新宿区後援・2月新宿フレンズ講演会

    

心の病気を重くしないコツ

講師 統合大学医学部精神神経医学講座教授 水野雅文先生

ホームページでの表示について

 去年の6月、『心の病、初めが肝心−早期発見、早期治療の最新ガイド』(朝日新書)という本を上梓し、この中の3章が「心の病を重くしないコツ」です。本自体は「病気になりかけた時、あるいはなってしまった頃にどう治療していくか」を中心に、気づき方や治し方を書いています。

 家族会の皆様の中には、発症したばかりで「どういう病気か分からないし、対処方法について色々相談したい」というかたの一方で、「思うように快復しないことが問題」というかたも多いと思います。後者の場合、早期治療というと「あの時に早く気づけば良かった…」と残念な気持ちが浮ぶかたも中にはおられるでしょう。
 ですが、ご自身の問題はさておき、「世の中が心の病について正しい情報や知識を身につけていくことが大事」で、「予防には再発予防も含まれている、早期治療の問題も知っておきたい」というかたも多いようですので、そういった趣旨でお話しいたします。

【早期治療には学校教育が必要】
 その意味では重くしないコツとしては、やはり早く気づいて早く治療を!ですが、それを自分たちの中だけで終わらせるのでなく、社会や政治に対して「もっとケアが必要」、「こんなサービスを考えてほしい」という声に育てたいと思います。患者も家族も、もっと社会に声を上げてというメッセージが「重くしないコツ」の中に入っているのです。
 病気に早く気づく上で、第一に必要なことは、心の病気を知っていることです。「まさか自分が心の病気になるとは思わなかった」と皆さんおっしゃいます。まずは知識の面で、あらぬ声が聞こえたり、一般的に3週間もすれば立ち直れる出来事なのに3か月もショックが続くなどがあると、知識があれば「これは普通の状態とは違う、うつ病や統合失調症という病気がある」とチェックできます。
 知識を得るには学校教育が大事です。小学校から大学まで保健体育の授業はありますが、心が調子悪くなった時の対処や、心はどんな機能があるかを習うのは高校の保健の授業です。その教科書の内容を決めているのが文部科学省の定める学習指導要領です。ところが残念なことに精神疾患については入っておりません。
 アルコール・薬物依存症、性感染症、認知症は項目に入っています。しかし内因性の精神障害、うつ病や統合失調症については触れてないのです。教科書は学習指導要領に基づいて作るので、学校で心の病気について習うことはありません。
 超高齢化社会ですから高齢者をいたわる気持ちを育てる上で、高校生が認知症を学ぶことに皆さん異存は無いでしょう。ですが、認知症の多くは60歳を過ぎてから心配すればよい病気です。
 一方、統合失調症や双極性障害といった精神疾患は、15〜30歳ぐらいで発症することが多いのですから、高校生が喫緊の問題として勉強しなければならないのは精神疾患です。
 知識があれば早く気づいて対処できる可能性が高い。それなのにそういう病気があることすら知らない、治療も知らなければ治り得ることも教えられていない。となると人間は知らないものは怖いですから、何か触れてはいけないから学校で教えてくれない、社会全体で何となく後ろ暗く思っていて、授業では蓋を開けてはいけない。そんなイメージさえも持たせる状況になっているのです。
 まもなく学習指導要領の改訂が行われます。その時に代表的な精神疾患の名前は授業できちんと取り上げ、症状についても、治療可能であることも教える。そこまで指導要領に取り上げれば、早期発見・早期治療が増え、重症化を防ぐことができるのです。
 学習指導要領は教育の専門家が作成し、そこに精神科医が入っているわけではありません。教科書で何を教えるかについて意見は広く聞くでしょう。例えば死亡原因のトップのがんは重視されています。「がん対策基本法」があり、大きな予算がついています。ところが、残念ながら精神疾患は基本法に至っていません。
 そういった議論をして、五大疾患でもあるにもかかわらず精神疾患の基本法がなく、教科書にも記述がないことは深刻な問題だと明らかにするなど、いろんな角度から声をあげていくことが大事です。

【当事者が治療に参加する】 
 診察・治療の場面で非常に大きく変ったことがあります。皆さんはすでにインフォームド・コンセントはご存知だと思います。例えば病気のために手術をする場合、医師は患者にレントゲンやCTスキャンの画像を見せて、「ここに腫瘍があるので、こんな手術をして、その後はこういう治療をします」と説明して、「分かりました」と同意していただきます。つまり、ある結論を専門家が決めて、本人に分かり易く説明した上で了解を得る形です。
 2000年頃にアメリカやドイツで起こったシェアード・ディシジョン・メイキング(Shared decision making:SDM)という考え方があります。SDMとは、幾つかの治療の選択肢を患者さんに示して、例えば手術か放射線か、それとも化学療法か、あるいは併用か、全然やらないか、それぞれどんな進展が予想されるかも含めて、本人と治療者が情報を元によく相談をして決定をするというプロセスを言います。
 つまり、治療に対して当事者がより深く関わりますが、医師からいえば患者の理解度や情報の確かさ、説明に割ける時間の問題などがあります。患者としては自分の病気についての最新の情報・知識をさまざまなメディアを通じて得ることが重要になります。

【事前に意思を伝えておく】
 
精神科の治療、ことに再発のある病気の場合、調子の良い時に「もし悪化したら、こういう治療を」「病院は嫌だと言っても連れて行って治療してほしい」等を、予め家族や主治医やソーシャルワーカーに意思表示をしておく方法もあります。再発して重症化しているのに放置されたり、無理やり入院させるかどうか周りが悩むのを防ぐ上でも、調子の良い時に本当の気持や意思を話し合っておきます。 
 これは入院などの最悪の事態ばかりでなくて、ソワソワ落ち着かないとか、眠れない、周りの人が気になりだした、仕事に行くのが嫌になったといった再発が予想される場合などは薬を1錠多く飲む、というふうに主治医と事前に相談しておく。それを書き出して壁に貼っておくなど、早手回しに再発した場合の事前準備をしておくことも、悪化させない大きなコツです。ご家族は是非、今日の事前相談の話を当事者や主治医に伝えて、具体的にご相談いただけたらと思います。

【良い主治医の選び方】
 
この本の後半は「医者選びも治療のうち」、精神科の主治医の選び方についてです。話ほど酷い医者が世の中に現実にいるかどうかはお断りした上で、こういう医師は良くないとはっきり書いてあります。
 私は精神科医を育てる立場にいますので、こういう医師であってほしいとの願いをご紹介します。

◇診察が終わった後に「来てよかった」と思える
 
受診後には、特に不安な気持ちが解消されていることが大事です。医療技術が進み、栄養も衛生状態も良くなりました。そこで、多くの人が病院に行くのは快復しに行くことだと思っています。精神科に初めてかかる人も、すぐに治ると思っているかたが多いのですが、そんな簡単なものではありません。

◇診断に基づいた治療方針を立てる
 転院して来た患者さんに「前の先生は病名を何と診断されていましたか」と尋ねると、「病名は聞いてない」という人がけっこういます。昔は不安状態、抑うつ状態、幻覚妄想状態、自律神経失調症とか、曖昧な言い方で患者さんに状態を伝えていたことも多く、病名や症状を知らせるよりも、治療が必要な状態であることを納得してもらうことが大事だと、30年前は習ったものでした。
 しかし今は、DSMやICDという操作的診断基準があり、比較的診断をつけやすくなりました。また「統合失調症」など比較的状態を反映した病名に変ったこと、もう一つ大事なことは治療可能な病気になったために病名を患者に伝えやすくなり、主治医が病名を全く告げていないことは最近では減りました。
 最初に病名を告げるかどうかは本人や家族が受け入れられるかどうかにも依りますが、診察をして診断をきちんとつけて、その病気にそった治療を組み立てて、医師と患者の間で十分に共有されていることが大事です。次々に出てくる症状に振り回されて、症状を消すことばかりに治療が行くようでは困るわけです。

◇遠くの名医より近くの開業医
 
私共の病院にも遠くから予約して、前の晩泊って来院されるかたもいます。大変光栄に思いますが、精神科は1回の受診で治るものではありませんから、例えば片道2時間で2週間に1度の通院では大変です。やはり通える範囲の相性のいい先生を探すことです。
 最近はセカンド・オピニオンも増えましたが、よほど診断や治療に迷った時はともかく、大体1回きりで、今までの病状についての紹介状を頂き、約60分お話して質問を受け、治療についてのアドヴァイスをします。初めて会って60分では、初診でも短いくらいで、なかなか把握はできませんから、答える中身はかなり限られてしまいます。

◇患者の顔をよく見て、会話をする
 
最近、電子カルテを見ながらキイを打ってばかりいて、患者さんを見ない医師の話を聞きます。見てないわけではないのかもしれませんが、患者には伝わらず不安になります。
 電子カルテが透明、スケルトンになって字も患者さんの顔も見えれば良いのにと思いますが、やはり顔を見て話すことが大切です。ただ、電子カルテは良し悪しの問題でなくて、4月からは処方箋の電子カルテ化も始まり、医師も患者も慣れていく必要があります。

◇必要な検査を定期的にして、体の健康にも気を配る
 
精神科治療は、精神症状とともに体の健康にも注意して診察するべきだと世界中で言われています。身体は悪くないという前提で精神科の話は始まりますので、神経所見の眼底検査も無しで診察を始めるところも多いのですが、服薬が始まったら、3か月に1回採血して血液検査が必要です。
 「異常なしが続くし、費用が掛かるからやらないほうがいい」と思いがちですが、薬物は肝臓に負担がかかりますし、最近の抗うつ薬には心臓に異常を起こし突然死の元になるような副作用がある薬もあります。心電図でチェックし、問題がある場合には速やかに薬を減らすか、薬を変える必要があるのです。

◇患者の希望する薬も、きちんと検討する
 新聞記事を切り取って「この薬を出してください」と言う人がいます。そして薬局かと思うほど、患者の希望通りの薬を気軽にホイと出す医師もいて、頼んだ薬は出してくれる良い先生と言われたりします。けれども、薬は患者からの提案があったら、症状と処方があっているかを診て、いくつもの薬の中からどれが良いか、どの薬が本人に合うか、よく観察し、相談しながら選んでいくものです。

◇初診や変薬後はことにこまめに診る
 最近は、薬は4週間の処方ができます。月1回だけ薬を取りに通院という人がいると思いますが、昔は抗てんかん薬を除き、向精神薬は2週間の処方でした。4週間の処方になって通院も減るし、安定していればいいという考え方もあります。一方、診察回数は減るわけで、その間の変化に応じた対応ができないことになります。  
 ことに薬を変えた後は、どんな薬でも副作用は起り得るし、病状の変化も起きます。変薬して次の診察が4週間後というのは、かなり乱暴だと私は思います。できれば初診や変薬の後は、あまり日を空けず、せめて1週間で薬の様子を診たいというのが本音です。「忙しいからいいですよ。もし調子が悪くなったら途中で来ますから」と言う患者さんもいますが、健康のためですから1週間後に変化が無いか、期待通りの薬の効果があるかを確認したほうが良いでしょう。

【心理社会的治療と薬物治療の併用を】
 大事なことは薬物療法のほかに、認知療法やデイケアなどの心理社会的治療を併用することです。この心理社会的治療が病気を重くしないために、薬とともに重要なポイントです。
 統合失調症の場合、主な症状として陽性症状の興奮、幻覚、幻聴、妄想つまり訂正不能な確信、例えば誰かにつけられている〈感じがする〉のでなく、〈確信〉を持っている。陰性症状としては、意欲や興味が湧かない、感情の平板化つまり心の動きが無い。
 もう一つの症状として、認知機能への影響、皆さん酔っ払って計算問題を解く状態を考えれば分かると思いますが、たとえば注意力、記憶力、二つのことを同時にやる遂行能力も、若干機能が低下することが知られています。認知機能は社会生活上に重要ですから、これも何とか治療で進行を遅らせたいと考えているところです。

                                            〜了〜

       *                                   *

・水野先生の著書紹介(ネットでもアマゾンなどで求められます)

『心の病、初めが肝心』(朝日新書)

『ササッとわかる統合失調症』(講談社)

『精神科リハビリテーション・ワークブック』(中央法規出版)

平成17年4月からの新宿フレンズホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿フレンズでは4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿フレンズ会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
どうぞ、この機会に是非賛助会員になっていただけますよう、お願い申し上げます。

賛助会員になる方法        

 
新宿フレンズへのお誘い 

 新宿フレンズでは毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
入会方法 


編集後記 

 暑かったり寒かったり、花粉症だったり、期末であったりと3月は我ら人間には厳しい月である。そんな折、「心の病、初めが肝心」水野雅文著なる本をアマゾンで買ってみた。精神疾患総合ガイドとでもいうべき書物である。

 読み始めて驚いた、というか気が付かされたことがあった。「はじめに」の中で、うつ病だけが「心の病ワールド」から抜け出しつつあります。ということだ。統合失調症の子を持つ親としては少なからず「やはりそうか」という感じを禁じ得なかった。

 かつて別な家族会を率いていた時、うつ病の患者を持っている親がいて、彼の口癖は「うちはうつ病だから」をことさら強調していたのを覚えている。特に当時は統合失調症が精神分裂病という名称であったからなおさらであったのだろう。

 しかし、である。この歳になって考えてみると世の精神疾患への認識を考えた時、水野先生も言ってるように「世の中が心の病について正しい情報や知識を身に着けておくことが大事」であり、広く世の中を変えて行くことが一大使命であろう。うつ病がまず平常の病気、つまり風邪や腹痛と同じスタンスで受けとめられるようになれば、次は統合失調症が同じスタンスで認められるようになる。世の中はいま、そんな流れで進んでいるのではないだろうか。

 現在の学校教育の問題点も先生は指摘している。病気があることすら知らない、そのような状況にある日本の精神医療はいつになったら統失が平常の病気として扱われるのか、少々心許ないが、それもこれも我々家族会が頑張るしかない。いまは抵抗あるかも知れないが、いつかは「私は統合失調患者です」と言える日を。              嵜

※勉強会INDEXに戻るには左のMENUの勉強会をクリックして下さい


新宿家族会 E-mail: frenz@big.or.jp