3月家族会勉強会

    「経済的自立につながる作業所」

  
     講師 社会福祉法人パイ焼き窯(通所授産施設)施設長 西谷久美子さん


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【自己紹介】

 パイ焼き窯という名前の施設は法的には通所授産施設で4年前に法人施設になりました。今から13年前、小さな共同作業所としてスタートしました。私自身は、最初は民間企業にいましたが、その働き方は自分をどう生かせるのかという疑問があり、辞めて公務員となり、15年間児童福祉の世界で知的障害児を通して、人間の全面発達というところにかかわってきました。一定の条件のもとに人間が生活するとどんなに重い障害でも、精神障害でも改善していくんだと環境の大切さを学んできたわけです。

 その後、公務員を辞めると、世田谷区の精神障害者の小さい共同作業所で人を募集しているからこないかといわれました。その作業所では今まで私が身につけてきた成長・発達と特に障害をもっている人の環境作りというところで価値観が違っていたんです。その作業所は居場所的なところで内職はあったけれどバブル崩壊後はその内職すらなかった。何をするかというと、お茶を飲んでたまにはカラオケやって、週に一回くらい食事会をし、やりたい人は陶芸を月に一、二回やり、そういう過ごし方をしていました。

 どういう過ごし方があってもいいですが、日常の活動内容がその人の障害の軽減または病気の回復につながっているのかなと。リハビリテーションという価値が作業所の中にあるかといったらどうもそういう価値観が見えない。工賃も当然すごく低く、ひどい時には1ヶ月で80円なんていう時もあっておかしいなと思いました。それだったら自分の価値観に合う作業所を作ろうと、2年程かけて作ったのがこのパイ焼き釜です。丸13年になります。

【パイ焼き窯設立の基本理念】

 今日いただいたテーマが「経済的自立につながる作業所」です。作業所の役割は本来、経済的自立の支援が大事な柱の一つになっているはずです。ここでいう経済的自立はつまり所得保障、つまり高い工賃をいかに保障していくかということなのです。それだけが目的になっては困りますが、働くことを例えば企業就労とか、賃金を得ることと狭い意味で捉えずにもっと広義に捉え、社会的にまたは人との関係の中で自分が役に立つこと、またはその営みの中にかかわっていくこと、それら全部を働くことと捉えた場合に、働くことを通して三つの大事な要素があると思います。

 一つは、働くことで人間としての誇りを獲得していくこと、二つ目は、病気や障害の軽減につながること、三つ目は社会適応的な自立を獲得していくこと。つまり働くことは人間の権利であり、人間としての価値だと思います。ですから所得保障と狭く考えるのではなく、人としての価値や病気・障害の軽減を同時に考えるという意味で働くことが非常に重要であり、そのことがすごく崇高なことなのだと捉えなおしたいと思います。

 自立支援法では「就労」が主になっていて、何が何でも働くということに結びつくことが大事であると。ただ、政府の経済的事情によってこの法律ができたという背景もあるので、そこで言われているようにどういう状態であってもただ働くことが人生を生きる上でのポイントというわけではないことも一つおさえたいと思います。

 労働とは人間らしく生きることの必須条件といえると思いますが、人間らしく生きるということはどういう状態か、私なりに三つの条件を考えました。一つは、今暮らしている社会でその文化を共有できること。二つ目は自分のことを自分で決めてそれに責任を持つこと。三つ目は社会に役立つかかわりの中で成長していくこと。この3要素が合わさって保障されている状態を人間らしいと表現できるのではないかと考えます。

 私は色々な経験を積む中でパイ焼き窯を作ってきましたが、それ以前、ある作業所にいた時に価値観が違うというお話をしました。具体的に何が違ったのかというと、その作業所でも他の作業所でも、精神障害を持つ人に負荷をかけてはいけない、再発してしまう、だから今のままの状態を保つことが幸せなことなのだという価値観です。パイ焼き窯を作って13年ですが、大事にしたかったのは精神障害者であってもその人にふさわしい環境があれば障害は軽減して人間として成長する、それを価値の基本に据えた作業所を目指すことでした。

 設立の時に、経済的自立、具体的には高い工賃の保障、そして単純作業ではない豊かな作業、一定のいい環境だといえるような条件を満たした作業を提供することによって、病気と障害の軽減を図っていく、この二つを大事にした作業所を運営しようと思いました。当時、ガンガン働く作業所は一般的な精神障害者の作業所の価値観から見たらちょっと異常でした。ですから運営していく中で、精神障害者を再発させるのか、あなたは精神障害のことを分かっていなくて自分の価値観だけで走っているのではないかとかなり陰で言われました。

 でも、実験的にやってみる中で当事者が再発せず一定の期間の中で表情が豊かになり、高い工賃が保障でき、地域の中で普通に暮らせる状況が生み出せたら、これは実験成功っていえるのではないか、と思ってやってきて今日に至りました。昨年度2004年はかなり高い工賃とボーナスも保障できるようになりました。夏のボーナス支給日にメガネを新調した人、尾瀬旅行を企画したグループ、生れて初めてのボーナスだから母親にプレゼントを買うと話す若者、帰りに焼き鳥屋で一杯との声もありました。

 夏と冬の2回のボーナスは毎月の工賃を精算した後の純利益を再配分しているもので、今夏は1ヶ月の工賃の1.5倍を配分することができ、最高額で91000円でした。迷惑をかけ続けた女房のためにも毎月この収入が欲しい、と言うこの方は唯一奥様と2人暮らしですが、その願いは多くのメンバーの願いであり、同時に私たちプロとしての職員の願いでもあります。ボーナスは今でも保障できるように続けています。

(部分表記・・全文はフレンズ紙面版をお読みください)



平成17年4月からの新宿家族会ホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿家族会では4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿家族会会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
どうぞ、この機会に是非賛助会員になっていただけますよう、お願い申し上げます。

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新宿家族会へのお誘い 

 新宿家族会では毎月第3土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
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編集後記

今年は寒い春のお陰で桜の花の持ちがよかったようだ。桜の一年は最初に華やかな花から始まる。各地で桜の木が植えられているそうだが、日本の春の空が桜一色というのもいい。

 当会の最初の年間事業となった「新宿区精神保健福祉マップ」制作も終盤戦を迎え、さらに、障害者自立支援法が四月からスタートする中で、パイ焼き窯の西谷さんから経済的自立につながる作業所の運営についておはなしを伺った。

 作業所のあり方として、いろいろ考えさせられた。我々家族はどうしても親の目で当事者の生活をみてしまう。「そんなことがなぜできないんだ」「働く気があるのか」「社会常識というものを知らないのか」自宅ではそんな言葉が出てしまう。そして作業所も「居るだけでいい」などというのは決してウソだと思っていた。

 しかし、マップ作りで各作業所を見学しながら、そのニーズが明確にあること、その必要性があることを学んだ。西谷さんの場合もやはり、同じようなの道筋を辿ったように伺った。その上で西谷さんの言葉・・・ 

『精神障害者であってもその人にふさわしい環境があれば障害は軽減して人間として成長する』は確かであろう。家族として、それを念頭において対応して行きたいものだ。    

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