新宿区後援・12月新宿フレンズ講演会

ストレスマネジメントと認知行動療法

講師  大泉病院社会医療部長・精神科医 山澤涼子先生

ホームページでの表示について

 今日は前半がストレスの話です。あらゆる人は生きている限りストレスマネジメントが必要なので、前半部分は自分のことと思って聞いてください。後半は精神療法の認知行動療法について説明します。

【ストレスとは】
 皆さんにとってストレスになるのはどんなことですか? 仕事が忙しい、夫が家事を手伝ってくれない、妻が自分にだけ厳しい、会社の上司が自分の努力を理解してくれないなど、いろいろあるでしょう。
 人生で起きる出来事のストレスを点数化したアメリカの心理学者がいるのですが、彼によると一番ストレスになるのは配偶者が亡くなることだそうです。これを100点とすると、結婚は50点だそうです。微妙な数字に聞こえるかもしれませんが50点より高いのは、突然の解雇とか刑務所に入る、離婚など、それこそストレスというものであり、つまり結婚というイベントは極めてストレスが高い出来事なのです。
 ストレスとは変化に適応するために心身にかかる負担のことで、変化は全てストレスになります。すると結婚もストレスであることが理解しやすいと思います。同じようにクリスマスや日本のお正月は、普段やらないところまで掃除し、プレゼントやお年玉を準備し、いろんな人が家に来るので普段と違うことがたくさん起き、ストレスポイントが高くなります。いつもと違う変化の起きることがストレスであると覚えてください。

【ストレスがたまると】
 ストレスがたまると、イライラが出る人は多いです。やけ食いをする人も、逆に食欲が落ちる方もいます。いくら寝ても寝足りない人も、カリカリして眠れなくなる人もいます。

 実はストレスがたまると、3か所に影響が出ます。それをストレスサインと言います。

1)身体 頭痛、肩こり、下痢、便秘、胃痛、めまいなどです。

2)気分 多いのはイライラ、悲観的になる、不安が強くなる人もいます。

3)振る舞い 自分では気づかなくて周りの人が気づくことも結構多く、タバコが増えるとか、2時間ドラマを最後まで見られなくなる、落ち着かなくて部屋を行ったり来たりする、体に悪いものを食べたくなるなどいろいろあります。

 これらのストレスサインに気づいて、そのストレスを上手にコントロールすることをストレスマネジメントといいます。普段は自然にやっていることです。

【ストレスをどう減らすか】
 ストレスを水に例えると、水槽に溜まったストレスという水を溢れさせないためには、人それぞれの工夫があるわけです。ストレスに対して鈍感で割と平気な人から、ちょっとしたストレスが体に出る人までいますが、これは言ってみれば水槽の大きさの違いで、ある意味簡単には変えられないもので、その人の個性ともいえます。それを変えるのはなかなか難しいので、入ってくるストレスを溢れさせないためにストレスマネジメントが大事です。
 ストレスマネジメントの方法は2つあります。入って来るストレスを減らすか、ストレスを出す量を増やすかになります。ストレスを出す方法は、いわゆる「ストレス発散」です。
 どんなことがストレス発散法でしょうか? よく言われるのは「ひたすら寝る」とか「音楽を聴く」、「映画を観る」、「美味しいものを食べる」などです。
 ストレス発散法では、「出す」ことはストレス発散に良いとされています。例えば「汗を出す」。お風呂やサウナはストレス発散になりますし、運動して汗をかいてもすっきりします。
 「涙を出す」もそうで、大泣きすると妙にすっきりするという体験をした人はいると思います。何でわざわざ辛い映画を観て泣くのかと思いますが、これもある種のカタルシス(浄化)でスッキリします。
 ストレスの原因はストレッサーと言います。ストレッサーを解決できれば一番良いのですが、解決できる原因、避けられるストレスばかりではないので、ストレスを発散してバランスよくやっていくことが大事です。

【精神療法とは】
 ストレスが限界を超えてしまうと、結果として、脳の中で化学物質のバランスが乱れて何らかの症状が生じます。
 その症状を良くするには、薬を使って脳の中の化学物質のバランスを整えることと、ストレスマネジメントの2つが治療法になります。ストレスマネジメントの1つの助けとして、私たち医師が外来でしているのが精神療法です。
 精神療法というと、カウンセリングとほぼ同義に受け止めている人がいます。しかし精神療法には有意義な治療法がいろいろあり、カウンセリングという形式だけが精神療法ではありません。
 広義の精神療法としては、挨拶や言葉遣い、声のトーン、姿勢、会話の内容、例えば雑談などの日常会話や、ただ寄り添っているだけでも良いのです。入院の患者が落ち込んでいる場合には、しばらく黙って横に座っていることもあります。これらすべてが広い意味では精神療法になります。外来の短時間の会話も、長いカウンセリングも、同じ精神療法です。
 積極的傾聴は、これ自体が立派な精神療法と言えます。

・相手をよく見ること、相手のそばで聴く

・相手の話すことに注意を向ける

・相手の話に興味を示し、うなずいたり、相づちをうつ時には声も出す「そうですね」「そのとおりですね」

・わからないことがあれば質問する

・自分が聴いた内容は、よく覚えておく

 これらは1度声に出して読んでみて、時々見返してみて下さい。

 【認知行動療法とは】

 いわゆる認知行動療法(CBT)を知りたい時は、1つは大野裕先生のホームページで、分かりやすく丁寧に解説されています。 

「こころのスキルアップ・トレーニング」(大野裕)

http://www.ncnp.go.jp/cbt/pdf/skill_up_training.pdf 

http://www.cbtjp.net/

 また、認知行動療法は色んな場面で有効な治療法で、長年、フレンズの顧問医だった水野雅文先生の『精神科リハビリテーションワークブック』は、精神科の認知行動療法の本として大変読まれました。出版されて20年経ったのでバージョンアップして題名が変わりました。『リカバリーのためのワークブック』(水野雅文・中央法規2700円)https://www.chuohoki.co.jp/products/medical/5711/

【行動を変えることが先】
 何かが起こった時は、何かの感情が湧きます。それを自動思考と言います。「さまざまな状況でその時々に自動的に沸き起こって来る思考やイメージ」は人それぞれです。
 有名なものでは、半分水が入っているコップを見て「コップにまだ半分も残っている」と思うのか、「もう半分しか残ってない」と思うのかという話があります。認知、つまり受け取り方によって気分が変わったり、取る行動が変わります。その認知の受け止め方、受け取り方を修正していくことで、気分を良くしていきましょう、というのが認知療法とか認知行動療法です。
 ただし、自動思考というくらいですから、どう思うかは自然に出て来るもので、それを変えるのは凄く難しいわけです。ものの考え方を簡単に変えることができれば、ストレスは減ります。
 認知行動療法にはコラム法といって紙に書いていく方法がありますが、あまり型にはまらなくてもできる療法が沢山あります。

《うつにお勧めの日常生活記録法》

 うつの人にとって取り入れやすいのは、日常生活記録表です。これは、1日の生活を記録し、その横に気分が何点だったか、10点は気分が良い、0点は最悪とかを書きます。
 2〜3週間も付けていると、「こういう出来事があった時は気分が落ちるな」とか「逆にこういうことをした後は気分が良い」と、行動と気分の関係が見えてきます。すると「気分が落ちている時に、こういう行動をしよう」と促していけます。
 うつの時は元気が出ないので、何となくじっとしていることが多く、色々と考えて気分が落ちてしまいますが、そうなった時にこういう振る舞いをすると割と気分が持ち上がりやすいというトリガー(引き金)になるような行動を探すのです。
 これはうつに限らず気分があまりよくない時に、皆さんもこういうことをするとちょっと気分が良くなるというものを持っていると思います。例えば美味しいコーヒーを淹れて音楽を聴くとか、公園までジョギングするとか、気分の良くなる行動を探す治療法です。

 《幻聴への認知行動療法》
 幻聴への対応についても、とても良い認知行動療法があります。幻聴はもちろん薬で解決していかなければなりませんが、薬ではどうしても取れない幻聴があるので、日常生活記録表と同じように、時間帯と起こった幻聴とその時何をしていたかを記録しておきます。
 例えば、「電車で帰ってきた後の16時頃にボ〜ッとしていたら幻聴が聞こえた」「音楽に合わせて体を動かしている間はあまり聞こえなかった」というふうに記録します。そうして1〜2週間つけてみると、「この時間帯は幻聴が多い」「こういう振る舞いをしている時に、幻聴を良く聞く」「こういう時は聞こえて来ない」と見えてきます。それを記録しながら対処法を考えます。

《不眠への認知行動療法》
 不眠も、認知行動療法がとても効果的です。不眠を訴えて病院に来るかなりの方は薬が不要といわれます。実は良く話を聞いてみると昼寝をしていたり、寝る時間が早過ぎて朝早く目が覚めたり、熟眠感がないだけで実は充分に寝ていた方も多いのです。
 「眠れない場合どうしよう」と思ってしまうから増々眠れないということもあります。布団に入って眠れなければ、1度布団から出て眠くなるまで、本を読んだりテレビを観るなど行動を変えるだけで、ずいぶん眠りやすくなったりします。 

【認知機能とは】
 非常に似た言葉なので混同されやすいのですが、認知と認知機能は別です。認知はものの捉え方、受け止め方を言い、認知機能は、認知に至るために使う機能を言います。例えば、記憶力、注意力、表情や場を読む、実行機能といってゴールに向かって試行錯誤しながらゴールを目指す能力、流暢性つまり色んなアイデアが出てくる柔軟性、物事に注意を払う、言葉を覚える、物事を解決する等々の能力を認知機能といいます。
 精神疾患では認知機能が落ちるとされていて、これを認知機能障害と呼んでいます。注意機能、記憶、問題解決能力の3つがもっとも障害されると言われています。
 今のところ認知機能障害が起きる疾患として、統合失調症、うつ病、双極性障害、アルコールや薬物の依存症で認められることが分かっています。意外に病相に関連しているわけではなく、幻聴がひどくても、認知機能にはほとんど障害のない場合もあり、その逆もあります。
 では、社会的転帰にもっとも強く影響するのは何か。それが認知機能障害だと明らかになってきて注目を浴びるようになりました。
 それで、認知機能リハビリテーションが始まりました。具体的には、下記のような症状を改善しようというものです。

・人の話し合いや指示を聞く時に集中しにくい

・指示を忘れてしまう、特に2つ3つ言われると忘れる

・作業に集中できない

・目標に向かって適切な計画が立てらず、一足飛びの非現実的な計画を立てる

・臨機応変な対処が難しい

・複数課題は同時に行うことが難しい

・表情を読むのが苦手

・拙速に結論をだす

 これらは個人差が極めて大きく、いずれも社会生活では悪い影響を及ぼしやすいのです。これらを良くしていこうというのが、認知機能リハビリテーションです。

 【認知機能リハビリテーション】

《認知矯正療法》
 認知機能リハビリテーションの方法の1つが「認知矯正療法」です。これは認知行動療法の「ものの考え方を変える」という療法ではなく、「認知機能を良くしていこう」という療法で、注意力が落ちているのであれば注意力そのものを良くしていこうというものです。医学的な証拠のある治療法は幾つかあり、主にパソコンを使って行うプログラムです。
 認知矯正療法のトレーニングだけ一所懸命やればよいということではなく、認知矯正療法に加えて、他のリハビリテーションを組み合わせて行うことが大切です。

《代償的・適応的アプローチ》
 認知機能そのものの改善を目指すのではなく、苦手な認知機能を補うのが、代償的・適応的アプローチです。例えば、覚えるのが苦手ならメモをする、また計画するのが苦手ならスタッフと一緒に計画を立ててから取り組む、集中しづらければ集中しやすい環境を整え、場所を確保するなどです。こうした工夫は我々も自分の苦手なことを補うためにやっていることと同じです。
 認知機能のリハビリテーションは、トレーニングするだけでなくブリッジングという作業が必要で、日常生活や就労などの現実世界とつなげて考え、行うことが重要です。

                                            〜了〜

平成17年4月からの新宿フレンズホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿フレンズでは4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿フレンズ会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
どうぞ、この機会に是非賛助会員になっていただけますよう、お願い申し上げます。

賛助会員になる方法        

 
新宿フレンズへのお誘い 

 新宿フレンズでは毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
入会方法 


編集後記
 
新年おめでとうございます。2019年が皆様にとって幸せの年となるよう願っています。
 
さて、我がメーリングリストも新年から盛んに交流が行われている。ある当事者会員(引用了解済)から「当事者会を開きたいので方法を教えて欲しい」というメールが入った。早速レスが2本、3本と出た。当の私には電話で問い合わせてくれた。「新宿フレンズを立ち上げた当時のことを教えて欲しい」。だが、私は前任者の後を引き継いだもので、新宿フレンズでは立ち上げた経験がない。しかし、その前はある家族会を立ち上げた経験がある。彼にはその当時のことを伝えた。今はなき全家連の家族教室の卒業生でまとまったのである。

 その時小生、世に家族会というものがあることさえ知らなった。息子の病気はまさに寝耳に水であった。考えてみると26年前のことである。それから今日まで、仕事と家族の病気との狭間で何とか生きてきたものだと思う。

 そして現在。山澤先生と多くの賛助者のお力に頼りながら新宿フレンズを持ちこたえている。その山澤先生の12月講演でストレスマネージメントについて語っていただいた。

 冒頭、あらゆる人が生きている限りストレスマネージメントが必要だと言われたが、畢竟私自身にも当てはまることである。それを示すのが認知機能リハビリテーションの項で、治療項目がズボシであったのには驚いた。作業に集中できない、目標に向かって適切な計画が立てられない、臨機応変な対処が難しい、特に拙速に結論を出す。これが今の仕事で最も気になるところである。社員から結論は?と問われてすぐに回答が出ない。治療が必要なのか。涙。  
                                                    

※勉強会INDEXに戻るには左のMENUの勉強会をクリックして下さい


新宿家族会 E-mail: frenz@big.or.jp