新宿区後援・11月新宿フレンズ講演会

 イギリス見聞録 精神医療と福祉

                  講師 大泉病院 山澤涼子先生

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 2009年から2年半、イギリスのケンブリッジにいました。ロンドンから80?の大学町で、人口12万人。私たち夫婦が住んだのは築60年の、近隣では新しいとされるフラットで、周りはもっと古く、ハリー・ポッターの映画の薄暗くて街灯が黄色っぽくて古い家が並んでいる、まさにあんな感じの町でした。町を流れるケム川では、毎朝ケンブリッジ大学の学生たちがボートの練習。川沿いの公園では、なぜか放し飼いの牛がのそのそ歩いている横で犬が散歩していて、そこを子供が走り回っている、日本人にはビックリの光景が広がっていました。

【イギリスの国営医療サービス制度】

 イギリスの医療制度は、「ゆりかごから墓場まで」という有名なスローガンに則ったNHS(National Health Service:国営医療サービス)で網羅されています。生まれてから亡くなるまで公平なサービスを提供しようと完全に無料。私のように6か月以上イギリスに滞在可能なビザを取得している外国籍の人も、NHSのサービスをただで利用することができます。

 日本との大きな違いは、日本は健康保険料が税金と別に徴収されていますが、イギリスでは80%が税金で運営されています。システムも違い、地域ごとにまず国の予算を配分し、PCT(Primary Care Trust:初期医療トラスト)が地域の医療機関と個別に契約して予算を付ける。日本では、この医療行為は何点と保険点数が全部決まっていて、病院が医療保険側に書類を提出し、その分が支払われるという出来高システムです。イギリスでは、例えばA病院は虫垂炎の手術は最初から年間100件分と予算が決まっており、101件目からは病院の持ち出しになる。仮に80件で終わると、80件分の料金に足して少なく済ませたというご褒美がもらえるというシステムになっています。

【手厚い精神医療対策】

 しかし、こと精神医療については、いろんな面でイギリスは進んでいます。日本ではこの2011年に、精神疾患もようやく五大疾病に位置づけされ(がん、脳卒中、心臓病、糖尿病、精神疾患)、今後の扱いが期待されています。イギリスではブレア首相の時代、15年ほど前に、がんと心臓疾患と並んで精神疾患が三大疾病に指定され、予算が大幅に増えました。そして「The mental health national service framework 1999」という枠組みが決められ、以下の7つの目標が掲げられました。

・精神的健康の増進:精神疾患や精神疾患サービスに対する偏見(stigma)をなくすようなキャンペーンと雇用です。イギリスは日本と比べて失業率が高いのですが、「雇用がなくて経済的に困窮すれば精神疾患の原因にもなり得る」ということで、健康な人たちにも雇用の促進をし、ホームレスの支援もしています。

【精神医療の現状】

 1990年代から、ヨーロッパを中心に脱施設化で精神病床が削減されて、イギリスでもどんどん減っています。イギリスは精神病床の90%は国営で、日本は逆に90%が民営です。

平均在院日数は、日本315日に対してイギリスは85日。ただし、新しく入院してきた人の入院期間は、アメリカでは極端に短いですが、イギリスでは日本とあまり変わらないようで、1〜3か月のペースで入院治療している印象です。日本の入院日数が長いのは、脱施設化が遅れている分、何十年もの長期入院の人がいることが影響していると考えられます。

精神科の医師、看護師、心理士の数は、圧倒的にイギリスが多い。精神科に限らず、医療全体でも日本より多いです。

自殺者は、イギリスはずいぶん少ない国です。日本の半分以下となっています。

【入院・通院の制度】

 日本にも精神保健福祉法という法律がありますが、同じような法律がイギリスにもあり、Mental Health Actといいます。

 また、Approval Mental Health Professionalsは、日本の精神保健指定医と同じように、ある程度の経験をして強制入院や行動の制限をすることが出来る資格を持っています。任意入院はInformalといい、医療保護入院・強制入院をSectionと言います。こうした入院の形態は、日英かなり似ている感じです。

【精神医療のケア体制】

 私が参加したCAMEOというチームは、各地にあるPCT(Primary Care Trust)のひとつCambridge shire &Peterborough NHS Foundation Trust(CPFT)に属しています。CPFTは精神科だけのトラストで、スタッフは2500名いて75のチームがあり、その1つがCAMEOです。CPFTに所属する病院には、イギリスの脱施設化の先駆けになったFulbourn Hospitalという病院もあります。とても広い敷地に病棟がポツンポツンと建っていて、かつては何百人も入院していたのですが、今はおそらく入院患者より敷地内に住むウサギの数の方が多いくらいです。その隣にあるIda Darwin HospitalにCAMEOの事務所があったのですが、進化論のダーウィンの息子の妻の名が、精神障害者へのボランティア活動の功績により付けられたそうです。 

【CAMEOの活動】

 CAMEOは北チームと南チームに分けて活動しています。コンピュータでCAMEO Cambridgeと検索すればホームページhttp://www.CAMEO.nhs.uk/ が出てきます。ただ、私が帰ってきて半年たつんですけど、メンバーに私の顔写真がまだ載っている(笑)。上の方の日本語をクリックすると、グーグル翻訳されて日本語で読めます。

 スタッフは、専門医5名、研修医5名、地域精神科看護師という資格を持っている看護師約15名。作業療法士3名、臨床心理士3名、ソーシャルワーカー5名、Support, Time, and Recovery Workerという患者のニーズに寄り添って対応するSTRワーカー6名、研究に携わるリサーチナースや研究助手が約10名、事務3名で、北と南に2チーム置いていました。

 最初のアセスメントをした際に、年齢範囲の確認や、この人は知的障害の方が問題となればそのサービスに紹介する、精神疾患でなければGPに戻すこともあります。アセスメントの結果CAMEOのケースとなった場合には、最初の3か月以内に家族に必ずコンタクトを取って家族のアセスメントもして、そこからCPA(Care Programing Approach:治療計画)を立てます。その後は治療計画に沿って支援をして、精神症状の安定、社会復帰とか学校に通うなどの未来の目標を持ちながら、治療計画を3か月毎に見直します。

 CAMEOは、地域に住んでいる方を地域で看ようというチームですが、割と気軽に入院も利用していました。入院させるほどではないが、かなり調子が悪くて心配な人たちをごく短期間看るHome treatment teamもあります。例えば、お薬をきちんと3回飲めば入院しなくて済みそうとなれば、1日3回薬を飲ませに行き、服薬を確認するとか、1日に何回も訪ねて何とか入院させずに看ます。

【Mind、Rethinkなどの団体】

 イギリスはチャリティ発祥の国、貴族社会の名残で、少しでも余裕がある人は1個や2個のチャリティ団体に関ることがステータスという感じです。私の英語の先生は、オックスフォード出身のハイソサエティでしたが、ご夫婦であちこちのチャリティにお金を出していました。年に1回その基金を使って成果を出した人を表彰する会があって、大学の一角で如何にも上流社会の人たちが難解な講演を聞いて「私たちのお金でよい研究や活動をしたね」と喜んで、立食でワインを楽しむといったパーティが毎夜のように行われていました。

 精神障碍者・精神病患者を支える一番大きなチャリティのひとつに、Mindがあります。1908年に創立されて、100年以上の歴史のある団体です。イベントが盛んで、チャリティマラソンなどお揃いのTシャツを着て走って参加費や募金をつのったりして資金を集め、グループホームをたくさん提供したり、仕事のスキルを身に着けるための講習会Skills Buildingを開いたり、お友達をつくるBefriendingサービスや、イギリスらしくサッカーチームを作ったり、精神疾患への偏見をなくすためにAnti-stigma campaignを大々的にやったり、精神疾患を早めに見つけてケアするように企業に出向いて管理職教育のMental Health First Aid講演会など様々な活動をしています。

 日本にあまりない概念は、Young carer「若い介護者」を意味しますが、親やきょうだいが障碍者で、自分の生活を犠牲にして世話をしなければならない子どもや若者たちのことです。この子たちを支えようという動きも活発で、Young Carers netというホームページにはチャットもあり、インターネット上で皆で悩みを話したり、テレビのドキュメンタリー番組でもYoung carerをよく取り上げていました。私がいたCAMEOチームでも、Kids & Simsというグループがあって、1日家のことを忘れて楽しもうという兄弟外出企画などが提供されていました。

【帰国後感じた日英の違い】

 さて、後は雑談です。2年半イギリスにいて、帰国してびっくりしたのは「日本人しかいない」こと。こんなに単一民族しかいない国って珍しいんです。

イギリス人は他人にどう見られているかをあまり気にしない人種で、おしゃれをしている人はロンドンに一部いるだけ。男はサッカーのユニホーム、冬になるとその上にダウンジャケットを一枚羽織っているだけ、女の子も可愛くしている人は本当にいなくて、日本の街行く女の子がキラキラしてて目を奪われました。

それからヨーロッパでは自転車は完全に車の扱いで、歩道を自転車が走ろうものなら怒られちゃう。帰国して歩道で自転車に何度もひかれそうになりました。

イギリスの店員さんは本当に謝らず、向こうが悪くても逆切れされることも度々あります。“This is not my responsibility”「これは私の責任じゃない」というフレーズを何百回と聞いてきました。日本だと「ポイントカードお持ちですか」と聞かれて「持ってません」というと、「申し訳ありません」と、逆に店員さんに謝られてしまう。これには非常に違和感があります。

日本のトイレの温かい便座も優れものですが、音を聞こえなくする音姫などというデリケートな仕掛けはイギリスにはなくて、みんな盛大に音を立てていました。お皿の洗い方も石鹸がついていても平気。イギリスのご飯は美味しくないので、久しぶりに食べた日本のコンビニのおにぎりの美味しさに感動しました。

イギリスでは電車は遅れてくるし、郵便は不在だと家の前にポンと小包が置いてある。ケンブリッジは割と治安のいい街なのですが、誰かが持ち去っても永久に気付かないかもしれない。配達を頼むと時間指定がないので一日中居ないといけないし、インターネットがつながるまで1か月とか、そんなビックリさせられることが山ほどある国です。

けれど、基本的に皆さんすごく親切で、目があったら知らない人でも笑顔で「こんにちは」という。日本ではそんなことをしたら変な人だと思われる。日本の当たり前はずいぶん水準が高くて、いい国なんですけど、反面、精神的にはしんどい国なんだな…とも思います。
                                    〜了〜

平成17年4月からの新宿フレンズホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿フレンズでは4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿フレンズ会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
どうぞ、この機会に是非賛助会員になっていただけますよう、お願い申し上げます。

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新宿フレンズへのお誘い 

 新宿フレンズでは毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
入会方法 


編集後記

 毎日歩いて感じるのは今年のイチョウの葉のきれいなことだ。逆光に照らされた葉が黄金の輝きを放っている。並べて今年は紅葉が鮮やかだ。そんな年の冬はどんな冬となるのだろう。

 御帰りなさい、思わずこう挨拶をしてしまった。2年半ぶりに山澤先生が帰って来たのである。私の憧れの地でもあるイギリスに行っていた。そして、イギリスの精神医療の世界を紹介してくれた。

 先生が生活していたケンブリッジは人口十二万人。会津若松市、近くでは埼玉県戸田市とほぼ同じである。そこにCPFT精神科トラストでは2500名の精神科スタッフがいる。

 その中のCAMEOという1チームに属して先生は活動をしていた。チームには精神科専門医始め、精神科看護師、作業療法、臨床心理士、ソーシャルワーカー等々、およそ数十名の陣容である。看護師または作業療法士が必ず患者につく。一人の看護師が受け持つのは15名まで。1日の患者への対応は3名だという。なんとも羨ましい話ではないか。

 図表でみると精神科病床数では人口10万人に対し275(日本)対60(イギリス)。平均在院日数315日に対し85日という数字だ。

 いつも思うのだが、日本は車、工業製品やスポーツでは世界に冠たる成績を上げている。しかし、こと精神に限っては明らかに後進国である。民意の低さなのか?嘆いていても仕方が無い話だが、早くから子供たちに教育を進め、少なくても今の子供たちが大人になる頃には精神障害者が堂々と道を歩けるようにしたいものである。ともかく、山澤先生のリポートは概念としてしか理解できなったイギリスの精神障害を興味深く聞くことができたのは良かった。              嵜

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新宿家族会 E-mail: frenz@big.or.jp