2月 新宿フレンズ講演会 精神科の急性期治療と家族の対応 |
【統合失調症の一般的な経過】 統合失調症の一般的な経過は、まず前兆期があります。いわゆる幻覚・妄想という激しい症状が出る前の段階です。ストレスが原因となって病気が発症するといわれますが、そのストレスが少しずつ溜まってきて、徐々にその人の限界に近づいている時期です。 【急性期の治療】 急性期には治療が必要と申し上げましたが、治療に関して大事なことを3つお話します。 (1)早めに治療する これは再発のときも同じことが言えます。他の病気、例えば胃がんも早期なら治せるのと同様に、精神科の病気も早めに治療すれば回復が早くなり、良くなり方も一般的にいいとされています。また、ご本人を支える家族の疲弊度といいましょうか、長く苦しむと本人はもちろん周りも苦しいので、それを短くする意味もあります。 (2)事故を防ぐ 急性期は、本人が自分の病気について客観的に冷静に判断することが難しい時期です。すると、どうしても治療にあたり、なんらかの行動制限が加えられてしまいます。これが家族にとっても心理的なストレスになりますし、本人にも非常にストレスになることであるとは思います。 (3)休息と薬物治療 この時期に行う治療は大きく分けて2つあります。1つは、休息、とにかく休んでストレスを減らす。もう1つは薬物療法です。この時期の薬の使い方は2通りあります。 入院が必然的な急性期の症状が出た場合、つまり何らかの事故を起こす可能性や、すごく心配な出来事があるから入院するという場合は、事故が起こらないことを目的に、まず薬でしっかり抑えることが多いのです。点滴や注射を使うこともあります。家族がご覧になって、ボーッとしていて沈静がかかりすぎているのではないかと感じることがあると思いますが、その理由の1つ目はこれです。 【急性期の家族の対応】 (1) いかに早く治療に結びつけるか 急性期は、とにかく治療を受けないことには始まりません。例えば、軽い胃の痛みを放っておくとだんだんひどくなるので、本人もまずいなと思って、いずれは病院に行く。ですが精神科の場合、具合が悪くなって症状も悪くなると、どんどん病院から遠ざかって、どんどん行きにくくなるという特殊性があります。 (2)患者さんのつらさ・苦しさに共感する 幻聴や妄想のつらさというのは、体験した人にしか分からない感覚です。私もよく「そのつらさが分かるよ」と言うのですが、そうすると「先生には分かりませんよ」と言われてしまいます。その通りなのですが、「つらいよね」というところに気持ちを沿わせることが非常に重要です。 (3) ごまかさずにきちんと話す 精神科医ですらしてしまいがちなことに、その場をごまかそうとすることがあります。医師は、精神疾患としてきちんと医学的処置を施して幻覚・妄想を治し、よい状態にしたいという立場です。それと、幻覚・妄想は本人にとっては事実で、そのことでつらいんだという立場では、接点がかなり少ないのです。そのため、何とかその場を上手くごまかして薬を飲ませてしまおうとか、何とか言いくるめて病院に連れて来てもらおうとしがちです。 (4) 分からないことはどんどん質問して主治医と協力を ぜひ主治医と協力していただきたいと思います。さっきも申し上げましたが、急性期の治療は患者さんの意思に反して行われることがたくさんあるので、見ていて家族も不安になることがあると思います。「こんなところに入院させられてつらい。家に帰りたい」と言われれば、どんな扱いを受けているのだろうかと心配になるでしょうし、「この薬をのむと眠くてだるくて」といわれれば、主治医はそんなひどい薬を出しているのかと思うでしょう。 (5) 家族は入院中の重要なサポーター 入院中、特に最初の時期は、本人にとっては病院に突然連れてこられ入院させられたら不安です。頼りになるのは家族です。入院というと「病院にお任せします」という感じもしますが、やはり重要なサポーターとして、家族が落ち着いて安心して病院に治療をゆだねている、という関係がとても大事だろうと思います。 (6) 家族の健康も重要 急性期に限った話ではありませんが、家族が自分の生活や人生を犠牲にし過ぎないことは非常に大事だと思います。長丁場ですので無理をすると持ちませんし、無理をしているという思いが家族のストレスになると、それはそのまま患者に反映されてしまいます。 【会場からの質問】 司会:それでは皆さんから頂いた質問表を元に話を進めたいと思います。 質問者Aさん:38歳男性が統合失調症で未治療です。どのように医療を勧めたらいいでしょうか? 参加者Bさん:わが家の場合は妻を、最終手段という形で民間救急を使って入院させました。統合失調症だと思ったので、それ以前に病院に行こうと声をかけてはいましたが、急性症状が出て三ヵ月たってマズイと思い、まずはめぼしい病院に電話をかけて、どうしたらいいかを聞きました。 司会:その後、奥さんのご主人に対する不信感といった感情が出てくるようなことはなかったでしょうか。 Bさん:そういうのはなかったです。 司会:移送にお金はどのくらいかかりましたか? Bさん:当日、現金で28万円です。 司会:Aさん、これも1つの形ですね。当事者をどのように病院につなげるかは、誰でも悩むことです。新宿フレンズ主催のメーリングリストの情報では、インターネットや民生委員を通して、一番安い3万円の民間救急を探して入院させた、というお話しもありました。病院につなげるには、Aさんのように家族の工夫と努力が望まれます。 質問者Aさん:入院ではなくて、通院をさせたいのです。 Cさん:知り合いで、保健所のドクターに訪問診療をしてもらったケースがありました。それで医療につながりました。地域の保健所に相談されてはどうでしょうか。 山澤先生:保健所には、嘱託の医師が行って、精神保健相談をしています。 質問者Aさん:でも本人に断りもなく医者が来たら、また本人が怒るのではないかと心配です。 Cさん:お子さんは、自分の足で行くのはいやだけれど、来てくれる分にはかまわないと思っているかもしれません。聞いてみては? 質問者Aさん:閉じこもって10年くらい経ちます。必要なものを買いに行くことすらしません。保健所に行ったりしたら、地域の人に知られたりしませんか? 山澤先生:守秘義務があるので大丈夫です。病院の医師はカルテがない患者を訪問することはできませんが、保健所ですと医師も保健師さんも訪問することができます。まず、家族の方が保健所に行って段取りをつけ、本人に話してみてはいかがですが。いやがられるかも知れませんが、伝えておく必要はあると思います。 (抜粋表記) |
平成17年4月からの新宿家族会ホームページ「勉強会」の表示形式について
新宿家族会では4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿家族会会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。 |
新宿家族会へのお誘い 新宿家族会では毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。 |
編集後記 三月。桜前線の北上の話も出てきた。テレビではランドセルの宣伝もやっている。なんとなく吹く風が暖かくなったような気がする。春遠からじ。 今月は久しく遠ざかっていた「急性期」の話題で山澤先生にお願いした。年々歳々急性期の問題は繰り返されている。つまり、次から次へと新患さんが生まれている、ということであろう。そして誰しもが言う「うちの子が精神の病?」「そんなはずがない」。そして、入院となって、一段落して「あの時気がついていれば」の後悔の念。 これが精神の世界に行なわれる年々歳々の行事といえばおちょくりになるが。しかし、こうも言いたくなるほどの繰り返しである。 患者にしても家族にしてもこの大事な部分でありながら、経験した者しかわからない歯がゆさがある。これも誰もが言う言葉「こんな苦しみは私だけでいい」。しかし、発症者は減るどころか増えている状況だ。 毎回同じことを言うが、宇宙技術、IT技術、ロボット技術、ビジネスの世界での技術開発は止まることを知らない。しかし、一方の精神科の世界のなんと開発の遅さよ、と嘆くのは私だけか。 考えるに、これは宇宙技術、IT技術、ロボット技術より数段、数十倍の難しい技術なのであろう。それは人間の心理の世界の解明の後に来る技術であるからだと憶測する。人間の心理を数値やレベルで測ることが出来るのか。精神科の困難さは、そうした人間学とでも言う崇高な学問かも知れない。それを理解して我々は患者たちと接していく必要があるのではないか。精神とは超宇宙学問? 嵜 |