新宿区後援・5月新宿フレンズ講演会

      薬を安全に使うために知っておきたいこと

            〜減薬の知識・統合失調症の薬を整理する〜

   講師 東邦大学薬学部医療薬学教育センター臨床薬学研究室 吉尾 隆先生

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 【日本は多剤併用大量処方】

 日本の統合失調症の薬物療法は、外国とは下記のような違いがあると言われています。

1)抗精神病薬の多剤併用大量処方:抗精神病薬の大量処方で何が起きるかというと、副作用です。手が震える、足がムズムズする、体がこわばったりする。錘体外路症状といいます。

2)抗パーキンソン病薬の高い併用率:抗精神病薬の副作用で錐体外路症状が出てきてしまうので、抗パーキンソン病薬をたくさん使います。

3)抗不安薬・睡眠薬の高い併用率:ベンゾジアゼピン系の薬で、一般的にいわれる安定剤や睡眠薬はここに入ります。この薬もたくさん使われています。

日本の特徴は、多くの種類の薬が長期間にわたって使われていることで、これが問題です。米国、豪州、英国いわゆる先進国と言われている国々は、抗精神病薬の単剤使用率が80%前後です。日本は16%ぐらいで最下位。3種類以上併用している率が驚くべきことに半数以上。これは10年ぐらい前のデータですが、今は少し良くなっていても、まだ十分とはいえません。

 統合失調症入院患者の抗精神病薬の投与量をCP(クロルプロマジン)換算で見ると、日本は飛びぬけて高く、2003年で1300?超、2004年で1000?超となっています。日本の統合失調症患者の治療が、多くの種類の薬を使い、大量投与していることが分かります。

 副作用止めの抗パーキンソン薬の抗精神病薬との併用率も、日本は90%を越えています。米国、カナダは50%以下、欧州は日本の半分の45%以下です。

 これは抗精神病薬を単剤で使っていれば、抗パーキンソン薬を使う必然性はあまり起きないからです。日本の場合は錐体外路症状の副作用が出たから使うのと、予防のために処方することがあって高くなっています。副作用が出るかどうか分からないのに、なぜ予防投与をするのか。日本は多種類を大量に使うので、医師は「副作用は出てくるだろう、抗パーキンソン薬を出しておけば安心」と思い、患者側も安心と思っているからでしょう。

 日本の抗精神病薬の多剤併用大量処方は、副作用の錐体外路症状の発症→身体的苦痛の増加→抗パーキンソン病薬処方の増加→抗コリン系副作用の増加→下剤、排尿困→難治療薬処方率の増加→認知機能の低下をもたらしました。つまり、治療して改善されずに、抗パーキンソン薬を使って体や頭脳の動きを悪くしていたのです。

薬物療法の適正化をどうするかをまとめました。

1)患者のアドヒアランスを向上させる飲み心地の良い薬物療法を実施する(アドヒアランスとは、患者が積極的に治療方針の決定に参加し、その決定に従って治療を受けること)

2)抗精神病薬の多剤併用大量処方を避けて、抗パーキンソン病薬・抗不安薬・睡眠薬などの併用をできるだけ少なくする

3)過鎮静・錐体外路症状を避けて認知機能障害を改善する

過去に抗精神病薬を使って治療したときには、寝ていてもいいからおとなしくなること、また錐体外路症状が出てくれば、薬が効いていると判断していました。それでは認知機能が悪くなるわけで、全体として病気は良くなりません。

【薬のリスクを分かって使う】

 薬を少なくして病気を悪くしたら元も子もありません。しかし、過去何十年も前に出た論文ですが、ある程度の少ない薬の量で治療した人と、大量服薬の人で、効果に差がないと発表され、それなら少量でもいいのではないかと、欧米では単剤使用が言われ始めました。しかし、日本では、たくさん使って上手くいけばいいだろうという発想のままでした。

 効果の点では、実は未だに分からない。ただし大量服薬は、どう考えても体にいいわけがないのです。薬をたくさん使って病気は良くなったが、体がまいってしまった、心臓が止まってしまったとなりかねない。

フィンランドは国民1人1人の病気を全部、国家が把握しています。そこで、統合失調症の6万7000人を11年間追跡して、自殺や抗精神病薬のリスクを研究した結果が2年前に出ました。

1)自殺リスクは薬によって差が見られた

2)心血管系疾患による死亡は薬剤間で差は見られなかった

3)多剤併用例では単剤例に比べて死亡リスクは高かった

4)全死亡率はクロザピンが最も低かった

 クロザピンは顆粒球減少・心筋症で死亡という危険な副作用があるため、単剤使用で、血液検査など体のモニターをしなければ使えない薬ですが、治療抵抗性の統合失調症に非常に効果的で、約6割弱の患者さんに効果があります。今までさまざまの薬を使って良くならなかった場合は、指定病院で安全に管理されますから、使ってみるべき薬です。フィンランドでも、このクロザピンの服用は一番治療効果があって、死亡も少なかったのです。

【突然死と薬の関係】

 抗精神病薬に限らず、どんな薬にもリスクはあります。薬はリスクを知った上で、体のことを考えて適正に上手に使うことが大事です。

精神病院における身体救急疾患を、緊急度の高い順に分類すると以下になります。

1)不整脈(QT延長)

2)心筋梗塞

3)肺動脈血栓塞栓症(隔離室症候群) 

4)誤嚥・窒息・誤嚥性肺炎

5)糖尿病ケトアシドーシス

6)水中毒

7)イレウス

8)横紋筋融解症

9)消化管出血

10)脳血管障害

 QT延長:不整脈の一種で、心臓が止まる前の状態を示していますが、絶対に突然死するわけではありません。QT延長が現れたら、体に注意しなければならないということで、見逃していると突然死に繋がってしまいます。

【治療の継続と薬の種類】

 多剤併用大量服薬は、副作用の錐体外路症状が出て来ることが多いので、非常な不快感を与えます。当人は、薬を飲んで体調が悪くなったと感じるのですから、薬や治療者に対して不信感が湧きます。すると、ちゃんと治療しようという気持ち、あるいは医療者との信頼関係がうまくいかなくなります。

非定型抗精神病薬と定型抗精神病薬との比較調査では、非定型のほうがCP換算では多少、量が多くなっていますが、これは大きな問題ではなくて、副作用の錐体外路症状は軽く済みます。薬を選ぶときに、効果があって副作用が少なければ定型でも非定型でも良いのですが、我々の調査では、非定型薬のほうが薬を飲み続けているという結果が出ています。

【投与量調査から見えてきたこと】

 私たち薬剤師は処方の調査を毎年していますが、2006〜09年までの入院患者のデータでは、抗精神病薬の使い方はさすがに少しずつ良くなってCP換算では800?台に減り、副作用止めの抗パーキンソン薬も毎年減ってきています。

 ところがベンゾジアゼピン薬の大量処方は、ほぼ変わっていないのです。睡眠薬関係はいまだにたくさん出ていますし、感情の起伏を整えるような気分安定薬が増えてきています。

 また単剤・多剤の比率もすこしずつよくなってきていて、2007〜09年のデータでは、単剤が少し増えて33%に。2剤は余り変わらないが、3剤以上が50%以上から30%ほどになりました。ただ非定型抗精神病薬の併用が少しずつ増えてきていて、かつての定型薬での多剤併用を、非定型薬でも繰り返すのではないかという危惧があります。

【どのように減薬するか】

 厚労省の減薬指針のための研究では、3年間に6500人ぐらいの患者さんに協力してもらいました。

 抗精神病薬の減薬:服薬量の平均は1日およそ1.9種類でCP換算800?ぐらいです。ここから薬の多い人、2.6剤、1000?以上服用している172人を抽出し、この人たちを減量開始する101人と、減らさずに様子を見る71人の2群に分けました。共に薬の量に大差はありません。

 結果として3ヵ月でかなり減らすことができ、2剤でCP換算800?弱と日本の平均値ぐらいになりました。減量するスピードは、1000?以上から最初の12週で800?に、次の12週で800?未満に減らせました。

 抗精神病薬は1週間でCP換算25?、抗パーキンソン薬は2週間でビペリデン換算0.5〜1?減らしていくことは可能なのです。ただし単にそのスピードで減らしていくのではなくて、症状を評価しながらでないといけません。薬の飲み心地を主観的に評価してもらうDAI(Drug Attitude Inventory)の結果は、減量前と減量後で症状に差はなく、錐体外路症状は良くなっています。つまり減薬しても症状の悪化はなく、副作用は良くなったわけです。

1)低用量化:1000?以上の場合、少しずつ1週間でCP換算25?程度の量を減らす

2)単剤化:1000?を切ることが出来たら、単剤化を目指す。このときDIEPSS(薬原性錐体外路症状評価尺度)を使って、錐体外路症状の評価をしていく

3)抗パーキンソン薬の減量: 1)2)で、一日CP換算600?を目指す。それができたら、抗パーキンソン薬の減量を、2週間で0.5〜1?ぐらいずつ減らす

4)非定型抗精神病薬への変薬も一つの手段になる

【厚労省の減薬指針・新規基準の問題点】

 我々の研究グループは、コンボ(地域精神保健福祉機構)から厚生労働省へ精神科における薬剤の適性使用に関する要望書を提出しました。精神科における身体合併症や突然死があることをきちんと調査してほしい、という要望書です。

 理由としては問題が頻発しているにもかかわらず疫学的調査が行われていないこと、薬の多い人には血液検査のモニタリングを義務付けてほしいこと、いまは入院患者ですら行われていないこと等です。

 平成26年度診療報酬改定に関わる答申書の付帯意見に、「適切な向精神薬使用の推進を含め、精神医療の実態を調査検証し、精神医療の推進について引き続き検討すること」とあります。

 ここまでは良いのですが、除外規定がついていて、4項目中の (ニ)が問題です。

「※ただし、以下の場合は向精神薬多剤投与として扱わない。

(ニ)抗うつ薬又は抗精神病薬に限り、精神科の診療に係る経験を十分に有する医師(※)が処方した場合。

※臨床経験を5年以上有する、適切な保険医療機関において3年以上の診療経験を有する、相当数の主治医として治療した経験を有する、精神科薬物療法に関する研修を修了していること等の要件を満たす医師をいう。

※向精神薬多剤投与を行った保険医療機関は、年に1回、向精神薬多剤投与の状況を地方厚生(支)局長に報告する。」

 これに対して、日本精神神経学会は課長通知にある、「精神科の診療にかかわる経験を十分に有する医師」を満たす資格は、原則として日本精神神経学会専門医であるという見解を出しました。

どの先生も本当は減らしたいと思っているのですが、現状はなかなか治療がうまくいっていないので、そこは皆さんもご理解いただきたいと思います。

 減薬はできます。ただそのやり方は、主治医と一緒にやったほうがいいので、今日の話を参考にして、減薬は主治医によく相談していただきたいと思います。

○吉尾先生の詳しい文章「抗精神病薬の多剤併用大量処方の実態」=ホームページ・同タイトルで検索(PDF)
                                          〜了〜

平成17年4月からの新宿フレンズホームページ「勉強会」の表示形式について

 新宿フレンズでは4月から「勉強会」ホームページの表示について、概略掲載とすることになりました。そして、「フレンズ」(新宿フレンズ会報紙)ではいままで同様、あるいはより内容を充実させて発行することにしました。これまで同様に勉強会抄録をお読みくださる方は、賛助会員になっていただけますと「フレンズ」紙面版が送られますので、そちらでお読みできます。
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 新宿フレンズでは毎月第2土曜日、12時半から新宿区立障害者福祉センターに集まって、お互いの情報交換や、外部からの情報交換を行い、2時からは勉強会で講師の先生をお招きして家族が精神障害の医学的知識や社会福祉制度を学び、患者さんの将来に向けて学習しています。
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編集後記

 「降れば土砂降り」とは今週の各地の大雨のようなことを言い当てているのではないだろうか。各地で被害がでている。年ごとに異常さが増してくるような昨今の空模様である。

 今月は吉尾先生から「減薬」について真正面からお話をいただいた。何だかんだ言っても我々家族にとって最も関心があるのが薬である。そこには、大量服薬で病気は良くなったが、心臓が止まってしまった、という過去の例を聞くとやりきれない思いである。

 しかし、現代でも薬の被害とでもいうべき問題がある。統合失調症で抗精神病薬を服薬していることが死亡の相対的リスクを上げているという。それは薬の質よりも量の多寡によるものであると。

 そして、先生は薬は大量に使っても少量でも、効果の点ではどちらとも言い切れないと述べている。それでは少量で済むなら少量で行きましょう、というのが先生のお考えのようだ。さらに、先生は少ないだけでなく、その患者さんに合っている薬で処方することが大事あると付け加える。

 最後に先生は、減薬はできます、きっぱりと言い切っている。ただ、そのやり方は主治医とのコミュニケーションを大切にしながらやって行ってください、と言葉を結んだ。

 薬について記憶に残るのは最近「かみさまの縁結び」を著した大石洋一さんの言葉を思い出す。彼は講演の中で「私は主治医と結婚したつもりでいます。だから、どんな薬を飲んでいるか知りません」。要するに薬についても主治医を如何に信頼しているかであろうと思われる。息子は主治医が定年を迎え、大病院からクリニックに転院した。その後を追って、息子も転院していた。親の知らぬところで。                                

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新宿家族会 E-mail: frenz@big.or.jp