新宿区後援・10月新宿フレンズ講演会

抗精神病薬−作用と副作用

講師 大泉病院社会医療部長 山澤涼子先生

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【脳に働きかける薬】

 精神科で使用しているすべての薬を向精神薬と言い、抗精神病薬、抗うつ薬、抗不安薬、睡眠薬、抗てんかん薬、気分安定薬などが含まれます。

 向精神薬は、喜怒哀楽、意欲などの精神活動をつかさどる脳に作用する薬です。脳は神経細胞の塊で、「怒った」と思った時に怒りという指令を出し、「書こう」と思えば利き手を動かすという指令を出します。神経細胞が出した指令は、細胞から伸びている軸索が電気コードと同じ役目をして、電気刺激として先に伝えます。

 神経細胞と神経細胞の間をシナプスといい、電気刺激が伝わってくると、その刺激に見合った興奮させるアドレナリンとか、不安を抑えるセロトニン、腸を動かすアセチルコリンなどの化学物質がシナプスに放出されます。

 反対側の神経細胞には、それぞれの化学物質の形に合う受容体、レセプターがあって、そこにくっつくと「こういう刺激が来たな」となり、その指令が瞬時に次に伝わるわけで、人間の体というのはよくできているなと思います。

 精神科の病気は、こういう化学物質のバランスが崩れることによって生じるとされていて、主にシナプスに作用してバランスを保つ役目をするのが向精神薬の役割です。

 統合失調症、うつ病、躁うつ病など狭い意味での精神病は、遺伝的なあるいは体質的な準備因子と、その後の生活習慣が加わって発症します。「糖尿病の人が家族にいますか」と病院で聞かれるのは、糖尿病になりやすい体質かどうかという質問です。では、糖尿病になりやすい体質の人が絶対に糖尿病になるかというとそうではなく、「なりやすいのだな」と食事に気を付け、運動をするなど生活習慣を適切に保てば発症しませんし、逆に遺伝的な素因がなくても生活習慣が非常に乱れていると発症することがある。つまり足し算で発症するという考え方でたいていの病気の説明ができます。

【種類と特徴】

 薬は、世界共通の化学物質由来の一般名と、各商品名がありますが、今回は皆さんになじみのある先発の商品名でお話しします。

 抗精神病薬を大きく分けると、新旧2タイプに分けられます。1970年代から使われている古いタイプを定型、第一世代、従来型抗精神病薬などと言います。新しいタイプは非定型、第二世代、新規抗精神病薬などの言い方をします。薬は、より改良を目指すので、定型の副作用をなるべく出ないように改良したものが、非定型抗精神病薬ということになります。

 定型の抗精神病薬が使われるケースはずいぶん減りましたが、安定していてそれほど副作用がなければ、わざわざ新薬に変える理由はない場合もあり使われています。

 しかし、初診で処方する時は、基本的に新しい非定型抗精神病薬から使うことが原則になっています。

定型抗精神病薬(第一世代、従来型)
 フェノチアジン系:コントミン(一般名クロルプロマジン)やヒルナミン(レボメプロマジン)は、比較的眠気が出るなど鎮静作用が強く、睡眠薬代わりに使われることもあります。

非定型抗精神病薬(第二世代、新規)
 抗精神病薬でドーパミンだけをがっちり抑えると副作用が出てしまいますが、他の受容体も抑えると拮抗作用としてドーパミンのブロックが弱まる作用があることから、他の受容体にも上手に作用することで副作用を軽減しようと考えたのが、非定型の抗精神病薬です。この新しいタイプは大きく分けて3つになります。

 SDA(Serotonin Dopamine Antagonist):セロトニンとドーパミンをバランスよくブロックすることで副作用が出にくいという薬です。1996年に最初のリスパダール(リスペリドン)、その後ルーラン(ペロスピロン)、ロナセン(ブロナンセリン)が出ました。

 MARTA(Multi-Acting Receptor Targeted Antipsychotics):いろいろな受容体に効く事で作用するというタイプです。ジプレキサ(オランザピン)、セロクエル(クエチアピン)、それに加えて、最近シクレスト(アセナピン)という薬が出ました。

 DPA(Dopamine?Partial Agonist):ドーパミン部分作動薬で、エビリファイ(アリピプラゾール)があります。抗精神病薬はドーパミンの受容体に蓋をすることでドーパミンが作用できなくするのですが、するとドーパミンを抑え過ぎたことによる副作用が出てしまいがちです。エビリファイは、ドーパミンのレセプターにくっついても半分くらいの働きしかしない。つまり弱いドーパミンのような作用をする薬で、その結果として抑え過ぎる副作用が出にくい。他のものとはタイプが違う独自の薬です。

副作用で考える薬の選択】
 
さて、これらの薬を医師はどうやって選んでいるのか。この薬がこういうタイプの人に効くという明確な指標は、残念ながらありません。実は副作用のプロフィールで選んでいるところが大きいのです。飲み続けるためには副作用の問題が大きく、持病、性別、年齢、生活スタイルなどを伺い、一番邪魔にならない副作用の薬はどれかを考えます。

 SDAは、副作用として眠気はそれほど強くありませんが、高プロラクチン血症というホルモンバランスの乱れが生じ、胸が張って人によっては乳汁が出たり、生理が止まったりが起こり得るので女性には使いにくいということがあります。

 MARTAは太りやすいという副作用があります。糖尿病の人には禁忌とされていますし、太り気味、血糖値が高め、コレステロールが多い人にも使いにくい薬です。同じMARTAでもシクレストはそういう副作用は少ないとされています。

 DPAのエビリファイは、他の薬と比べて副作用が少なく、安全性は高いし、だるさや眠気も出にくく、飲み心地も悪くなさそうな印象です。あえて言うなら、ソワソワする、足がムズムズする、歩き回らないと体が落ち着かないなどのアカシジアという副作用が若干出やすい。しかし他の薬に比べて代謝の問題も高プロラクチン血症も起こりにくいのです。

【副作用が生じる仕組みと対応】
 さて、副作用の対義語は主作用です。つまり、「この薬はこの目的のため」という以外の作用をすべて「副」作用といい、悪い作用とか体に害がある作用という意味ではありません、

 例えば、花粉症の薬は眠くなります。つまり鼻水とくしゃみを止めるのは、花粉症の人にとっては主作用、眠気は副作用です。一方、市販の睡眠導入薬ドリエルの成分は、花粉症の薬と一緒です。これを睡眠薬として使うのなら、眠気は主作用になります。

 抗精神病薬の副作用が出るメカニズムは、主に2つあります。1つめは、ドーパミンを抑え過ぎてしまうことで、ドーパミンは体に必要な物質なので、ブロックし過ぎると副作用が出てきます。ドーパミンが出なくなる病気にパーキンソン病があり、ドーパミンを抑え過ぎてしまうと人工的にパーキンソン病を作ってしまうことになり、パーキンソン病症候群とかパーキンソン症状と言います。手の震え、体の動かしにくさ、歩きにくさなどが出ることがあります。

もう1つは、ドーパミンだけでなく他の受容体にも作用してしまうことで出るタイプの副作用があります。特に多いのは、アセチルコリンに作用して便秘や口の渇きが出る、アドレナリンに作用して出る立ちくらみなどです。

【CP換算−薬の量を知る】
 
CP(クロルプロマジン)換算は、薬の強さを比較する時に使うもので、例えば薬の切り変え時に、飲んでいるリスパダール○?が、ジプレキサ何?かを知る必要があります。そこでいろんな論文や研究結果から導き出した薬の強さを調べて、クロルプロマジンという一番古いタイプの抗精神病薬の100?の強さが、それぞれの薬の何?と一緒なのかを示したわけです。

 クロルプロマジン100?とリスパダール1?がおおよそ同じとされています。また、リスパダールをジプレキサに変更すると?数が2.5倍になるわけで、量がすごく増えたと驚く人がいますが、そうではない。それぞれの薬によって1?の強さが違うことを知っておくことです。

【飲み忘れを防ぐ注射剤(デポ剤)】
 
デポ剤は効果が持続する注射剤です。2週間もしくは4週間に1回の注射で、経口薬を毎日飲むのと同じ効果が得られるというものです。
 メリットは、圧倒的に服薬が続くこと。かつては、病識がない人、服薬を嫌がる人に、「嫌がるなら注射だよ」みたいな感じのケースもなくはなかったのです。ただ、注射となると病院に来てもらわないと打てないので、本人が服薬を拒絶するケースには注射を打つのはあまり効果がないと思われます。むしろ少しずつ飲み忘れがあることで、そのうち調子が悪くなるような人には非常に良いのではないかと思います。

 デメリットは打つときに「痛い」。しかし、昔のデポ剤は油性のドロドロした液体で、筋肉の中に注入するのが結構力が要り、打たれる方は痛みが強かったのですが、最近のデポ剤は水溶性で量も少なくて針も細くなっています。痛みがゼロとは言いませんが、ずいぶんマシになっています。

 今、リスパダールやエビリファイの経口薬で安定していて、これから仕事をという方は、デポ剤は毎日の服薬から解放されるというメリットがありますので、興味があれば主治医に相談して下さい。

【薬を切り変えるとき】
 変薬するときは、1つは効果が不十分な時です。ただ、よほどの急性期でなければ基本的には、薬は少量使って効果と副作用を確認します。リスパダールでいえば1〜2?から始めて、最大量が6〜8?くらいですが、最初からその量を出すことは滅多になく、3〜4?に増やした時点で効果がないからと次の薬に変えるのはもったいない。急性期の入院では別の対応をする時もありますが、基本的には十分な量を十分な期間試してから、次の薬というステップに進みます。
 もう1つは、効果はあっても副作用が問題になるケースです。その場合は、減量、薬を変える、副作用止めを使う、という3つの対処があります。

 薬を切り変える時は、今までより良い効果が得られるかもしれないし、副作用がなくなるかもしれないのでチャンスでもありますが、逆にリスクでもあります。効果が不十分であれば薬を変えることに躊躇はないのですが、副作用が問題で薬を変える時には、減薬か変薬か副作用止めで対処か、非常に難しい選択を迫られることになります。

【薬の併用について】
 同じ種類の薬はなるべく少なく1種類が基本です。何か起きた時にその原因がはっきりするからです。例えば抗精神病薬を3剤も4剤も飲んでいると、副作用が出た時にどの薬のせいか、どちらが効いていたかも分からなくなります。基本的には単剤で行けるのが望ましいのです。
 別の種類の薬の併用は、必要に応じてあり得ます。抗精神病薬だけで十分に眠れなければ、その方が体に悪いので睡眠藥をとなり、抗精神病薬と睡眠薬を併用している人は多いと思います。

 抗精神病薬同士の併用は効果や副作用の原因が分かりにくくなるので、極力併用しない。ただ、やむを得ず併用する場合もあって、その際はプロフィールの違う、つまり効き方が少し違うものを組み合わせます。1剤ではどうしても効果が得られない場合には、時に2剤、人によっては3剤ということがないわけではありません。特に、セロクエルなどの鎮静作用の強い薬は、睡眠薬や気分安定薬の代わりとして併用しているケースもあります。何で併用しているか分からない時は、遠慮なく主治医に聞いてください。

【薬の適切な飲み方】
 
薬の量や1日の服用回数などはどう決めているのか。これは病気の時期によって、何を優先するかで違ってきます。

 激しい急性期で入院中あるいは入院の瀬戸際は、とにかく症状を抑えることが優先されるので、多少の眠さやだるさを訴えても、「今は症状を良くすることを優先しましょう」と言われるでしょう。「興奮して入院したが、ボーッとなって大丈夫なのか」と思うかもしれませんが、頭がシャープな状況で急性期を過ごすのは辛いのです。イライラや幻聴など急性期の辛い体験を少し紛らわせるために、あえて眠気の強い薬を使うこともあり得ると知っておいて下さい。

【処方は一緒に作っていく】
 良い処方は、患者自身と家族と、医療者で一緒に作っていくものです。医師は薬の知識は持っていますが、日々の様子やその変化、薬の飲み心地などは、医師よりも本人や家族が気づけることは沢山あるのです。
 みなさん診察室の中ではピシッとします。それは当然で良いことではありますが、それでは主治医も気づけないことが結構あります。「実は家では寝てばかり」とか「この薬は飲むと落ち着かない」など、様子や疑問、困っていることを教えてもらうと、良い処方が一緒に作れると思います。
 症状が安定していると、早く薬を減らしたいと強く願う家族や本人が多いのですが、もちろん医師も薬は減らしたいのです。ただ、せっかく症状が安定している時に薬を減らすのは、実は医師にはすごく勇気がいるのです。副作用を考えればなるべく早く薬を減らしたい。しかし減らせば悪化する恐れがある。「なんで先生は減薬しないの?」とみなさん思うでしょうが、「減らすことで、万一悪くなったらどうしよう」と、医師は常に葛藤しています。

 大原則は「変化は1つ」。何か環境の変化がある時は症状も動揺しやすいですし、そんな時期に薬を減らすと、症状が悪くなった時に、それが環境の変化のせいか、薬を減らしたせいか分からなくなるので、例えば就職した、一人暮らしを始めた、デイケアの日数を増やした、兄弟が結婚したなど身の回りの変化があった時は、薬は原則変えない、減らさない。少なくとも症状が数か月安定していて、なおかつこれから先数か月、大きな変化がない時に処方量を減らすのが大原則なのです。

 困っていることや疑問は何でも主治医に話してください。その上で「では、こうしましょう」と決まったら、信じて飲み続けてください。方針が決まったらお互いに内緒はナシです。こっそりと…が、一番損なパターンです。

薬の量を勝手に減らして飲んでいて具合が悪くなった場合、医師は今までの処方量よりも増やします。すると本人も調子が悪いので、その時ばかりは減らさずに飲む。すると急激に増えたことになり副作用が出て医師も慌てるという悲劇的なことも起き得ます。

内緒で減らすというのは一番不味いやり方で本人の利益にならないので、飲み心地や希望を伝え、きちんと主治医と話し合って互いに納得して決め、信頼して服薬することがよいと思います。
                                          〜了〜

平成17年4月からの新宿フレンズホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿フレンズでは4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿フレンズ会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
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 新宿フレンズでは毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
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編集後記
  最近の話題といえばやはりトランプ大統領のアジア三国の訪問であろう。その三国が各々の歓待ぶりを見せたのが面白い。最大級のもてなしが中国であった。独島(竹島)エビでもてなした韓国。ゴルフでもてなした日本。どの国が国力を見せつけたか、どの国が貧相か。

 それはそれとして、今月の講演は山澤先生である。先生は毎回新宿フレンズのためのパワーポイントを作って講演に臨む。慣れていることとは言え、大変な作業であると思う。

 そして、最初に語ってくれたのが人間の病気に対する原理とでもいうべき神経細胞とシナプスのことであった。精神科の病気は脳内の神経細胞の働きの中で、シナプスの動きがコントロールされないことから起こるとされる。そこで向精神薬が役割を持つ。出過ぎたシナプスをレセプターという受容体が受け口をふさぎ、シナプスをコントロールする。こんなことが我々の体の中で一日中行われているのだ。先生は「人間の体ってよくできている」と言っているが、まさに同感。

 最後に来て、処方は一緒に作っていくという見出しで、患者自身、家族、そして医療者の三者で作っていくものであると述べている。これこそ大事なアイテムであろう。そこには患者、家族は必ず医療者を信用していることである。信用なくして三者協議はできない。

 以前にも書いたが、患者が医師を信用している話としてフレンズのCD販売の演者・大石洋一さんは「私は医師と結婚したつもり」と述べて、質疑応答で「それゆえ、何の薬を飲んでいるのか判りません」。ここまで徹底した信用もある。大石さんの主治医もさぞ治療し甲斐のある患者さんとみているに違いない。                                 


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新宿家族会 E-mail: frenz@big.or.jp