新宿区後援・6月新宿フレンズ講演会

うつ状態の理解

講師 大泉病院社会医療部長 山澤涼子先生

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 「うつ」という言葉が市民権を得たのは良いことだと思います。昔は「うつ病は隠すべきこと」という感じでしたが、最近は「ちょっと、うつっぽい」「うつ、しちゃった」と、わりと気軽に言えるようになりました。その分、言葉の広がりが出ているので、整理をしながらお話します。

【うつには<落ち込み>から<うつ病> まで幅がある
 うつっぽい感じは、誰でも一生の間に何度も自覚すると思います。それは一般的には「抑うつ状態」と言い、気分が落ち込んで何となくうつうつとした感じで、何かしようという意欲が湧かない。何を食べても美味しくないというような状態で、誰にでも起こりうるものです。

 その中で、抑うつ状態の「重症度」と「期間がある一定以上のもの」を「うつ病」と呼んでいます。例えば大好きな人に告白してふられたとすると、その瞬間はものすごく落ち込んでうつうつとなる、これは「落ち込み」です。それに対して「うつ病」は、脳の病気ですので医学的治療が必要です。その間のグレーゾーンの幅がたいへん広いわけです。狭い意味のうつ病の生涯有病率は3〜7%で、比較的ありふれた病気です。

【体の病気・薬の影響を確認してから診断】
 
基本的には問診で、いつごろからどんな症状があったか、気分はどうか、食事はどうかと聞きながら診断して行きます。どんな精神疾患も、まず体に原因がないかをチェックする必要があります。体に原因がないと分かって初めて脳の病気、精神疾患を疑います。

 薬でもうつが生じやすいものが幾つかあります。ステロイドは精神的症状を生じやすいとされています。血圧降下薬のレセルピンや抗がん剤などもうつ病の原因になります。

 精神科の病気はこういった病気や薬による原因がすべて除外されてから診断します。つまり積極的に診断する手段がない。血液検査して「この値が高いからあなたはうつ病です」とか「尿検査でこれが出たから統合失調症」と言える生物学的マーカーはないので、他の原因を除外するしかないのです。

【うつ病の診断基準】

◆大うつ病性障害(major depression)の診断基準

◎ほとんど1日中、ほとんど毎日の抑うつ気分

◎ほとんどすべての活動における興味・喜びの著しい減退 

◎落ち込む日が続く

◎感情の障害 

◎思考の障害

◎妄想

◎体の症状
 体の症状が前面に出て、気分の症状があまり目立たないうつ病のことを仮面うつ病と言います。「うつ」が市民権を得たことで、内科医からも比較的気軽に相談して貰えるようになりました。また「体には異常がないから一度、心療内科に行ってらっしゃい」と言われるとスムーズに来て頂けます。かつては精神科に対して大きな壁がありましたが、そういう意味でも「うつ」が市民権を得たのは良かったと思います。

【うつ病と紛らわしい精神疾患】

双極性障害(躁うつ病)
 躁うつ病は、最近は双極性障害という表記が増えました。以前はうつ病も躁うつ病も気分障害として、タイプの違う同じ病気とされていました。しかし今では、全く違う病気であると考えられていて、治療も違い、出すべき薬も変ってくるので、医師にとっては非常に鑑別が重要な疾患になっています。

◆適応障害
 うつまでは行かないが、ただの落ち込みで片付けるには重いという、グレーゾーンをさす診断といえます。比較的原因がはっきりしていて、薬というよりは、主として環境調整をしたほうがいいというタイプのうつ状態です。

認知症 
 うつ病と認知症が間違われるのはよくあることです。うつになると物事に集中できなくて仕事にミスが増える。これが高齢者に起きると、「認知症かな」と家族が思ってしまいます。家事を全然しなくなったとか、物忘れがひどくなった、オロオロして家の中をうろつくといったことから、「ぼけでしょうか?」と受診したものの、うつ病と分かり治療したらよくなったというパターンはよくあります。認知症の方がうつ状態を呈することもあるのでそこの見分けも大切ということになります。

◆アルコール性うつ病
 アルコール依存の症状としてうつを呈することがありますが、これは飲酒を止めないと治りません。一方、うつで辛い気分を紛らわそうとアルコールを飲んでアルコール依存症になる人もいて、その見極めには、アルコールを沢山飲む習慣がどの時点からあったのか、病歴を聞きながら診断をつけていきます。

統合失調症のうつ状態
 統合失調症にもうつ状態はあって、精神症状を評価する評価尺度にもうつ状態を評価する項目が入っています。
◎陰性症状:うつと陰性症状の見分けは若干難しいところがあります。うつは気持ちが落ち込み、うつうつとして悲しくて…という気分です。陰性症状は気持ちが落ち込んでいるというよりは、意欲が出ず、悲しいとか嬉しいという感情も平坦になっている状態です。
◎精神病後抑うつ状態(post psychotic depression):精神病状態つまり幻覚妄想の激しい状態が落ち着いた後に、一時的に気持ちがうつっぽくなることはあります。いろんな要因があって、少し良くなったことで悪かったときを思い出して落ち込んでしまう。急性期に非常にエネルギーを消耗した結果として急性期の症状が落ち着いた後は、消耗期とか休息期という一時的に病み上がりのようなエネルギーが低下する時期もあります。
◎過鎮静:見逃してはいけないのが、薬が強過ぎて起きている過沈静です。統合失調症の入院時、混乱している場合はしっかり症状を抑えて、自傷や他害の危険を避け、安全の確保が先になることが多いのです。ですから最初は鎮静をかける薬を多めに使うことがあり、落ち着いて来れば薬を徐々に減らします。特に鎮静がかかるような薬は減らしていかなければいけないのですが、医療側には、せっかく良くなって来たのだから薬を減らして、また悪化させたくないという思いがあります。
◎抑うつ症状:陰性症状でもなく急性期の直後でもなく過沈静でもないのに、統合失調症の経過の中でうつ症状が出ることもあります。
 以前は統合失調症の人に抗うつ薬を出すと幻聴がひどくなるからと抗うつ薬を出しませんでしたが、今は場合によっては抗うつ薬を少量使うことはあります。ただ抗うつ薬は、陰性症状にはあまり効果はないと思います。

【ストレスと病気】
 どんな病気も準備因子つまり遺伝や、もって生まれた体質のようなものに、結実因子となるその後のいろんな出来事が重なって発症します。これはあらゆる病気に言えることです。
◎モノアミン仮説:ストレスがかかると胃が痛くなるタイプは結構多いと思いますが、ストレスに対して胃が脆弱という性質を持っていて、ストレスの足し算で過剰になると胃の中に胃酸が出過ぎて胃潰瘍になる。
 統合失調症も同様に、ストレスがかかり過ぎると脳にドーパミンが出過ぎるわけで、これは胃の胃酸が出過ぎるというのと同じことです。脳の中のドーパミンを制御するメカニズムが脆弱か、胃の胃酸を制御するメカニズムが脆弱かの違いだけです。
 うつも全く同じで、脳の中のセロトニン・アドレナリンのメカニズムが脆弱な性質をもって生まれた方に、過剰なストレスがかかるとうつ病を発症するわけです。

【うつ病の治療】
 うつ病とはストレスがその人の限界を超えたことによって、脳の中のセロトニンやノルアドレナリンなどの化学物質のバランスが崩れている状態になります。ですから治療法は、足りない化学物質を補うことと、ストレスを減らすことになります。

薬物療法
 うつ病の治療に対して、かつては三環系、四環系の抗うつ薬を使っていました。三環系抗うつ薬は効果が優れた薬でしたが、残念ながら非常に副作用が出やすい。セロトニンとノルアドレナリンだけに効いてくれればいいのですが、アセチルコリンにも効いてしまうのです。消化管の動きをつかさどるホルモンなので、胃腸の動きも鈍ってしまい便秘になったり、唾液が出づらくなり口が渇いたり、消化管の副作用が非常に出やすい薬です。これらを改良したのが、SSRI、SNRI、NaSSAなどです。

◎服用上の注意点:薬の使い方は少量から始めて、効果と副作用を確認しながら徐々に増やしていくものと、最初にドンと使ってしっかり治療してから減らしていくものと2パターンあります。
 どんな薬でもそうですが、副作用の出方には個人差があります。主に三環系は口の渇きや便秘が非常に出やすく、SSRIとSNRIは飲み始めに胃部不快感が起こりますが、一般的には飲み続けていくうちに落ち着いていくので、少し吐き気止めなどを使いながら少しずつ増やしていくことが多いです。

薬物療法か非薬物療法か
 
軽症のうつ病では、環境調整、精神療法などの非薬物療法が優先されます。中等症以上では、まずは薬を使うことが大事です。
 うつ病の原因が分かっている場合、原因がはっきりしているうつ病を薬で治すことに抵抗を覚える方が多く、「薬なんか飲んでも解決しません」とか「まずカウンセリングをお願いします」とか言われます。しかし、うつを胃潰瘍に置き変えて考えれば分かり易いでしょう。
 仕事が忙しくなり、上司と合わず、ストレスがたまって胃が痛くなった。胃カメラで見たら胃から出血という状態で、「でもこれは会社のストレスのせいだから、まずカウンセリングからお願いします」とは誰も言いませんね。「まずは薬で胃の痛みをとって、カウンセリングはそれから」と皆さん思うでしょう。
 うつは基本的には外来で治療できる疾患だと思いますが、自殺が切迫している、身体合併症がある、妄想が出るなどの重症の場合には入院をお勧めします。また会社員の場合は休職届けを出して会社を離れて家で休むことが出来ますが、主婦で小さいお子さんがいる場合など、育児や家事を離れて休めるように入院を勧めることがあります。
 電気けいれん療法は、いまやうつ病にはメジャーな治療法になって、けいれんを起こさせない修正型で行われることがほとんどです。おもに入院して、麻酔医の立会いのもとですることになります。

精神療法
 精神療法はいろいろあり、適するものが各人違いますから主治医とよく相談してください。ある程度うつ症状が改善してからが大原則です。世の中にはカウンセリングで全てが上手くいくというイメージがあるような感じですが、実はカウンセリングや精神療法は自分の考え方や行動、環境などに向き合って、それを変えていく努力を求められるのでそれなりにエネルギーが要る治療法で、むしろ薬を飲むほうが楽ともいえます。精神療法は本人の努力や協力が必要ということを知っておいて頂きたいと思います。
 私は認知行動療法より行動認知療法というほうが実態に合うと思うのですが、行動を変えたらそれに伴って気持ちが変わるという考え方です。我々もふくめて気持ちを変えたいときは、まず行動を切り替える方が容易です。「悶々と考えてしまう。どう考え方を変えればいいですか」とよく聞かれますが、考え方を無理に変えようとするのではなく「まずはコーヒーを淹れる」「外に出て深呼吸」などその時とっている行動を変えることを勧めています。

【家族の対応
以下のことはうつ病に限らないと思います。

◎肩肘張らず安心できる場の提供:家族が無理をしていると、それが本人へのストレスとして跳ね返ってしまうので、家族も自然体で無理がない体制でということです。

◎病気について正しく理解する:これが第一歩です。

◎「気分転換」はかえって負担になることも:うつ状態がひどいときは何をやるのも億劫なので「憂さ晴らしに温泉へ行ってみようよ」「あなたの好きなものを食べに行きましょう」といったこともむしろ負担になります。

?対応に迷ったら本人に聞いてみる:気晴らしに誘ってみてもいいかどうか迷ったら、本人に直接聞いてみてください。

◎重大な決定は具合の悪いときにしないで先延ばしする:会社を辞める、離婚するなど、精神疾患に限らず体調が悪いときの判断は、後で後悔することが多いです。

◎原因探しをしない:過去にこだわらず、今できることに意識を向けましょう。

◎遠慮なく受診に同行する:家族からの情報提供も大事です。

◎一歩引いて温かく見守る:つい気になって小言を言うのはもちろん、至れり尽くせりもかえって負担になります。

家族が出来る対処としては、

◎家族会などに所属して仲間を見つける

◎助けてもらえそうなところはすべて頼る

◎収入面なども含めて福祉サービスを利用する

◎家事は外部に委託、親族を頼る

◎子供の居場所を確保する

大切なのは「無理なく続けられる体制」であることです。家族も自分を大切にして頂きたいと思います。

【非定型うつ病】
 
私が説明してきたのは定型の大うつ病といわれるものです。最近どうも症状が違う人がいるということで、非定型うつ病と名がついています。一番特徴的なのは気分反応性で、嫌なことがあれば落ち込むが、楽しいことがあれば楽しくなることです。出来事によって気分が変わる。仕事には行けないが遊びは楽しそうにやっていると言われたりします。食欲もあり、よく眠れている、となると「甘えじゃないか」と言われます。
 しかし、気分反応性の悲しい気分はわざと出しているわけではなく、仕事へ行こうと思ったら本当に気分が落ちてしまう。楽しいことになれば勝手に気分が上がってくる。詐病に見えなくもないがそうではない。それが非定型うつ病の症状なのです。甘えじゃないかと責めることは何も生みません。
 それでは定型うつ病と同様にすべてを受け入れて休ませてやるのがいいかというと若干違って、適度なプレッシャーが必要です。受診時に「会社を休みたい」と希望されても、「完全に休んでしまうのは、あなたが治るためにはあまり良いとは思えないので、少し仕事の負担を減らしながら続けるほうが早く良くなりますよ」といった話をしたりします。
 ただ同じプレッシャーを受け続けているとそのせいで具合が悪くなるのも事実ですから、会社と話し合いながら、適度に頑張ることが必要です。ここが定型うつ病と一線を画するところになります。定型うつ病の場合は、「とにかく休んでいていいんだよ、無理しないでね」ということになるので、対応が違います。
 ただ寝ているだけでなく、生活のリズムをきちんと保ちましょう、三食きちんと食べましょう、もし一時的に会社を休むことがあっても、必ず朝は起きて会社に行く時間には家を出て散歩をしましょうなど、うつ病のリハビリの最終段階ぐらいの適度な負担をかけていく方がうまくいくことが多いのです。本人の頑張れるところを探して励まし、頑張って行けたほうが会社にも本人にも家族にとっても良いのです。
                                            〜了〜

平成17年4月からの新宿フレンズホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿フレンズでは4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿フレンズ会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
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新宿フレンズへのお誘い 

 新宿フレンズでは毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
入会方法 


編集後記
 昔は、というと歳がバレそうだが、夕立が来ると梅雨があけるというのが相場だった。最近は梅雨の中だろうと関係なくなってしまったようだ。これも世の中の変化の一つなのか。そんな世の中の変化が精神の世界にもあるようだ。今月の講師・山澤先生のお話に度々出てくる言葉がそれを物語っている。

 双極性障害の説明の中で「最近は双極性障害という表記が増えました」と前置きをし、うつ病も躁うつ病もタイプの違う同じ病気と捉えられていたが、今は全く違う病気であるとして、治療法も薬も違うという。

 ことほど左様に世の中は変化をしている。我々の体も一秒として同じ状態ではない。髪の毛が伸び、手足の爪が伸び、一呼吸毎に病原菌を吸い込んでいるかもしれない。十年ぶりに逢った人の顔が違ってしまってることもあろう。

 うつ病の治療薬では、かつて三環系、四環系の薬を使っていたが、消化管の副作用が出やすい薬であることからSSRI,SNRI,NaSSAなる薬が改良されて出ているという。

 度々会員の方から質問が出る電気けいれん療法もいまはうつ病にはメジャーな治療法であるという。かつての懲罰的意味は無くなり、麻酔医の立会いのもとで行われる電気けいれん療法に異を唱える医師も少なくなっている。

 顧問委の水野先生は十年前の精神科教本は読まない方がいい、と言われた。我々家族として、当事者を看る立場の者はそうした新しい医療というものに注目し、臨機応変に考えを変え、絶えず日々前進あるのみとしていきたいと思う。医療の先生方、製薬会社の研究員、社会の施設関係者等々の力を借りながら・・・                   

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新宿家族会 E-mail: frenz@big.or.jp