1月 新宿区後援事業 新宿フレンズ講演会

 地域で暮らす“けやきと仲間”の誕生と活動

 
 講師 けやきと仲間創設・カフェ・バルコニー代表 籔下敦子さん

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はじめに

 NPO法人「けやきと仲間」とは千葉大学を拠点とした精神障害者と学生の協働の場です。精神障害者が学生やボランティアと交流し、自主性、協調性を養うことによって、社会復帰と自立、及び社会参加の促進に関する事業を行い、地域精神保健福祉に貢献することを目的としています。

つねに「夢」と「希望」を持ち、「ひとりぼっちじゃない」をモットーに、日々の活動を行っています。このNPOを私が作ったのは、息子の発病が発端ですが、多くの精神障害者がこの病気になることによって差別と偏見で生きづらいことを目の当たりにし、息子のためだけではなく、広く多くの精神障害者の社会的自立に役立ちたいと思ったからです。

【大学・大学院で学ぶ】

 息子の再入学をきっかけに、私は医療や福祉について学ぼうと、55歳で日本社会事業大学の3年生に編入しました。社会福祉法人JHC板橋会を立ち上げた寺谷隆子教授のゼミに入り、精神障害者の援助学を勉強しました。

 「精神障害は誰でもなる可能性があるもの、病院ではなく地域で生活しながら治すもの。精神障害を持った人が主人公、彼らにある力を信じましょう、その人に合わせた生き方を考えましょう。支援をする人はPSW(精神保健福祉士)ですが、彼らは専門家ではない。本当の専門家は障害を持っている人自身です」と寺谷先生は語ります。聞いたとき、光が現れた感じがしました。

 息子のためと思って大学に入った私ですが、障害を持っているもの同士が協力し合って社会的自立を目指す場をライフワークにしたいと願うようになっていました。そしてそれがNPO法人「けやきと仲間」という当事者会に結晶しました。

【「けやきと仲間」を始める】

 「けやきと仲間」は、「けやき」は千葉大のシンボルツリー、「仲間」は障害を持った人も学生も先生も職員もボランティアもみんな仲間という意味です。現在、仲間は40人、ボランティアが多いです。学生ボランティアにはお金は渡しておらず、というのは、学生はボランティアをすることによってお金以上のものを得られるからですが、本当のところはお金がなかったのです。当時はメンバーの入会金だけで運営していました。

 私の目標は「10年後の地域住民を育てる」ということでした。つまり若い学生に、精神障害者の実体を見て理解してもらい、差別や偏見のない将来の地域住民になってほしいと思っていたのです。場所が必要だとゼミの広井先生に相談したところ、週1度ですが千葉大の福祉・環境交流センターの部屋を借りられることになり、それ以外に先生が空いている研究室を貸して下さったので、週2回は会が開けることになりました。

【みんな「仲間」という関係】

 まず学生の協力者を「NPO団体を立ち上げたい人は、その練習が出来ます」と言って集めました。そして、「私たちはできるだけ障害者という言葉を使わず、『心の病と闘っている人々』と言っています。最終的に社会で生活できることを目指すわけですが、必ずしも1人暮らしや就労を意味しません。いいコミュニケーションを大切にします」と話しました。

 千葉大は地方からの学生が多く、入学当初は知人がいない人が多いのです。その中にはメンバーと同じように、コミュニケーションが取れないという悩みを持っている人もいます。また、進級できなくて落ち込んでいる学生や、学食では食事が取れない子もいました。

 そういう学生たちも私たちのところに来て一緒に食事をしているうちに、学生と障害者が分かりあえてきたのです。学生が「心の病と闘っている人は自分達と変わらない」という思いを抱き始め、ボランティアをしてくれるようになりました。

【「けやきと仲間」の活動】

 NPOの定款は、メンバーにも学生にも会の理念を考えてもらって作りました。学生よりもメンバーの方がより良い理念を提案できたのは、ニーズを分かっているからでしょう。3本の柱があります。

1)精神障害者が自ら企画運営する当事者会であり、クラブハウス方式を目指す

クラブハウスというのはアメリカから来た理念で、1946年に精神病院を退院した4人が共同生活を始めたことに始まります。それぞれ仕事があり、一緒に生活をするうちに病気が治ってくる。いつまでも大事にされるだけではなく、仕事もあって、友達と話し合うことも必要なのです。

2)千葉大学生との協働による就労訓練や交流を通し、社会的自立を促す

就労訓練には、学内でパン販売をしました。パンを2割引きで仕入れて、「けやきと仲間」のメンバーは障害を持っている人たちであることをオープンにし、学生も一緒になって売り、それを会の活動費用に当てました。パンの販売活動など働くことで、良くなっていくことも目的の一つです。学生たちは、精神障害者は自分たちとは別の人間であると思っていましたが、実際は自分たちと変わらない人たちだと分かってきました。

3)学生もメンバーと協働することにより、精神障害者に対する差別と偏見をなくすことを目指す 

活動内容の一つに、絵を描くことがあります。メンバーは絵を描いたことがなかったのですが、絵のボランティアが描いている雰囲気が良くて、自然と描けるようになり、工学部のデザイン科の大学院生や教授もアドバイスして下さいました。

【メンバー・スタッフ制度で給与を】

 精神障害者の社会的自立を考えると、3つの大事なことがあります。第1に大切なのは自分との関係(自己管理)、自分で服薬や良い生活リズムや運動をしていく力が大切です。第2に医療との関係、服薬も大事です。主治医に自分の薬のことを聞いて、自分に合っているかどうか、医師と二人三脚。精神保健福祉士(PSW)とも話し合う。第3に環境との関係、家族、友人、社会等からのストレスをどう軽減するか。ストレスを感じるものには適当な距離を持つことが大切です。

これら3つがそろって初めて回復への道、社会的自立につながります。そして、これをすると決めるのは、あくまで当事者自身である(当事者主体)ということです。

メンバー・スタッフ制度とは、

1)「けやきと仲間」は心の病と闘っているメンバーが企画運営する当事者会である。

2)経理、総務、広報、など「けやきと仲間」の活動に関することはメンバーが主体で経営する。

3)千葉市、千葉県など自治体との交渉、千葉大学、地域との話し合い、大家さんとの交渉などは全てメンバーが参加して、学生、ボランティアさん等と協働で運営する、という仕組みです。

【メンバーの働ける仕事を作る】

 メンバー・スタッフは状態のいい方ですが、中には作業所に来るだけで仕事ができない方もいます。そういう方にもお金を渡したくて、ピア・サポートセンターの立ち上げと土壌改良材の製造・販売を始めました。

障害を持ったメンバーは引きこもっている方の気持ちがよく分かるので、訓練を受けてピア・サポーターになって頂いています。引きこもりなどで介助の必要な当事者に対して、ピア・サポーターは病院へ付き添ったり、買い物に同行して料理を作ったり、日常生活の補助をします。


【就労は存在感・自尊心につながる】

 日本の精神障害者は303万人で、総人口の約2.4%を占めています。心因的精神病は、効率性を追求する現代社会ではだれでもなり得る可能性があります。精神障害者のうち、就労者はわずか2割。約8割は職についていません。ですから貧困というハンディも背負っています。

 この事業は「けやきと仲間」の家族会が中心になり、主治医にも協力してもらっています。主治医にはメンバーが記入した「就労アンケート(作業の満足度・疲労度・意欲等)」に目を通してもらっています。医師側には、患者さんが書いている内容や字も、状態が把握できる目安になりメリットがあります。また、学生・地域ボランティアの協力も得ています。

 土壌改良材は、堆肥の一種ですが「環境にやさしい有機土壌改良材」です。私たちが作っている土壌改良材は、米ぬかや油粕、コーヒー滓など環境にやさしいもので、廃棄物のリサイクルです。材料を混ぜて1ヵ月間置くうちに、最初は嫌な臭いがしたり、カビが生えたりしましたが、千葉大学園芸学部の協力を得て改良できました。

 土壌改良材を作ることは単純な作業ですが、行動療法になると思います。働くことによっていろんな良い作用があります。話をしながら作業できることで、自分の胸の内を訴えて理解してもらう機会を得られ、友達ができるのです。話もせずに集中する作業は、精神障害者には良くないと私は思います。とても簡単な作業なのでおしゃべりをしてもいいし、疲れやすい方でもできる作業です。

【新しい作業所カフェ・バルコニー】

 今まで大学と協働した「けやきと仲間」を運営しておりましたが、2009年12月で理事を辞め、現在地域と協働する 「カフェ・バルコニー」を立ち上げました。土壌改良材の名前も「土壌改良材 カフェ・バルコニー」と改めました。

 企業にはうつ病の方がたくさんいらっしゃいますが、多くの企業は、どうやってもとの仕事に戻すかを悩んでおられます。ですから企業から「カフェ・バルコニー」に出向していただいて、土壌改良材を作ることや、経理などを手伝ってもらうなどの協力依頼をしていく\定です。それはCSR(企業の社会的責任)の評価にも繋がります。

 社会的自立には、食事を自分で作れること、ご飯を炊いたり食器を洗ったりできることが最低限の大事なことだと思います。自炊ができるような作業所を、2010年2月から「カフェ・バルコニー」で始める予定です。しかしお店にして良い食事を出したいという思いが強いと、障害者よりもボランティアさんを使うようになって、障害者は食器を洗うくらいの仕事しかできなくなってしまいがちです。私は障害者がご飯を炊いたりおひたしを作ったり、無理のない範囲で主体的に働ける職場にしたいと思っています。

店は週3回だけ開けてメンバーの負担にならないようにしよう、でも作業所としては毎日開けて自炊の練習をします。調理と経理面でそれぞれ協力者がいるので、私の夫と4人で立ち上げようとしています。私ひとりでは無理が出て、それはメンバーに伝わってしまいますので、ゆったりした気持ちでメンバーに無理が出ないように、自立につながるようにやっていきたいと考えています。

<編集部より>籔下様から、後日、下記のお知らせをいただきました。

「カフェ・バルコニー」の構想を少しお話します。

今、私の住んでいる町も、1人暮らしの高齢者が多くなりました。そのような方々を「地域の茶の間 カフェ・バルコニー」に、利用料300円で来ていただき、自由におしゃべりして高齢者同士で、お友達になっていただきます。

支援する側がメンバーです。支援されるのが地域の人々です。お客様は何時間いてもいいのです。希望者は350円の実費で、お昼御飯を召し上がっていただくこともできます。メンバーは、ここで地域の人とともに食事や話をし、しぜんとコミュニケーション能力を身につけます。

障害者という言葉は一切使いません。「社会に適応しづらい人が、社会に出て行く訓練の場」と位置づけします。社会に適応しづらい人はどこにでもいます。そしてメンバーは自炊もできるようになり、親から離れて自立できるようになることが夢です。どうぞ応援して下さい。 

                                      ―了―

けやきと仲間HP  http://keyaki.littlestar.jp/
精神障害者の社会的自立について
http://mitizane.ll.chiba-u.jp/metadb/up/ReCPAcoe/yabushita31.pdf

、                                              

平成17年4月からの新宿フレンズホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿フレンズでは4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿フレンズ会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
どうぞ、この機会に是非賛助会員になっていただけますよう、お願い申し上げます。

賛助会員になる方法        



新宿家族会へのお誘い 

 新宿フレンズでは毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
入会方法 


編集後記

 昨年秋、新宿フレンズ講演会担当役員K氏から1月の講師として、藪下さんの論文(HP)「精神障害者の社会的自立について」を読んでほしいとのメールが入った。早速読ませてもらった。それは、なんとも自然で、ストレートに家族の気持ちを代弁し、希望に満ちたものだった。「是非、講師にお願いしたい」と返事を出した。そして1月、藪下さんの講演会は実現した。

 藪下さん流の精神障害に対する対応、あるいは対策か、その魅力は前任者の真似でなく、オリジナルであることだ。それは、家族がこれまで抱いた疑問、不安、希望、そうしたことに真っ向から取り組むことだ。加えて、行政等との交渉に決して敵を作らず、なんとも不思議に藪下流のもとに事がスムーズに運んでいく。痛快ともいえるやり方は、これまでの精神保健福祉の形態を踏襲するのではなく、患者、家族のニーズをストレートに受け止め、それを解決していくやり方であるといえよう。

 藪下さんのお話から様々なヒントをいただいた。その中で、千葉市、千葉県、千葉大学で繰り広げられた「けやきと仲間」は、メンバーが主体となって運営していく地域活動支援センター?型であるというが、何といっても千葉大学の力が大きい。わが新宿においても大学、専門学校、高校のキャンパスの数は多い。これらの教育の場を借りて、あるいは協働して精神障害の問題をともに考え、行動を起こす必要があるのではないか。

 藪下さんは次に「カフェ・バルコニー」をスタートさせた。次々に企画する藪下流に追いつけ、追い越せが新宿の当面の課題か。      嵜

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新宿家族会 E-mail: frenz@big.or.jp