新宿区後援・4月新宿フレンズ講演会

             統合失調症
    
−急性期と安定期の薬の使い方・副作用の注意 

           講師 東京武蔵野病院 精神科医 武士清昭先生

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【病気の経過―急性期と安定期】

 初めて統合失調症を発症した時の一般的な経過は、まず、いわゆる前駆期、病気になる前のちょっとした機能の低下、不眠や不安などが出る時期があります。2〜5年と言われていますが、かなり個人差があり、気づかれないことも多いのです。

 この前駆期のあと、幻聴・妄想といった精神病症状が出てきて、激しい興奮・幻覚・幻聴・妄想といった急性期状態が起きます。この時期は、治療に繋がるまでの時間が短ければ、つまり早期治療であれば、一般的に治療が開始されてから数ヵ月で急性期症状は収まります。

 この初発の急性期症状の時期は、治療に非常に重要な時期で、急性期の治療目標は、危機的状況を回避し、症状の改善と共に、治療関係・治療環境を作るといった将来に繋がることなどを集中的にやる時期になります。

 早期治療であれば、最初の急性期症状が、初期治療によって改善する方は8割から9割と言われています。部分的に症状が残っていることはありますが、基本的には急性期症状は数ヵ月で、ある程度は終息に向かうものなのです。

 ところが、受診が遅れて病状を悪化させてしまったり、退院後に服薬をしなかったり、ストレスを減らせない、予想外のストレスフルな出来事に直面した等々で、再燃や再発をしてしまい、悪い状態が長引いてしまう方も少なくありません。

 精神疾患としての症状が激しい急性期に比べ、その後の安定期は陰性症状が主となり、生きにくさという障害の時期で、かなり長い年単位の経過になります。意欲や判断力の減退で社会に出ていくのが難しく、時間を充実して過ごせないなど、いわゆる認知機能障害・社会機能障害といわれる問題を抱えます。

 従ってこの安定期は、再発予防と、リハビリを通して社会復帰を図ることが大事ですので、急性期とはかなり治療の観点が変わってきます。ただ「今日から私は安定期」とか「明日は急性期」といったものではありません。皆さんは当事者の方を思い浮かべて、この辺りかなと検討をつけて、その対応を考えて頂きたいと思います。

【向精神薬の役割と副作用】

 統合失調症の一般的な薬物療法として使われる向精神薬は、ざっと分けて6種類あります。統合失調症の薬としてメインになるのは抗精神病薬で、ほかに抗うつ薬・気分安定薬・抗不安薬・睡眠薬・副作用止めの抗パーキンソン薬が使用されます。

・抗精神病薬

 できた時代・特徴によって大まかに定型抗精神病薬(旧薬)のセレネース(リントン)、インプロメン、ニューレプチル、コントミン、ヒルナミン(レボトミン)などと、非定型(新規)のリスパダール、ルーラン、ジプレキサ、セロクエル、 エビリファイ、ロナセン、インヴェガ、クロザリルの新旧2種類に分けられます。このうちルーラン、ロナセンは日本で開発された薬です。最近は非定型がスタンダード(標準)とされています。

 非定型は、最初に難治性治療抵抗性の方に使われるクロザピンが40年前に出来たのですが、副作用が問題となり、ようやく日本でも、2年ほど前から限られた施設ですが使えるようになりました。

 新薬のインヴェガはリスパダールの代謝体でほとんど同じですが、1日1回朝食後の服用で24時間の効果があり、血中薬物濃度の日内変動幅を抑えます。また、アメリカでは使われて10年程経つ抗精神病薬1〜2種類が、今後数年のうちに日本でも出る予定で、現在治験が行われています。

・抗うつ薬

 統合失調症でうつ状態を経験する人は3〜5人に1人、一般人口では10%ですから、かなり多いです。抗うつ薬は気分の落ち込みや憂うつな気分を和らげ、強迫感やこだわりを取ってくれる効果もあります。

 三環系はアナフラニール、アモキサン、ノリトレンなど。四環系はテトラミド、デジレル。三環系・四環系は、抗精神病薬で言えば定型といえるもので、副作用は強いのです。

 SSRIはルボックス、パキシル、ジェイロゾフト、レクサプロ、SNRIはトレドミン、サインバルタがあり、これらはいわば非定型に当たるもので、最近は統合失調症にも多く使用されます。ただ、SSRIは衝動性を煽り10代の人には自殺念慮をおこすなど慎重な投与が必要といわれます。とはいえ最近の治験では、うつ状態には効果があり、三環系・四環系は副作用が強いことから、10代でも時を選んで使うのがよいと変ってきています。

 NASSAはリフレックス、レメロンなど。SSRIおよびSNRIに比べて、効果発現までの時間が短く、持続的な効果が得られると言われています。

・気分安定薬

 気分の波の上下を少なくするので、躁うつ病、躁病の治療薬として、また抗てんかん薬として使われる薬もあります。

 リーマスは、急性期に多く使われ、自殺予防効果で多くのエビデンスがあります。金属なので中毒に注意を要します。気分安定薬の中には皮膚に重篤な副作用が出るものもあるので、慎重な扱いが必要です。しかし躁うつ病に他の薬は効果がはっきりしないものが多く、データを持って効果ありといえるのはリーマスだけです。統合失調症では抗精神病薬の補助薬として併用され、攻撃性を抑える際に使われることも多い薬です。

 デパケンも統合失調症の急性期に多く使われます。

 

・睡眠薬

 寝つき、睡眠の質をよくします。短・中・長と作用する時間が違うので、病状に合わせて使い分けが必要です。短時間型はハルシオン、マイスリー、アモバン、レンドルミンなど。中間型はロヒプノール、ユーロジン、ベンザリンなど。長時間型はドラールなどです。

・抗不安薬

 不安な気持ちやイライラなどを抑える薬で、リーゼ、デパス、ワイパックス、コンスタン、ソナコン、レキソタン、メイラックスなどがあります。

 アルコールに構造が似ていて、脳の中で同じ場所に働くので飲み心地がよいのですが、お酒と同じように依存という副作用が出てきます。

【急性期の治療・入院】

 急性期の場合の入院は、幻覚・妄想など陽性症状の安定化、自傷他害といった救急事態の予防ないし介入です。意外に思われるでしょうが、実は陽性症状治療は、激しくない限り優先順位は高くないのです。「幻聴を消さないと」「妄想があるからダメだ」と、陽性症状にスポットをあてて医師も周りも考えがちですが、不安・不眠といった症状が、実は当人の苦痛に繋がりやすいので、そのコントロールが、より大切なのです。

入院治療をすべきときは、「自傷・他害」から守ることが一番で、暴力や自殺未遂以外にも、「食べられない」「眠れない」は疲れがたまり、どんどん苦しくなってしまうので入院が勧められます。

【急性期の薬の使い方】

  症状を抑えて安静を保つことが、急性期の治療においては優先されます。当人の不安や混乱を抑えなければいけませんし、どんどん悪化する途中ですから、ピークを見越して薬を使わないといけないので、急性期にはどうしても薬は多くなってしまうことが多いです。その時、正しく診断できるか、病状をどう抑えるか、そして本人に合うのはどの薬か選ぶ、ここが非常に難しいところです。

不安・興奮、敵意攻撃性、暴言、暴力、物を叩くといった破壊的行為に繋がりやすい人には気分安定薬・ベータβブロッカーが効果的と言われています。この薬は、血圧降下剤として一般的に使われますが、静穏作用があり、副作用のとくに手の振るえについて症状の改善をすることが知られています。

【急性期患者の拒薬】

 「薬を飲みたくない」という葛藤を、知っておく必要があります。入院している人は10人に1人、拒薬するというデータが国際的にあります。どういうタイプが多いかを知ると、対応も考えられます。

1)過去に拒薬したことのある人は、再発時にまた拒薬をする

2)社会的地位のある人は、自分の理屈で納得しないと薬を飲まない

3)病状が重過ぎる人は、陽性症状が関連する。

私が医者になった10年前頃は、強制的な服薬が一部の病院で続いていることもありましたが、少しずつ精神科治療でも人権が問われるようになってきています。医療者の倫理が問われるような暴力事件は、残念ながら精神科医療にこれまで存在していました。

【安定期の治療】

 以前は入院がほとんどでしたが、施設的にも社会的にも問題提起され、最近は外来診療が増えました。

 安定期の究極的なテーマは再発予防と社会参加で、治療は急性期と違ってきます。しかし陽性症状の再来は予防しなければならず、抗精神病薬は外せません。症状が落ち着いていても、社会に出ることに対する不安が非常に強くなる方も多いので、積極的に抗うつ薬を使っていくべきです。

【治療の継続】

 初回寛解か、それに近い人ですら、私の記憶でも服薬をしないと半年以内に半分近くが再発しています。治療全般の中断では2年以内に8割以上の再発という厳しい数字です。再発予防は、やはり服薬と受診を続けなければいけません。本人も苦しく周りも大変な急性期に、いかに治療継続の方向に持っていけるかが大事なのです。

 ご家族に心理教育ができるか否か、サポートシステムがあるかないかで、予後は大きく違ってきます。家族会への参加はとても良いと思います。また、国にも臨床の場でのサポートを要求していかなければなりません。

【副作用とその対処】

 錐体外路症状(パーキンソン症状)は、仮面様顔貌、手の震え、小刻み歩行、前傾姿勢など抗精神病薬ではかなり出ます。病気の長さ、エピソードで多少違いますが、初回の方では例えばリスパダール3mg(cp換算300?)を越えた時点で出ることが多くなり、4mg以上になると殆どの方に出ます。顔面に出るパーキンソン副作用で、顔がテカっている、笑いが引きつっているという症状は、よく見過ごされる副作用です。

 アカシジアは苦痛度でいくとナンバーワンで、脚がムズムズして、静座不能でじっとしていられない、重度の方はウロウロし続けて最悪そのまま自殺につながる方もいるほどです。また内的アカシジアといって、胸のあたりがソワソワするという訴え方をする方も多くて、こうなると病気の症状か副作用か分からなくなります。治療的診断といって出す薬を試しながらいくしかなくて、自殺にもつながりますから慎重に対応しないといけません。

 アキネトンという抗パーキンソン薬があって筋肉注射をすればとまりますが、多幸感も出てしまうので癖になったりします。そうなると副作用止めの副作用が出てきてしまって、訳がわからなくなることも少なくありません。

 ジストニアは、呂律が回らない、舌が出る、眼球上転、首や手足が突っ張るなど目立つ副作用です。ボトックス治療が効果がある場合もあります。

 ジキネジアは、遅発性で精神薬を飲み始めてから数年後に、勝手に口の周りや舌が動く症状が出て、非常に消えにくいものです。本人が気づかないで動いていますから主観的苦痛は大きくないのですが、見た目が悪く、ひどく落ち着いているのに口をもごもご動かしていると、変っていると他人に思われてしまいます。治療法は抗精神病薬の中止が一番ですが、は薬をしっかり飲まなければならない病状の人が少なくないので、薬をどのタイミングで変えるか、減らすかが難しく、また対応が遅れると消えにくくなるため、対応が非常に難しい副作用です。

 眠気・だるさ・過鎮静は、抗コリン作用で、ふらつきやだるさが出ます。鎮静系の薬や抗パーキンソン薬では口渇・便秘・尿閉もあり、口渇では水を飲み過ぎる多飲症・水中毒があり、水分の1日の適正量は1.5〜2?ですが、1日に5,6?以上も飲んで、血中のナトリウムが薄まって突然死に至ることがあります。

 漫然と強い薬をのんでいると肝障害がどんどん強くなる事もあります。

 循環器系で意外と見過ごされる副作用に不整脈があります。セレネースのおこす不整脈は知られていますが、リスパダールにもあり、心電図確認を定期的に欠かさない事が重要です。統合失調症の突然死の一つに不整脈があげられています。

 内分泌、代謝系の副作用では、特にジプレキサは糖尿病・肥満になりやすく、若い方のナーヴァスな問題としては、プロラクチン血症による、女性は生理不順、男性は勃起障害射精障害があります。性に関する事は医師としても聞きにくいのですが、それで自信をなくして悩むことも大いにあるので、きちんと医師に聞いて下さい。

 デパケンは、皮膚に発疹がでる副作用があり、重症になると死に至るために注意が必要です。

 悪性症候群は1万分の1以下の確率で、なかなか出る副作用ではありませんが、死亡率が非常に高いです。症状は38度以上の高熱が出、ひどく汗をかき、尿が出なくなり、筋肉痛や体がこわばり、意識が朦朧とします。風邪に似ており、風邪の度に心配になりがちですが、命に関わる重大な副作用ですので、頭のすみに悪性症候群は置いておいてください。

【副作用への対応】

 忘れがちですが大事なことは「様子を見る」事です。

 アカシジアは薬を飲み始めたときに出やすいのですが、1〜2週間飲み続けると軽くなり消えるものもあります。副作用止めの抗パーキンソン薬は飲み続けると認知機能障害が進むことがあります。抗うつ薬の吐気も、エビリファイの吐気も飲み初めだけで1〜2週間で消えるので、最初だけ吐気止めの頓服を使うとよいでしょう。漫然と副作用止めを投与すべきではありません。

 便秘は、下剤は飲み続けると効かなくなります。対処としては、おなかのマッサージ・温める、食事を見なおすことも大切です。口渇は、水を飲みたくなったら、飴・ガム・氷をなめるなどして、水中毒を防いでください。

 たちくらみは、ゆっくり起きて一呼吸おいてから行動。まず座ってから立つなどの習慣づけをして下さい。眠気は、「ちょっと寝る」工夫が大切。昼寝なら30分〜1時間で起こしますが、起こし方の工夫が要りますね。例えばご飯の匂いで起こすとか、音楽やテレビをかけるとかのアイデアは大切です。本人に合わせた起こし方を考えて下さい。

【副作用?と思ったら】

 「薬の副作用?」と悩むと、薬を止めたり減らしたり、自己調節してしまう人が多いのですが、自己調節はどうしたのか覚えていない事が多く、また、勝手にスパッと止めてしまうと、抗不安薬では急に離脱症状が出てかえって危険な事態になったり、抗精神病薬を止めて悪化・再発すると、以前より薬が効きにくくなり却って服薬量が増えてしまうことが多いのです。

副作用?と思ったら、悩んだり自己調節をせずに、早めに必ず主治医に相談して下さい。最も良い対応策は、人や症状の度合いによっても違いますし、副作用と思っていたことが、病気の症状であることも多いのです。

ご家族が一緒に薬の管理をする事は、医師にとって非常に大きな安心感に繋がりますし本人を支える上で非常に大事だと思います。薬は、病気で下がったストレスに耐えられる閾値を上げて、ストレスに耐えやすく生活しやすくして、本人の力を元に戻す手伝いをするのです。そして薬だけに頼らず、日々のストレスを下げていくことが大事です。ストレスが下がれば、当然、薬は減らしていけるのです。薬を考えるときは、すべての生活、治療をもう一回見直す必要があるでしょう。 
                                     〜了〜

平成17年4月からの新宿フレンズホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿フレンズでは4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿フレンズ会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
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新宿フレンズへのお誘い 

 新宿フレンズでは毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
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編集後記

 地震、津波、そして今度は竜巻と、さすが災害国・日本、と言ったところだ。警告や警報が出されても命を救うのが精いっぱいで、家や車など、財産に関しては手の施しようがない。あの静かな日本の空はどこへ行ってしまったのか。

 そんな胸中のところで、今月は武士先生から改めて統合失調症の薬について伺った。若くて、筋肉質の武士先生は歯に衣を着せぬしゃべり方で、いくつもの記憶に残る語録を残してくれた。

 =切迫した状態でも、治療は患者本人が中心である。=急性期の治療はどうしても荒っぽくなる。=再発予防には薬と受診である。=急性期がキーであり、急性期でその後の予後が決まる。と言うように急性期に重きを置いた治療であることが伺える。

 急性期を何もなかったように、うやむやにしてしまうと、後がたいへんなこととなる。心理教育、薬のこと、告知のこと、そして家族に心理教育がいかにできるかでその後が決まってくる、と付け加える。

 家族が抱える患者はそれぞれ皆一人ひとり状態が違う。それは親である家族も同じで、経験、年齢、収入等皆違う。だが、同一の部分もあることも忘れてはならない。病気の部分だ。この異なる部分と同一の部分をはっきりさせる、そのことを家族会員は早く学びとる必要があるのではないだろうか。

 余所様の子の状態を学ぶことは大事なこと。だが、それを真似ることは出来ない。余所様は余所様。うちはうち。これでよいのであろう。同一の部分から学ぶことは、余所様が辿った道筋、つまり治療の経過である。「うちの子にも同じ薬を」は、決して言えないことである。           

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