2月 新宿区後援事業 新宿フレンズ講演会

  急性期の症状とその対応 〜病識について〜

 
                講師 慶應義塾大学医学部  山澤 涼子 先生

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【ストレスと脳】

 人間にはストレスに耐え得る限界があり、その限界を越えないよう無意識に自ら調整をしているのです。ところが慢性的なストレスの蓄積や、大きな出来事(ライフイベント)があり、そのストレスを調整しきれなくなって限界を超えてしまうと、体調の変化が生じます。これを脆弱性ストレスモデルといいます。ストレスの限界値は人によって違い、各々の性質などにも関連します。

 誰でもストレスがかかると、最も弱いところに影響が出てしまいます。例えばストレスの影響が胃にきやすい人は胃の中の化学物質が出すぎて胃が痛くなります。脳はことにストレスを受けやすい部分で、ストレスのため神経伝達物質であるドーパミンという化学物質が過剰に出ると統合失調症、セロトニンが不足すると、うつ病や社会不安障害、強迫神経症などになり、アドレナリンが不足でも、うつ病を発症するといわれています。

【病気の症状と経過】

○前兆期 統合失調症を発症する前に、不眠やイライラ、音に敏感になるなど、明確な精神症状の一歩手前の症状が出る時期です。この時期は、当人や家族が気をつけて休息をとったりストレスを減らすことで症状が落ち着くなど、家庭で対応できる可能性がある時期です。

○急性期 残念ながら限界値を超えてしまった段階、グラフの山が一番高い状態です。幻聴、妄想、幻視、混乱、興奮などの陽性症状が出ます。すでにドーパミンの過剰分泌が起こっているので、薬物治療が必要です。

○休息(消耗)期 急性期の症状が服薬治療や入院で落ち着いたあと、やっと退院してきたのにゴロゴロ寝てばかりとか、億劫で何もやる気がしない、話かけてもボーっとしているといったような、全体的に元気がない時期を通ります。

これはいわば病み上がりの時期です。例えばスポーツ選手が骨折をして、レントゲンで見てくっついたからといって、翌日から全力疾走はないでしょう。足に負担をかけないようにしてトレーニングをする時期も必要というわけです。

○回復期 休息期を越えると上向きになってきます。だんだん周囲への関心や意欲が出てきて、服薬はきちんと続けながら徐々に社会復帰を進め、やれることを広げていく時期になります。

【早期発見・早期治療の大切さ】

 さて、本題の急性期治療の話ですが、急性期は既にドーパミンの過剰分泌が起こっているので、この時期は、ストレスが原因だからとストレスを減らしたり休息をしっかりとるだけでは、もう間に合わない段階です。急性期は必ず治療が必要で、医療への手助けを求めなくてはなりません。

 当たり前のことなのに、世の中で当たり前になっていないのが、体の病気と同じで、精神疾患も早期発見・早期治療が非常に大切だということです。これは再発でも同じことが言えます。再発も放っておけばおくほど治療が難しくなります。急性期の幻聴や妄想が生じてから治療が開始されるまでの平均期間が、残念ながら実は一年以上というデータがあります。どこの国で調べてもだいたい同じ1〜2年の時間がかかっています。非常に悲しいことです。 

【治療の遅れのデメリット】

 治療が遅れることによるデメリットとしては、まず回復の遅れや経過の悪化が挙げられます。それから社会で生きていくために必要な心理社会的技能の低下です。幻覚や妄想が出てから治療に行くまでの間は、社会との関わりが減ってしまうため、人とのコミュニケーションや仕事をするために必要な技能、社会で生活していくための様々な技能の低下してしまうのです。
 3番目に周囲からの支援の喪失です。長期間、医療や福祉の手も借りずに、病気に苦しんでいる患者さんと、ずっと一緒にいるご家族は、心も体も疲れてしまいます。

【なぜ治療開始が遅れるのか】

1)知識が無くて気付かない。

2)気付いても病院に行かない。

3)本人が医療を拒絶する。

【「病識」がなくても、「病感」はある】

 本人が拒絶するからなかなか病院に行けないという苦労をされた方も多いと思います。無理に連れて行く、もしくは説得するために何ヵ月もかかった体験をされた方もいらっしゃることでしょう。そこで出てくるのが病識という言葉です。これは病気であることの意識という意味ですが、よく統合失調症の人は病識がないといわれます。それは、妄想は訂正不能であるためです。

【つらさに共感することが大事】

 幻聴や妄想がある状態では、本人は居心地がよくありません。ですから、その辛い所に共感して心を沿わせることが大事です。これは、本人が納得いかない病院に連れて行くためだけではなくて、治療を受けいれて通院している段階でも、つらさへの共感をしていただけるとよいと思います。
 初めて幻聴が聞こえたときには、違和感があるはずです。「誰もいないのに声が聞こえるのはおかしい」とは思っているに違いないのです。でも知識がないために、これが病気であることが分からないし、どうしたらいいかも知らないので放置してしまう。

 日本人は医者が大好きですが、行きたがらないのが歯科と精神科です。その二つの決定的な違いは、歯医者は放っておけばどんどん痛くなるので、最後には仕方なく行きます。しかし統合失調症は放っておけば、どんどん病院との距離が遠ざかるという病気です。再発のときにも全く同じことが言えるので、おかしいなと思った時点で、病院との距離が遠くなる前に行くことが必要です。

【病識と、急性期治療の特徴】

1)治療の承諾と事故予防 今の時代医療の基本はインフォームド・コンセントです。ご本人に治療の説明をして同意を得ないと、治療はしてはいけません。仮にがんがあっても、ご本人が手術をしないと言うのであればできません。ところが精神科の場合は、病識がない本人の同意なしに、やむを得ず治療を開始することがあります。治療をきちんとすれば良くなって、そのときに本人に理解を求めます。ですから物事の順序が逆になることがあるのです。

2)薬の使い方の違い 事故を防ぐためには、本来の薬の使い方とは違った方法をとることもあります。本来、薬は副作用に気をつけて飲み心地を気にしながら少量から使い始めます。ところが急性期には、まず多めに薬を使って、しっかり効果を確認してから減らしていくという、逆の使い方が行われることがあります。治療のやり方が逆なので、本人も家族も心配することが起こり得ますが、事故を防ぐことが最優先されることを、是非覚えておいてください。

3)入院治療の判断 病識のない本人を入院させるかどうかですが、現在は外来で急性期治療をすることも増えてきました。いい薬が出たり、いろんなサービスが使えるようになったからです。ですから入院させるかどうかの判断は、外来では事故が防げないかどうかです。家族への暴言暴力が度々あれば、これ以上繰り返されないように入院となります。

【急性期の家族の対応】

 急性期や残念ながら再発してしまったときの家族の対応は、何より早く治療に結び付けることが一番です。
 次に、できるだけごまかさずにきちんと話すことです。病識がないので何とか納得させて治療させようと「検査入院しましょう」とか、「3日間いればいいよ」等、いい加減なことを言って入院させて、実は数週間の入院となると、裏切られた感じがしてしまいます。
 しかし、「幻聴があるから薬をのみなさい」「精神科に行こう」では承知しないでしょう。「あなたの今の様子は眠れてなくてつらそうで心配だから、ちゃんと病院で診てもらいましょう」と言われてきたのと、レストランに行くと思ってついてきたら病院だったというのでは全く違います。最初から不信感を抱くと、医師との信頼関係を作るのに何日もかかってしまいます。

 家族への信頼関係も大切です。ごまかしてしまうとその場では良くても、信頼関係がなくなって、後々、治療に差し障ることもあります。再発の時も「私はあなたのいい状態を知っている。また調子を崩してしまうと嫌だろうから病院で相談しよう」というふうに言っていただけると、理想としてはいいなと思います。
 治療上も大事なことは、主治医と協力することです。本人は自分は病気だという明確な意識もないまま入院させられて、なんだか分からないまま点滴されたり薬を飲まされたり。最初は多めに薬を使うので、薬をのんだらボーっとするし、本人にしてみれば最初から主治医を信頼するのは無理な話です。                   ---了---

(質疑応答は省略)
                                                     

平成17年4月からの新宿家族会ホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿家族会では4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿家族会会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
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 新宿家族会では毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
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編集後記

ようやく桜の便りが聞こえる頃、なにげに吹く風もぬるくなったような気がする。

 今月は山澤先生から「急性期の対応」というかなりプリミティブな話題でお話をいただいた。しかし、その中でも気付かされること大であった。

 家族が割と陥りやすいのが患者さんに対する対応の一つで、ウソを言って薬を勧める、あるいは病院に連れていく。そしてウソがバレて反発され、状況を悪くしているケースが見られる。そのやり方が全くいけないことではないが、こうした対応に慣れてしまうことが恐ろしい。

 その一方では患者さんに至れりつくせり、を繰り返している場合もある。山澤先生は「ご本人のストレスだけを減らしても再発率はあまり下がりません」と言いきっている。

 問題は前者も後者も患者さんを一人の人間として見ているだろうかという点だ。どちらのケースも、その対応に間違いはないのだろうが、患者さんを責任ある、立派な一人の人間として見ていたなら、ウソは如何様につくのか。本人の身の回りにどのように手を伸べたらいいのか。賢人なら考えつくであろう。斯く言う私はまだまだだが。

 そんな中、中村ユキさんの「わが家の母はビョーキです」が爆発的に売れているようだ。「精神障害の基礎知識」とでもいうべきプリミティブな内容ゆえか。振り返れば、私も息子の発症時、精神科について何も知識がなかった。せめて、「母ビョーキ」から教えられる程度の知識があれば息子の症状は大きく変わったであろう。教育関係者に進言する。この「母ビョーキ」を教材として採用してほしいと。                       嵜

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