新宿区後援・6月新宿フレンズ講演会

           非自発的入院

   ―当事者の気持ち・家族の関わり方・専門家の支援

      講師 精神保健福祉士(PSW) 西田崇大先生

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【精神科入院の形態】

 まず、精神保健福祉法に基づく精神科入院の形態を確認します。

1.任意入院:自発的入院で、本人の同意に基づく入院。

2.措置入院:2人以上の精神保健指定医の診察の結果、自傷他害のおそれがあり、入院治療を要すると判断された入院。

3.緊急措置入院:1人の精神保健指定医の診察の結果、直ちに入院しなければ、自傷他害の恐れがある場合、72時間に限り入院させる。

4.医療保護入院:精神保健指定医の入院治療が必要との判断と、保護者の同意によって認められ

5.応急入院:1人の精神保健指定医の診察の結果、直ちに入院する必要があり、本人の同意が得られない場合、72時間に限り入院させる。

 精神科治療の必要性を認識して入院治療を受けることを、本人が同意せずに入院治療を開始することを非自発的入院といいます。上記5つの入院形態のうち、?の任意入院を除いた4つが非自発的入院です。

【非自発的入院が存在する理由】

 通常、医療ではインフォームド・コンセント、つまり本人が説明を受け、理解し、それに同意することが基本です。精神科で非自発的入院が存在する理由は大きく2つあります。

1)意思決定の捉え方に関係:心の病は脳が冷静な判断をできない状況になってしまう、また、症状による病的体験に支配されている状況もあります。つまり判断能力が充分ではない状態に陥っていることもあり、治療の必要性も認識できないという前提があります。そして、この際に本人が表出した意思は、本当に本人が意思決定したものとは言い難いという解釈も生じます。

2)早期治療が本人の予後に関連:早期治療と治療継続は、薬の効果も良く、再発防止のためにも、さらに社会復帰にも望ましいといわれています。もちろん薬の効果は個人差があり、服薬しても症状が残る人もいますが、「これ以上、自律的意思決定能力を損なわないように、治療を開始する」という医学的判断が行われます。

 非自発的入院は人権に関わりますから、国連原則や世界保健機構は、「極力、自己決定が尊重」され、「自己決定の過程を支援される権利」や「非自発的入院や行動制限を最小限」にするための様々な規約が明文化されています。とはいっても、任意入院を家族や支援者が頑張っても、本人が納得しないことがあるのが現実です。

【幻覚妄想に対する家族の基本的対応】

 本人の妄想や幻聴に対する家族の対応を考えてみましょう。

1)よき理解者になる:傾聴、受容、共感を示しながら、なおかつ妄想を強化しないことが大事です。妄想は、本人にはリアルに起きている実感・感覚です。ですから「そんなわけはない」と妄想を否定すると、「自分の体験は本当なんだ」と理解してもらおうと説得にかかったり、「家族も敵なんじゃないか」と疑心暗鬼につながったりします。ですから「もし自分に起きていると考えた場合、どう感じるだろうか」と、本人の気持ちに焦点を置いて、共感を示すことが一番大事です。

2)味方という保証:判断能力を欠く状況に陥ってしまうと、本人は「敵か味方か」という単純な世界に陥ることが多いです。「家族はあなたの味方」ということを、揺るぎなく、きちんと本人に実感してもらうように、何度でも繰返し話して下さい。

3)支援者との接点、つながりをつくる:「私だけではあなたの困りごとを解決できない。専門家に相談させてほしい」と誠実に話して下さい。もちろん了解を得るのは難しいです。本人にとっては「自分が余計にまずい状況に陥るのではないか」と不安を助長させることも多く「そんなことするな」となります。ここでは、了承を得ることよりも、予め伝えるという行為に意味があるといえます。本人の立場、その後の本人家族関係を考えると、水面下で話が進みすぎるよりは、隠し事は極力ない方が良いということです。支援者に相談し、どんなアドヴァイスをもらったかを本人に伝えるタイミングは、相談している支援者と確認して進めてください。また、それを伝えた時の本人のリアクションを支援者と共有して、どの様に支援、医療につなげていくかを検討していくことが重要です。

【受診につながる方法と立場による境界】

 受診につながる際の協力機関は、医療機関と地域関係機関による場合があります。

 医療機関という立場からは、診察していない当事者を、医療者が入院させる行為は、人権問題につながります。往診等をしている診療所などは別として、入院施設を有する医療機関の多くは、その医療機関での通院・入院等の受診歴がないと、訪問診療をするのは難しいですし、訪問診療までは行っていない機関が多いのが実際です。

 たとえ受診歴があっても、通院が途絶えている期間が長くなったり、主治医以外の支援関係者の関わりがない場合には、医療機関の支援者による働き掛けは期待できないです。また、医療機関の支援者からの働き掛けは、その時点で“病気”という側面が互いの意識の最前線に浮上し、本人の抵抗感が強まりやすいのです。

【家族が受診を働きかけるとき】

1)本人の困り感を拾い上げる:眠れない、食欲が無い、だるいなど本人が感じている、困っていることを「それではあなたも辛いから、病院へ行こう」と、正攻法で話してみて下さい。「狙われている」などの妄想的言動に対しては、そういう状況の中で生活することがどれだけ苦痛であって、気が休まらず、心が疲弊していくかに共感しながら、「身体を壊してしまう前に」、或いは「自分の身を守るために行こう」と、促してみて下さい。

2)アイ(I)メッセージ:「私はあなたが辛そうで心配」「元気になってくれると嬉しい」と、「私が心配」、「私が嬉しい」というように、家族が主語で伝えることです。愛情を示しながら誠実な一貫した態度で話し、否定的言動は避けてください。

 嘘やだまし討ちのような対応、例えば食事へ行くと言って病院へなどは、支援者という立場からは、なるべく避けるように言わざるを得ません。

【受診につながらない場合】

1)移送制度:本人が自発的に受診せずに入院治療等が必要と判断された場合に、法的に受診に連れて行くのが移送制度です。しかし、平成12年から平成21年までの10年間で、全国で1611件しか利用されていません。

 家族の切実な想いとは裏腹に件数が少ないのは、マンパワーの不足もさることながら、利用に至るまでに、保健師による複数回の訪問調査、検討会、指定医の診察、警察との連携協議など、複雑な段取りがあることが要因と思われます。なにか危険な状態に遭った時に保健所等に救いを求めても、移送制度の利用には、一定の期間を要するということです。

 困った家族は、結果的に警備保障会社や民間救急を頼って受診につながる例が少なくありません。過去と比べて、当事者への対応も金銭的にも配慮された業者が出てきていますが、人権の問題が無いわけではありません。

2)警察の介入:今まさに自傷他害の危険が生じた場合、身の安全を確保した上で、早急に警察に通報することを選ぶほうが良いこともあります。警察には本人を捕まえてもらうためではなく、あくまで身の安全・尊厳を守るために関わってもらう。本人にも「あなたと家族の安全を守るためだ」と伝えるべきです。

【支援導入が容易でない当事者の支援】

1)本人の状態と周辺状況のアセスメント(評価):暴力があるなど支援の導入が容易でない場合、支援者はまず周辺状況を評価しながら進めます。本人の精神症状、日常生活の破綻状況を把握し、自傷他害の危険性などの緊急性、また本人の冷静な判断力の残っている度合いも考慮して、可能な限りの予測をします。

2)支援者の介入のポイント:受診促しの支援介入の最低限のポイントが、?どの様な協力体制で実行するか、?介入時期を逃さない、?家族にも覚悟が求められる、?ファースト・コンタクト(最初の関わり)の重要性の4つだと私は考えています。

 まず、どのような協力体制で実行するかは重要です。家族同席は必須になることが多いですが、訪問時の関係者全員の共通認識と協力体制をしっかりしておくことが重要です。本人は「病院へ行こうかな。でも…」など、納得や抵抗などの揺れが生じ右往左往します。そういうせめぎ合いはよくあり、働きかけたその日に決着をつけることが大切なのですが、焦りすぎて強引になっては、その後の信頼関係にも影響します。

 次に、家族にも覚悟が求められるということです。家族が困り、そして本人も何か大変な状況に置かれていたとしても、それはそれで本人なりにその状況を保っているということを意味します。そこに何かしらの刺激が自らに降りかかるというのは凄い恐怖で、リスクを感じるのです。故に、支援者の訪問によって一時的に本人の不安・衝動は高まることを、私は家族に事前に伝えます。暴力性が高まり、「あんな奴、連れてくるな」など様々な要求を家族にすることが予想されます。

 また、本人から直接断りの電話があった場合には予定を変更する選択肢などは残します。今まで家族が社会との窓口になっていた状態から、自ら社会との関りを持つという行動に変えるだけでも大きな変化ですし、話をすることで、その後のつながりが生まれてきます。しばらくすると、初めは家族に「断って」と主張していた本人が、訪問を心待ちにし「今度いつ来るの」と家族に話すこともあります。それは具体的な支援につなげる大きなチャンスとなります。

 また、ファースト・コンタクトの重要性にもふれておきます。その状況に応じて、関わり方を変える必要がありますが、例えば、受診は継続している方で破壊衝動等の様々な問題を抱えているケースの時は、本人には、大抵、相談意志はないことが多いです。主治医に勧められ相談室に訪れるも、一生懸命事情を説明するお母さんを傍らに、本人は「ない」と言います。そういった場合、私は「通院している本人が今もここに来た上で、ないというのであれば、私は本人の言葉を信じたい」と伝えたりします。本人に話すことを強要すれば敵対関係になってしまう。

 ファースト・コンタクトで本人の気持ちに乗ることはとても大事なのです。すると「こいつは分かってくれる」となります。その一方で、「ただ、お母さんはすごく心配しているようだから、お母さんとの相談は今後も継続させてもらいますね」と言うと、けっこう了承してくれます。初めはお母さんの相談で訪問という形をとりながら、結果として、本人とつながりを作れていくことはあります。つまり、どういう形で本人の気持ちにつながっていくかが重要であるため、緊急性の度合いを把握した上での関係性作りが重要といえます。

【入院はゴールではない】

 入院した時は、家族はやっと先行きの見えない絶望的な状況から抜け出たという安堵感があります。しかし、昨今の精神科治療は、大抵の医療機関が入院期間3ヵ月程度を目安としていて、その安堵感は一抹のものに過ぎません。

 入院時の家族の負担は、感情面だけではありません。ケアをしながら家事や仕事をこなす心身の疲労はもちろん、入院医療費という経済面もあります。全国精神保健福祉連合会の調査では、家族の40%に精神科受診歴があるという結果がでております。ですから入院してすぐは、家族自身もゆっくり休養する時間が非常に重要だと思います。

 入院治療では、本人の状態によっては行動制限がある場合があります。安全な個室に、鍵を閉めてそこで落ち着いてもらう。自傷他害の可能性が強い場合には、身体拘束をされることもあり、自他の安全を守るためと分かっていてもやはり辛いことであり、大抵の家族からは嘆きの言葉が出ます。なぜ保護室を使うかといいますと、刺激を最小限に抑え、落ち着いてもらう目的があるからです。

 本人と家族との関係性では、入院させられたことへの不満を家族に向けやすく、家族は患者と医療従事者との板挟みにあい、辛い立場になることがあります。家族は面会への足が遠のいてしまうこともあれば、主治医の判断で本人が治療に専念するために一時的に面会制限がかかることもあります。支援者としては、家族の不安を和らげ解消することに役に立てればと考えています。医療につながった時こそ、家族にとっては、病気や治療、福祉について学びを深め、今後の本人の支援を考えていく大事な時期といえます。

【家族への不満・敵意をどうするか?】

 「入院させられた」と責められた場合、家族は、まず「辛かったんだね」と、その辛さへの共感が大切です。そして「あなたのことを一生懸命心配している」「元気になってほしいと思っている」「良くなると信じている」「一緒に乗り越えよう」など、家族は、病気が良くなる希望を持ち続けていることを、愛情と誠意を持って、一貫して本人に繰り返し伝え続けることが重要です。責められて「入院させなければよかったね」と言ってしまったり、「ごめんなさい、申し訳ない」と謝っているだけでは、パワーバランスが本人に大きく傾きます。本人はそれを錦の御旗に掲げ、その後も家族を攻め続け、一方的に家族が責められて謝るという悪役を演じ続けなければならなくなります。

 入院はほとんどの場合、本人にとって不満です。精神科入院は当事者のトラウマ(心的外傷体験)につながることが少なくないと言われていますが、その後にどう生かすかという視点が大事です。入院をきっかけに、人生がより良い方向につながる機会にするしかないと思い、家族にも覚悟を持って取り組んでいただく必要があります。

【相談援助の立場として】

 入院すれば医療部分が強まりますが、病気に向き合うだけでは本人の気持ちのやり場が無いことが多々あります。本人は早く退院したい目的のために、症状が落ち着いたように見せかけるなど、医療側にとって都合の良い患者像を演じることすらあります。

 治療は医師によって行われますが、本人が病気を抱えながらどう生きていくかという心理社会的支援はPSW(精神保健福祉士)が担う仕事であります。医師からOKがあれば、急性期状態や保護室等の時からでも、本人の気持ちに寄り添いながら支援を始めます。本人の症状や辛さが緩和された実感を共有し、今後の治療や通院のモチベーションを高め、受診行動に移せるように促します。外出を一緒にしたり、退院後の生活の安定、職場復帰・就労支援など、入院の初期の段階から本人の自己実現を支えていきます。

 薬物治療等で症状が緩和されると、幻聴などにも変化が生じてきます。全て幻聴が消失しなくても、悪口などのマイナス幻聴の減少の他に、応援してくれる都合の良いポジティブ内容の幻聴が増加し、幻聴との親密性を高める方もいるのです。だからこそ、入院初期から、“現実世界”で本人の立場に寄り添う支援者の存在が、いかに必要かを感じます。

 また、別のケースで、精神症状が悪化し、世界のすべてに疑心暗鬼になる、被毒妄想などで医療不信も強まった状態になった方が、「幻聴が西田さんのところに行けと言っていたので、来ました」と病的体験に支配されながらも、SOSを発し来院されたことなどもありました。

【家族だけで抱え込まない】

 自立を目指すタイミングは重要です。本人の歩む人生であり、家族も自分の人生を歩むことで、お互いにゆとりが生じることになり、良い関わりができてきます。ある調査では、日本では当事者との同居率が高く80%近くに達していますが、時には別居も互いの人生が好転する1つの機会になります。

 家族同士は遠慮がないので、本人が暴力的になることも少なくないのですが、第三者の専門家が仲介や相談を担うことで、暴力への抑止力にもなります。また、6〜12か月後の再発率の研究で、家族に対する支援がある群の再発率は約10%、家族への支援がない群は40〜55%というデータもあります。本人にとって家族の存在がどれだけ大きいかということ、家族と専門家の協力の重要性を強く示しているといえます。

 ご家族は支援者とのつながりを極力絶やさないようにして下さい。より良い人生を送っていただくためにも、また、症状悪化、受療中断など危機的状況になった時にも、それまでに関与していた支援者がいることで、その時に支援協力してもらいやすくもなります。本人がいま必要としていなくても、主治医やいろいろな支援者を巻き込み、継続的に関係を保つようにして下さい。一緒になって、ご本人を支えていきましょう。
                                         〜了〜

平成17年4月からの新宿フレンズホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿フレンズでは4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿フレンズ会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
どうぞ、この機会に是非賛助会員になっていただけますよう、お願い申し上げます。

賛助会員になる方法        

 
新宿フレンズへのお誘い 

 新宿フレンズでは毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
入会方法 


編集後記

まず、最初に会員の皆様にはお詫びを申し上げたい。フレンズ編集子たる者が骨折による入院治療を受け、十六日間に亘る病院生活を過ごした結果、このフレンズが7月号、8月号の合併号になってしまった。

 そんな中で、会の運営に当たってくれた役員の皆さんにはなんと御礼の言葉を差し伸べたらいいのやら。病院のベッドに横になって、定例会の進行状況を想像しながら、ウンウン唸っていたものである。お蔭で退院し、今リハビリに通って元の私に戻る努力をしている。

 そんな、状況の中で講演された水野先生、西田先生にこの場を借りて改めて御礼を申し上げたい。水野先生には最近どうしても難しいというか、本来の会の勉強会とは違うようなテーマでお話しをいただいている。しかし、先生の独特の切り口で語ってくれるお話は、聞く者にとってある種安心感を持てる内容である。

 一方の西田先生のお話は非自発的入院における家族の対応についてのお話だ。初発の患者では「非自発的」これが精神科では当たり前ではないだろうか。その背景にある患者の心理、そして家族の思惑、そのやり取りを西田先生の心行くまで自らの体験をもとにした話題で語ってくれた。 

 事務局にかかってくる電話相談の内容はほとんどが「非自発的入院」についてである。病気を認めず、薬も飲まず、家族に暴力を振るう。どうしたらいいだろう。西田先生のお話はこれらの家族にとって、大いに福音として響いたのではないだろうか。

 精神科において非自発的入院から自発的入院に変わる時が必ずくる。その時、親は解放され、本人も回復への道を突き進むのだろう。                 

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新宿家族会 E-mail: frenz@big.or.jp