新宿区後援・6月新宿フレンズ講演会

暴言・暴力への対応
予防が大切

講師 大泉病院 精神科医 山澤涼子先生

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これからお話することは、家族と治療者の立場の違いもあり、各ケースにもよるので「そうは言ってもそんなにうまくはいかない」というところもあるかと思います。ですが、自分が精神科医として関わる中で受ける暴力や暴言が「最近は減ったな」と思えるのは、自然に対応の仕方が身に着いたのかと、そこに基本的なコツが身についたこともあるかと思います。若いころと異なるのは、「事前に気づけるようになった」ことが大きい。つまり「予防が大切」ということです。

【症状だから、傷つかないで】
 他の科の医師に、「患者から酷いことを言われて傷ついたり落ち込んだりしない?」と心配されることがあります。もちろん無いわけではないのですが「症状であって、その人そのものではない」と受け止め、目の前にいる患者さんは、自分を憎んで攻撃しているのではないと割り切っています。家族ではないからわりきれるのかもしれませんが、家族も「どれだけ症状だと割り切れるか」がポイントになります。
 そして、だからこそ「誰も傷つかない」ことがとても大事です。暴言を吐いた本人の心の面でも、本当に相手が憎くて暴言を吐いているのでなく、症状が言わせているのです。それで相手が傷ついてしまうと、良くなってから「あんな酷いことを言ってしまった」となってしまう。

【イライラの度合いに気づく】
 もう1つは予防です。「あれっ?いつもと違う」とか「こういう時は前も荒れた」みたいなことに、いかに気づけるかです。これは再発予防や発症前の前触れに気づくことにもつながる話です。
 患者さんは具合が悪い時は妙にイライラしたり、気が立ったり、ちょっとしたことでカッとなる、それが症状なのです。もちろん何らかの理由やきっかけがあってのことですが、イライラの度合いがぐっと上がっているし、ちょっとしたことでイライラする、これを「被刺激性亢進」と言い、名前がつくほどの「症状」なのですね。

【妄想は訂正不能
 妄想や幻聴に対してのイライラもあると思います。ちなみに、妄想の定義は、簡単に言えば「訂正不能な間違った考え」です。
 本人にしてみれば事実です。それなのに証拠を次々に出して否定されると「家族は分かってくれない」となってしまう。もちろん家族は本人を安心させようと説明しているのですが、それが却って逆効果になることもあります。「もしかすると、家族もグルなのではないか?」となる方もいます。
 家族にすれば現実にあり得ないし、実際にないことに対して怒るので、「誰もそんなこと言ってないよ。そんなことでイライラされても困る」と思う。説得が功を奏しないので、家族は徒労感や辛い気持ちが増すでしょう。
 ただ、暴言を浴びている最中では難しいと思います。しかし「そんなこと絶対にないから安心しなさい」よりも、「そんなことないとは思うけれど、もしそうなら怖いよね」と共感を示すほうが、イライラを鎮めるきっかけになり易いことを覚えておけば有効でしょう。

【暴言は普段の思いではない】
 脳の化学物質のバランスの乱れ、脳の機能不全によって起こる気分の障害による暴言や暴力もあります。気分の波があって、ちょっとしたことでカッとなって「お前に何がわかる」という具合に怒ってしまう。逆にうつ状態の時に、自分のふがいなさや物事が上手く行かないことにイライラして、うつなのに攻撃的になってしまうこともないわけではありません。被害妄想や幻聴に対してイライラして「お前もグルだろう」と怒鳴ったりしますが、そちらは事実とはそぐわないので「症状だ」と割り切り易い。
 ところが、前回にお話しした双極性障害の場合は、躁状態だと自分は何でもできて偉くなった気持ちになるので、周りの人に対して居丈高、攻撃的なことを言います。しかも頭の回転が速く、いろんなことに目が行き届いて、いろいろ気づいてしまうので、こちらが触れてほしくないような、言われるとグウの音も出ないようなことを、ものすごい勢いで責められることが結構あります。「言っていることはあながち間違っていないが、そこまで言わなくても…」と周りが傷つき易い暴言に至ることが多く、私たち治療者もこたえることがあるほどです。

【興奮させないために】
 夫婦喧嘩でも興奮して抑えていたものがいったん吹き出すと、抑えるのは大変です。したがって、これが症状で興奮してしまったら、止めるのは極めてエネルギーのいることです。イライラ興奮し易いと家族も大変ですから事前の予防はとても大事です。

予兆のパターンを見つける:怒るきっかけになり易い出来事は、その場面をよく思い出したり記録をつけたりすると、割と見つかります。このパターンで興奮することを知ると予防しやすくなります。「扉をバンと叩きつけて閉めた」「体に力が入って固くしている」など、何か我慢していることがあって緊張して爆発寸前、というような予兆に気づくことが大切です。

【興奮している時の対処】
 
興奮してしまった場合には、どのように対処すればよいのでしょうか。
声のトーンを落とす:相手が興奮すると、こちらも躍起になって動揺したりイライラしがちですが、それが刺激になって本人はますます不安になり興奮してしまいます。声のトーンを一段階落とし、心がけてゆっくり話すこと。「こちらは大丈夫だよ」という意味で、落ち着いて自分のペースを保つことが大事です。

味方だよというメッセージ:本人を尊重しているという態度はとても大事です。「そういうことがあったんだね」「守ってあげるよ」と、味方だという言葉を発することが大事です。

物理的距離を取る:寄り添いたくなりますが、場合によっては少し離れるほうが良い時もあり、離れるだけで解決する場合も結構あります。病院でも患者さんが興奮するとスタッフが集まってきてしまうのですが、様子を見て「ちょっと離れようか」と引くと落ち着くこともあります。距離を取るのも1つの大事な選択肢です。

【誰も傷つかないために】
パーソナルスペースの確保:万が一、手が出てしまった場合、手が届かないところに居てあげることが、「誰も傷つかない」ためにも必要なことです。
 相手が辛そうだと、どうしても近寄って何とかしてあげようと思います。私も割と患者さんとの距離が物理的にも心理的にも近いと言われるのですが、殴る気がなくても、つい出た手が私を叩いたら、傷つくのは患者さんだったりする。万が一そうならないような距離を取っておくのは、相手のためにも大事だとだんだん学びました。

真正面に立たない:真正面は緊張を生むので、45度とか少し斜めに座ると安心感を与えます。

上から見下ろさない:相手が座っているときに、こちらが立って話をすると威圧的で、それだけでもイラつかせることになります。基本はむしろ座って下からです。
 視線は同じ高さ、もしくは少し下のほうが安心につながります。正面に立たないからといっても、やはり目は見たほうが一般的に良い気がします。ただ、日本人は目と目をじっと合わせるのは得意ではないので適宜にですが、目を見るということは信頼の証になるので、時に応じてきちっと目を見て、穏やかなちょっと低めの声で静かに話すと良いと思います。

自分の感情を明確に伝える:相手を尊重し理解していても、暴言を吐かれたら悲しいし傷つきます。そういう気持ちを相手に伝えるのは、決して悪いことではありません。責める形ではなく、「そう言われてビックリした」とか「興奮しているあなたを見ていて心配だ」などと、感情を伝えます。

話したことを認める:イライラや不安の原因を話したら、「話してくれてよかった」「そういう気持だと教えてくれてありがとう」と、伝えてくれたことを肯定することは有効です。

約束事の確認:暴力には予防が大切と「きっかけと予兆と対処法を事前に約束しておくと良い」とお話しましたが、興奮している時には本人は忘れているでしょう。でも「こういう風になった時はこうしよう、と決めたよね」伝えると、そこで思い出せたりします。

相手の訴えを言い換える:相手がワーッと言ったことを、「そうか、あなたが言いたいのは、こういうことなのね」「こういうことでイライラしているのね?」「こういうふうにしてほしいのね?」などと言い換えると、有効に働くことが多いと思います。
 不安を冷静な言葉で置き換えて返すと、「そういうことなんだ」と本人も納得し易いし、家族が自分のことを理解してくれているという安心感にも繋がります。

自分のパターンを知っておく:きっかけ・予兆・対処方法は家族も同じで、強く言われた時に「私は攻撃されると自分もイライラしてしまう」「こんなことを言い返して怒らせてしまう」などと、自分の癖やパターンを知っておくと、気をつけることができます。

複雑な話はしない:イライラしている時に複雑な質問をしたり、「説得しよう」「落ち着かせよう」と、あれこれ言うとかえって混乱するので避けたほうが良いでしょう。シンプルに「今は1人にしてほしい? それとも横に座っていたほうが安心する?」とか「何が辛いの?」など短いセンテンスで話します。

人を変える:母親が対応して落ち着かなければ、父親が対応する。あるいは病院に電話して主治医に出てもらうとか、対応する人を変えるのは効果的です。病院でも担当の看護師さんで治まらない時は、別の看護師さん、それでもダメなら主治医と人を変えることで上手くいくことがあります。

時間を変える:「ちょっと空気を吸いに外に出ない?」「お茶でも飲まない?」のように、後回しにする、一呼吸置くなど時間の流れを変え、気分を変えます。

行動を変える:「不安な気持ちやイライラする感情をどうしたら抑えられますか?」と、よく相談を受けます。精神科医として学んだことの1つに「気持ちは変えられない」があります。思いとか気持ちとか感情は勝手に湧いて来るものなので、例えば今のネガティブな気持ちをポジティブに変えることは、ものすごく余裕があってコツを身に着けた人ならできるかもしれませんが、とても難しい。「気持ちは変えられない」と私は言い切っています。

助けを求める:それでも上手くいかない時は多いでしょう。最悪の場合、「外へ助けを求める」ことを躊躇してはいけない場面もあると思います。
 自分たちだけで何とかしようとしたせいで、かえってこじれることがありますし、先ほどの「人を変える」で家族の中で、お母さんが頑張ってみた、お父さんも頑張ってみた、約束事も確認した、ちょっと本人も努力したけれども上手くいかない時は、第三者に頼ることも必要です。最後は警察ということもやむを得ないし、あり得ます。

治まりかけは大事なとき:気持ちが落ち着きかけてきた時の対応は大事です。治まりかけの時は家族も医療スタッフも安心するとともに、暴言や暴力を振るってきた相手に対して責める気持ちが出てきたりします。するとつい「何であんなことしたの?」「次に暴力を振るったら入院だからね」などと責めてしまうことがあります。
 治まりかけというのは本人も何とかしたいと頑張って「落ち着こう、落ち着こう」としている時なので、家族はもう一息、安心させるスタンスで付き合うと、その後がスムーズと思います。

【症状であることを忘れずに】
「恨んでやる」は症状:
私たちがよく遭遇するケースとして、家族が「何とか病院に連れてきました」、本人は「入院なんか絶対しないからな」と言う場面があります。そして「入院させたら、一生恨んでやる」「出てきたら覚えていろよ」となるケースも時々ありますが、これは「症状」なので、「その後も一生恨み続けた」という方にはお会いしたことはありません。その時点では本人にとっては妄想が事実なので、「被害妄想があるから入院治療が必要です」と言っても納得できる状況ではありません。本当に狙われて襲われていると思い込んでいるのに精神病院に入院させられたら、それは「一生恨んでやる」くらいのことは言うでしょう。

ごまかさない:大事なのは、入院の場で変にごまかさないことです。「検査入院だけだから」とか「とりあえず3日」とか、嘘とまで言わなくてもごまかすと後で上手くいかないことが多いのです。
 「病気だから治しなさい」は通じませんが、「あなたは辛そうで、家で見ていられないから、ちゃんと治して元気になって早く帰ってきて」「応援しているから、今は入院して辛いところを治療しよう」というほうが上手くいく。その場は「そんなこと言って、医者とグルだろう」と言われるかもしれませんが、後々には圧倒的に上手くいきます。
 「家で見ていて、ずっと辛そうだから」という、辛い気持ちに共感するところは家族だからできることです。そして「でも、入院は必要だし、しっかり治して、早く帰って来てほしい」というところは、毅然と譲らないようにする。これができるとその後、家族と本人と医療者との関係が上手くいくと感じています。
説得や否定はいったん抑えて:他者への被害妄想ならまだ冷静に受け止められても、被害妄想の対象が自分たち家族になって「家族もグルではないか」「食事に毒が入れられている」と暴言を吐かれたり、物を壊されたりすると、「そんなことない!」と躍起になって否定したくなります。しかしそれを説得しようとすればするほど興奮する場合が多いので、こういうときこそ繰り返しになりますが、誰か別の人を呼ぶとか、説得したくなる自分をいったん抑えて部屋を離れてみてください。
 ただ「そう思われて、本当に悲しい」ということは伝えてよいと思うのです。繰り返しになりますが、「症状であること」は、ぜひ忘れずに対応していただければと思います。
 必ずしも上手くいくというものではありませんが、「暴言や暴力は症状」、「誰も傷つかないように」、「予防が大切」の3つを知識として持って対応し、家族だからこそ「誰もなるべく傷つかないためにはどうしたら良いか」を大切に考えていただきたいと願います。

                                          〜了〜

平成17年4月からの新宿フレンズホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿フレンズでは4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿フレンズ会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
どうぞ、この機会に是非賛助会員になっていただけますよう、お願い申し上げます。

賛助会員になる方法        

 
新宿フレンズへのお誘い 

 新宿フレンズでは毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
入会方法 


編集後記 
 九州、中国地方の豪雨の被害。これも最近の異常気象の一つと思われるが、その原因は地球温暖化の影響が響いているのだろう。そして、都議選の結果もいまの異常政界の表れなのか。一強だと言っていた安倍政権の緩みが結果に表れたのではないかと言われるが、その後の自民党政権に反省が見られないのが残念である。

 さて、山澤先生の暴言・暴力への対応というテーマで話された6月の講演会。50数名の参加者が見えられたのには驚いた。それだけ、どちらでもこの問題には頭を痛めておられるのだろう。また、この問題に対する精神科の教本が少ない、というかほとんど無い状態なのではないか。精神科の暴力問題は一般的な暴力問題とは全く違うからである。

 それは、一般的な暴力問題はどちらかに不満があり、それが暴力につながる。しかし、精神科の暴力問題は原因がないというか、症状の表れであるということだ。山澤先生は冒頭で「症状であって、その人そのものではない」とはっきり言っている。そして、「誰も傷つかないことが大事」と言う。対処の基本は「予防が大切」とこの3つの基本を学んでおけばよろしいと述べられた。

 基本はこの3つの問題だが、山澤先生が非常に苦労して、各項目を立ててまとめてくれた講演の内容には感服した。有りそうで無い教本の一つであったのかも知れない。難しい問題提起をした新宿フレンズも悪いが、しかし、精神科を学ぶ我々からすれば一度は通らねばならない道なのかもしれない。

 わが息子の経験が思い出させる。急性期、私と四つに組んでやりあった息子は今、発症前の姿に戻りつつある。反省の一語に尽きる。                         

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新宿家族会 E-mail: frenz@big.or.jp