新宿区後援・10月新宿フレンズ講演会

       統合失調症における抑うつ症状と

         光トポグラフィー検査

       講師 東邦大学医学部精神神経医学講座 辻野尚久先生

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  統合失調症において、さまざまな時期に抑うつ症状が出現することは知られています。また、統合失調症には陰性症状をはじめとして、抑うつ症状との区別が難しい症状が出現することも知られています。今回は、前半部分では統合失調症において出現する抑うつ症状とその区別が難しい症状について解説します。後半部分では、うつ病、双極性障害、もしくは統合失調症の抑うつ状態の鑑別補助検査である光トポグラフィー検査について解説します。

【「うつ」とは】
 「うつ」という時に、「抑うつ気分」、「うつ状態」、「うつ病」とさまざまな言い方がされていますが、それぞれ違います。
 抑うつ気分:気分が「ゆううつ」になることを抑うつ気分といいます。反対は「爽快」「昂揚」です。双極性障害の躁状態のときの気分は主に「爽快」、「昂揚」です。

うつ状態:うつ状態の時には気分の症状としての抑うつ気分だけではなく、さまざまな抑うつ症状が出現します。例えば興味や喜びの喪失、食欲が低下します(逆に食欲が増す場合もあります)。そして体重減少や睡眠障害が出現したり、無価値感・自責感・自殺念慮が出現することもあります。疲労感・気力減退・意欲低下、行動減少なども特徴的な症状です。何もやる気が起きず、行動が減少するため、時にその状態が統合失調症に表れる陰性症状との区別が難しくなることも少なくありません。

うつ病:こういった「うつ状態」が少なくとも2週間以上続いて、病気になる前と比べて明らかに日常生活が出来なくなった場合に「うつ病」と診断されます。

【統合失調症において出現する抑うつ症状】
 この「抑うつ症状」が、統合失調症の患者さんにも時に出てくることは、よく知られています。これまでに報告された統合失調症の「抑うつ状態」の有病率は6〜70%とかなり幅がありますが、これは研究の仕方や対象患者さんの違いなど、さまざまの要因があると思います。それらの報告の中でも最も多く報告されている数値(最頻値)は、大体25%の患者さんに「抑うつ状態」が出てくるのではないかということです。

 またコンラッドというドイツ人の精神科医は、統合失調症の始まりの時期をトレマ(Trema:戦慄)と呼んでいます。特徴としては知覚全体の敏感さ、解釈できない動揺、興奮や猜疑心、孤立・恐怖・罪悪感、時に抑うつ症状が出現することが知られています。この時期に起きやすい症状のひとつとして妄想気分があります。つまり周囲のすべてが新たな意味を持ち、不気味で何かが起こるのではないかと感じ、不安や緊迫感が出現してきます。

【統合失調症の陰性症状】
 抑うつ症状と鑑別が難しい症状として、陰性症状があげられます。統合失調症の症状として陽性症状と陰性症状がありますが、陽性症状はおもに幻覚や妄想、つまり健常な状態なら「無いはずのもの」が出現してきてしまう症状です。もう一方の統合失調症における代表的な症状である陰性症状は、健常な状態の時に「あるはずのものが無くなってしまう」症状です。陰性症状には以下のものがあります。

感情鈍麻:楽しめることが楽しめなくなり、悲しいことがあっても悲しいと感じない。刺激に対して感情が反応しなくなる。

意欲減退:自発性欠如:やる気が起きなくなったり自らやるべきことをしなくなったり、人とのつながりを求めなくなったりする。

自閉:殻に閉じこもってしまう。

快楽喪失:喜びや満足を感じるはずの行為に、快感を感じなくなる。

これらの症状は表面的に見ると、「抑うつ状態」の行動低下、やる気のなさと見分けが難しいことが少なくありません。陰性症状は長期に続くことが多いのですが、急性期の被害妄想とも、うつ病とも違って、本人には表面的にはそんなに苦悩している様子がみられないのが特徴と言えるかと思います。

【急性期の後に起きる精神病後抑うつ】
 統合失調症急性期の陽性症状が改善した後に、抑うつ状態が時に出現することが知られています。これは疲れきってしまったような抑うつ状態で、やる気が起きず疲労感が出てきます。集中困難、将来への不安、自責感、強迫傾向、軽い自我障害などを伴います。

 この精神病後抑うつ(Post-psychotic Depression)には、国際的診断基準が設けられています。ICD-10(国際疾病分類第10版)では、統合失調症の診断基準を充たしていて、統合失調症の症状がいくつか存在している中で、抑うつ症状が支配的で患者を悩ましたり、少なくとも、大うつ病エピソードの基準を満たして、2週間以上続くことが、診断基準として設けられています。

 DSM−IV(アメリカ精神医学会による精神障害の分類と診断の手引き第4版)の基準でも、精神病後抑うつが規定されています。統合失調症と別にうつ病エピソードを充たす抑うつ症状が出ていて、ただし基準では、精神病後抑うつの抑うつ症状は、抗精神病薬の副作用や身体の一般的な病気とは関係なく、統合失調症の陰性症状では説明できないもので、統合失調症の急性期のあとに出てくる症状であるとしています。

【抑うつ症状の原因−薬の副作用・ストレス反応・再発の前兆】
 しばしばそういった抑うつ症状と、抗精神病薬を含む向精神薬の副作用との関係、つまり一見、抑うつ症状に見えても、実は抗精神病薬の副作用の可能性があります。

パーキンソン症状:抗精神病薬の代表的な副作用です。仮面様顔貌・動作緩慢・無動・歩行障害などが症状としてあります。表面的には元気がないように見えるので、「抑うつ状態」と見誤ることもあります。

神経遮断薬誘発性ディスフォリア(不快気分):抗精神病薬によって起きる不快気分という症状も知られています。統合失調症の薬の多くはドパミンを遮断しますが、ドパミンは本来、報酬系といって快楽が生じたり、賭け事で勝って興奮したときに分泌されます。統合失調症のドパミン過剰仮説にのっとった治療薬である抗精神病薬はそのドパミン作用を遮断するので、そういった快楽の作用が喪失(アンヘドニア:快楽消失)されて、不快気分が生じることがあると考えられています。

神経遮断性アキネジア:アは無、キネジアは運動、つまり無動という意味で、抗精神病薬により誘発されるパーキンソン症状の1つです。運動を始めよう、維持しようとすることが障害されて動きづらくなるわけですが、こういった場合はやる気がないとか意欲が低下しているように見誤られてしまうことも少なくありません。

神経遮断性アカシジア:抗精神病薬の錐体外路症状の1つです。多くはじっとしていられない、脚がムズムズ、ジリジリするといった下肢異常知覚があります。座っていられなくて、立って歩き回る人も多いです。異常知覚のため、だんだんイライラし、落ち着かなくなり、憂うつになったりするなど、気分の症状が出現することもあります。これらの気分は抑うつ症状そのものでもあるわけですが、その原因はアカシジアつまり抗精神病薬の副作用であるわけですから、治療方針も単なる抑うつ気分に対する治療と異なってきます。

再発の前兆:いったん統合失調症がよくなり落ち着いた後、時に再発が起きることがあります。その場合、はじめから幻覚や妄想が出てくるのではなく、再発の前兆として抑うつ症状が出現することがあります。その継続期間は、しばしば数日間か数週間の短期間といわれています。

【光トポグラフィー検査−精神疾患の鑑別診断補助検査】
 光トポグラフィー検査(NIRS:Near-Infrared Spectroscopy:近赤外線分光法)は、うつ病、双極性障害、統合失調症における抑うつ症状の鑑別の補助診断として行われている検査です。これは、たとえば先に説明した統合失調症のどういう抑うつ症状なのかが分かる検査ではなく、いま出ている抑うつ症状が、うつ病によるのか双極性障害もしくは統合失調症によるものかを鑑別するための補助的な検査で、確定診断になるわけではないということが前提です。

 NIRSはプローブ(電子測定器で,測定する場所に接触させる電極)を頭にセットして測定しますが、主に言語課題を与えて脳の血流変化を調べます。最近はパソコン1台でできるものまであり、検査室で行うことが大半ですが、大きい機械ではなく持ち運びも楽なので、ベッドサイドでも検査できます。

 NIRSの構造を簡単に説明します。近赤外線(光)のうち、波長が700〜1000ナノメートル(nm:10億分の1メートル)のものは骨を含む生体組織を通過し、血液中のヘモグロビンに吸収されやすいという特性を持っています。頭皮に光を入射するプローブと、さらに光を検出するプローブを取り付けると、頭皮下2〜3センチの、生体内を通過した近赤外光をとらえることが出来ます。その時にヘモグロビン濃度の変化によって起こる近赤外線の吸収変化を検出して、脳の血流を測定することが出来ます。つまり、課題を与えて脳が考える状態になった時に、脳の血流が活発になるか変わらないかが分かる検査です。

 利点としては、CTやMRIは、いずれも大きな機械装置を必要としますが、NIRSは、放射線ではないので体に浸襲がなく安全で、比較的小さい機械装置ですみます。MRIは狭いところに入れられて閉塞感があり、音もうるさいですが、NIRSにはそれらがなく、座っても寝てもできて体動制限が無いので自然な姿勢・環境下で測定できます。コストも安く、長時間の連続記録も可能です。

 欠点としては、脳の表面に近いところの血流しか測れないため、表層の大脳皮質の検査はできますが、脳の深い部分の働きは分かりません。また血流の増減の変化しか測れず、具体的数値までは測定できません。

 今ではさまざまな疾患に一部研究段階ではありますが応用されており、気分障害、統合失調症、認知症、心的外傷後ストレス障害(PTSD)パニック障害、発達障害、パーソナリティ障害、健常者の性格傾向などを調べる手段の1つとして使われています。ただし、保険適用は、抑うつ状態を呈しているうつ病、双極性障害、統合失調症の鑑別のためのものだけに限られています。

代表的波形:言語課題が与えられると、健常者はすぐに波が上がります。しかし、うつ病の人は血流反応が少ないのが特徴です。双極性障害の人はすぐに上がらず、後からだんだんと上がります。統合失調症の人は何となくだらだら上昇します。また、課題が終了すると波形は健常者でもうつ病や双極性障害でも基本的には速やかに下がりますが、統合失調症の場合は、課題終了後にまたちょっと再上昇するのが特徴的な波形と言われています。

 繰り返しますが、検査対象はうつ症状を呈していること、それが統合失調症によるかもしくはうつ病、双極性障害が強く疑われているときで、そして脳腫瘍などに基づくものではない事が前提となっており、「光トポグラフィーによるうつ症状の鑑別診断応用」と名づけられています。

 感度とは、例えばNIRSの診断でうつ病パターンを呈して、しかも臨床診断もうつ病だった場合を感度ありといいます。特異度とは感度の真逆で、NIRSの診断ではうつ病パターンでなく、臨床的にもうつ病ではなかった場合に特異度ありといいます。決して、100%の正解率ではありませんが、高い感度、特異度であることが示されました。

 本人や家族にとっても分かりやすい指標があると、より疾患の理解もしやすくなり、治療も受け入れやすくなるのでないかと思います。
 東邦大学医療センター大森病院でもNIRS検査を行っています。以前は先進医療という形でしたが、いまは、保険診療で行っています。

                                           〜了〜      

平成17年4月からの新宿フレンズホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿フレンズでは4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿フレンズ会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
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 新宿フレンズでは毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
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編集後記

 中国サンゴ漁船が小笠原近海で密漁を行っているという。なぜ、徹底的に取り締まらないのか、疑問が湧くが、どうやら密漁をしている現場を目撃しなければ取り締まりはできないらしい。なんとも歯がゆい話である。

 話は変わって、光トポグラフィーについて、辻野先生からお話を伺った。プローブと呼ばれる頭皮に接触する電極をいくつもセットして行うという。私はまだ経験がない。どうも、あの電極を頭につけるのは何となく苦手だ。

 近赤外線の700〜1000ナノメートルのものは生体、つまり生身の体を通過し、血液のヘモグロビンに吸収されやすいという特性がある。ある接点から出た近赤外線は2〜3cm離れた接点で検出される。その際のヘモグロビン濃度の変化から近赤外線の吸収変化をみて、脳の血流を測定するものであるいう。

 これで気分障害、統合失調症、認知症、パニック障害、発達障害などの診断に使われている。言語の課題が与えられると健常者は波形がすぐに上がり、うつの人は血流反応が少ない。双極性は上がり方が鈍い。統合失調症は何となくだらだら上昇。これらの反応から症状を判断するらしい。

 あくまで統合失調症、気分障害等が言われていて、さらにうつ症状がみられるとき、その鑑別を行うものであるということ。しかし、患者の多くはやはり自分の病気の本質を知りたいものである。特に精神科の場合、誤診があったりするなど、診断名が不明だと不安である。そのような場合、こうした波形なり数値で出てくる結果にすがりたくなるものである。精神科の治療とはつくづく難しいと思う。専門家に一刻も早い確かな治療法を期待したいものである。     

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新宿家族会 E-mail: frenz@big.or.jp