新宿区後援・新宿フレンズ9月講演会

   SST・当事者研究で元気に 

        講師 向谷地宣明さん(ひだクリニック職員・

                株式会社エムシーメディアン代表取締役)

            田村 大さん、丹羽南穂子さん

                                 (本文中敬称略)

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【自己紹介と「べてるの家」について】

向谷地 むかいやちのりあきです。北海道の「べてるの家」と、千葉・流山の「ひだクリニック」、横浜と、北海道と関東を往復しています。

今日のメンバーを紹介します。

田村大 ひだクリニックに通院しています。自己表明、即ち自分の言葉で自分を言い表すなら、「統合失調症幻聴寺住職タイプ」です。当事者研究のプログラムの中で、私は「さとられ」つまり人に悟られているという幻聴がひどいということで、沖縄に幻聴寺というのがあるそうで、そう名乗ってはどうかと、生まれてきた言葉です。デイケアでは、フットサル(少人数サッカー)に参加しています。

丹羽南穂子 私は「統合失調症暴走トランポリン型」です。気分の波がトランポリンみたいに上がったら下がるを繰り返しています。今は落ちている感じで勝手に考えが浮かんできて、「べてる」では「お客さん」というのですが、さっきから「早く帰れ」とか散々言われてきついです。どこにも行けない状況だったのですが、最近、横浜に行けるようになって嬉しく思っています。

向谷地 「当事者研究」というのは、SST(社会生活技能訓練)をもとにした「ベてる式認知行動療法」です。

 「べてるの家」は北海道の浦河町にあります。1978年、病院を退院した佐々木實さんを中心に、回復者クラブ「どんぐりの会」ができました。僕の父・向谷地生良(むかいやち いくよし)が浦河赤十字病院に就職し、浦河教会の旧会堂が空いて下宿していた時です。退院先が無い人が沢山いて、常識的なケースワーカーなら、退院を待ってもらって環境を整えて…となるのでしょうが、父は「うちにおいでよ」とその会堂でどんどん一緒に住むようになりました。

 浦河は人口1万4000人の町で、この20年で経済規模は半分になり、住民の半分以上が年収150万以下で生活していると言われる、病気がなくても暮らしていくのに困難な地域です。そこで社会復帰をしていくということ、回復していくということは、そうした地域の苦労に共に参加し、地域の人達と一緒に困難に直面していくことだとべてるではずっと言ってきました。それで「苦労を取り戻す」というキャッチフレーズで会社を起業したり、商売活動をしたりしています。

【べてるの家の理念】や様子はホームページに出ていますので、パソコンで検索してみてください。

・三度の飯よりミーティング

・苦労を取り戻す

・手を動かすより口を動かせ

・弱さの情報公開

・安心してサボれる職場(会社)づくり

・利益のないところを大切に

・偏見差別大歓迎  などなどです。

【地域に根ざす「ひだクリニック」】

田村 ひだクリニックは、千葉県流山市の住宅地にある医療法人宙麦会のクリニックで、院長は肥田裕久先生です(09.6月号フレンズ参照)。

 「地域に根ざす」が基本理念にあり、1人暮らしを目指し、クリニック周辺に数十名のメンバーが暮らしています。私も来週には入居予定です。するとクリニックと自分の生活の相互関係がすごく強くなると思うのですね。クリニックの地域へ活動に参加して、お祭りにもお店を出し、地域商工会とのお付き合いもあります。

 ひだクリニックの取り組みの一つは、「るえか式心理教育」です。ストレスの雨がたまってダムの危険水域を越えて、症状が出てしまう。ダムが決壊しないように薬でダムの決壊線を高め、放流する方法を知るためのSSTや当事者研究をします。

【「べてるの家」のリカバリー】

向谷地 浦河で前田ケイ先生(フレンズ09.2月参照)のSSTの講習会があったのは1991年、僕は8歳で「いい大人が訪問販売を断る練習とか、何やっているんだろう」みたいな印象でした。

 SSTの特徴は、自分の抱えている課題や苦労をセルフモニタリングして、自分の中に他者の目線をもつ。自己観察してよりよい方法を練習するのですね。「問題があって困る人」では無く、問題と人を分けて考える。これが外在化することなのです。そして自分がその課題を対処するためのより良い方法を練習するのがSSTです。

 浦河では、週4回SSTの「ばらばらの会」「ぶらぶらの会」「ひまわりの会」「それでいいの会」があります。当事者研究のプログラムは、週に2回。練習、研究の繰り返しです。各自「これを上手くやりたい」という題材を出して、ちょっと未来の上手くできている自分を先取りしてくる。多くの人は過去志向で、過去にいじめられたことや上手くいかなかった経験を参照してしまいがちです。成功している少し未来の自分を先取りして練習すると、拍手してもらえて励みにもなる。これを考えた人は天才だと思うのです。

 そのような取り組みのなかで当事者研究も生まれてきました。
 例えば「お金を返してもらいたいから練習したい」というSSTのテーマがでてきたとき、それは同時に「なぜ自分はいつも断らないでお金を貸してしまうのか」も考えた方がいい。そこで、一緒に「研究しよう!」となります。そこにはその人なりのパターンや苦悩や構造があるかもしれない。それが「当事者研究」です。

 テーマは何でもいい。「どうやったらお薬を飲めるか」「彼氏と上手く付き合うには」とか。SSTの流れの中で、当事者研究の流れが生まれてきて、その基本にはレジリエンスという考え方があります。

 リカバリー(Recovery ) は「人として尊重され、希望を取り戻し、社会に生活し、自分の目標に向かって挑戦しながら、かけがえのない人生を歩むこと」。

 アドヒアランス(Adherence ) は「患者が積極的に治療方針の決定に参加し、その決定に従って治療を受けること」。(日本薬学会)

 そしてレジリエンス(Resilience ) は「ある衝撃が加わった場合に、それを跳ね返す力、回復力を持った状態を表す動的な概念」です。つまり、「自分で自分を助けていく力」、前向きな将来へと人を押し出してくれる概念といえるでしょう。(加藤敏)

【「自分を助ける」当事者研究】

 引きこもっていたある女性は、1人では不安なので母親の外出を規制し、家に鍵を50 個以上取り付けても安心できない。一日中ラジオをつけてお風呂の中まで持っていく。家族は「何が起きているのか、どうしていいか分かりません」という状態でした。

 当事者研究で本人に聞くと、「隣の親子がヤクザで私を殺しに来る」というのです。幻聴ですから、何をしてもなくならない。第三者から見たら合理的な行動ではないが、本人の世界では現実なので筋は通っている。「なるほど怖いからなんだね」と同調して本人を安心させて、「鍵の効果はどうですか?」と聴くと、効果がないという。

 「防ぎ方が上手ですね。でも、もっといい助け方がないか一緒に考えましょう」と、相談してアイデアを出してもらおうと提案しました。すると、「まず薬を飲んでみては」という話が出た。薬を飲むようになって、幻聴は「殺すぞ」とは言わなくなったらしいです。

 ここで話をまとめます。
・当事者研究は自らの生き辛さを、自分で自分を助けるプログラムで、あくまでも「当事者が主体」です。自分で自分を助けるリカバリー指向です。

・その人固有の問題の構造やパターンを理解しましょう。そのなかで、自分の助け方(必要なスキル)の獲得を目的とします。

・情報と前提の共有をしましょう。幻聴があっても、本人から教えてもらわないと、周囲の人は分かりません。お互いに情報交換して、テーブルの上に出していく。皆の知恵を貰うためには、皆で共有することが必要です。そこから当事者研究が始まります。

【当事者研究の実際】

向谷地 田村さんが抱えてきた苦労と、どういう研究をしてどういう風にアプローチしてきたかを話してもらいましょう。2007年頃は、家から出られなくて引きこもっていて、メンバーと一緒に訪問したときピザを持っていったら、ギターを弾いてくれましたね。

田村 お助け隊という当事者グループやスタッフに訪問医療もしてもらいました。

向谷地 デイケアに来ても車の中で寝ていた。先生も眠剤の調整をし、スタッフも生活指導をしたんだけど、昼夜逆転で上手くいかなかった。どうしたらいいだろうと当事者研究をしたのが今年の3月で、そこで医療者も分からなかったことが分かってきました。

田村 僕の問題は幻聴と幻字なんです。「幻聴寺の住職」が「さとられ」を開く。住職さんが檀家つまりお客さんに「説法」するのと同じで、般若心経を自分流に解釈したのをお客さんに向けて書かずにいられない。夜な夜な12時から朝の4時、5時まで書いていた。また、昨日の新聞の活字が頭の中に入ってきて、まとめて記事にする必要があると思って、書くのだけれど誰が見ても分からない。夜中にやるので昼間眠い。起きられない。デイケアに行けないフットサルの名誉キャプテンでした。

向谷地 今は書くとしたらどうですか。

田村 今日は新大久保の喫茶店でコーヒーを飲んできたのですが、多国籍のイメージがあります。「バチカンの新大久保に祈りあり」。バチカンにはキリスト教徒が集まってくるので、国境が無い。救いを求めて祈っているイメージです。行く先々で作っているが覚えていないんです。

向谷地 五七五は収まりがいいわけですね。

田村 最近、五七五で収まらなくなって、種田山頭火みたいになってきた。本を読めるようにもなって来ました。

向谷地 それは回復の過程ですね。

向谷地 単純に無くなったらいいというものでもないのですね。さて、丹羽さん、泣いているけれど、今どんな症状ですか?

丹羽 今、どこかの夫婦がけんかをしている妄想が起きていて、それに巻き込まれて「お前なんかどっかへ行っちまえ」と言われています。

向谷地 とばっちりを受けて、すごくつらいことを言われているのですね。

丹羽さんのいつものパターンを紹介してもらえますか?トランポリン型ってどういうことですか?

丹羽 波を描いて0から10の目盛りをつけました。0が最低です。こうした調子の波が3ヵ月から6ヵ月くらいで繰り返されるんです。今の状態は2.5から3くらい。3以下になると幻聴が「お前いらない」とか「消えろ」とか聞こえます。7以上になると幻聴に加えて幻視も起きます。実際にはいない「ひな子」という4歳になる女の子が見え、手をつないでお買い物に行きます。7くらいだとテレビのタレントに好かれているんじゃないかとか、何でもできるような気がします。10のレベルになると、5階から飛び降りても大丈夫な気がします。

向谷地 街を歩いてスキップをしたり、出来ないのに「バク転します」と言ったり、何でも出来る感じの時期がありますね。

丹羽 人と目と目が合うと、顔がドロっと溶けていくように感じたり…辛くなります。お腹が空いているからかもしれません。当事者研究でよく使う、具合が悪くなる「なつひさお」を紹介します。

―悩み ―疲れ ―暇なとき ―寂しい ―お腹すいている。そして、お薬飲んでない。お金、女(異性)関係、ですね。

向谷地 お腹が空いていると調子悪くなる人は多いですね。じゃあ、いまここにドーナツがあるのでせっかくだから食べてください。それでまたどんな感じか教えてください。

                                        −了ー

                                               

平成17年4月からの新宿フレンズホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿フレンズでは4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿フレンズ会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
どうぞ、この機会に是非賛助会員になっていただけますよう、お願い申し上げます。

賛助会員になる方法        



新宿フレンズへのお誘い 

 新宿フレンズでは毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
入会方法 


編集後記

 十月だというのにまだ半袖シャツ姿がちらほら、地平線には入道雲が湧いている。そんな夏を惜しむかのような頃、向谷地さんからベテルとSSTについてお話を伺った。

 中でもベテルの方針についての次の説明では耳の痛いことを突かれた。どれ一つも我が身と息子の間ではできていないことを痛感した。

・三度の飯よりミーティング・・・ミーティングらしいことなどこれっぽちも。

・苦労を取り戻す・・・苦労からいかに逃げるかが親子の合言葉である。

・手を動かすより口を動かせ・・・必要なこと以外、無駄口はたたかない、を是とする。

・弱さの情報公開・・・弱さを出すと強きものから狙われる。下手に弱さは見せるな。

・安心してサボれる職場づくり・・・それでいて、まじめを装い、遅刻するな、早退するなと。

・利益のないところを大切に・・・功利的な動きこそ大切と考え、利益なしは価値なしとみる。
そして、・偏見差別大歓迎・・・ここに至っては言葉を失った。

 だが、このような発言が分からなくもない。いくら叫んでも、あがいても変わらない日本の社会に愛想を尽かし、逆戦法を取って望む姿とみたが・・・うーん、これも違うか。

 そして、私の好きな言葉・「自分は自分の専門家」。以前に「家族は家庭の専門家、医師は医学の専門家」というのを岩下先生から聞いた。今度は「自分」の専門家だという。それは自分がやらなければ、何も進まない、何も解決しないということ。そして、それは本人の独立につながる。親なきあとどうする、という心配もあるが、この「自分は自分の専門家」を徹底できたら、それも解決するような気がする。                   

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新宿家族会 E-mail: frenz@big.or.jp