新宿区後援・3月新宿フレンズ講演会


  人とのつながりと距離を考える

講師 精神科医・鍼灸師 みどりの杜クリニック院長 TENOHASI理事

森川すいめいさん

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【電車の中のふれ合い】

 今日のテーマに、皆さんはどのようなことを期待して来られたか、何人かの方にお伺いしたいと思います。いただいたテーマにあわせて話すことを組み立てたいと思っています。

母親A 私は人との距離が分からないで、自分の話ばかりしてしまう。また人に頼り過ぎてしまうので参考にしたいのです。

母親B 娘と2人暮しで、ずっと一緒にべったり居て私も娘もだめになりそうで、私はまたパートに出るようにしました。間の取りかたを教えていただきたいのです。

夫C 家族会は8,9割が親子関係ですが、私は妻が当事者で会の中では少数者です。夫婦という対等な関係で病気のケアをしなければならないので、今日はお話を楽しみにしています。

母親D 私は統合失調症の娘が家におり、だんだん親戚も近所もつながりがなくなって家族が孤立しています。社会とのつながりをどうしたらよいでしょうか。

 お話は、それぞれのコミュニケーションですね。では今日は、訪問看護ステーションの三井看護師さんと来ましたが、最初に電車の中でのエピソードを話していこうと思います。

三井 私は西武線で終点の池袋で降りますが、両側のドアが開くので乗車用の空いているほうからも人が降ります。その時に乗車を待っていた親子連れのお父さんが大声で「向こうから降りろよ」と怒鳴りました。みな一瞬ひるみましたが「そんな言いかたしなくても良いじゃないのよ」など言いながら、その親子を無視して降りていきました。その中で若いカップルが「自分の心の声が出ちゃう人っているんだね」と言い、ニコッと2人が笑いながら降りて行き、凍りついたような車内が和みました。

 電車という小さな社会の中で、皆さん色んなエピソードがありますね。私は先日、満員電車で足を踏まれて、「大変ですよね」と笑って言ったら、相手方も笑って、満員電車がつらくなくなって、私たちはこの社会の中で何かのために戦う戦士で同志だというような感覚になったのですね

 さて、今日は、まずは3つの贈り物のお裾分けをしたいと思います。

【困っている人を放っておけない】
 さて、私は3年ぐらいの間に、5ヵ所の自殺の少ない地域、多い地域を、1回1週間ぐらいずつ訪れました。その中でコミュニケーションについて色々考えて、『その島のひとたちは、ひとの話をきかない−精神科医、「自殺希少地域」を行く−』という本を書きました。

 つまり、自殺で亡くなる人が少ない地域があるわけです。そんな地域は特別な場所なのか。同じような風土で一方は自殺で亡くなる人が少ない地域、もう一方は多い地域を調査した岡檀(おかまゆみ)さんというひとがいて、その調査から分かってきたことは、どうも環境や風土とはあまり関係なさそうで、貧しさもあまり関係なさそうで、環境ではない何かがありそうだということでした。

 若い人が言うには、「その島の人たちは、困っている人を放っておけないのです。私も自然にそうなりました」と。それを聞いたとき、人は他者の姿を見ながらこうやって「変われる」のだな…と希望を感じました。

【答えは直ぐでなくても良い】
 まず、フィンランドからの贈り物をお裾分けしましょう。少ししんどい言葉になる人もいるかもしれません。「答えを直ぐに求めなくても良いと分かった」という言葉です。「答えをすぐに求めなくても良い」という言葉は、答えを知りたい人にとっては残酷な言葉と聞こえるかもしれません。しかし、援助者・支援者が楽になれる言葉として紹介されています。

 今日お話しすることは、あくまで私を通して発した事例に過ぎないのです。皆さんに申し上げたいのは、「こういうやり方でやれば良い」ということではなく、他の人の事例を見て「そういうやり方もあるんだな」と、参考にしていただけたらと思います。

 勉強会の良さも「方法を見つけるため」ではなく、「いろんな事例を知る」ことではないでしょうか。答えにすぐに飛びつくとうまくいかないことが多いように思います。「答えは直ぐでなくても良い」といった方法で、フィンランドでは支援がうまくいったということのようなのです。

 子供たちはいろんな事例を知ることで、自分なりのやり方を発見するようになる。家族相談会などはこの意味において、フィンランドに近いのかもしれません。他の人の事例を聞いて、自分の事例とは違うが、有る一点において参考になるかもしれないなどと思える。

 例えば、私の外来に来る人では、旅に出たり農業をやったりして回復する人がいます。他の事例を知ることは自分の助けになるようなのです。私は、知っている事例を皆さんにお伝えすることで、何かお役に立てればと思っています。

【オープンダイアローグの試み】
 遠回りをしたことで回復する人が増えたという地域があります。フィンランドの西ラップランド地方のオープンダイアローグ(開かれた対話)という試みです。この地域は、発症した人がいると医療者は24時間以内に訪問し、直ぐに答えを出すのを止めて、本人や家族と対話をしようとしました。1980年代でしたが、医療機関が決めたことは、本人不在の中で本人に関する重大な決定はしない、そして本人の必要に応じた治療(?Need-Adapted Treatment)をしていくという究極の遠回りです。こんなことは難しいとみんな思いますし、もちろん日本で実施することも難しいと感じています。

 しかしその地域はオープンダイアローグを始めたら、時間はかかりましたが、入院率、快復率、そして就労・就学率が今までに比べて明らかに上がったそうです。これは病院が変わったんですね。病院は、「私たちは何を治療しているのだろうか」と問い直したのです。

 そして引きこもっているから引きこもりを治そうとか、幻覚・妄想が出ているから治そうとかを、結果的に止めることになったのです。「何で困っているの」「どうして私と話す時間を持ちたいと思ったの」「どうして今そんなに辛いの」と、病気や障害を一度わきに置いて、対話を始めたわけです。薬は勿論使いますが、この対話を始めてすぐに、薬の使用率は3分の1以下に、入院する人が40%減りました。

 オープンダイアローグを実行した人たちが、30年以上の歴史の中で実感したのは、「病は脳にあるのではない。人と人の間で起るのだ」ということだそうです。支援者が、「家族と本人を交えてゆっくり対話をしていくことによって、絡まった何かが変わるかもしれない」ということを発見し、変化を生み出したのです。オープンダイアローグは「病院が変わっていった」システムです。

【対話を重ねて】
 私は訪問診療や往診をする精神科のクリニックで、できるだけ本人とみんなと一緒に話せたら良いなと思って対話を実行しています。日本式オープンダイアローグを1年半模索して、上手く行った事例を参考までに紹介したいと思います。

 これはご両親からの相談で、40代の男性。引きこもり、うつと診断されてクリニックに通院中。仕事に復帰できず、両親と口論してばかりで会話もなくなっている。ご両親は我々が死んだらどうなるのかと始終、心配をしている。職場は復帰を待ってくれているが、もう限界かと思うというのです。

 「未来語りの対話(Antici-pation Dialogue)」をやってみました。これは皆さんそれぞれの課題・状況が、1年後に皆さんの思う理想の形に良くなったと、希望を持って想像します。さっそくここでやってみたいと思います。私は1年後に皆さんと再会しましたという設定からはじめます。今日は、2018年3月11日です。1年前に比べて良くなったことは何でしょうか。1年前の今日以降の翌4月は何をしたでしょうか。何をしたから状況が良くなったと思いましたか。

母親E なりゆきにまかせたからです。

母親F パニック障害とうつで引きこもりを経たが、小説の書ける学校に行きたいと言い出し、時代物を書いていて歴史に詳しくなりました。「外へ出るドアは自分で開ける」と聞いたことがあり、うるさく言うのは止め、食事も自分で作らせています。

 ひとつの事例としては「未来語りの対話」をしたあとに、あるお母さんは「仕事に行け」と焦るのを止めて、栄養満点の料理を作ったそうです。今のお話も家の中が変わったということがあるように感じられます。

【心の声を聴く】
 ノルウェーからの贈り物のお裾分けをしたいと思います。これもコミュニケーションに関わります。ノルウェーの精神科医で家族療法家のトム・アンデルセンが大事にしていることで、専門用語ではリフレクティング(Reflecting)と表します。コミュニケーションが回復するときにトム・アンデルセンは「聴くこと:内的対話」と、「話すこと:外的対話」を丁寧に分けてそれを丁寧に重ねる作業をしました。内的対話とは、他の人の声を聴いたりした中で自分の心の中が動き色々なことが浮ぶ、それらの自らの声を聴くことも含めた自分との対話をいいます。

 今、私は皆さんに一方的に話しているので、これは外的対話を続けているわけです。皆さんの表情・メモの速度などを見ながら、私の声は間を持っているか、皆さんの心の中にストンと届いているか、皆さんが私の声から自由になって内的対話ができているか…に気を配りながらお話しているつもりです。私の言葉を覚えるのではなくて、私の言葉を通して皆さんのこころの中で自分との対話が起こっているかどうかを大切にしたいと思っています。こんな場も内的対話と外的対話を分けられることになります。

 そして、これは会話においても支援者が直ぐに答えを出さなくても良いという、安心できる方法かもしれません。今、私が話しているのを一番聴いているのは誰か? それは私自身なのです。間を取っているのは、話をとどめることで私の声を私が感じながら確かめています。話していることを一番聴いているのは誰か?との問いへの答えは、話している本人自身です。だから聴く人は、本人が安心して話せているかなということだけを考えていく。

【人と人の間に対話を】
 オーストリアからの贈り物です。これは経営思想家のドラッカーの「人のニーズを大切にしよう」から来ているとされています。ニーズとは何か。オーストリアからは、「ニーズとは人と人との間にある、変化し続けること、生きることに関する何かである」という視点から見ていくと良いと言います。

 医療・保健・福祉は今、本人・家族のニーズを聞くのではなく、支援者・病院ができることを指示しているかもしれません。本人・家族の話すことをゆっくり聴き、この現状から必要に応じて組織を変えていくことが大切です。

 ところで、「死にたい」「お前は嫌いだ、消えろ」と言った言葉が出たとき、それもニーズでしょうか。激しい言葉をぶつけられれば、家族は近しいだけに苦しいでしょう。そうしたときに、「ニーズとは人と人との間にある、変化し続けること、生きることに関する何かである」ということを思い起こしながら、どうして彼は私に「死にたい」と言いたかったのか?を感じていきます。その問いへの答えにニーズがあります。「分かってくれ」とか「しんどいよ」とかそういった思いがただ言葉になっただけで、本人のニーズは言葉になっていない、どうしてその言葉を言いたかったのかの理由にあるはずです。その課題に、「それをなぜ私に言いたかったの?」と内的対話を続ける。ともに生きる人と人の間の対話を続けることで、何か変化し、変化し続けることで何かが生まれることを期待したいと思います。
                                       〜了〜

平成17年4月からの新宿フレンズホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿フレンズでは4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿フレンズ会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
どうぞ、この機会に是非賛助会員になっていただけますよう、お願い申し上げます。

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新宿フレンズへのお誘い 

 新宿フレンズでは毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
入会方法 


編集後記 
 今年の桜の開花は遅かった。地球温暖化の影響とか。暖かくなれば早まるものと思っていたが、桜には休眠打破という問題が潜んでいた。そのうち桜の開花という事も無くなるとも言われている。そんな寂しい話題はこの辺にして、今月は森川すいめいさんから「人のつながりと距離を考える」と題して、コミュニケーションについてお話を伺った。

 森川さんは我々が聴いて咀嚼する時間をも考えてのスピードで話してくれた。答えは直ぐでなくてよい、様々な考え方、捉え方で、他人の事例を見てそういうやり方もあるんだな、と思えばよろしいと。最終判断は自分なりでよいという。

 かつて訪問看護ステーションACT-J所長 下平美智代さんが語ってくれたオープンダイアローグ。森川さんもオープンダイアローグを遠回りの回復として話題にしている。そして、病気や障害を一度わきに置いて、対話を始めた結果、薬の使用率は三分の一に、入院する人は四十パーセント減ったという。

 さらに、オープンダイアローグを実行した人たちが実感したのが「病は脳にあるのではなく、人と人の間で起こるのだ」ということだそうだ。これは下平さんの講演録でもヤーコ・セイックラさんが「精神病とは何だろう」その答えは「精神病は人と人との間で起きる病気」「現実は人の数だけある」と述べている。

 つまり、これまでの精神科の教科書が画一的な表現で書かれたものが多くあった。家族と本人とを交えて、ゆっくり対話をしていくことによって、絡まった何かが変わるかもしれない。新宿フレンズの中でも「本人の考えていることが判らない」と言った質問がよくある。これは家族会をも変えるシステムになるかも知れない。                           

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新宿家族会 E-mail: frenz@big.or.jp