新宿区後援・5月新宿フレンズ講演会

    患者と家族の高齢化をめぐって

                    講師 東洋大学ライフデザイン学部
                           生活支援学部 教授 白石 弘巳先生

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 私は大学院に入った1981〜88年まである精神科病院に勤め、最初に勤めた年から25年を経て2005年に同病院に戻り今に至ります。最初に勤めた時の患者さんと一緒に年を取ってきて、いま看取る人が増えてだんだんその当時の患者さんが少なくなっています。

 勤めている大学のライフデザイン学部生活支援学部というのは、今後もっと必要になるケースワーカーと介護福祉士の養成をする学部です。今日は高齢化の話をしますが、それは自分たちの問題でもあり、日本全体の直面している問題でもあります。

【日本社会の高齢化】

平均余命の推移:日本人が65歳になった時、1947年に生まれた10万人の人は4万人しか残っていなかったのに、2005年生まれですと9万人近く残っています。その人たちが4万人に減るのは85歳のところです。つまり85歳マイナス65歳で、20年長く生きている。

ただ、今でも65歳を越えるとさすがに下っていきます。90歳以上という人は、今も昔もそんなに変りません。こうしてみると、60〜80歳が顕著に長く生きる状況になったことが分かります。

平均寿命と健康寿命:健康寿命は人に頼らず生きていられる寿命です。男性の平均寿命は80歳で、健康寿命の平均値は70.42歳ですから、約10年間は何かの病気を持っているか、或いは介護が必要な状態です。女は73.62歳の健康寿命から平均寿命の85歳の12年間ぐらいが、「健康でないが生きている」ことになります。政府は健康寿命を延ばすとは言いますが、平均寿命を延ばすとは言いません。逆に政府は密かに、特にお金がかかる、人が亡くなる前半年の費用をいかに減らせるかに腐心しているようにみえます。

【増える孤立死】
阪神淡路大震災:孤立死が最初に言われたのは、1994年の阪神淡路大震災だったと思います。地震で亡くなった人も高齢者が44%と「高齢者災害」でしたが、問題は、地震の後に病気と自殺で亡くなる人が多く、1年後に84人の孤独死が生じたことです。壮年期でアルコール依存症と関係する肝疾患・心疾患が多く見られました。

孤立死の現状と問題点:孤立している人は現在3万人ほど。2040年には年間20万人の孤立死が予測されています。これはそのころ死亡する人100〜120万人の5分の1に当ります。いま若い人への対応も、早くから必要になってきます。

【支援する側の課題】
地域・介護・社会保障費:
地域コミュニティの基盤が弱体化してきています。東京のある区で町内会長の平均年齢は70歳以上で会員数も減少。また、介護の人手不足も問題で、介護職が100万人不足する時代がやってきます。
 莫大な財政赤字の上に、社会保障費は更に増え続けていく。国家予算約100兆のうち社会保障費は30兆ですが、これに年金と介護保険を加えると現在約110兆円です。将来150兆円は必要になろうといわれており、消費税を10%に上げても税収はさほど増えず、不足額はどんどん開いて行きます。最悪の場合制度としての年金も維持できなくなり、介護保険も破綻する恐れがあります。

孤立した人の入所施設:無届け有料老人ホームや法的位置づけのない社会福祉施設に入所する生活保護受給者は、2009年1月で1万4268人です。この年3月に群馬の渋川市「静養ホームたまゆら」の入所者10人が焼死した事件が起きました。「お泊りデイサービス」など抜け道的サービスが模索されているなど、こうした施設が増えざるを得ない現状ではないかと思います。

名古屋事件と教訓:2006年、市営住宅に住む67歳の夫が、74歳の認知症の妻を殺す事件が起きました。夫が認知症の妻を支える老老介護で、1人で炊事洗濯、家計のやりくりをしてきて、介護保険は「料金が高くて払えないと思った」とのこと。実際は払って利用することは可能なのですが。この事件の教訓を考えてみます。

1)他人の世話になる抵抗感の存在

2)介護保険に関する情報格差の存在

3)自ら援助を求めないと支援が得にくい仕組みの問題。おせっかいも放っておくのもよくなくて、どこで支援に入るのかは難しい。また、外からの声かけは、役所は1人暮しのところは半年に1回訪問、2人暮しのところは行っていない

4)支援の人的資源不足

支援を要する家族の増加:老老介護は、要介護世帯の4割にも達しています。高齢者なら健康寿命を延ばして人の世話にならないうちに死にたい「ピンピンコロリ」を理想とする人が少なくありませんが、それは願望で逃避でしかない。現実には支援を要する家族は多岐・多数に亘ります。

・認知症に罹患した人のいる家庭

・子育て中の片親家庭

・精神疾患その他で引きこもる人がいる家庭

・その他病気や障害を抱える人がいる家庭

・パラサイト・シングル(独身の居候)のいる家庭

・貧困家庭

これらは必ずしも年取った同士の家族とは限らず、「ピンコロ」で解決はしない人たちです。もっと本質的に解決していかなければなりません。

生活保護世帯の増加:1995年に減少した後は増える一方で、いま200万人になろうとしています。増えているのは高齢者層で、無年金や国民年金だけでは、生活保護支援を受けないと暮らしていけないのですね。
 高齢者のみでない支援を要する人が増えてきているのが現況です。1億総中流と言われていましたが、いまや中流から下流に転落している人が増えているのです。
8050問題:80代以上のお年寄りと50代前後の障害を持っている子供が在宅の場合、非常に深刻です。ある事例では、高齢の父親が引きこもりの息子のことで精神保健相談に訪れ、クリニックは往診を続けることになりました。ところが4ヵ月経って電話口に息子が出て「父は今いない」と言い、以後何回か同じことがあり、別居の姉が訪問したところ、父は死亡しており、息子は半月間も父をそのままにしていたことが判明しました。施設に入ればこうした問題は起きないのですが、在宅が推進されて障害のある子どもを介護して来た親が高齢になって問題が起きているのです。

精神障害者と家族の抱える問題】
精神病床の統合失調症入院患者の将来推計:
2005年に、精神科には統合失調症患者は19.6万人が入院していました。精神医療の改革ビジョンが出来たころで、7.2万床減らす計画があったときです。ところが、染矢俊幸先生(新潟大学精神医学教授)は、退院促進をしなくても、ある時期が来ると精神科の病床数は減っていくという推計を出されました。
 結果はどうか。急速に減っています。平成26年は入院数17.2万人ですが、今はもっと減っていると思います。あと10年たつと、何もしなくても統合失調症入院患者は5万人減って12万人ほどになるでしょう。
 結果として退院促進事業で退院できた人は、10年でわずか5000人くらい。いまや自然減(死亡退院)で退院できる患者は残っていなくて、退院したら高齢者施設に行くしかない現状です。
精神科病院で起きていること:長期間の入院患者の介護が必要になってきています。精神科病院の急性期病棟とかスーパー救急病棟などは、原則3ヵ月で退院のシステムになっています。それに対し、一般病棟は長くいる患者さんも多く、高齢化して介護の必要な人が増えています。
 病院は、精神障害の治療をしているというより、二次的な事故に備えているのです。歩けない人を支える、風呂・オムツの介助をする。介護福祉士が必要ですが、看護師が高齢化した患者さんに対応しているのが多くの病院の姿ではないかと思います。
 そして患者さんの死亡については、私が病院を離れた1987〜2005年の間に、200人余の担当患者さんのうち、30数人が死亡し、死亡平均年齢は52歳でした。死因は、薬が原因であろう心臓麻痺などの急死が一番多く、次いで誤飲の7〜8人、以下ががんなどで、自殺は殆どありませんでした。がんなどの病気や高齢化のために他院や他施設へ転退院することも増えていますが、受け入れ先が難しいこともあります。
 家族の高齢化や死亡に伴い、入院患者が身寄りなしになります。多くの親御さんは年をとっても子のことを一番に考え、何とかしなければと思います。あるお母さんは月1回30分以上歩いて病院に入院費を支払いに来て、息子と面会していました。あるときたまたまお会いし、「息子が病気のおかげで長生きさせてもらっている」と私に話しましたが、その1ヵ月後に亡くなりました。
 長年、就労支援継続支援施設で働いていた統合失調症の人が定年退職となった場合、介護保険の高齢者のデイサービスに通い始めても、場違いで上手く利用できず、行き場を失くすことがあります。
 そこで改めて病院のデイサービスに受け入れるようにしました。介護保険は週何回という縛りがありますが、病院は医療保険である程度自由が効き、医療の必要性という大義名分があれば、週5日の利用も可能なのです。65歳になると、障害者総合支援法から介護保険法へ制度上変わるのですが、患者さんの様子を見て介護保険へ上手く移行できるように考えています。
 高齢化した利用者に特化した介護を含むサービスの提供(生活訓練施設など)も必要で、調布市ではこのような事業が認められました。
家で起きていること:引きこもりの精神障害者の面倒を見ている老親が、介護保険を利用しても、ホームヘルパーは親の分しか食べ物を作らず、親が子供の分をコンビニで買ってきている例があります。もっと家族一体として応援すべきと思います。
 老親の介護をしている精神障害者もいます。当事者の側から見ると、ケアマネージャーと協力して、何とか暮らしているわけです。そのためには、自らが責任を持ちケアマネと関係を結ぶという能力が必要になってきます。この経験が親亡き後に生きてくるようです。
 一方、同居家族が亡くなり、入院を余儀なくされる精神障害者がいます。ある人は大声を出すために隔離室入りして、長期療養者になり、その後20年入院を続けています。家の保護的な環境で適応できていても、病院の環境に適応できなかったのですね。
 統合失調症は環境の病で、親といういい環境があると目立たないが、病院の環境ではものすごく悪くみなされてしまうことがあります。デイケアという環境の中でよくなったとしても、アルバイトという環境ではどうか。Aという場所で頑張れるからBという場所でもということを保証しないのが統合失調症の特徴です。同居家族が世話をしていればいるほど、親の死で環境は激変します。そこには、入院が必要な病状だが、家族の力が弱くて入院させられない状況があります。
 家族の治療や介護に、精神障害をもつ子供が干渉する状況も問題です。母親が心臓の手術をすることになったが、統合失調症の同居の息子は病院へ手術を止めるように訴えた。病院は家族の意向を重視するので手術を控えると言いました。
 また、介護サービスを親が受けようとすると、当事者の子が追い返してしまう。ふつう、自傷他害がないと当人の措置入院は出来ないために、この場合は安全策として、母親を高齢者虐待防止法により保護をすることになりました。

【多様な支援が必要】

 大事な病気予防:統合失調症はLife Shortening Desease(命を短くする病)という説があります。理由として、

1)肥満や糖尿病の罹患者が多い。

2)治療を受けたがらない人が多い。

3)健康診断を受けない人が多い。
 これらの理由で、ちゃんと治療をしないうちに亡くなることも多いのです。精神科の病気になると、他の病気にもなりやすくなっています。太り過ぎは糖尿病や心臓疾患を引き起こしやすいのです。こうした他の病気の予防をすることが、精神科では「一次予防」なのです。でも、今まで病院は、太っている人にきちんと対応してきませんでした。
地域包括ケアシステム:これはニーズに応じた住宅の供給を基本として、福祉、医療、介護などのシステムを結びつけて効率よく見守る制度です。生活上の安全・安心・健康を確保するために、さまざまな生活支援サービスが日常生活の場で、高齢者に適切に提供されるような体制をいいます。
 このシステムについて、大橋謙策先生(東北福祉大学大学院教授)は、高齢者だけでなく赤ちゃんから障害者まで地域で生活する人全部のケアを打ち出せと言っておられます。高齢者の枠を取り払った考え方を広めていくことが国の考え方にもなりつつあります。

 国の施策:国は支援のあり方を幾つかに分けています。その理解のためのキーワードは、

公助 行政による支援

共助 地域や市民レベルでの支え合い

互助 当事者の周囲にいる人による支援

自助 他人の力によらず、当事者である自分の力で課題を解決すること

 国は公助・共助を減らして自助を増やすと方針です。国の言っていることは間違ってはいないのですが、コミュニティが上手くいかない中で、どうしていくのかが問われています。精神障害者を精神障害の枠の中だけで考える時代ではないと思います。
 ネットワークを利用して多様な支援を:地域包括支援センターと保健センターとの連携が必要です。先ほどの例では、母親を高齢者虐待防止法で保護したあと、残った当事者のケアは保健センターが行いました。保健センターは最近あまり訪問してくれなくなったといわれますが、孤立した当事者の訪問ケアは必要です。
 訪問診療の必要性:ACTは小人数を定期的に訪問ケアするシステムですが、そこまで密に訪問は出来なくても、もっと多様な訪問支援を作るかが課題です。8050で困っているときに、地域包括支援センターが訪問を頼んでも、それを受ける地域の医療機関が無いのが現状です。訪問支援を各地に作って行かなくてはなりません。
 地域の資源利用の必要性:民生委員などの人的資源をもっと利用する方法を考えなくてはなりません。高齢化・少子化で住居は余っています。空き家を壊したら固定資産税が3〜4倍にもなった話も聞きますので、いまある住居をうまく利用する余地がないのか検討し、活用して障害者の住まいを増やすべきです。

【前向きに生きる】

障害のある人もその家族も、前向きに生きようと思うだけでも違ってきます。

第1ステップ:「今のままで大丈夫」という気持ちを持てること

第2ステップ:一歩踏み出す機会を見つけること

第3ステップ:「これも自分の人生」と言えること

 「しろがねと緑をうらに表にし二十歳のこころひろごりてゆく 与謝野晶子」これは20歳の人が前向きに生きている様子、これから先、自分が居るべきところがある。今からそこに向かっていけばきっと行ける…と希望に満ちている歌だと思います。

 「生きて仰ぐ空の青さや赤とんぼ 夏目漱石」51歳で亡くなる2年前の漱石が、胃潰瘍で出血し死ぬところを助かったときの句です。生きている自分の、いま目の前にあるものがすばらしいのだ。どこかに行って持ってくる何かでなくて、今自分の周りにあるものの意味をしっかり噛みしめよう。これがその境遇での「前向き」だと思います。

 何かを獲得する前向きも必要ですが、今ここにいる自分がこれでいいんだという、肯定の気持ちを持つことが前向きだということもあるのです。

 前向きに生きるためのヒントを、星稜高校野球部の山下智茂監督の言葉に見てみます。

 「心が変れば行動が変る/行動が変れば習慣が変る/習慣が変れば人格が変る/人格が変れば運命が変る」。人は「心が変る」のが一番難しいのです。心とは志、志とは人間が「こうやって行きたい」という願いです。志があるから生活の習慣が維持できる。精神障害者はこの「こうしたい」が崩れ、習慣が崩れて具合が悪くなります。

 「前向きに生きる」をしっかり持っているか、そのために親も当人も志を見つけること、これが一番大変なことです。そのために何をやっていけばいいのかを考えていくことだと思います。
                                              〜了〜

平成17年4月からの新宿フレンズホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿フレンズでは4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿フレンズ会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
どうぞ、この機会に是非賛助会員になっていただけますよう、お願い申し上げます。

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新宿フレンズへのお誘い 

 新宿フレンズでは毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
入会方法 


編集後記 
 梅雨に入った。良く行く店の横に置かれた額紫陽花の花が梅雨の暗いイメージを払拭してくれていた。

 忙しい白石先生を(いや、どちらの先生も忙しいのだが)お招きして、精神障害における高齢化についてお話を伺った。先生の体験をもとにしたお話は、それなりに説得力があった。斯くいう私も七十の大台を超えた。まず感じるのが体力の衰えか。仕事中は何も感じないが、少し暇になるとコックリとなる。5年位前までは全くなかったことである。

 しかし、本題は精神障害者の問題だ。先生の説明のなかに統合失調症は命を短くする病気だという。肥満、糖尿病、治療を受けたがらない、健康診断も受けない、こういう患者さんが多い。我が息子も100キロを上下している。一週間ほど前、古くからの家族会仲間のお子さん(35歳)がクモ膜下出血で亡くなったと連絡があった。母親は1か月外にも出られず、誰とも話す気力がなかったと話してくれた。

 病気を持った家族を抱える親たちができることは何だろうか。親亡き後、どうすれば良いのか。その回答は永遠に判らず仕舞いなのか。

 白石先生は講演の最後でこう述べている。「障害のある人もその家族も、前向きに生きようと思うだけでも違ってきます」と。「前向き」、易しいようで難しいのかもしれない。51歳で亡くなった夏目漱石の句を引用され、生きている自分の今、目の前にあるものが素晴らしいと感じることが、その境遇での「前向き」なのだと言われた。

 高齢化する社会、精神医療、こうした中で生きていく親と子。その家族個々の「前向き」とは何か探してやって行こうではないか。                       

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新宿家族会 E-mail: frenz@big.or.jp