新宿区後援・新宿フレンズ5月講演会

   家族のよりよい支えを考える 

       講師 埼玉県立大学保健医療福祉学部教授 横山恵子先生

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【家族が元気になるように】

 私は大学で精神看護学を教えていますが、その前は、埼玉県立精神医療センターの臨床で働いていました。大学へ移って、看護者として家族にどんな支援すればよいか、また退院後の家族の様子、家庭で何が起きているのか、家族へのより良い支援をもう一度確認したいと思いました。ことに、まるで楽しむことがいけないかのように必死で支える家族の姿に、「家族が元気になってほしい」という願いで、その一助となる家族会の研究をしています。

【精神科医療福祉の歴史】

 抗精神病薬が開発され、良くなる人も増えて海外では精神科病院を減らしていた時期に、戦後の高度成長期だった日本は、どんどん病院を作って、入院中の精神科医療に力を入れたのです。日本は私立病院が多いのですね。病院があるから患者を受け入れて、長期入院をさせてしまう。

 私が病院に勤めていた頃は、急性期症状を抑えるために抗精神病薬の多量服薬でグッタリしてしまう患者さんが多かったのですが、1996年には非定型抗精神病薬が導入されました。また診療報酬も改定され、患者さんの病名(診断群分類)や入院期間によって診療報酬が決まる包括医療制度になったために服薬量も減り、入院日数も短縮されるようになりました。

 しかし、他国では入院日数はせいぜい数十日、短いところでは10日以内で退院になっているのに、日本は、なんと在院日数が298日(2005年)、5年以上の入院が13万2000人で、4割が長期入院になっています。

 国の政策で「退院促進・地域生活を」と言ってもなかなか減りにくい中で、ようやく社会復帰に向けて少しずつ変わってきて、2001年の調査では、入院から2か月で3分の2が退院、6か月では約8割が退院しています。2004年の「精神保健福祉施策の改革ビジョンは「入院中心から地域生活中心」です。

【退院後の家族の困難】

 退院日数が短くなった結果、二極化が進みました。発症したばかりの若い人は2〜3か月の短期入院が多く、病院も長くは置きません。通院だけの患者さんも増えています。ところが長期入院していた高齢者、つまり受け皿がないための社会的入院患者は7.2万人で退院は遅々として進みません。そして、地域の支援は不足しています。

【家族会の働きと歴史】

 こうした状況の中で、家族会はどういう働きをしているのでしょうか? 家族会は、会員は対等。長くいる人も新しい人に一方的に援助をするだけではなく、受け取るものがあるという自助ヘルプグル―プです。そして専門家とは違う体験的知識が交換されます。

 日本の精神障碍者家族会は、世界で最初に全国組織を作り上げました。1961年にライシャワー事件という、アメリカ大使が精神障碍者に刺される事件がありました。その後に精神衛生法の改定の話になり、管理的な法への方向を恐れた家族が1965年、全国精神障害者家族連合会(全家連)を設立しました。2006年には地域家族会が1318、病院家族会は275、家族6万世帯、12万人の会員でした。

 家族会は、地域にあまりにも資源が乏しいため、多くの家族会が作業所などの地域資源作りに力を注ぎました。そして全家連も本来的な家族支援よりも当事者に向けての支援をせざるを得ず、当事者訓練用にハートピアきつれ川を作ったのですが、破産・解散します。そして「みんなねっと」が主に全家連の家族会全国組織の流れを引き継ぎ、全家連の研究所と家族と当事者が本人支援をメインにして「コンボ」になりました。コンボの『こころの元気+』の表紙の写真は当事者です。

 この新宿フレンズはインターネットを利用し、毎月の勉強会もあるので若い人の参加も多いのですが、一般的には地域の家族会は、かつて作業所を作った高齢の方々が支えていて、次の世代の人たちがいなくて疲弊しているところが多いのです。NPOとなる作業所が多い今、家族の支援という本来的な力を取り戻さなくてはいけない時期が来ているのでないかと思います。

【家族会を通して変化する親子関係】

 急性期症状の体験は、家族にも大きな心の傷になっています。それゆえに子供と一体化して、他の人と状態を比較して一喜一憂してしまいます。しかし家族会にいると、徐々にいろんな見方があることを感じ始め、比較しない価値を発見し、親子の分離を考えるようになる人が多いのです。親の変化を見てみましょう。

1)外傷体験:「激しい急性期のことを思い出せない」「子供がバタンとドアを閉めると恐怖が走る」「思い出すだけでも体が震え、涙が出てくる」それを「トラウマ」と表現する人もいます。

2)子供と一体化:「120%子供のことが頭から離れない」「5〜10年して子供が安定しないと、自分の時間を持つのは無理」「電車に乗っていけるか心配で、幼稚園のお母さんみたいについていく」「電車が来ると、このまま飛び込んでしまおうかと思う」こういった心の状態で「親亡き後」を心配します。

3)比較による一喜一憂:「家族会に行っても、作業所に行けた話を聞くとつらくなる」「回復の差が出てくると、良くなった話もできなくなる」。

4)比較しない価値の発見:しかし、多くの家族とふれ合い、勉強会などで学ぶことで、やがて「当事者である子供を通して見ていて、病気だけど、健康な部分があることにも気づいてきた」「子供が生きていて本当に良かった、自分の人生の後半の力になっている」と気づき、「家族会の仲間や、やれることも見つかった」「二つの人生を生きられる思いがする」と言う親もいます。

5)親子の分離:「家族会で自分の事が整理できて、だんだん自分と子供の人生を分けて考えられるようになった」「自分がまず動いて、それが子供の人生の幅も広げてゆく」。また「家族のきずなが強くなった。これからは、それぞれが自分の楽しみを見つけてやっていきたい」と、人生を前向きに考えられるようになります。

【家族会で得るもの】

 家族会の役割の1つは、新しい情報を得られること。新宿フレンズは、今までの毎月の講演を会報誌に載せ、ネットにも概略掲載して誰でも見られるようにしていますね。

 もう1つは、未来への希望をつなげることです。「家族会に長くいる人は、たいていニコニコしているので、はじめは家族じゃないと思っていた」と言った人がいました。

 先ほど「ここでは何を話しても大丈夫」という声が聞こえましたが、家族会では何でも安心して話せる信頼できる仲間がいる。家族の体験的な知恵・情報を得られ、エンパワメント(力を得る)される。

 しかし、多くの家族会が会員の高齢化や会員数の減少で元気が出ない状況にあります。もっと沢山の家族がいるはずなのに、どうして家族会につながらないのでしょうか? 病気になったばかりの頃は、家族は「元に戻るんじゃないか?」と期待します。しかし、なかなか回復しないので「医師を変えよう」「診断が違わないか」という疑念が湧き、「自分がいけなかったのか」と混乱し、だれにも話せないで孤立して疲弊してしまいます。

 家族会につながるには、自分が精神障碍者の家族であることを認めなければならない。その覚悟が必要です。そうした時に、この新宿フレンズをインターネットで見つけると、勉強会もあり地域と離れている。ご近所に知られずに安全に知識を得て、そして抜けていくことができる…と思うかもしれません。

 そして今は薬も良くなったので、ある程度良くなれば、安心して家族会を卒業する人が多い。つまり家族会は「長くは居たくない、良くなったら卒業したいところ」という話も聞きます。私の参加している埼玉の家族会では、いつも新しい家族が来るのですが、抜けてしまう家族もいるので、会員数はあまり変らない。

 しかし実は、就職したりすれば別の困難が待っています。また再発もあるかもしれない。本当は家族会につながって学び続け、親自身も変化していかなければならないのです。

 今までの家族会では、重い症状の家族だけが残ります。発症したばかりの家族が、病気や薬についての知識が欲しい、希望がほしい…という気持ちで参加しても、「あなたね、この病気は20年、30年で良くなる病気ではないのよ」と言われ、そして「作業所運営の相談をしましょう」となる。それでは「私の求める話じゃない」となってしまいます。

 新しい家族の思いや期待に、家族会は早く気がついて頂きたいのです。また、寛解した家族も家族会を卒業しないでほしいのです。回復してもつながっていると、新しい家族は「あの人の話のように、子供も良くなるかもしれない」と、希望が見いだせるでしょう。

【本人も家族もリカバリー】

 心の病気を持つ方々、家族の方々への白石弘己先生の言葉を引用します。

・病気に対して:障害が残ることや、完治しない可能性があることを知る一方で、何とかなるという希望、何とかしたいという意思を持つこと。

・本人に対して:優しさと温かさを持つ一方で、厳しさを併せ持つこと。

・専門家に対して:サービスを感謝する気持ちを持つ一方で、不安や不満、要求があれば遠慮せずに表明すること。

・自分に対して:本人と関わる決意を持っている一方で、自分の人生の目標や楽しみを追及できること。

・社会に対して:本人のため不必要なことは言わない一方で、本人のために行動し、要求を出し、社会的活動をすること。

これらが、家族の持つべき回復の力です。家族自身が体も心も健康に、自分自身の生き方を考え、人生を楽しんで生きてほしいと願います。

【最近の家族支援】

 こころの健康政策構想会議:国に対し、今後の精神保健医療改革ビジョンを検討する「心の健康政策構想会議」は、政策提言として1.精神保健改革、2.精神医療改革、3.家族介護者支援を盛り込み、厚生労働大臣に提出しました。家族支援を入れたことが大きいのです。

 今の医療制度では、いくら家族支援をしてもお金にならず、病院の家族教室などは、病院の持ち出しなので、なかなか力を入れられないという事情があります。看護者が家族支援をしたらお金になるようにと要求したいものです。

【聞くと聴く】

 「相手が分かってほしいと思っていること」を、理解しようとすることです。相手を主人公として聴く、相手がどんな気持ちなのか、言葉の裏にある思い、そこまで考えて聴くのはとても大変なことです。相手の話を聴くので、アドバイスはしなくていい。「何と言葉を返そうか?」と思うと、思考が自分になってしまう。カウンセラーはアドバイスをしないで、ひたすら聴くのですね。答えはその人の中にあることを信じて、それを引き出し、まとめるお手伝いをするだけです。すると、このように相手は変化していきます。

○自分は受け入れられていると思う。

○自分の話には価値があると自信が持てる。

○自分には存在価値があると肯定できる。

○自分の今の状態を正しく理解できる。

 たとえば、「俺、もう、この薬止めようと思うんだ」と言ったら、あなたはどうしますか?

評価的態度:「え〜止めちゃうの?大変だよ、やめちゃ」。これは正しい・正しくない、善・悪、適当・不適当と判定を下すことで、お説教タイプ。

解釈的態度:「それはね、きみが病気や服薬を理解してないところからきている」と因果関係を説明する上位者タイプ。

調査的態度:「どうして、そう思うの?」といろいろ質問する。事情聴取・診断タイプ。

支持的態度:「飲みたくない気持ちはよくわかるよ。でもね、・・・」。温かく同情的ですが、要注意。相手を自分の思う通りにさせようという操作タイプ。「やっぱり無理にでも飲ませたいんだ」となります。

理解的態度:「薬、止めたいと思っているんだ」と、まず相手の言葉を繰り返す。否定や肯定や、同情などを一切含めずに、相手の言ったことをそのまま受け止めます。そして「飲むのが辛いのね」と、相手の言葉の中にこもっている感情を、こちらの言葉でハッキリ表現します。

 子供さんだけでなく、自分の気持ちにも注目しましょう。家族会の自己紹介でも、「うちの子は…」ではなく、たまには「私は…」で始めてみて下さい。最近あった一番嬉しい話、自分はどう生きていこうかとか、「私」をメインに話すのもいいですね。聴き手も必要ですから、傾聴してくれる仲間がいるといい。家族会でも聴き合う仲間になれるといいですね。そういった中で「私はこんなことをしたい、こんなふうに生きて行きたい」を発見してください。「家族が元気になることが、本人の回復への一歩」です。子供さんの人生と親の人生は別です。自分の人生をイキイキと歩むこと、それが必ず本人の元気にもつながると思います。

                                   −了−

平成17年4月からの新宿フレンズホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿フレンズでは4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿フレンズ会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
どうぞ、この機会に是非賛助会員になっていただけますよう、お願い申し上げます。

賛助会員になる方法        



新宿フレンズへのお誘い 

 新宿フレンズでは毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
入会方法 


編集後記

 梅雨の季節を迎え、被災地の状態は依然として避難所や仮設住宅の人たちが不自由な生活を強いられている。この状態がいつまで続くのか。十年、二十年、想像すらできない。この教訓は東北の人たちに、いや日本国民全体に多くの事を学ばせてくれた。

 さて、そんな折、新宿フレンズでは埼玉大学福祉学部の横山先生に講演を依頼した。横山先生とは今回講師としては初めてであるが、コンボやらあるいはシンポジウムやらでお会いしている。

 先生の発しとしたものの言い方が気持ちいい。家族会の問題を縷々述べているが、その中の一つ。「比較しない価値を発見できれば、子供の人生、親の人生を分けて考えられるようになる」。これは誰しも踏むことになる同じ轍であろう。自らの子供が良くなっても悪くなっても、この「比較」をしている。

 隣の人が「うちは作業所に行けた」と聞けば、何か回復したように感じ、別な人が「うちはまだ退院できずにいる」と聞けば、うちの子と同じと同病相哀れむ感情をもつ。

 そして、見事に新宿フレンズの現実を見抜いている。それはインターネットで家族会のことを知り、勉強会があり、そして自らの住所の地区から離れている・・・確かにそうだ。まだまだ地域には知られたくないのが現実だと思う。

 しかし、精神の世界も最近変わって来ている。先生の言葉「新しい家族の思いや期待に家族会は早く気がついていただきたい」は、我々が絶えず参加者の動向を見つめながら、事に当たって行く必要を感じさせる。それは参加者の方でも変わって行ってほしい。 

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新宿家族会 E-mail: frenz@big.or.jp