新宿区後援・6月新宿フレンズ講演会

強迫神経症、パニック症候群など

  薬物療法と精神療法・行動療法  

         講師 東邦大学医学部精神神経医学講座 教授 水野雅文先生

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【器質的な問題はない】

 精神科の病気は、たとえばインフルエンザのように病原菌、つまり原因がはっきりあって、それに感染したものに病名をつける、というような成り立ちではありません。ほとんどの精神科の病気は、原因はあまりはっきりしないが、症状の特徴によってまとめられ、診断名がつけられています。

 そこで精神科の病名は、精神疾患ではないかという方が仮に100人いるとして、似たような症状を呈する方を集めて、それぞれの特徴を捉えて、有効な治療は無いか、良い理解の仕方はないかと分類する。これが歴史的な精神科の病名のつけ方です。今でも100年前に比べて、さして違いはありません。

 統合失調症や躁うつ病、うつ病などは、何か脳に原因があるに違いないと考えられ、検査の進歩で脳にダメージがあることは分かって来ましたが、未だにはっきりとは特定されていません。これらが精神疾患の中の大きなグループですが、今日お話しする神経症は、これらとは全く違います。つまり、神経症は脳の器質的な問題は全然ありません。ここが一番のポイントで、健康人が普段から体験する心身の感覚・感情が行き過ぎた状態なのです。

 生きとし生けるもの、みな悩みがあるのですが、いわゆるノイローゼ、神経症の人の悩みは、「自分もその立場になれば、同じにように悩むだろうな」と了解可能に思えます。統合失調症の場合は、特異的体験といわれる幻覚・妄想をご本人は固く信じているのですが、周りは「いや、それは絶対にあり得ない」、了解不可能なのです。これが神経症と統合失調症の大きな違いです。

【なりやすい性質】

神経症になりやすい性格はあります。

自己内省的・理知的・意識的:つまり、生真面目で責任感が強く、わずかな弱点や欠点も過大視して、劣等感を抱きやすい。 

執着性が強い:粘り強く、忍耐強い。物事にこだわり、融通が利かない。

感受性が強く心配性:細かい事に気がつく。不安や苦痛に過敏になり、取り越し苦労をする。

欲望が強い:几帳面で努力を惜しまず頑張る、完全主義に陥りやすく、不完全では気持ちが悪い。

 つまり、こうありたいという理想やプライドは高く強気ですが、一方で自己内省的で実際よりも自分を低く捉える弱気な面があり、矛盾する両極端を1人の内に持っているため、強気な自分が弱気な自分を許せず、葛藤を引き起こして神経症につながりやすいのです。

 神経症に共通する心の動きのキイ・ワードは「不安」です。何かに対処できていないと、不安が起き、それがまたさらに不安をつのらせるという、ぐるぐる回りの悪循環が起きて、さまざまな症状が固定化したものが神経症なのです。言わば普通の人の心の動きと変らないが、不安・心配の度合いの強さと持続時間の長さが並ではない。しかし本当に弱々しいというより、心配し続けるのは大変で、それには大変なエネルギーを使うわけです。

【神経症のいろいろ】

社会不安障害−対人恐怖症・広場恐怖症など

 神経症もいろんな種類があります。恐怖症というのは特定の対象があるわけです。広場恐怖は、広場や雑踏、乗り物が怖い。社会恐怖には、赤面恐怖、表情恐怖、視線恐怖、先端恐怖、蜘蛛、地震、暗闇、特定の病気が怖いなどがあります。普通はほどほどのところで「心配していてもしょうがない」と思うわけですが、「怖くてならない」。こうした相談を、精神科でも受けています。

パニック障害

 パニック障害、これは恐怖症のような特定の対象とか状況に限定されたものではなく、パニック発作(不安発作)を繰り返し起こします。パニック発作とは、本人は「このまま死んでしまうのではないか」「気が狂うのでないか」と思うほど、非常に強い不安と恐怖が出てきて、体の症状も出ます。動悸、脈が早くなったり、めまいが出たり汗をかいたり、息が苦しく呼吸困難、窒息感、逼塞感、またぴんと来ない非現実感(離人感)などの自律神経症状が突然出て、それが数分〜数十分続きます。3、4日も続くという事はなく、そのうち大体薄れます。

【強迫性障害(強迫神経症)】

 いわゆる神経症というのは一般的に共感できる範囲ですが、強迫性障害については、ちょっと度外れていて、日常生活のすべてが強迫行動のために犠牲になっている人がいます。こうなると、いわゆる神経症圏と別に見たほうがいい、その障害の程度は精神病水準ではないかという考えもあります。

 強迫性障害は、強迫観念という考えの部分と、強迫行為という行動の部分があります。強迫観念は、心の中に浮かぶ不快なイメージです。あまり快適でない観念が繰り返し頭の中に浮かんで気になって仕方が無い。ここが大事なのですが、「私って、何回確認したら気が済むの!」と、自分でも無意味で過剰だ、馬鹿々々しいと分かっているのが強迫神経症の特徴です。しかし、打ち消すことが出来ません。

【強迫性障害の治療−森田療法】

 強迫性障害の治療は精神療法と薬物療法になります。しかし効果の乏しい方がいるのも事実で、なかなか難しいのですが、まずは精神療法の範囲で対応することが多いでしょう。

 日本では有名な森田療法があります。これは神経症の人の根底にある「不安」の問題に注目して、「生きている以上、不安は誰の心の中にも存在するものだ」と捉えるところから始まります。

 創始者の森田正馬(1874−1938年)氏自身が、田舎では秀才だったが、高校に行ったら優秀な人が一杯いた。その中で帝国大学の医学部へというプレッシャーで劣等感に苛まれ、体の不調に苦労をした。自分の中に起きてくる不安の問題を若い頃から注目して、患者の治療に応用したわけです。

 「不安」の裏には「生の欲望」があります。人間は強く豊かに生きたい、よりよく幸せに生きたいという本来の望みがある。そう願えば願うほど、裏にある死の恐怖が強くなり、それへの不安が自覚される。その循環は、程度はどうあれ人の心に存在し、皆さんが感じているものです。この死の恐怖に由来する不安を消す事は出来ないと森田は考え、結果的に森田療法は「不安の存在をあるがままに受け入れよう」となったのです。

 森田療法では、不安それ自体を解消する事を治療の目的とはしません。不安はあるものとして、さほど目をそむけずに、かといって取り立てて意識もしない。意識する事は不安や恐怖をいっそう強くする、それを森田療法では「精神交互作用」と言います。要するに気になる事を考えてしまうと、どんどんそこに意識がいって、ますますその不安や恐怖が強くなる。ゼロにしたつもりでも解消はしていないから、いつまでたってもぐるぐる回りは終わらない。このことを精神交互作用と呼んだのです。

 森田療法では、「目の前のやらなければならないことを、ちゃんとやりなさい」が治療の根本原理です。不安を排除しようとせず、そのままに受け入れる態度を身につけていく。技法的には絶対臥褥、作業療法等をやっていきます。神経症圏の様々な症状というのは、あるのが当然、実はその人が強く元気に生きたい欲望の証だと捉える見方を森田療法は伝えています。

【薬物療法】

 一方で薬物療法も、実際には、抗不安薬、抗うつ薬が使われています。とくに強迫神経症については、薬物が有効な場合があります。激しい繰り返しの強迫的な動作、繰り返し浮かぶ考え、この繰り返しに対して、セロトニン系の薬が効果的だと生物学的には分かっているので、そういった作用の強いクロミプラミン(アナフラニール)や、SSRIがよく使われています。森田療法の治療をしている病院も、森田療法的なアプローチと向精神薬の併用によって治療しているところが多いです。

【他の精神疾患と重なって起きる神経症】

 神経症の症状は、その人の持つ健康な生の欲望がなせる業ですから、他の病気がある方でも当然、神経症的な症状を示すことはあり得ます。うつ病や統合失調症の方が神経症的な症状を併発することは珍しくありません。

 ただし診断名・病名としては、統合失調症は特定の原因はまだ分かっていませんが、何かあるはずだ、原因はまだ分からないが、脳の機能障害が明確にある病気と考えられています。ですから神経症的症状もある場合、どちらが主かというなら、統合失調症の人が神経症の症状を出しているといった見方になるでしょう。

 治療については、それぞれの病気を別の病気として治療するのではなくて、1人の人間の中で起きていることですから、不安な部分についても共感しつつ、精神療法的アプローチと薬物療法とを上手に組み合わせていきます。

★「公益財団法人 日本精神神経学会認定 精神科専門医」は、下記のサイトで確認できます。

https://www.jspn.or.jp/jspn_ippan/kensaku/senmoniKekkaList.do?p=2

さらに「指導医」をみることもできます。

https://www.jspn.or.jp/jspn_ippan/kensaku/shidoi.do

                                       〜了〜

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編集後記

 7月号、8月号を合併号にしたため、 編集後記は8月号に掲載。

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