新宿フレンズ9月勉強会より

    精神障害者の新しい就労のかたち

            講師 新宿区障害者就労福祉センター 事務局長 矢沢正春さん


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【はじめに】

 障害者自立支援法の中でうたわれている就労支援、自立支援を前向きに評価する人もいれば、それを、労働というものさしで測るのか、悪く言えば、働いてもらわなければ困るという国のメッセージと捉える人もいます。今後、否が応にも障害者の様々な施策が支援法をベースに進むことは間違いありません。三障害の一元化で大喜びしたのは精神障害者の関係の当事者、作業所、支援者、家族の皆さんではないでしょうか。これで精神障害者の福祉も身体・知的と同じくらいに上がるのではないかと期待を持っていらっしゃるようです。

 けれども、その中で特に就労という部分でどうなのか。今回の支援法でいろんな費用負担が発生する、医療費もそうですよね、その部分の痛みに耐えて、あるいは家族が肩代わりをして乗り切るしかない状況の中で、それでも働くという部分で前進するのであれば、マイナス面ばかりではないわけです。

 では、どういうことがなされようとしているのか、少なくとも新宿ではどのような変化が起ころうとしているのか、多くの作業所がありますが、そのあり方、働き方、それから小規模作業所から企業就労に進むという応援の仕方や選択肢がこれから開けるのかどうか、そんなお話をさせていただきます。

【新宿障害者就労福祉センターの事業と現状】

 私どもの障害者就労福祉センターの事業についてです。いわゆる授産事業、つまり福祉作業所、小規模作業所を2カ所持っています。35人程の大きな作業所と10人前後の小さな作業所も持っています。最初はここからスタートしました。途中から区立のスポーツセンターや地域センターなどに小さな売店を持って、さらに5年位前から、昔は区営だった新宿のリサイクル活動センターを始めました。ここ4、5年で就労支援事業を始めました。これは最初から精神の方も含めています。

 今の作業所は何年いたら退所しなさい、という仕組みではありませんが、就労移行支援では就労を目的に作業所を運営してくれればいいお金を払いますよ、としています。さらには就職して一年間離職者が出なければわずかにプラスしますと、法律はそんなようになっています。でも3年間で就職できる人がどのくらいいるかと考えるとなかなか厳しい状況です。

【就労支援】

 次に私どもがやっている就労支援事業の流れを紹介します。どこの区でも障害持っている方の就労支援は火の車です。東京23区では文京区を除いてはどの区でも障害者就労支援事業に行政がお金を出して、就労支援担当が2名、生活支援担当が2名います。

 それから一般は就職がゴールでおめでとう、あとは本人の頑張りと会社の責任となりますが、障害を持つ方の場合は就職から本当のサポートが始まるわけで、私どもはそういう仕組みで動いています。そのために、生活支援の職員を必ず配置しています。それから障害をもっている方が面接をしてすぐに就職に結びつくのはごく稀なケースで、大概の方はいろんな普通の方法以外を用いないと本人の望む仕事や就職は実現しません。ですから、本人のやりたい仕事があって、一緒にハローワークに行って探したり、企業に行った際に書類や面接では本当の本人の能力や姿が分からないので、できれば1ヶ月でも2週間でもいいから本人の働いているところを見てほしいとか、それぞれの病気や障害に応じてどういうサポートをすれば十分仕事ができるのかアドバイスをする。こういうことをジョブコーチが行います。

【精神障害を持つ方が働くということ】

 実際に就労支援をしてみて、ひとりの方の周りにいろんな専門家をつけてサポートするより、普通の人の中に入れて普通に働いたほうがはるかに効果があると思っています。作業所の中でいろんなメニューを用意するよりも、実際にできる仕事をしたほうがはるかに効果があります。

 例えば作業所でミスをして納期に間に合わない時、通ってるメンバーさん一人ひとりがこのミスをなくすために自分はどうしたらいいんだろうと考えません。納期が遅れたことでこの作業所の今後の仕事の受注にどう響くのか、あるいはこういう仕事じゃない仕事をどう探そうかと考えません。考えている人もいなくはないのかもしれないけど、要するに仕事を取ってくるのは職員です。メンバーは机の上に仕事が来るのを待つだけ。仕事がないときにはいろんなプログラムをやっています。仕事で失敗をして尻拭いをしてそういうのがないようにどうしようと考えるのは職員です。
<中略>
 どんどん自信がついて表情が変わってくる。それは一緒に働いている人との関係でもそうです。私のところは半分は近所の主婦の皆さんがパートで働いていますけれど、身体・知的の方に比べると精神の方に対してパートの方が「どうしてあの人は就職できないんですか」と聞いてくることが多い。一般の方を相手にいいことをすれば「ありがとう」と言われて、給料に見合ったサービスを提供しないとお客さんにしかられます。そういうことが普通に体験できる場がほかにどこにありますかといえば、ないんです。

【障害者雇用の進め方と難しさ】

 今までのように訓練して完成させて就職させようなんていったら、ごく一部の人しか就職のチャンスがありません。5,6割しかできない方が働きながらその人の持っているものを伸ばす、働く習慣を少しでもつけるというステップがないものかということで今やっています。

 そのひとつが就職してからいわゆる福祉施設のほうに研修で戻してもらうという方法です。3年程福祉の現場で研修したら、本来の会社が配属させたい場所に配属して通常の勤務に入ってもらうという方針です。いきなり会社に入れちゃうとどうやって育てたらいいのか、何かあったらどうサポートしたらいいのか会社は分かりませんし、かといって一人二人の精神の方のために専用の教育係を用意したりはできません。そもそも今だって社内で精神科的な問題を抱えている方をどうしたらいいだろうと悩んでいるところに、精神の方をお願いしますといったって、「はい、分かりました、うちで教育をして戦力にして心配のないようにしましょう」という会社はどこにもありません。

【サテライトオフィスという選択肢】

 そこで、在宅の「宅」は自宅じゃなくて、精神の方が5人くらいで福祉施設内や近隣に共同のオフィスを作れば、それをサテライトオフィスと呼んでいます。隣の部屋には就職でお世話になったスタッフがいる、そういう環境で働く方法を提案しました。あとはジョブコーチが企業の人事に話をして、業種に合った仕事を見つけてくる。

【いろんな人と働きたい】

 私は福祉の現場に来て10年になりますが、それ以前は10年ほどデザイン会社に勤め、その前の4、5年は普通のサラリーマンでした。もともとこの世界に首を突っ込んだのも、自分が福祉の専門家になって専門家の視点で障害を持っている人を応援するというよりは、普通の現役で働いていたときもそうでしたが、デザイナーやって儲かったら事務所を持って社員を5人雇えたらその中の一人に障害を持っている方をぜひ一人入れたいなと思ったり、最初に入った会社でも大きな会社だったけど、人事が手を尽くしてもなかなか会社の戦力にならなかったりすぐに休んだりしている人のことが気になったりして、もったいないなあと思ったりしていたものですから。ですから専門家というよりは、そういう人たちが普通に働けるように一市民として応援できる仕組みの中で障害をもっている人たちの仕事を増やす方法ってないのかなと思っています。同時にこれから団塊の世代の皆さんがこぞって退職されますから、そういう方が企業を起して人のため、地域のためになる形で仕事をしたいと集まるグループがありますが、そこに障害者などを入れてくださればいいですね。どうも支援法の中で障害者の就労に未来が開けるとは思えないので、もうひとつの仕組みとして働くことに困難をかかえる人たち全体の就労をサポートする仕組みを作りたいと思って、役所にもそういう中でこそ障害者も安心してのびのびと働けるんですよと伝えています。企業が障害者だけを集めたり、作業所で指導する、されるの関係ではない働き場を作ることはまだどこもやっていないので、ぜひ新宿でそれをやってみたいと思います。

【おわりに】

少子高齢化で年金・保険制度が破綻しそうな中で、生産性の低い障害者にこれ以上税金を回したくないというのが国の本音でしょう。かといって障害者を就労させれば誰でも納税者になるのかといえばそうではないから、福祉的な働き方でもない、会社でもない、もうひとつの働き方をこれから作りたいと思っています。その中に先ほどいったサテライト就労という考え方も出てきます。納税者にはなれないかもしれないけれど、自分の働くことの責任を背負って働けるほうが本人の自立心や達成感、向上心が必ず生まれます。自信と力を与えてくれるのは、労働の中で自分が役に立ったり必要とされたりする状態です。

 私だって仕事好きじゃないから働かないで毎日晩酌などの好きなことができたらいいとは思っても、おそらくそんなのは1週間で嫌になると思いますね。やっぱり仕事をしているからお酒もおいしいのであって、働くことを抜きに好きなことをして楽しいかといえばそうではない。そういう意味では障害者を集めて一人ひとりに合った料理や音楽、俳句、陶芸を用意したって、それで幸せですといえるのかなと思います。それが必要な時期もあるでしょうが、自己実現を考えると仕事を得る道筋を用意してあげるのがいいのかなと。支援法のいう自立が真の自立なのかと考えたときに、そこから新しい働き方を考えてみたいと思います。今後もそういう情報を新宿フレンズさんに流したいなと思いますので、よかったら利用してください。(紙面の都合でここで終わります)

新宿区障害者就労福祉センター・チャレンジワーク

新宿区高田馬場4−10−17  電話 03−5330−5374



平成17年4月からの新宿家族会ホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿家族会では4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿家族会会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
どうぞ、この機会に是非賛助会員になっていただけますよう、お願い申し上げます。

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新宿家族会へのお誘い 

 新宿家族会では毎月第3土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
入会方法 


編集後記

 十月半ばを過ぎ、ようやく秋の空が見られるようになったが、日中は汗ばむこともあるきょうこの頃である。

 矢沢さんとは区内の障害者問題での会議や大会等で何度かお会いしていた。今回初めて知ったが、元々民間会社を経験して、現在の区の外郭団体へ関わったようだ。その矢沢さんのお話の中で同じ民間に属するものとして共鳴する部分が多々あった。とかく福祉という言葉の中にはきれいである、純粋である、奉仕の精神だというイメージがある。

 たしかに精神障害者は純粋である。曲がったことができない。しかし、現実の社会はそんなきれい事では生きていけない。その感覚のズレも当事者をして回復を遅らせている部分もあるような気がするが、でも、生きていかなければならない。

 我々家族の中でもそれは論争の種となっている。「ガンバレ」は言ってはいけない、朝寝坊を叱ってはいけない、何々はしてはいけない、と親たちは禁止行為だらけで当事者の生き様を見ていなくてはならない。

 最近、私はそれを無視して、あえて禁止行為を行っている。息子は耐えているようである。それは耐える訓練であると私は思っている。それを乗り越えてこそ、彼は一般社会へ足を踏み出すことができるのであって、真綿の中で包まれているような生活からは決して社会には戻れない。

 勿論、これは誰にも通用するものではない。十三年間闘病続けてきた彼だから言えること、また耐えられるものになるだろう。私たちはそうした面も学習する必要があると思うのだが、いかがだろうか?
                                                   

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