情が、悲哀感、憂うつ感、不安感、自責的な思いという情緒的な反応で彩られているのが、うつ病なのです。

 もう一つ重要なのは、意欲がなくなることです。意志と欲望という単語がくっついて意欲というくらいですから、何かを「したい、するぞ!」という心の元気です。「本来なら自分はこういう場面では、頑張って仕事をする、ピンチの時こそ頑張る性分だった。なのに、全然やる気が出ない、こんなはずじゃない」ご本人も周りもそう思っている。顔色や表情を見ても、生き生きとした様子は全く感じられない、おかしいなと思う。月曜日から金曜日までは何とか仕事を頑張る。土日の休みには仕事のことは忘れて、楽しく趣味の釣りや散歩に行こうとしても体が動かない。これがうつ病の代表的な症状です。

【うつ病の治療】

 旧来のうつ病に関しては、2つの治療が中心になります。

 1つは充分な休養をとる。眠れない、元気がなくなる、食欲もなくなるなどの身体の症状が出て疲れていますので、ゆっくり休んで、十分に睡眠と栄養をとって休むことが大事です。

 もう1つは服薬です。抗うつ薬を飲む。休養と、薬を十分に使うことによって、うつ病エピソードは回復する確率が高いのです。抗うつ薬で1番よく使われているのは、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)です。セロトニン系の働きを増す薬を飲むことで元気になるわけですね。

 しかし、ごく軽いうつ病には安易に薬を出すべきではなく、精神療法、環境調整、休養の調整こそが効果がある場合が多いのです。重症の場合は自死もあり得るので、しっかりと抗うつ薬で治療しますが、軽い場合は安易に薬に頼らず、認知行動療法など受けることをお勧めします。

【よく似ている統合失調症の陰性症状】

 妄想や幻聴が激しい統合失調症の急性期が治まって、一見良くなったのに元気がない。表情も冴えないし、ゴロゴロ寝てばかりで何したいでもないといった状態が陰性症状です。

 陰性症状は長く続く場合があり、医師も周りの人も「まぁ仕事もできているし、いい状態だ。こんなものかな」と思ってしまう。すると患者さんから「私は本来こんなふうじゃない。この病気をして大変残念だ。どうも本調子に戻らない」と言われることがあります。この陰性症状は、統合失調症の主要な症状で、重大な治療の対象ですが、凹んでいるものを引き上げる治療はなかなか難しいのが現状です。

 それでは、統合失調症の陰性症状が長い場合、抗うつ薬のSSRIが効かないだろうか?少しでも元気になれば…と何度も試みられているのですが、不適切に元気になり過ぎてしまうことが多い。本来の元気にちょうど良く戻る感じの効果はなかなか得られず、むしろ興奮して調子外れになることが多いのです。

 統合失調症の陰性症状の意欲の低下には、非定型抗精神病薬は効果があると数多く売り出されたのですが、一定して良いという薬は残念ながらまだありません。難しいのは、抗精神病薬で結果的に元気になった場合、本当に薬が働いて純然たる元気・意欲を出させることに成功したのか、それとも抗精神病薬のドーパミン2ブロッカーという本来の作用が発揮され、不安感や思い込みが解消されて妄想が治まって元気になったのか、ぴたりと見分けるのは難しい。

【躁うつ病】

 うつになり、それが治ったと思ったら、あるときから躁になり、治った…を繰り返すのを躁うつ病(双極性障害)と言います。しかし、最初にうつを発症した場合、躁うつ病のうつなのか、うつ病なのかは区別がつきません。躁状態が出て、初めて躁うつ病と診断されます。

 躁状態では本人は爽快な気分で、活動性も高まり、思考も止まらない。意欲、食欲、欲とつくものは全て亢進します。学生時代にちょっと躁が出ても、元気いっぱいで活発なくらいで本人は楽しく、周りにも気づかれないことがよくあります。

 しかし、あまりにも元気が過ぎて、計画以上の買い物や、夜中に電話をあちこちにしたり、騒いだりして気づかれる。そこで治療を勧めても、本人は爽快なので病気とは感じず、治療してほしくない気分なのです。

 躁うつ病はうつ病の親戚と思われていたのですが、この10年くらいに、だいぶん遠い病気ではないか、ゲノム(遺伝子情報)的には統合失調症のプロフィールに近いと言われています。

 以前は、うつ状態の時の治療に抗うつ剤が出ていましたが、最近、「躁うつ病には、抗うつ薬で効果があったという結果はない」という論文がたくさん出ています。抗うつ薬を使うとスイッチが変わって、躁を引き起こしかねないのです。

 躁うつ病は、もともと気分の波があり、大らかで元気で活動的な人がなりやすいのです。治療は、気分の波をおさめたいので、気分安定薬(ムードスタビライザー)の炭酸リチウム、デパケンや、抗てんかん薬のテグレトールなどを、血中濃度が一定になるように測りながら使います。

【適応障害】

 適応障害は、急性ストレス障害やPTSD(心的外傷後ストレス障害)のような、生死に関わるほどの大きなストレスでなくても、仕事や家庭のトラブルなど、それがきっかけになったと本人にも確認・特定できるストレス因子が3ヵ月以内にあったかどうかを問診で見分けます。気分や不安の要素などインタビューフォームを使って聞き、段階的評価を点数でつけるという方法もあります。

 周囲もそのストレスについては「了解」可能な場合が殆どで、また他の病気がないかを確かめることも大事です。そのストレスが、本人の処理能力を超えてしまったために、ゆううつになって塞ぎ込んでいる状態が起こっているわけで、原因となっているストレスを取り除けば治りますから、うつ病とは明らかに違います。

【うつ病と間違われやすい認知症】

 治療をしてもなかなか治らないと思っていたら、実は認知症の前駆症状だったということも結構あります。認知症の診断にはMRIやSPECTという脳血流を測る検査もありますが、あまり早期だとこれらの画像所見では無理なのです。初めてうつになった初老期の患者さんでは、認知症への移行を心配しながら、うつの治療をします。

その反対に、認知症だと言って家族が連れてきた方を診察して、うつ病の投薬で良くなるということも結構あります。

【新型うつ病とは?】

 最近、新型うつ病という言葉を聞くことがあると思いますが、これは医学用語ではなく、精神科医は患者さんに「新型うつ病ですね」とは積極的には言いません。

 うつ病は、非常に生真面目、他人の失敗まで自分が悪いと思う。調子が悪くなると、土日も今まで楽しんでいた趣味さえもできないほど塞ぎ込んでしまいます。

 ところが新型の場合は、会社で終業間際になると元気が出て来る。土日も元気です。また、問題が起きても自分は悪くないと非常に自己愛性が強くて、他罰的な特徴があるとされています。休養を勧めなくても、自分で休みをとっている。若者で男性が多く、新入社員とか、新しい生活習慣に入ったときに、顕在化することが多いのです。

 程度も様々で働き方そのものが新型うつ病的、つまり仕事では決して頑張らない。自分の生活優先です。そういうタイプの人は多かれ少なかれ、昔からいたのでしょうが、福利厚生面で傷病休暇をキッチリとって復職してまた休み、様々な公的援助も権利として受けるということで、会社では非常に困って、対処が重大な問題になっています。

【うつ病にならないために】

 うつっぽい時に限りませんが、まず、規則正しい生活をすること、睡眠不足や、うつが出ている時に飲酒は絶対に控えるべきです。お酒は気分転換になると言いますが、1杯目はそうでも、2杯目になるとゆううつが酷くなって布団を被ってしまう。うつの人は、お酒を飲んで落ち込んで自殺することが多い。自殺した方を調べると、酩酊に近い状態でやっと自殺に踏み切っているのです。

 楽しい気分で過ごせるように認知行動療法も受けるといいでしょう。例えば飲み物がコップに半分残っている場合、「もう半分無くなった」と悲しく思うのではなく、「まだ、半分も残っている」と捉える。このように物の見方・捉え方が明るくなるようアドバイスし、解決方法を一緒に考えるようにします。

 しかし精神科を受診しても、1人5分の外来では精神療法はとてもできません。いまの診療体制では、こういう治療を受け入れる余裕がなく、また、時間がかかってコストが安いので、なかなか広まりません。家族会などで、こういった行動療法・心理療法が必要だ、そのためには医療が経済的に成り立つような整備をと、声を上げて欲しいと願っています。

                                    〜了〜

平成17年4月からの新宿フレンズホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿フレンズでは4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿フレンズ会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
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新宿フレンズへのお誘い 

 新宿フレンズでは毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
入会方法 


編集後記

 三寒四温とはよく言ったものだ。三月はまさしく三日寒い日が続くと四日暖かい日が来る。そんな季節の移ろいを感じさせる今日この頃である。

 水野先生からうつのお話を聞いた。知っているようで知らないことが多々あった内容であった。冒頭「了解」と「共感」について述べられた。この二つの言葉にこれほどのこだわりを持って使ったことが無かった。

 なんと、精神科医と患者の間のコミニュケーションとして重要なことだと。確かに、我々が医師と面接を行う際、医師がどれほど我々の痛みや悩みを理解してくれているかが気になるところだが、精神障害者となればなおのことだろう。

 そして、今回特別に阪井ひとみさんにお話を伺った。その前に、阪井さんが不動産会社をなぜ始めることになったかもワケがある。父親が土地取引でだまされたことに由来する。そうした世の中の間違ったことを直すには自らがそれに立ち向かうという精神の持ち主でもある。その流れで精神障害者に宿を貸すという発想に繋がった。

 ある男性に部屋を貸すのに、その男性が奥さんから離婚届を突き付けられ、財産を奪われた。その男性が発症し、助けを求めたところから、精神障害者の住宅事情はどうなっているんや、と疑問を持った。

 精神障害者も健常者も無い、と二者の格差を持たず、偏見ゼロ。お互い、うちのアパートには健常者もいるぞという精神障害者。うちには精神障害者がいるぞ、という健常者たち。そこには作られたものではない、人間として当たり前の関係が存在しているような気がする。           

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