新宿区後援・10月新宿フレンズ講演会

    

こころの病気の治し方

講師 東邦大学医学部精神神経医学講座教授 水野雅文先生

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 新宿フレンズの顧問医師を引き受けて15年が経ちました。私の前に顧問医師を長年つとめられたのは、昨年末にフレンズで講演をされた桜ヶ丘記念病院長の岩下覚先生で、その岩下先生から「家族会に行ってみないか」と言われて引き継ぎました。その頃は、私は慶應大学病院の専任講師で診療科医長になったばかり、この会のご家族からたくさんのことを学びました。
 私の後は、みなさんお馴染みの大泉病院社会医療部長の山澤涼子先生が引き継いで下さいます。山澤先生は新宿区立障害者生活支援センターの顧問医師でもありますので、新宿区にもご縁が深いです。

 この前、日本テレビの「ザ!世界仰天ニュース」という番組のプロデューサーから出演依頼があり、新宿フレンズのホームページの講演会録を見て、こういう精神科医の話を聞きたいとのことでした。あいにく日にちが合わないのでお断りした次第ですが、ここの会員だった漫画家の中村ユキさんを取り上げるとのことで、放映は11月30日の夜9時からだそうです。

 また、少し先になりますがNHK教育の「きょうの健康」12月19日(月)と20日(火)の夜8時30〜45分(再放送は翌週の昼1時35〜50分)に出演しますので、ご覧いただければ幸いです。

【前と同じにと焦らない―「時間薬」も大切】
 さて、統合失調症のご家族のいる会員が多いと思いますが、この病気の原因は、いまだにハッキリしていません。脳内の神経伝達物質ドーパミンの受容体に蓋をする抗精神病薬が効果を発揮するので、ドーパミンがたくさん出過ぎることが発症に関係しているのだろうというドーパミン仮説に基づいて服薬治療を行っているわけです。

 妄想・幻聴などの陽性症状、気力の出ない陰性症状と言われますが、統合失調症の症状は大変幅広く、人によって出方が違い、クレペリン(ドイツの精神科医1856−1926)は「症候群」ととらえています。症候群とは、同じような症状や所見があり、経過や予後なども含めて特徴的な様子を示す「病的な状態」を言いますが、原因がハッキリしていなくて、単一の病気であるのかどうかが判っていない、むしろ単一の病気ではないのではと考えられていることも多いのです。
 ただ、「治す」「回復する」と言っても、「元に戻る」というのとは少し違います。成長とは想定された斜め線に沿って上がって行くように捉えられ、回復とは病気をしなければここまで行けた筈の線に戻すことと考えられがちですが、病気をしていったん落ちたところから元に戻そうとすると、急激に引き上げるわけですから大変になるというより無理なことです。

 普通でも上ったり下ったりしながら成長するものですから、病気をしたら元に戻そうと焦らないことが大事なのです。また、どんなつらい体験も時間とともに薄れます。こころのエネルギーの回復には時間が必要なのです。これを「時間薬」と呼んでいますが、急がないことです。
 もう一つ、前と同じ生き方を目指すということは、また発症するかもしれない前と同様の生き方ということです。本人の「治りたい」という意欲は大切ですが、症状だけが取れても価値観が変わらなければ駄目なのです。病気から何かを得て「乗り越えた」という実感を得ること、「治った」ということよりも「治り方」が大切です。「人生は一つではない」と価値観を大きく変えて、病気の中から新しい自分を獲得し、人生の価値や楽しみを積極的に見つけてリカバリーしてください。

【小さな成功体験を大切に】
 周りの人もつらい思いをする病気ですが、やはり一番つらいのは本人ですから、安心して治療に向き合えるようにしたい。安心していると、いろいろできるのですね。そしてそれが自信につながり、行動を広げていけます。反対に不安は失敗につながりやすく、失敗を重ねると自信喪失してしまいます。

 不安に思うことは誰にでもあるものですが、不安という感情は、人によってその受け取り方もさまざまで、あまりこだわらない人もいれば、敏感で心配を増幅してしまう人も、その時々の体調にもよります。

 しかし、その不安に心が支配されて何も手につかなくなったりと日常生活に差し障わるようでしたら、1人で不安を抱え込まないで、家族や人に相談したり主治医に訴えてください。

【良い環境が体調を良くする】
 人間の心には、多少の「揺れ」があり、それを元に戻そうとする復元力(レジリアンス)が働きます。この復元力は、大きな出来事で興奮して大きく揺さぶられ、またそれを戻す力が働くといった中で成長します。ですから日常の揺らぎが少ないと、悲しみやうつ状態を耐える力も衰えます。
  復元力は、治療環境・人間関係と大きな関係があります。と言っても「どのくらい関係する」と数値を上げるのは難しい。しかし、生活環境・人間関係が良くなると、病気も良くなっていくことは確かなのです。
 つらい時や悲しい時だけではなく、嬉しい時や楽しい時もストレスになります。しかしどのストレスも、人間にとって必要なものです。ストレスが掛かったとき、さまざまな体の反応が出るのは普通で、そこに復元力が働きますが、反応が大き過ぎたり長く続いて閾値を超えたりすると発症・再発してしまうことになります。
 ストレスの過剰が精神疾患の発症と関係するのですから、この復元力をどのように治療に生かせるか。「治療は薬だけではない」と言われるところです。
 本人は病識(病気の自覚)を持っていないことも多いので、家族はきちんと相手を見て、暗い顔をしていたらお説教や「がんばれ」とか周りの家族が困っていることを言うのではなくて、「つらそうな顔をしているね。今、何に困っているの」とじっくり聞いてあげてください。そして本人のつらさに共感しながら、したいこと、好きなことなどを聞き出して主体性を尊重しながら、そのことに近づけるように、まずはできそうな小さな目標を立てて、少しずつ活動性を高めて行きます

【認知行動療法で気持ちを楽に】
 脆弱性ストレスモデルの図に、「規則正しい服薬で閾値を上げる」とあるように、病気が進んだ状態では十分な量の薬をしっかり使う必要がありますし、また回復してきても少量の薬は、人の持つ自然回復力、レジリアンスを発揮させる助けにもなり、再発を防ぎます。
 しかし、薬物療法一辺倒でなく精神療法・心理療法なども併用して行うことが、回復へのより良い道です。今、精神科の治療法として世界的に注目されているのが、半世紀近い歴史を持つ認知行動療法で、うつ病や不安障害には保険の適応になっています。
 認知行動療法とは、簡単に言えば、長年の間に作り上げてきた本人の行動の仕方、思い込みや考え方のクセを修正して、自分に合った現実的なものの見方・自分にやさしい考え方があることを、自ら感じ取ってもらう技法です。自分に特有の行動パターンや認知パターンに気付き、治療者との共同作業の中で問題点を明らかにしていきます。 
 気分や感情はなかなか変えられませんが、ちょっとした行動は変えられます。たとえば部屋でカーテンを閉めてウツウツとしているときに、そのうつの気分を変えようとするよりは、まず窓のカーテンを開ける、コーヒーを入れて飲む、花に水をやるなどの行動のほうがやりやすい。行動を変えると気分もフッと変わったりするのです。そして「やってみたらできた」という自信や、「やって良かった」というホッとした感情を実感することが大事なのです。

【生活を広げて社会復帰を】
 少し回復してきたら生活環境を充実させるために、地域のデイケアや支援センターなどの社会資源を利用することや、アルバイトや好きなことを習うのも良いでしょう。アルバイトの面接を受けに行くのもリハビリになります。
 日本の精神科医療は休ませることにのみ重点を置きがちですが、リハビリは社会復帰のための大切な道筋です。病院・通院を中心に考えてしまうと引きこもってしまいがちですから、少しずつその人の生活を広げていくことが大事なのです。とくに慢性化した統合失調症やうつ病の場合は、デイケアなどで他の人と一緒に作業をするグループワークが有効です。
 リハビリ施設は、デイケアや作業所など医療・福祉が用意しているところは費用面でも心配が要りませんが、中には「自分には合う施設がない」という人もいます。その場合は、公的な施設にこだわる必要はありません。町はリハビリの宝庫です。一般的な英会話やコンピューター教室、絵画、フラワーアレンジメント、音楽教室、ヨガなどカルチャーセンターやスポーツジム、行事のある図書館、市区町村の催しなど、それらの案内も自治体の広報や駅にあるカルチャースクールのパンフレットなどに出ています。気に入ったカフェなど、快適な時間が過ごせて社会との接点か持てるものなら何でも利用します。もう少し良くなったら、仲間とスポーツや音楽のグループを作って楽しむことや、ピア活動やボランティアグループに参加するのも良いでしょう。
 日本はこれから超高齢化社会になり、人々の目はそこに向きます。その中で障害者のための新しいシステムを作るのは至難の業で、周りの人たちにはなかなか理解されません。医療者や福祉関係者だけに任せるのではなく、当事者が地域で楽しんで生活できるようにするには、家族を含む当事者が治療やケアを含めた地域づくりを社会に発信していくことがより大切です。家族会の皆さんも、地域で機会を作って発言をしていってください。

                                        〜了〜

平成17年4月からの新宿フレンズホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿フレンズでは4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿フレンズ会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
どうぞ、この機会に是非賛助会員になっていただけますよう、お願い申し上げます。

賛助会員になる方法        

 
新宿フレンズへのお誘い 

 新宿フレンズでは毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
入会方法 


編集後記 
 青天の霹靂という言葉はこのような時に使われるのだろう。アメリカ大統領選でのヒラリーとトランプの結果である。しかし、さすがはアメリカである。負けたヒラリーは開票中にも関わらずトランプに敗北宣言を送っている。そして、勝ったトランプもヒラリーを最大限評価し、感謝している。これが日本にはないアメリカなのだろう。

 そして、我が新宿フレンズでも青天の霹靂があった。水野先生が新宿フレンズ特別講師を去るということである。15年前、それまでの特別講師・岩下先生と慶應病院を訪ね、水野先生と初めて逢った時の光景が今蘇る。

 10月の講座は最終講義ならぬ最終講座となった。そのテープ起こしを読んで私はアンダーラインだらけとなってしまった。私のアンダーラインはそうかと気づかされた点、ここは重要と思われる点、そして頷けた点に引かれる。今回は頷けた点で紙面が真っ赤になった。やはり20年、息子と病気を闘って来た親ゆえなのか。見出しの項目一つひとつが頷きであった。

 例えば、私も常々感じていたのだが、家族は当事者中心の生活にして病気の波に一喜一憂して振り回さるのではなく家族も「自立」して生活を楽しむのだという。当事者が急性期にいる場合を除き、家族は当事者から離れ、自らの趣味や旅行などをもっともっと楽しむべきであろうと思う。 

 最後に先生は「家族を含む当事者が治療やケアを含めた地域づくりを社会に発信していくことがより大切です」と結んでいる。先生は絶えず家族会の活動にエールを送ってくれていた。薬の話や入退院のことも大切だが、やがて誰でも直面する社会への発信こそ家族会の活動であると思う。 

 講座が終わって先生に花束とパーカーのボールペンが送られた。長い間、我々家族に多大なる知識と勇気を与えてくれたことに感謝々々!            

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新宿家族会 E-mail: frenz@big.or.jp