新宿区後援・4月新宿フレンズ講演会

症状?それとも薬の副作用?

講師  東邦大学医学部精神神経医学講座  辻野尚久先生

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【薬は、基本的にはある程度安全性が担保されていることが前提である】
 薬は精神科の薬に限らず、全く副作用の無いものはほぼありません。一方で、必ず副作用が出るわけでもありません。副作用を強調しすぎてしまうことで、時に「非常な危険なもの」という印象が強くなるかもしれませんが、薬は研究と治験を重ねて、病気への効能・効果が認められ、副作用も少なく安全性が高いと判断されて初めて認可され、発売されます。発売後に未知の副作用が出現して、発売中止になる薬も一部ありますが、基本的には安全性がある程度担保されていることが前提です。

【抗精神病薬によるドパミン受容体遮断に関連する副作用】
 統合失調症の病態生理としてドパミン仮説があり、脳内のドパミンが過剰に分泌されることが統合失調症の精神病症状に関連していることから、そのドパミンを遮断することで、精神病症状を改善する効果を有しているのが抗精神病薬です。いろいろな抗精神病薬がありますが、その多くはドパミン受容体遮断作用をもっています。
 しかし、その有効性と副作用の関係は拮抗しております。例えば抗精神病薬のリスペリドンが脳内のドパミン受容体をどのくらい占拠・遮断した時に薬効が認められるのかを調べた研究では、リスペリドンがドパミン受容体の約65〜75%ぐらいを占拠しないと抗精神病作用を発揮しませんが、一方で約80%以上を占拠してしまうと今度は、錐体外路症状といってパーキンソン病の時に出現するような副作用が出現してきます。つまり、薬の有効性を発揮するためには、ある程度の用量を使用する必要がありますが、用量が増えて、ドパミン受容体を遮断しすぎてしまうと錐体外路症状が出現する危険性があり、その用量の幅が決して広くないことについて考慮していく必要があります。

◆アキネジアと、抑うつ症状・陰性症状との鑑別
 副作用の錐体外路症状、パーキンソン症状の中に、神経遮断薬誘発性アキネジアがあります。無表情や動作が緩慢、あるいは運動の開始や維持が障害されて無動になることがあります。その時に客観的には、「この人はうつで元気が無いのかな」とか、「陰性症状で意欲が無くなって行動が減少しているのかな」と抑うつ状態あるいは陰性症状との区別が時に必要になってきます。その際にアキネジア以外にも錐体外路症状として、筋肉が硬くなっている、小刻み歩行などの歩行障害が認められる場合にはアキネジアを積極的に疑います。

◆うつや陰性症状に似た不快気分
 ギャンブルで報酬を受けた時に脳内でドパミンが放出され、それが快感につながることが知られております。そのようにドパミンは快感に関与するわけですが、抗精神病薬はそのドパミンを遮断するわけですので、快楽消失(アンヘドニア)や不快気分(ディスフォリア)といった副作用が出現することがあります。これもうつや陰性症状との区別が時に困難となる副作用です。

◆アカシジア
 じっとしていられない・立ったり座ったり歩き回っていないといられない、といったアカシジアもドパミンが遮断されることで出現する錐体外路症状の1つです。アカシジアは行動変化だけでなく、気持ちが落ち着かない・いてもたってもいられない・身の置き場がない・イライラする・部屋が広くて落ち着かない・考えすぎて落ち着かない・死んだほうが楽だ・根気がない・憂うつ、などの症状が出てくることもあります。これらの症状だけを見ると、もともとの病気の症状が悪くなったのか、アカシジアが出現しているのかを区別するのが非常に難しいです。

◆食欲亢進・過食
 抗精神病薬は共通した薬理作用としてドパミン受容体遮断作用があることは先に述べましたが、ドパミン受容体以外の受容体にも作用します。セロトニンやヒスタミンなどの受容体を遮断すると視床下部にある満腹中枢に作用し、食欲増進に働き、薬の副作用として食欲が増し、体重が増えることがあります。

◆病的多飲水・水中毒
 水分を飲まないのも脱水になり問題ですが、水分を取りすぎると体の中の電解質とくにナトリウムが薄まってしまいます。血中のナトリウム濃度は140mEq/l前後が通常の値ですが、それが薄まって低ナトリウム血症になると、130〜120mEq/lあたりで軽い脱力感・疲労感・食欲不振が出現し、120〜110mEq/lになると頭痛・吐き気・嘔吐・かすみ目・下痢・原疾患の悪化・焦燥・脱力、110mEq/l以下になるとけいれん・意識障害・昏睡・嘔吐・心不全・横紋筋融解症・悪性症候群といった生命の危険を伴う症状が出現する可能性があります。

【抗うつ薬の副作用としての精神症状

◆セロトニン症候群
 抗うつ薬の副作用であるセロトニン症候群は、頻度は多くはありませんが、時に重篤化する副作用です。症状としては、筋肉のけいれん(ミオクローヌス)・反射亢進・発汗・振戦・下痢・協調運動障害・発熱などの身体症状だけでなく、時に錯乱・軽躁状態・焦燥といった精神症状が出現することもあります。

◆ドパミン受容体遮断による錐体外路症状
 抗うつ薬でも、無動や仮面様顔貌など錐体外路症状が出てしまうことがあります。SSRIは、名前は選択的とありますがセロトニンだけに作用するわけではありません。パロキセチンなどは、抗精神病薬ほどではないですが 抗ドパミン作用があるため、抗精神病薬と同様に錐体外路症状が出現する可能性について考慮する必要があります。

◆抗うつ薬による賦活化症候群(Activation Syndrome)
 投与初期や用量変更時に見られる中枢刺激症状で、比較的軽症の場合は不眠・不安・焦燥感・易刺激性・衝動性亢進・アカシジア・躁状態などが出現することもあります。重症では自傷・自殺惹起につながります。攻撃性が増して他害行為につながることもあります。

◆SSRI離脱症候群
 SSRIの少なくとも1か月以上の服薬後に中断、あるいは減薬中に離脱症状が出現することがあります。その際の症状としては、めまいやふらつき・電気ショック様感覚や異常知覚・下痢・疲労倦怠感・不安定歩行・頭痛・吐き気・嘔吐・振戦・視覚障害などの身体症状に加えて不安・不眠・イライラ・焦燥感などの精神症状が出現する可能性があるため、注意が必要です。そのため、抗うつ薬の減薬は少量から、あるいは1日置きにするなど、慎重に減らす必要があります。

【ベンゾジアゼピン系抗不安薬・睡眠薬の副作用としての精神症状】
 昨今、向精神薬の適正・適量化が強調されるようになってきた背景として、日本の多剤大量処方が指摘されています。絶対に単剤にすることが必ずしも良いとは言えませんが、必要以上にたくさんの薬を処方しないことが望ましいことは言うまでもありません。

◆日本に多い多剤大量処方
 
米国と比べて日本はBZの処方が非常に多いことが知られております。欧州5か国をまとめた量よりも多くなっています。ただ背景として、海外との医療保険制度の差があることも考慮する必要があります。BZ系薬剤は、精神科領域だけではなく、整形外科、麻酔科、産婦人科など精神科以外でも鎮痛効果などを期待して処方されることも多いので、特に身体合併症がある場合などには他の科からも処方されている可能性についても注意していく必要があります。

◆依存と乱用、離脱症状 
 BZ系薬剤には依存性があり、時に乱用される危険性があることが知られております。また「奇異反応」といって、BZ系薬剤の服薬によってかえって不安や緊張が高まって、興奮・攻撃性・気分易変性などを呈することがあります。
 また、BZ系薬剤を急にやめると「離脱症状」が出現することがあります。離脱症状については表3に提示します。6週間以上のBZ系薬剤の使用後に離脱症状は生じやすく、8か月以上では43%に中断時の離脱症状が出現することが知られております。また、高力価・短時間作用型のほうが、依存のリスクが高いといわれています。
 ジアゼパムのような低力価で長時間作用型の薬剤に、等価換算で置き換えていきます。個々の状態に対応しながら、1〜2週間ごと、あるいはそれよりもゆっくりと、10%ずつ減量していきます。時には半年以上かけて、徐々に漸減する方法が推奨されています。

【薬の効用と副作用はよく考えて】
 副作用の話を中心にすると、どうしても「薬は怖いなあ」というイメージが先行してしまいがちです。最初に述べたように薬は効果と安全性が確認されたからこそ、発売を認可されていることを再度確認しておきましょう。副作用ばかりを気にしてしまうと、かえって薬の有効性が届かない可能性があります。
 フィンランドの多数の統合失調症患者を対象とした抗精神病薬の処方に関する研究を紹介します。抗精神病薬の服用量と死亡率の関係を統計的に計算したものです。その結果、死亡率は、未服薬の方が一番高く、次に高用量、低用量、中用量の順でした。
 つまり適量の薬をきちんと飲んで治療していくことで、精神症状も改善し、身体的健康も保てる可能性があるということを最後に強調しておきたいと思います。
                                          〜了〜

平成17年4月からの新宿フレンズホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿フレンズでは4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿フレンズ会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
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新宿フレンズへのお誘い 

 新宿フレンズでは毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
入会方法 


編集後記 

 のっけから私ごとで申し訳ない。5月の連休、皆さんはいかが過ごされたであろうか。小生、七十○歳にしてアメリカの大地をハーレーというバイクを使い、九十マイルのスピードでつっ走って来た。自らの健康に感謝すると共に、息子の病気ことなどをある程度忘れることも必要なのではと思った次第。

 さて、今月は難しいテーマであった。辻野先生に「症状か、薬の副作用か」という演題である。最初に先生は「薬は精神科の薬に限らず全く副作用の無いものはほぼない」と断言している。つまり、副作用が少ないものは効果も少ない位に考えた方が良さそうである。

 精神科の薬はドパミンを制御する薬である。ドパミンは快楽と繋がっている。抗精神病薬はドパミンを遮断する。そこで、ご本人は快楽消失、不快気分と言った副作用が出る。お母さん方は「この薬はうちの子には合わない、別な薬にして欲しい」と医師に迫る。これらから、息子さんがより症状を悪化させるケースもあるという。従って、これら、区別が難しい「精神症状か副作用なのか」は慎重な判断が望まれるとしている。

 「薬は怖い」というお母さん方が多い。私の場合、息子の薬に関することは一切医師に任せた。その代わり先生を選ぶことには慎重であったと思う。当事者の大石洋一さんは「先生と結婚したつもり」と言ってのけた。だから講演会で「薬は何を飲んでいますか」という質問に

は答えらなかった。「何を飲んでいるか、名前さえ知らない」と。私も息子が飲んでいる薬は良く知らない。しかし、講演会の司会の役で知らないのはまずいと思い、時々紙に書いてもらうが、大体忘れている。

 フィンランドでの研究では、抗精神病薬の服用量と死亡率を計算した結果が発表されている。死亡率の高いのは1未服薬、2高容量、3低用量、4中容量であったという。つまり、適量の薬をきちんと飲んで治療していくことで、精神症状も改善し、身体的健康も保てる可能性があると、辻野先生は結んでいる。                      

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