6月 新宿区後援事業 新宿フレンズ講演会

   精神科の薬について第2回

  新発売の難治性統合失調症薬クロザピン

        講師 慶應義塾大学医学部精神神経科精神薬理研究室 

                                 仁王進太郎 先生

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【よく効くが、使い方が難しい薬】

 クロザピン(商品名クロザリル)は、治療抵抗性の統合失調症の方を対象にした薬として唯一です。これまでに数種類の抗精神病薬を、きちんと十分な量、十分な期間、飲んだけれども効かなかった人に対しての切り札として、世界97カ国で承認されています。日本では4月に製造承認が下りましたが、6月13日現在、まだ発売日が決まりません。

【クロザピンの歴史】

 精神科の薬の始まりは、1952年のクロルプロマジンの有効性の発見です。逆に言うと、わずか60年前は、精神科の薬はありませんでした。クロルプロマジンは、商品名コントミンやウィンタミンなど、今も使われています。

 クロザピンはこの副作用の錐体外路症状(手のふるえ、体が動きにくい等)が、少ない薬です。そしてリスパダール、ジプレキサ、セロクエル、ルーランなどは、クロザピンの良いところを取って悪いところを少なくしようとしてできた薬です。つまり新規抗精神病薬とか非定型抗精神病薬の一番大元になった薬がクロザピンです。

 しかし1975年にフィンランドで、8例の死亡例を含む16例の無顆粒球症が報告されました。これは危険だと世界中でいわれ、主要国での開発・販売はこの時点で中断しています。以後、アメリカで開発が再開された80年代まで、30年近く開発・販売を中断している国がほとんどでした。


【クロザピン投与はどんなふうに?】

 クロザピンの処方については、医療機関も薬局も患者もすべて登録性です。統合失調症の診断治療に精通していること、無顆粒球症や心筋炎、糖尿病ケトアシドーシス(糖尿病が一気に悪くなって血液が酸性に偏り、昏睡、悪くすると亡くなってしまうこと)などの致死的な起こり得る副作用について、十分な対応ができるという条件です。

 重要なことは、原則としてクロザピン投与開始後18週間は入院しなければなりません。おそらく2〜3%に無顆粒球症が起こる可能性があるので、もし起きてしまった場合に、死亡に至らないように管理する必要があるからです。

 クロザピン投与の対象者は「治療抵抗性」、つまり2種類以上の抗精神病薬を、十分な量、十分な期間きちんと使ったけれども良くならない場合に限られます。具体的にはまず、期間は少なくとも4週間、薬の量としてはクロルプロマジン(CP)換算で600mg/日以上です。

 なおCP換算とは、抗精神病薬それぞれ何mgでこのくらい効く、というのが違いますから、クロルプロマジンを基本として、効き具合を比べられるように換算することです。CP換算ではクロルプロマジン100mgが、リスペリドン(リスパダール)1mg、オランザピン(ジプレキサ)2.5mg、クエチアピン(セロクエル)66mgです。

ですからCP換算600mg、つまりリスパダールなら6mg、ジプレキサなら15mg、セロクエルなら約400mg、といった十分量と定められた量の薬を2種類、4週間飲んでも効果がなかった人が、クロザピンの対象になります。

 クロザピン投与の禁忌は、白血球数(基準値約4000〜9000/?)が4000未満の人、好中球(白血球のうちおよそ半分が好中球)が2000未満の人です。血液検査をして白血球数が少ない方には処方できません。

 あとは、糖尿病やその既往歴のある方にはジプレキサやセロクエルが処方できないと同様に、クロザピンも糖尿病が悪化する可能性がある人には原則使えません。

 治療抵抗性の統合失調症の方に出す薬なので、ほかの薬を十分試していないとか、発症したばかりの方には処方できません。

【クロザピンの服用の仕方】

 例えば変薬、ほかの薬に置き換える場合には、前の薬を減らしていって新しい薬を徐々に上乗せしていくことが比較的多いかもしれません。

しかしクロザピンの場合には、前の薬をきちんと切ってから始めます。なぜかというと、どちらが副作用の要因かわからなくなってしまうからです。万が一、無顆粒球症が起きてしまった場合は非常に重篤なものになり得るので、なるべく厳密にコントロールしたいのです。

【治験では80%が改善】

 77名の治験では、どの臨床治験も同様ですが、1人ひとりの症状の良い悪いを点数化し、陽性症状8項目、陰性症状5項目、一般症状5項目、合計18項目で患者さんの症状の度合いを評価しました。それぞれの項目は1〜7点で、最も良いと1点、重症だと7点です。クロザピンを飲み始める前と後で評価し、18項目の点数が20%以上減少したら改善したという基準にしています。

【副作用予防に入院が必須】

 重篤な副作用として好中球減少症,無顆粒球症がおこることがあります。これら白血球は細菌や外敵から体を守る役割をしているので、無くなると感染症にかかりやすくなり致死的です。実際、過去にはクロザピンでの治療中の死亡例も出ています。

 日本での治験では、77例中、無顆粒球症は2名(2.6%)、好中球減少症は6名(7.79%)、白血球減少2名(2.6%)です。もちろん気をつけてモニタリング(不都合なことが起こらないように監視する)しているので、死亡例は出ていません。白人に比べて日本人を含めるアジア人だと発現が高いのではないかという研究者もいます。

【クロザリル・モニタリング・サービス】

 以上のような副作用の出現があるために、クロザピンの投与は登録制でモニタリングを受けなくてはなりません。サービスの名称はCPMS(Clozaril Patient Monitoring Service)で、ここに登録義務があり、規定を必ず守らなければなりません。無顆粒球症の回避のためと、複数機関からの処方防止のためです。

 このCPMSは、安全にクロザピンを利用してもらうために、すでにアメリカ、イギリス、オーストラリアなどでも導入されています。

 CPMSセンターは販売元であるノバルティス・ファーマ社にあり、クロザリル適正使用委員会という第三者委員会があって、相互に監視し合って間違いのないように、登録された病院と患者のモニタリングをします。細かいところはまだ変わる可能性もありますが、以下のことが規定されています。

1)採血の当日に白血球数、好中球数、血糖値、ヘモグロビンA1Cの結果が分からないといけない。(例えばクリニックでは採血をしたら、業者に委託して結果が数日後というのもあるため。)

2)好中球減少症・無顆粒球症に対応できること。血液内科医がいる体制。これは他の医療機関との連携でも可能だが、その場合は文書を取り交わす。また、個室が確保できる、抗菌剤が出せる、感染症対策の医師・スタッフ(看護師)がいる、感染症に対する薬剤が出せる、も条件。

3)糖尿病内科医師と連携できる。

4)インターネット接続可能で、eCPMSと常に連絡が取れる。

5)CPMS登録医師、クロザリル管理薬剤師、CPMSコーディネート業務担当者がそれぞれ2名以上いる。

6)無顆粒球症・耐糖能異常に対応できる。それに関するケーススタディーを実施していること。

他にも日本国の医師免許を持っていること、精神保健指定医あるいは精神科臨床経験3年以上であること、精神科専門医、または臨床精神神経薬理学会専門医であること、などの規定があります。細かく規定されているために、どこの病院でも出してもらえる薬ということにはなりにくく、特に当初は限られた病院で処方されることになるでしょう。

万が一重篤な副作用が発現した場合でもここまで配慮されているので、致死的にならない状況が確保されている状態だと思います。

【Q & A】

Q.世界97ヵ国ですでに承認されている薬が、なぜ日本ではこんなに遅れるのでしょう?

A.精神科の薬だけではなく、日本の特徴として薬の導入の遅れがあります。よく、ドラッグ・ラグ(新薬開発後、行政の規制により患者へ投薬できない時間。日本では特に、海外での安全性の認識と、国内での認識の間に生じる時間差)と言われますが、日本は治験がやりにくい環境で、風土に根付いていない。するとどうしても海外では使えるのに、日本では使えない薬が多くなります。

慎重という良い面もあるでしょうが、悪い面もあるでしょう。

Q.家族が糖尿病の場合は使えますか? 本人は高血圧の薬を飲んでいます。

A.高血圧は特に規定はありません。糖尿病の家族歴については注意する必要がありますが、禁忌ではありません。

Q.クロザピンと一緒に補助的に投与される薬もあるのでは?

A.治験では可能でした。補助的にソラナックス、ワイパックス、レンドルミンなど、抗精神病薬以外の安定剤や睡眠薬は使う必要もあると思います。

Q.治験で無顆粒球症になった方のその後は?

A.クロザピンは中止し、適切な処置を行うことで2例とも回復しました。いったん中止して、ほとぼりが冷めた1〜2年後に、再チャレンジはできないことになっています。

Q.陽性症状、陰性症状、一般症状の改善とありましたが、最も改善するのは?

A.全体的に改善します。クロザピンが非定型抗精神病薬のもとになったのは、錐体外路症状が少ないことと、陰性症状に効くのではないかと初めに言われたからです。

今までの薬に比べると、重篤な副作用が起きる可能性があって使い方が難しい代わりに、他の薬では効果がなかった人に効く可能性もある薬です。

Q.妄想や幻聴が長い間激しくて、暴力もあって家族が困っている場合にも有効なのかと思っていたのですが、「うちの子は医師や親の言うことは聞かない、薬も飲んだり飲まなかったり」で、当事者と親と医師との信頼関係が出来ていない、薬の管理も出来てないような場合は、この薬は使えないですね?

A.その通りです。入院による導入も同意が要りますし、退院後も継続して飲み続けるとよいというデータがありますので、途中で止めたり、病院を転々としたりが予想されるとなると難しいです。2か所からクロザピンが出るということは避けたいので、それを防ぐためにも登録制になっています。

Q.あまり安易に使用すると怖い薬だということなら、どうすれば安全に使えるか。親も医療に不信感があると無理というか、厳戒態勢に同意して、始めてこの薬のメリットが得られるわけですね。ひどい錐体外路症状に苦しむ人や、病識があっても、しつこい幻聴や妄想に苦しむ人には価値がある薬だから、当事者も家族も、きちんと理解しないと、ということですね?

A.そうです。効きますが怖い薬ではあります。ですが、我々は適切に怖がらないといけない。むやみに怖がっていると、クロザピンの本当の実力がわかりません。使ったほうがその後の人生がより豊かになる可能性はあります。                              −了−


                                               

平成17年4月からの新宿フレンズ「ホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿フレンズでは4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿フレンズ会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
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編集後記

 空模様の暗さは世情の暗さにも反映されて、政界に至ってはいよいよ暗黒になってきている。

 そんな梅雨の季節、抗精神病薬に明るい知らせがあった。薬学専門の仁王先生からクロザピン解禁のお話をお聞きした。これまでにも多くの方々からクロザピンの使用についての問い合わせがあったが、ようやく製造許可が下りたという。しかし、販売許可がまだだという。

 初めて聞いた言葉だが「治療抵抗性」という医学用語がある。なんとも厄介な状況を想像するが、統合失調症でいえば、退院し、家でひきこもっている状況であろう。確かにこの状況は介護者の親からすれば厄介というか、難しい状態だ。しかも、この状態は統合失調症の患者さんの中で最も多いのではないか。そこにクロザピンが登場した。

 だが、きれいなバラにはトゲがある。白血球減少という他の薬にはない副作用があり、最悪死を招く。使用に当たっては医師との十分な指導と相談の上で使いたいものである。

 テレビから聞きなれた声が聞こえてきた。中村ユキさんである。NHK・福祉ネットワーク「この人と福祉を語ろう」に出演している。中村さんは漫画を通して統合失調症の知識普及を訴えた。それは今までにない教科書になった。「わが家の母は・・」はユキさんの「失敗」と「反省」の羅列である。

 教育とはそういうことだと思う。これまで、正しい介護の仕方、正しい薬の飲み方、正しい、正しいの連続だった。中村さんは自らの反省を綴って、悩み、苦しむ人たちへ共感をもって、人間味ある漫画教本とした。     

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