新宿区後援・10月新宿フレンズ講演会

統合失調症の基本的治療を
理解するために

         講師 東邦大学医学部精神神経医学講座 教授 水野雅文先生

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【社会状況の変化】

 統合失調症(スキゾフレニア:schizophrenia)は一つの病気というわけではなく、例えば精神病とか感情障害というように、病気のグループの名前です。
 かつては非常に治りにくいと信じられ、これといった治療もなく、社会から隔絶して周りも本人も安心安全を保つのが一番と思われていました。15歳から40歳くらいまでに発症することが多く、将来的に明るい見通しを持てないからと、本人には病名を伝えないことが多かったのです。
 統合失調症という名前になってから、患者本人に病名を伝えることも増えてきました。まず薬が出来てきたこと。それで、治療・回復可能性・リカバリーが強く意識されるようになり、良くなる可能性が膨らんできたからです。
 私が医師になった1980年代は、統合失調症に限らず、精神病院に長く入院する方も沢山いました。実際、患者に会うと、話す内容も頑なで現実離れしていたり、大声を出したり、固まって動かなくなるなど、見るからに「これでは社会になじめないだろう」という重症感がありました。
 ところが10年ぐらい経って、統合失調症の軽症化が言われ出しました。病理学的には本人の思い込みなど間違いなく昔と同じ思考障害は認められるが、あまり表に出ない。華々しい症状で、何とかしなくてはならないというタイプの患者が減って、治療しやすく、家で普通に居られる患者が増えて来ました。
 それは、世の中が変ってきたこともあります。昔なら考えられない服装で、街を堂々と楽しげに自分のペースで過ごしている人が一杯います。竹の子族が出て来た頃から、自由に自分らしく表現してあるがままに生きる。それぞれが外見・行動様式に個性を発揮するようになり、統合失調症で多少風変わりなところがあっても、社会の中でそんなに目立たないようになったのかもしれません。
 つまり、人と違うことに対し個人が違和感を持たない社会になって、昔に比べて「周りに合わせなければ」「変に思われているんじゃないか」など余計な気遣いをしなくてすむ状況になった。それにより病気であっても、楽に生きられるようになって来ました。
 また、IT化が進んでインターネットで通販も簡単に申し込めるし、いちいち対面で緊張して嫌な思いをしながら買い物をしなくてすむようになったので、「引きこもり」しやすくなった、あるいはマイペースで生きられるようになった。社会に対する緊張感は全体的に減ったように見受けられます。
 精神疾患が全体として軽症化してきて、精神の病気を身近な問題として受け入れるようになり、メンタルクリニックや心療内科のクリニックが増え、多くの人が精神科にかかりやすい状況が出来てきました。

【治療の難しさ】
 精神科の診察は、本人に心の中で体験していることを話してもらい、それをもとに精神科医が様々の所見をとっていきます。例えば「誰も居ないところで声が聞こえてくる、それも悪口を言っている」、本人がそう言った場合、家族や親しい人に来てもらって、事実に反することを思い込んでいるか,妄想かどうかをあらゆる手段を使い確かめます。話の整合性を確認し、症状を1つずつ取り出して合わせて、状態像と生物学的年齢、性別、体のコンディションその他を考え合わせて、「こういう病気だろう」と初めて病名が頭に浮かんできます。

 「薬を飲んでいれば元気になるか?」というと、これが難しく、中々それだけでは元気になりません。「何を求めて治療するのか」、「どう治りたいか」、「本人がどうありたいと望んでいるか」、このあたりが治療の目指すところです。

 しかしそうは言っても「自分なんか、金もないし放っておいてください」という人もいます。「治療が間違っている、病気ではないから薬はいらない」という人もいます。服薬しても、家族の説得でやっと飲む、この間に患者は病気の症状で疲れしまって、ストレスに耐えているわけです。

 薬と共に休養が大切です。体も疲れているが脳も疲れているので、ストレスを減らすことが必要になってきます。

 今、話を聴いていても、外の車の音、エアコンの音、灯りなど色々なことに体が反応して、脳はデータ処理をしています。脳は起きている間は休まず働いていて、統合失調症では、脳の働きが過剰になっていることが想定されています。

【環境の調節が大切】
 環境は明るさ、音などありますが、もう少し社会的なこと、学校や仕事に行くこと、そこにまつわる様々な人間関係が大事な環境です。これが本人にとって思ったように進まないと、人間関係の軋轢でストレスになってきます。学校も成績・出席日数が厳しい状態や、いじめなどがストレスになります。

 つまり治療には、これらのストレスを出来るだけ解消するほうがよい。私は外来でも「学校は気にしないで休んで、今は体を治すときですよ」といいますが、大体、半数の親には賛成されません。問題は、親は日常のコミュニケーションで明るく話している時はいいのですが、親子ですからイライラすることも率直に表す、心配なのでつい口を出す、これが環境の要因の一つとして本人に良くない場合があります。

 一方で、「何も批判を言うまい」「何を言っても聞いてやろう」「叶うことならお百度だって踏んでやろう」という対応もよくありません。これを「情緒的巻き込まれ過ぎ」といい、やはり高EEです。治療は、思いやりや気働きも大事ですが、適切でないといけません。何もかも本人のために…はよくないのです。


【陽性症状と陰性症状】

 統合失調症の症状は、陽性症状と陰性症状に大きく分けられます 。陽性症状は普段ないものがある、たとえば妄想・幻聴・興奮です。陰性症状は普段あるはずのものがない。やる気・意欲、注意力・気を回す等さりげない心の動き、笑う・怒るといった感情表出・表情など、日常にあって当たり前のものがない状態です。

 薬は陽性症状を取るものがほとんどです。つまり余計な出っ張りを削る、簡単に言えば興奮を鎮めるという鎮静作用を中心にした薬が主流で、実に良く効き、種類も沢山あります。ですから医師は患者が眠れないといえば眠らせ、鎮まらせることはできます。つまり薬を増やせば大抵眠くなります。

【リハビリと社会復帰・就労支援】
 薬と休息と環境調整が大事だとお話ししましたが、リカバリーを達成するには、リハビリテーション・社会復帰・社会参加に向けての働きかけが必要です。薬以外にも、様々な活動プログラムを通じて、本人の活動性を高めようという試みです。

 これは社会資源としてはデイケア、作業所、就労・就学支援の取り組みがあり、最近では障害者の就労支援を仕事にしている民間会社も出てきています。
 デイケア:保健センターや病院、大きなクリニック等にあり、SSTでコミュニケーションの練習、洗濯、料理、金銭管理などの生活に必要なことをグループで学んで社会生活に慣れていくことや、昼夜逆転などしないで日常生活をしっかり送れるようにしていきます。

作業所:日本の作業所は、退院して居る場所もないと親が居場所を作ろうと始めたところがほとんどで、ちょっと作業をして、ほんの少しの工賃が払われる形でスタートした作業所が多いのです。本来は就労を目指していたのですが、社会の仕事が変化して地道な手作業はどんどん減って仕事に繋がらないのが共通の悩みになっています。また、作業所を作った人も高齢化してきて指導も大変で、次の人を雇うほどの売り上げは出ませんから先行き不安定になって、利用料もあることから選ばれる時代になってきました。(2006年の自立支援法で、地域活動支援センター?型に移行したところが多い)

就労支援:医療の枠外で行われているので、医師は「リハビリセンターや就労支援センターなどに行った方がいいですよ」と話しますが、それ以上の情報を把握する現場にはいません。病院の相談室のPSW(精神保健福祉士)や地域の保健センターに相談すると良いでしょう。

 障害者基本法が改正されて、精神障害者も身体・知的と同列に雇用する義務が事業所に出てきました。精神障害者の就労の可能性は基本的には高まっていくでしょうから、それを目指して日常の準備をすると思います。就労支援センター、就労継続支援事業で雇用型のA型、訓練やリハビリのB型、ハローワークの障害者窓口もあります。

【状況に合わせた治療を】
 1人の患者の回復の時間軸を見ると、服薬・休養・環境調整・リハビリを時期に合わせてバランスよくしてゆくことが重要です。発病して具合が悪い最中は服薬と休息が中心です。急性期リハビリが大事という考え方も出てきていますが、しかし実際は、大騒ぎして薬でやっとベッドに寝かされている人に、そういう環境下でできるリハビリの方法論はまだ開発されていません。やはり急性期は服薬と休養が大事です。

 しかし、いくらか症状が収まってくると「何かしなくては」、「学校へ行きたい」、「職場へ復帰したい」という気持ちが起きるようになります。けれども薬を飲んでいても陰性症状が回復しない場合は、リハビリや環境調整が大事になって来ます。そのころには薬も減ってきて、鎮静作用はさほど邪魔にならないでしょう。

 必ずしも単剤治療(1種類の抗精神病薬による薬物治療)が絶対ではありませんが、出来るだけ数少ない薬の数と量で鎮静作用を少くして、早く回復させるようにもって行く。さらに外来通院だけではなく、リハビリやデイケアに通う。毎日通うのは、日常生活を規則的にし、昼夜逆転を防ぎます。

【医師と上手につき合おう】
 通院する家族や本人から言えば、医師にもっと丁寧に話を聞いてほしいという気持ちが強いでしょう。ところが、良いという評判のクリニックほど患者さんが多く、一般のクリニックは1日に40人ほど患者さんを診ます。8時間として1時間に5人とすると1人12分です。12分の中で、今のような話を1人ずつにするのは絶対に無理だとお分かりでしょう。

 しかも日本の診察は保険点数が決まっています。1人に29分ずつ掛けても6分と同じ。30分以上でも数百円の違いです。今の保険診療の構造が変らない限り6〜10分診察は変わらないでしょう。また、1人に1時間も掛ければ、次に待つ人は怒ります。怒らせないためには、ほどほどになります。そこで、受診の工夫として、症状で気になったこと、聞きたいことなどをメモにまとめておくと、上手に診察時間を活用できます。

 ご家族が家族会に参加したり、講演会に行って勉強してください。本やDVDなどもあります。病院にも相談室があり、ソーシャルワーカーからアドバイスをもらえます。地域には訪問看護や自立生活支援センターなどに相談できる人がいます。これらを資源として活用されることをお勧めします。

 精神科の病気も数多く、統合失調症、うつ病をはじめパニック障害や強迫性障害などの神経症、てんかん、アルコール依存症、発達障害、認知症など、医師には得意分野があります。今は人目を忍んで病院に通った時代とは違います。地元の各保健所には医師や病院についての情報があり、家族会でも率直な情報交換がされています。それぞれの得意な医師にかかることを考えてください。

 医師は「メンタルクリニック」という看板は誰でも出せます。去年まで皮膚科でやっていたが、今年は精神科で…ということは可能です。精神科の医師が明日から産婦人科でやろうとは設備の問題もあって簡単にはいきませんが、実は、逆は一杯あります。精神疾患の場合は、ぜひ本物の精神科医にかかってもらいたいのです。

「日本精神神経学会認定 精神科専門医」

https://www.jspn.or.jp/jspn_ippan/kensaku/senmoniKekkaList.do?p=2

「専門医」の「指導医」

https://www.jspn.or.jp/jspn_ippan/kensaku/shidoi.do

最期に宣伝ですが、本はたくさん出版されていますが、私の『ササッと分かる統合失調症』(講談社)という本も出ておりますので、ご一読ください。
                                         〜了〜

平成17年4月からの新宿フレンズホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿フレンズでは4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿フレンズ会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
どうぞ、この機会に是非賛助会員になっていただけますよう、お願い申し上げます。

賛助会員になる方法        

 
新宿フレンズへのお誘い 

 新宿フレンズでは毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
入会方法 


編集後記

 ようやく始まった福島原発の燃料棒撤去作業。しかし、終了予定はこれから先30年、40年先という。私の寿命は福島原発問題が解決をみるまでには恐らく待てないだろう。

 原発問題と同時に考えなければならない問題が精神の問題である。十月の水野先生は冒頭で社会状況の変化を精神の世界で取り上げている。かつては治りにくいと考えられていた、と説明しているが、私も先輩諸氏からそのように指導を受けた口である。しかし、それはないだろう、が私の感覚であった。息子はグループホームに入り、一応独立した。

 社会状況の変化は精神ばかりではない。否、精神はむしろその辺が遅々としている感がある。私の身の回りでも変化が起きていることを一つ上げたい。竹の子族などという懐かしい言葉が出たので・・・私の若いころはシャツをズボンの上に出すなんてとてもできないことであったが、最近になって私もシャツを出している。これに慣れるとシャツをズボンの中には入れられなくなるのである。これも社会状況の変化だと思うのであるがいかがだろうか。

 そして、精神の世界でも先生の言うように、精神の病気を身近な病気として受け入れられるようになったと思う。かつては周りに合わせなければ、と言っていた人が、変わった服装などを着て普通に生活しているし、見る側も何の疑問も抱かない。

 次のステップは何か、と言えば「カミングアウト」ではないか。これが一般化し、誰しもが何のこだわりもなく精神科の門をくぐれたなら、恐らく早期治療も可能であるし、向精神薬に対する抵抗もなくなるだろう。福島原発問題とどちらが先に達成できるか、期待したい。   嵜

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新宿家族会 E-mail: frenz@big.or.jp