新宿区後援事業 4月新宿フレンズ講演会

      精神科で使う薬について

       〜抗精神病薬を中心に〜

      講師 東邦大学医学部精神神経医学講座 辻野 尚久 先生

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【脳のしくみと向精神薬の効き方】

 精神科で使う向精神薬とは、脳の中枢神経に作用し、感情や心といった精神機能を安定させる手助けをする薬の総称です。

 中枢神経が脳の働きをつかさどります。脳内で作られたドーパミンやセロトニンといった脳内ホルモンが神経細胞から次の神経細胞に分泌・放出されて、受容体にくっつき伝達されることで、神経の働きが調節されます。

 この神経細胞の接合部分をシナプス間隙と言い、シナプス間隙にホルモンが分泌されるわけですが、この分泌が多すぎたり少なすぎたりすると、バランスが崩れて色々な精神症状が出現してくると考えられています。こういったバランスの崩れを整えるのが薬の役割です。

【向精神薬の効果】

 向精神薬は効果によって3つに分けられます。

1)症状を和らげ安定させる薬:抗精神病薬、抗うつ薬、気分安定薬があります。特徴として飲んですぐに効果が出ません。大概は一回では効果が現れませんから、継続して飲む必要があります。

2)症状を抑える薬:抗不安薬、睡眠薬は効果が比較的早く表れますが、おおもとの症状を治す薬ではなく、補助的に使います。主に統合失調症やうつ病の患者さんで、眠れないときや不安が強い場合に併用することが多いです。また、症状がひどい時に頓服という形でも使います。

3)副作用を抑える薬:抗パーキンソン薬。副作用が出なければ飲む必要はありません。医師の考えによっては副作用出現の予防として使用することもありますが、基本的には薬の種類や量は少ないほうがいいので、私はなるべく使わないようにしています。というのは副作用を抑える薬の副作用もあるからです。

 

【向精神薬の種類と特徴】

〈抗精神病薬〉

 主に統合失調症に使われるお薬です。統合失調症だけではなく、うつ病やそれ以外の疾患にも処方されることもあります。

 脳内の神経伝達の役割を担うホルモン、ドーパミンがシナプス間隙で受容体にくっつくのを調節する作用を持っています。ドーパミンが多すぎると神経が過敏に働きすぎて、幻覚や妄想といった症状を呈しやすいと言われています。この薬はその多すぎるドーパミンの働きを抑制してくれる作用があります。

 非定型抗精神病薬(第二世代、新規)は、なるべく副作用であるパーキンソン症状を出現させないようにするために開発されたお薬です。オランザピン(ジプレキサ)、クエチアピン(セロクエル)リスペリドン(リスパダール)、ペロスピロン(ルーラン)、アリピプラゾール(エビリファイ)、ブロナンセリン(ロナセン)、クロザピン(クロザリル)などがあります。(カッコ内は商品名。薬の商品名は病院や製薬会社によって変わってしまうので、医療スタッフは普段、一般名を使うことが多い)。

なお、クロザピンは、重篤な副作用の起きることがあるため、使える医師や施設が限られています。

 薬には大きく分けて2種類あります。例えば、風邪薬、痛み止め、熱さまし等の薬は、症状が良くなれば大半は飲まなくてよくなります。一方で高血圧や糖尿病等の薬は、血圧や血糖値が下がったからといって止めてもよいわけではありません。飲み続けないとまた血圧や血糖値が上がってしまいます。

 精神科の薬も、途中で止めるとぶり返す可能性があります。ただ、100%というわけではないので、よく主治医と相談するとよいでしょう。また、途中で止めた場合に、薬が効きづらくなって量が増えてしまうのは、受容体を長年ブロックしていると、出てくるホルモンを少しでもキャッチしようと受容体が増えてしまうので、その分、より具合が悪くなってしまうという原理です。症状は治まっても再発防止のために飲み続ける必要があります。

〈抗うつ薬〉

 抗うつ薬は、セロトニンやノルアドレナリン等のホルモンが不足している状態に対して、それを増やす働きをします。気分の落ち込みやゆううつな気分を和らげ、強迫的な考えやこだわりをとってくれる効果があります。特徴として飲み始めてから2~4週間で効果が出てくることが多いです。

〈気分安定薬〉

 気分安定薬(気分調整薬)は気分の上がり下がりを少なくし、興奮や気分が沈みすぎするのを安定させてくれます。波を少なくする働きなので、薬を飲むと気分が平たんになるというイメージを持つ人もいるかもしれませんが、決してそういうことではありません。躁うつ病や躁状態の治療薬として使われます。抗精神病薬と並行して統合失調症の患者さんに使われることもあります。

〈睡眠薬〉

 一口に眠れないと言っても色々あります。例えば寝つきが悪い、寝つきは良いけれど途中で目が覚める、朝早くに目が覚めてしまう、時間としては十分でも眠れた感じがしないなど、大きく分けて4つのタイプがあります。

 医者と相談する時には、どういうタイプの不眠かをよく説明すると、それに合わせて寝つきを良くするもの、途中で目が覚めるのを改善するものなどを処方してもらえます。薬の作用時間も長いものから短いものまでいろいろありますから、単に寝つきが悪いだけなら短いタイプの薬を出し、逆に真夜中や早朝に目が覚めるなら中間・長時間型を出します。

〈抗不安薬〉

 不安な気持ちやイライラを抑える薬です。ほかの薬と併用されることが多いです。中には睡眠薬として使われる薬もあります。

 リーゼ、デパス、ワイパックス、コンスタン、ソナコン、レキソタン、メイラックスなどがありますが、この薬にも効果が長い薬と短い薬があり、種類によって飲む回数や量が違ったりするので、医師とよく相談してください。効果が早く現れるので、頓服として使われることもあります。

〈抗パーキンソン薬〉

統合失調症の薬による副作用、例えば手足の震え、歩きにくい、よだれが出る、じっとしていられないなどの症状にこの薬を使うことがあります。もちろんパーキンソン病の患者さんにも処方されます。

種類としてはアキネトン、アーテン、ピレチア等があります。抗精神病薬を飲んだからといって必ずしもパーキンソン症状が出るわけではないので、出ていないのに飲む必要はありませんが、予防に使われることもあります。

【安全に薬を飲むために】

 薬を服用して何か違和感があれば、一人で悩まずにすぐに主治医に相談してください。中には飲み続けることでなくなる副作用もありますが、薬の効果や副作用には個人差があり、時には重篤な副作用もあるので、気のせいと片付けずに、次の予約まで待たずに急いで連絡することです。本人の感じ方が最も重要です。

【薬の副作用と対応】

 副作用の話をすると、そんなに副作用があるなら飲みたくないという人もいますが、良い効果が期待できるので薬を飲むことを理解してください。

 副作用は、主に4つに分けられます。

1)薬が効きすぎる場合:通常薬が神経に働いてバランスを整えることが一番よい効き方ですが、例えば薬の量が多すぎる場合に、神経のバランスが過剰に弱められることがあります。

2)本来、薬が働いてほしくない他の神経に働く場合:副作用を抑える薬を併用したり、ほかの神経に作用しにくい薬に変えます。抗精神病薬の場合、パーキンソン症状や、プロラクチンというホルモンが上がりすぎて女性の場合、一時的に生理が来なくなることもあるので、そういう場合には薬の調整を相談するとよいでしょう。

3)依存性・退薬症状:急に薬を止めることで、良くない症状が出ることもあります。医師と相談しながら、少しずつ減薬します。

4)アレルギー反応:薬がその人に合わない可能性もあります。湿疹が出たりかゆみや、肝障害の出ることもありますので、その場合は原因となる薬を中止し、別の薬に変えることが必要です。早めに医師に相談してください。

〈抗精神病薬の主な副作用〉

 パーキンソン症状(手足の震え、動作が遅くなる、体が動かしづらい、じっとしていられない、むずむず感など):抗パーキンソン病薬を使う、これらの症状が出にくい薬に変える、量を減らすなどの対処をします。

便秘:おなかの動きが悪くなったら、便秘治療薬を併用します。運動も効果的です。

のどが渇く:水を飲みすぎると体のナトリウムが薄まって水中毒を起こし、危ない状態になることがあります。氷をなめる、うがいをするなど工夫しながら、薬の調節を相談してください。漢方薬を併用することもあります。

プロラクチン血症:母乳を出すために出産後に自然に分泌量が増えるホルモンが、妊娠出産していないのに抗精神病薬の副作用として増え、母乳が出たり生理が止まったり、男性なのに胸が大きくなることもあります。他の薬剤への切り替えやプロラクチンを下げる薬の併用を検討します。

体重増加:抗精神病薬の副作用として、食欲を刺激して、体重増加や代謝異常、糖尿病を引き起こすことがあります。その場合は他の薬へ切り替えることを検討することもあります。非定型抗精神病薬の中でもジプレキサ、セロクエル、クロザリルは糖尿病には禁忌です。

悪性症候群:38度以上の高熱、汗をかく、尿が出にくい、何もしていないのにひどい筋肉痛になった、という場合には悪性症候群の恐れがあります。生命の危機を伴う可能性のある副作用です。そのため、そのような症状が出現したらすぐに医師に相談してください。

〈抗不安薬・睡眠薬の副作用〉

 効きすぎると眠気やふらつき、めまい、注意・集中力の低下、脱力感が起こることがあります。投与量を減らしたり、他の薬に変えたり、飲む時間を変えるなどの対応をします。

 抗不安薬や睡眠薬の多くは筋肉を弛緩させる作用があり、不安・緊張時には体に力が入りやすいものですが、筋肉が弛緩させリラックスさせるという良い効果として働くのです。しかし良い効果もある半面、効きすぎると体に力が入らず、ふらついてしまうのです。

【再発率〜治療を勝手に止めない】

 「これは副作用?」と迷ったら、1人で悩んだり自己調節せずに、医療スタッフに相談してください。減薬や服薬中止によって、症状の悪化や再発を招く可能性があります。また、再発すると前より薬が効きにくくなることが多いのです。

 最もよい対応は、個人差があるので主治医とよく相談することです。必ずしも変薬や減薬がよいとも限りません。その薬が精神症状に効果がある場合は、多少の副作用が出ても、副作用止めを併用することで対応することもあります。良く相談して下さい。

 今日は薬の効果・副作用や、薬は飲み続けたほうがよいことをお話ししました。薬を飲み続けることはかなり難しいことです。皆さんも出された薬を飲み忘れたり、調子が良くなって決められた量を全部飲まないで途中で止めてしまう経験をされたことがあると思います。

薬の飲み続けることが必要であるからこそ、いやな副作用をなるべく起こさせないようにしたり、主治医と相談して、必要最低量を探ったり、飲む回数を減らすなど、出来るだけ服薬を続けやすい工夫をする必要があります。「お薬手帳」や、薬箱を利用するのもよいでしょう。本人だけでは難しければ、家族も手伝うなどの工夫が重要になってくると思います。

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平成17年4月からの新宿フレンズホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿フレンズでは4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿フレンズ会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
どうぞ、この機会に是非賛助会員になっていただけますよう、お願い申し上げます。

賛助会員になる方法        



新宿家族会へのお誘い 

 新宿フレンズでは毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
入会方法 


編集後記

 GW中は天候に恵まれた。そして、GWが終わった途端に天候が崩れ出した。天候に左右される仕事をしている者にとってはGWが恨めしかった。

 さて、辻野先生から精神科の薬総観ともいえるお話を伺った。残念ながら小生は天候に左右される仕事ゆえ、講演会に欠席を余議なくし、直接お聞きすることができなかった。本文をお読みしながら、改めて精神科の薬の種類の多さに驚いた。

 それにしても、家族会活動の中で常に話題になるのが抗精神病薬の問題である。この数多い薬個々の効能の違いはどれくらいなのか。A薬とB薬の成分の違いは計られるにしても、それが患者の精神にどのような反応があるかが計られるのか。さらにプラセボ(偽薬)などという薬もある。しかも、これを服用して回復に近づく場合もあるという。

 ある人は精神科医任せで、まったくその辺に疑問を持たない。一方、薬については「医師以上」ともとれるほどのつ知識を持ち、研究している家族もいる。

 もう一つ、精神科の難しさとして、一人の精神科医もある人にとっては「最高!」の評価があり、別な人の評価では「最低!」な先生となる。これが精神科の七不思議のひとつだ。つまり、ここに「相性」の問題がある。

 薬についても、精神科医においても、あるいは医療スタッフにおいてもお互い、人と人とのコミュニケーションの中から生まれた結果、一つの薬、一つの治療法、一つの治療関係が出来上がる。特に精神科の場合、このコミュニケーションのあり方が、その後の治療に大きな影響が表れるような気がする。 

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新宿家族会 E-mail: frenz@big.or.jp