新制度に届け、患者・家族の声
こころを病む患者さんやご家族の方々は、精神科専門医制度について、どんなイメージや要望をもっておられるのでしょうか。また、患者・家族にとって信頼できる医師像とは、どのようなものなのでしょうか。東京都内で開催された、ある家族会の月例会を訪問し、メンバーの方々に専門医制度や精神科医療に対する率直な意見をうかがいました。(精神科専門医制度→参照)
      

        

患者さんの代弁者としての家族は

 専門医制度はみなさんにとって未知の分野でもあり、質問は制度に限定せずこれまでに実際に経験された苦労や悩みなどにも間口を広げ、制度や精神科医師、そして医療のあり方への意見や要望を幅広く汲みあげることとしました。
 みなさんが最初に語りだしたのは、医師、病院とのコミュニケーションの難しさに関するものでした。メンバーのなかには、医療保護入院に至るケースを径験している方も少なくありません。みなさん切羽詰まった体験をしています。

 夜間に不穏な状態になったので、ある単科病院に電話したところ、救急車で来ない限り対応できないという答え、せめて当直の医師と話したいと申し出ても断られたという母親。やはり夜間に緊急入院させたくても打つ手がなく、結局民間のセキユリティに頼らざるを得ず、人件費などで一晩20数万円の費用がかかったというケース。兄の代わりに緊張の思いで外来の門をくぐったものの、医師に一方的に早口でまくしたてられ、早々に帰されてしまったという女性。入院はできても、主治医と家族では当事者の安定度に対する判断にギャップがあって、とても家庭では抱えきれない状態のまま退院に至ったという例。このほかにも、患者さんや家族に対する医師、病院の対応についてさまざまな意見が述べられました。

 みなさん、病院へ行きたがらない本人と医療をどう結びつけたらいいのか、大変な苦労をしています。立場を変えれば、医療の側にも異なった見解はあるのでしょうが、家族側からこうした声がきかれるのも、ひとつの現実です。
 今回の新制度発足に先立つ、いわゆる「山内答申」の策定(平成6年)にあたって確認された基本的姿勢のなかに、「患者の苦悩を理解し、人権保護と開かれたチーム医療を重視する(精神科医の)態度の養成が基本になければならない」とあります。ここできかれたみなさんの声からは、わたしたちの悩みや苦しみを医療従事者にもわかってほしい、新しい制度発足を契機に、そういう精神科医師が一人でも多く育ってほしいという、切実な響きが感じられました。

患者・家族が対等に向き合える医療を

 メンバーの方の意見をうかがうなかで、当事者と家族が、病院・医師と対等に向きあえる医療をいかに真剣に望んでいるかが伝わってきました。対等の人間関係に立ったうえで、治療方針や治療のプロセス、薬物療法から病気への対処法、生活指導まで、当事者はもちろん家族にもわかりやす
く説明・アドバイスが受けられる場を設けてほしいという声が、複数のメンバーからきかれました。
 こうした願いは、「受験資格に関わる研修ガイドライン」のなかで「患者及び家族との面接」の項目に示された「患者を全人的に理解し、患者・家族と良好な人間関係を確立]という一般目標に掲げられた理念と合致するものですし、「患者及び家族のニーズを身体・心理・社会的側面から把握し、必要な事項について相手の気持ちを理解しつつ分かり易く説明できる」とする行動目標にも直結するものです。

 ひとつひとつの声を拾ってみましょう。
 ある父親は、精神疾患に関する情報は一般の人にとっては集めにくく、初発のころに家族にもっと知識があれば、いまの状況は変わっていたかもしれないと後悔しているといいます。転院する場合など、治療内容を書類にして、家族教育としても医師の責任としても、手渡してくれるような配慮がほしいという人もいました。さらに診察に十分な時間をかけてほしいという要望も、みなさんに共通しています。当事者は最近の生活や心理状態を知ってほしいのだから、きめ細かなマンツーマンのカウンセリングに重点を置いてほしいというわけです。大学病院について、限られた数の医師で、あれだけの患者数に懇切丁寧に対応するのは難しいのではないかと疑問視するメンバーもいました。医師の専門分野が統合失調症なのか、それとも気分障害や人格障害なのか、事前にはっきり知りたいという声。そして、その前提のもと、医師当人の知識と技術で治療が可能な症例かどうか、できることとできないことを、明確に伝えてほしいという意見もありました。精神科医師と患者・家族との良好な人間関係の確立……今後に向けて残された課題は、まだまだ大きなものがありそうです。

 また薬物療法に関しても、「抗がん剤など、名医といわれる人ほどすれすれのさじ加減で薬を使い分けるように、最小限の適量を見極めて処方してほしい」「病気も治してほしいが、副作用もなくしてほしい」「複数の医師を受診したけれど、医師によって薬の量があまりに違う。薬物に関するベーシックな治療システムを確立してほしい」「日本の精神科医療は、薬剤を多く使いすぎていると、最近の国際学会でも批判を受けている事実をしっかり認識してほしい」などと、現実的な要望が出されました。
 取材対象である20名程度のメンバーから、これだけの意見がきかれました。専門医制度や今後の教育・研修システムによって、薬物療法のあり方が見直されることへの期待とも受けとることができます。

資格に患者・家族の視点は反映されるのか

 専門医制度そのものについては、どのような思い、疑問を抱いているでしょうか。
「審査基準はどうなっているのか]「旧態依然とした精神科医療の尺度での選抜では進歩がない」「レポートや面接だけで、資格にふさわしい資質の認定ができるのか」「裁判員制度がはじまろうとしている時代、審査する側に公平な立場の外国人や家族も加わって、われわれの声を反映させてもらってもいいのではないか]「司法試験の問題が公表されるように、試問の内容やプロセスがわれわれにわかる方法をとってほしい」……多くの疑問・要望がきかれました。新宿フレンズ(新宿区精神障害者家族会)会長の岡嵜清二さんは、いいます。
「資格は、仕事人としての品質を、どこまで保証してくれるのでしょうか。たとえ資格を得ても、患者や家族に対する接し方が無神経だったり、社会常識に乏しかったりなど、基本的なことに欠けていたら何の役にも立ちません。肝心の医師としての評価はどのように行い、明らかに問題のある医師はどのように扱うのか? という疑問があります。病院・医師側の見解のみだと視点が偏り、精神科医療のあるべき姿から遠ざかってしまうようにも思われます。患者や家族の視点を取り入れることによって、精神科医療を変えられる可能性もあるのではないかと思うのですが」

 今後、専門医制度の意義を深めていくうえで、患者・家族の視点を取り入れてほしいという岡嵜さんの提言です。「研修ガイドライン」のなかでは必修項目として「医の倫理(人権の尊重とインフォームドコンセント)」が挙げられ、臨床においてみずからの行動を人権および自己決定権の尊重という視点から点検する態度を身につけることが求められており、患者・家族の視点に関連する項目として研修の徹底が期待されます。

 新宿フレンズのメンバーは、インターネットでその存在を知り、参加してくるような積極的な方が多いということです。作業所ができて一日が過ごせればありがたいという段階から一歩進んで、よりよい医療、より健常な生活を求めてくる方がほとんどです。勉強会では、講師の先生もたじろぐような専門的な質問が出たり、メンバー同士で議論が伯仲したりするような場面もしばしばあるとか。わが子、兄妹は自分の分身という思いで、真剣度が違うのだといいます。

 精神科専門医制度が、精神科医療の質とあり方をどのように変えて、向上させてくれるのか……家族のみなさんは真剣な視線を注いで見守っています。


出典:「精神科専門医制度の行方」吉富薬品株式会社発行(非売品)