ミクロ戦記その1

 その頃、富士の山すそ、富士山地球本部の司令室、通信要員のローレンスが各支部や拠点施設との交信を試みていた。

 バーンズと遅れて富士山地球本部に到着したサービスエリア長官M121メイスン、ファクトリーエリア長官M103ジェシーも交信の様子を見ている。

 「ローレンス、まだH市のブラッキーと連絡が取れないのか・・・・。」バーンズはローレンスのシートにもたれかかりながらイライラとした口調で言う。

 「はい。呼びかけを続けてますが全く返答無しです。ホットラインも不通になっています。」

 「あっちにはダンやハドソン達、ベテラン連中もいるから大丈夫だと思うが、状況が分からなくてはどうしようもない。」

「他の支部との通信もできません。もしかすると通信ケーブル網に何か異常があるのかも知れません。」

 「H市、ノーザンライトの通信網は最も強固な回線を使用している。余程の事がない限り通信可能なはずだ。」

 「いやな予感がする・・・。」バーンズは思わずつぶやいた。

 「もしH市に何かあったのだとしても、今の大規模偵察で航空戦力はほとんど出払ってる。残っていて飛行可能なのはオーバーホール前のアースジェッターだけだ。アースジェッターの航続距離では中継地点にすら到達できん。偵察部隊が帰還するまでどうにもならん。予備機のスーパージェットはすでに部品用にバラしてしまったしな。急いで組んではいるんだが。」ジェシーは腕組みしながら通信室をうろうろと歩き回る。

 「ローレンス、リチャード達の輸送隊はどうしたんだ。今頃はH市からの帰路に就いている筈だが。」バーンズはローレンスに尋ねた。

 「10分前に定時連絡が入ってから音信不通です。何度も交信を試みてはいるんですが現在の所まだ返答がありません。」

 「あと、先ほど天文台から三陸海岸付近に隕石が落下したという連絡が入ってます。理リチャード隊が付近を飛行中なら何らかの電波障害を受けて交信不能に陥っている可能性もあります。」

 「ローレンス、東北付近で動ける部隊はいるか問い合わせてくれ。」

 「了解しました。」モニターに東北地方で活動中の部隊のリストが表示される。

 「バーンズ長官、東北付近で活動中のコマンドエリア、インテリジェンスエリア、レスキューエリアの部隊は偵察任務中ですぐには動けないそうです。」

 「分かっている。どのエリアでも構わん。急いでやれ。」

 「各エリアに確認してみます。」ローレンスは通信機のレシーバーをとって各エリアに問い合わせた。各エリアの人事担当者が活動スケジュールを確認し連絡してきた。ほとんどのエリアは動けないとの返答だった。

 数刻してトレーニングエリアのデュアルから返答があった。

 「こちらデュアルだ。現在S市で訓練中だが数時間程度なら時間を割ける。一体何か起こった?」モニターに画像が映し出されるが恐ろしくノイズが多いらしくデュアルの姿は判別できない。

 「デュアル君かバーンズだ。緊急事態だ。君の所に現在動ける人員は何人いる?」

 「は、バーンズ長官。私を含め教員3名、上級課程の訓練生13名です。」

 「H市から帰還中のレスキューマシン2機が三陸海岸上空と思われる空域で消息を絶ったのだ。隕石落下の報告があったのだがその影響で通信不能になっている事も考えられる。緊急事態ゆえ指揮系統外からの指令になるが、動員可能な人員を動員し、海岸付近を捜索してくれんか?」

 「緊急事態という事ですね。了解しました。ジョン長官に報告をお願いします。訓練の途中ですが臨時の実地訓練として捜索を行います。こちらの装備と人員では山岳地域での長期間の捜索活動は無理ですので南部の海岸線を中心に任務を遂行します。」

 「デュアル君、現場での判断は君に一任する。何らかの情報を得しだい連絡を入れてくれ。」

 「は、了解しました。」

 三陸海岸の南部。地上すれすれに飛行するウォーゼルのレスキュージェッターの姿があった。

 コックピット内はビービーと警告音がけたたましく鳴り響いている。コンソールパネルは赤い警告灯で一杯でどの装置が故障中なのか判断できない。

 「ちくしょう、うるさいぞ。」ウォーゼルはいらついて物言わぬメーター類に怒鳴り散らした。どうやら回避行動で行った急旋回が効いたらしい。

 ピーピーピー、新しい警告音が鳴り響く燃料が底をついたらしい。

 「くっそー腹ぺこだと。回避運動で派手に使いすぎたか。これじゃ中継基地にもたどり着けんな。」ウォーゼル機は徐々に速度を失い、高度を落としていく。エンジンが断続的に火を吹き始める。

「胴体着陸するしかないか・・・。」

 富士山のすそ野、地球本部から数キロ離れた地点。富士樹海と呼ばれる密林を偵察任務中の2台のツインレーサーが疾駆していた。1台はM161シェリフが操縦、サイドシートにアマンダが座っている。もう1台はM151イーストとアキだ。

 「シェリフ隊長、止めて下さい!!」突然アマンダが叫んだ。シェリフは慌ててツインレーサーを急停止させる。続いて後続の一台も停止した。

 「アマンダどうした、何か見つけたのか?」操縦席にいるシェリフは周囲を見回した。倒木がある以外これといった物はない。

 「何者かが侵入した形跡があります。」アマンダは目の前にある倒木に近づくとそれを念入りに調べた。倒木の表面には大きく深くえぐれた様な跡がある。周囲には細かいオガクズが散乱している。

 「うーむ、これは・・・。まるでドリルで削ったような・・・少なくとも野生動物が付けた傷ではないな。」シェリフも倒木の表面をのぞき込む。

 「ええ、余程高速で移動する物体が接触しない限りこうはならない。」 

 後続のツインレーサーからイーストとアキが降りてきてアマンダの元に近づく。

 「何か見つけたの?」アキが急ぎ足でアマンダに駆け寄る。

 「ええ、アキ。この木の表皮を見て。傷がついてるわ。」傷跡は何か高速で移動する物で傷つけられた様子でそれは動物の付けたものとは考えづらかった。

 「間違いなくこの付近にいる。」アマンダは侵入者の存在を確信していた。

 「こんな本部に近い所に侵入なんてどうやったら出来るのよ?」

 「普通はあり得ないわ。でもその痕跡はあった。つまり侵入者はそれだけの能力を持った相手なのよ」そう言いつつアマンダは周囲の気配を探っていた。冷たい視線、殺気の様なものを感じる。シェリフやイーストも同様の視線を感じていた様子だった。

 「出てこい!いるのは分かっているぞ。」周囲をうかがいながらシェリフが叫んだ。アキとアマンダの顔に不安な表情が浮かぶ。ミクロマンコマンドである彼女らは当然戦闘訓練は受けている。デスマルク戦より後に蘇生したミクロマンである彼女らはまったく戦闘らしい戦闘は経験していないのだ。ただ身を寄せ合いふるえているだけだ。イーストが二人をかばうように前にでた。

 「フフフフフ、馴染みの顔もいるようだ・・・。私は運がいい。」シェリフとイーストには聞き覚えのある声だった。かつて何度も戦った相手の声・・・。

 「レッドスターか!!」イーストが叫ぶ。ヤツはレッドスターは俺達をどこからか視認している。

 「フフフ覚えてくれていた様だな。そうアクロイヤー軍団戦闘隊長レッドスターだ。それでこそ地獄の淵から蘇った甲斐があるというもの。オレの代わりに地獄に送ってやろう。」不敵な声が響きわたる。近くにいるはずだが声の出所が分からない。

 「貴様どうやって生き返った!?」シェリフが標的も定めずダイガードショットを放つ。

 「くっ反重力ジャンパーさえあれば・・・。」イーストは様子をうかがい、木々の微かな揺れからでもレッドスターの居所を掴もうとしていた。

 この偵察任務はマシンに乗って出動したため、シェリフ、イースト共に反重力ジャンパーを装備してこなかった。反重力ジャンパーがなければミクロマンコマンド特有の反重力ジャンパーを用いた強力な格闘能力を発揮できないのだ。特にコマンド1号であるイーストのダイガードショットは拡散型であめため威力が低い、逆に装備できる反重力ジャンパーの性能は2号のものより格段に優れているのだ。

 バッ、左前方で何かが動いた。イーストはとっさにそちらを向く。ドガッ!!!突然イーストが前につんのめるように吹き飛ばされた。

 「!!」イーストの立っていた所に鮮やかな赤いボディの異形の姿があった。レッドスターはイーストの頭上から攻撃を加え、不敵にもそのままそこに姿を出したのだ。かつての姿そのままに・・・・。

 バキバキバキ!!レッドスターはつま先が二股になったまるで帰るや鳥のような足先で側に倒れているイーストの脇腹を踏みつけ、あばらを砕く。

 「ぐあぁぁっ」

 「イースト!!」シェリフはイーストを救うべくレッドスターに体当たりをかけた。

 ドガッ!!シェリフの体当たりにレッドスターははじき飛ばされ地面を転がった。アマンダが急いでイーストを抱き上げる。イーストはあばらを痛めているのか激痛から脂汗を浮かべている。

 「むぅっ、小癪なぁ。」レッドスターはゆっくりと起きあがったその体は明らかに怒りに震えている。

 グォォォォォン。後方からエンジン音が響いた。

 「どいてっシェリフさん!!」アキの声だ!シェリフはとっさに後方に飛びずさった。ツインレーサーがレッドスターめがけて突っ込んだ!!

 ドガッ!!レッドスターの体が宙に放り出され、後ろにある木の幹に激突した。黒い長い物が回転しながら地面に突き刺さる。同時にアキもツインレーサーから放り出され茂みの上に転がった。

 「うぐぉぉっ」レッドスターの絶叫が響く。レッドスターは左腕を抱えてうずくまる。地面に突き刺さったのはレッドスターの折れた前腕だった。

 「貴様らまたしてもこの俺を!!」レッドスターは今度は倒れているアキに攻撃を加えようとしたが一瞬動きを止めた。

 「帰還!?しかし、もう少しでミクロマン4人を片付ける事が・・・。わ、わかりました。帰還します。」レッドスターは切断された自分の腕を残った腕に吸着させる様に指のない鉄球状の拳で掴むとすごい勢いで飛び上がった。

 「この腕の借りは必ず帰すぞ!!」そういうとその場から飛び去った。

 「イースト!!」シェリフがイーストに駆け寄る。アキもゆっくりとした歩調でそれに従う。

 「シェリフ・・・・・みんな無事な様だな。ちくしょう俺もこの25年で老け込んじまったようだ。あんなヤツにやられるとは。うぐっ」イーストはぐったりとした。痛みで失神したようだ。

 「レッドスター・・・・誰かに命令されている口調だった。」つぶやくシェリフ・・・・・。アキが不安げに見ている。

 「よし、我々も本部に帰還するぞ。」

 シェリフはイーストをサイドシートに乗せた。シェリフのツインレーサーは破損し走行不能となったもう一台のツインレーサーを牽引しながら本部に向かった。

 小雪舞う冬の三陸海岸、たくさんの残骸が浜辺に打ち上げられている。目を凝らすと人が倒れているのが見える。赤いボディアーマーを付けた男・・・撃墜されたレスキューマシン、ボンゴに乗っていたクラークだ。呼吸はしている死んではいない様だ。

 「ううっ」クラークはゆっくりと目を開けた・・・寒い、そして体中が痛い。

 「ううっ・・・ここは・・・・」痛みを堪えて上体を起こそうとする。周りを見渡す。見覚えのある色の残骸が転がっている。

 「そ、そうか撃墜されたんだな。」クラークは浜辺に座り込んだまましばらく動けなかった。生命維持装置の調子がおかしい。スーツの温度調節がちゃんと効いていない様だ。海に放り出された時に故障したのだろうか?ついてない。厳しい寒さが身にしみる。「寒い・・・・・。」クラークの意識は再び薄れていった。

 赤い光球が凄いスピードで移動していた。それは北に向かって飛び去った。光球がたどり着いたのは山梨県南部にある無人の寺院、今はうち捨てられ門は朽ちて屋根がごっそりと崩れ落ちている。地元の人間は危険であるため立入禁止になっている・・・・。無人の寺、境内は誰も手入れをせず雑草が生え放題に生えている。境内中央にある本堂は鎖で固く閉ざされている。大屋根の瓦の隙間からも雑草が生えているような上体である。

 本堂の土壁には大きな穴が空いている。本堂の中には仏像が安置されている。不思議な事にこの仏像の中から微かな機械音が漏れ出ていた。赤い光球はこの仏像の中に消えた。仏像の中部は機械で埋め尽くされていた。赤い光球が徐々に光量を落とすとその光の正体はあのレッドスターだった・・・・。

 「ふふふ無様な格好だな。」背中に車輪のついた2本のアームを持つバックパックを背負い、異形ではあるがレッドスターとは違い、ごつごつとした体をしている。その体は透き通った青色をしている。

 「ア、アーデンクール」レッドスターはたじろいだ。

 「ミクロマンとかいう奴らにやられたのか。」アーデンクールは見下すような視線をレッドスターに投げかける。

 「貴様らが思っているほどミクロマンは弱い存在ではない。」レッドスターは激昂し、鉄球状の腕を振るわせた。

 「貴様にとってはそうかもしれんなレッドスター。」別の声がアーデンクールの後ろから響く。その者はレッドスターにシルエットが似ているがごつごつとしたボディラインをしており、アーデンクール同様透き通った緑色のボディをしている。そして肩に何かを担いでいる。

 「デモングリーン!!」

 「ミクロマンを倒すなどあまりに容易い。」そういうと担いでいるものを床に投げ出した。

 ドサッ、力無く横たわるそれを見てレッドスターはぎょっとした。それはミクロマンだった・・・・そうレスキュー隊員のローバーであった。

 「戦利品だ。こいつを締め上げれば奴らの本拠地の情報が得られる。」デモングリーンはさも自慢げに言った。

 「よし、デモングリーン、そいつは貴様に任せる。」

 「フフフ、任せておけアーデンクール有益な情報を引き出してやるとも。」

 「一刻も早く情報を引き出せ。薬物の使用も構わん。今頃、デモンレッド率いるアクロ兵どもが出撃の時を待っているぞ。」レッドスターはアーデンクールの喜々とした表情にぞっとした。

 デモングリーンはローバーの両手を鎖で繋ぎ、天井からつり下げた。ローバーは力無くぶら下がっているだけだった。

 「いい眺めだ。これからこいつの表情が苦痛に歪む事を想像するだけで続々してくる。」デモングリーンの甲高い笑い声が響いた。

 4人のレスキュー隊員が消息を絶った三陸海岸の付近の海岸線を数人のミクロマンが北に向かっている。雪が積もる広大な海岸をまっすぐ北に足跡が続いている。その彼らは緊急に動員された訓練生だった。周囲を見渡すが雪が海岸のほとんどを覆い尽くしている。この状況では遭難者の発見は難航するかもしれない。

 「指示通り展開してるな。」デュアルはレシーバーを下ろすと2人の教官ジャッキーとロドナーに指示を送る。教官になっているジャッキーとロドナーは現役のレスキュー隊員でその能力を評価されて臨時の教官を任命されている。2人ともデュアルの人選だ。ジャッキーは経験豊富なレンジャー隊員で富士の樹海でさえ地図やコンパスなしで踏破出来る能力を持っている。ロドナーは消火活動の専門家である。そして不安定な場所や危険な場所での消火活動のノウハウを持っている。

 「こちらジャッキー、若干の遅れは有りますが何とか展開終了しました。」

 「こちらロドナー、展開完了しました。」

 「よし左右で指示通りの距離を開けて北上させろ。ジャッキー、のろまのヒヨっこにしつかり檄を飛ばしとけよ。」

 「了解。」

 捜索隊となった13人の訓練生達は一列横隊になって海岸線を北上していった。深く積もった雪をかき分けての捜索は困難を極めていた。訓練生達の疲労も無視できるものではなくなってきていた。

 デュアル率いる捜索隊が海岸線を北上し始めて5時間あまりが経過していた。既に日は西に沈んでしまった。月明かりも無く、海岸の周囲に地球人が設置した明かりもない。訓練生達の能力で捜索出来うる時間は既に限界に来ていた。

 「何かあります」訓練生の一人が何かを発見したらしく大声で叫んでいる。近くにいたロドナーが確認に向かう。青く塗装された破片だ。見たところ主翼か尾翼の破片のようだ。大きさはミクロマンが扱うマシンのサイズだ。破片を裏返すと表面に何かマーキングがある。J・・E・・T・・T・・E・・・。ジェッター!!レスキューマシン1号ジェッターの尾翼部分だ。リチャード機かウォーゼル機かは不明だが墜落したのは確かなようだ。周囲をライトで照らすと所々に破片が散乱している。

 「人が倒れています!!」訓練生が叫ぶ。デュアルとジャッキーがライトが照らす方向に走りだした。近くにはレスキューマシン1号の機首部分が根本からポッキリと折れた状態で転がっている。その側でオレンジ色のボディアーマーを着用したミクロマンが横たわっている。コックピットから放り出されたらしい。ジャッキーが走り寄る。赤色のボディアーマーのミクロマンはクラークだった。クラークはぐったりとして少しも動かない。ボディアーマーの生命維持機能は既に停止している。奇跡的に目立った外傷や出血はなかったが墜落の衝撃で数カ所に骨折を負っているようだ。寒さで体力を失っており、危険な状態だ。急いで応急処置の必要がある。

 ロドナーは訓練生数人を使って廃材を集め火をおこしている。風が強くなってきた。まもなく嵐になりそうな気配だ。

 「本部に緊急連絡。こちらデュアル。生存者1名発見。現在応急処置にあたっている。」

 ザザ・・・ザザザ・・・酷いノイズだ。電波状態が著しく悪くなってきている。

 「本部に緊急連絡。こちらデュアル。生存者1名発見・・・・。」

 ザザ・・・ザザザ・・・ザザ・・・ザザザ・・・。

 「だめだ、全く応答なしだ。ここをベースキャンプにするしかないな。ロドナー、訓練生6人を任せる。ここで本部と連絡をとり続けてくれ。残りの人員で捜索を続ける。」

 「了解。みんな、急いでテントを組むぞ。」ロドナーは早速テントの設営を指示した。

 富士山地球本部、日が沈んでから、急激に温度が下がってきている。空気は冷たく張りつめていた。上空には厚い雲が立ちこめ、月や星の姿はまったく見えない。

 「こちら本部、デュアル隊、応答せよ、こちら本部、デュアル隊、応答せよ。」ローレンスが叫ぶ。

 「どうした。」メイスンがいぶかしげに聞く。

 「先ほど、デュアル隊からの通信が入ったんですが。通信状態が悪くて・・・。」ローレンスは通信機のレシバーに向かったままメイスンに説明した。

 「気象条件が悪化してきている様だな。」

 「このまま呼び出しを続けますか?」

 「当然だ呼び出しを続けてくれ」メイスンはあきれた様子でローレンスに返した。

 富士山頂上のレーダーサイト、夕方辺りから雪が降り始め、日が沈む頃には辺りは雪景色になっていた。

 「やけに寒いと思ったら雪が降ってきやがった」リヴェッティーが忌々しげにつぶやいた。

 「ん?今上空警戒レーダーに何か映った様な気がするんだが・・・」バージルがモニターをのぞき込む。リヴェッティーも直ぐにそのモニターをのぞき込んで確認したが何も映ってはいなかった。

 「いや、何も映ってない・・・。バージル、一体何が映ってたんだ?」

 「わからん。だが、一応本部に報告する必要はあるかもしれん。」

 「本部、こちらレーダーサイト、上空警戒レーダーに何か映った。そちらも警戒してくれ。」リヴェッティーがレシーバーを取って本部に連絡する。

 「こちら本部・・・・ザザ・・・ザー・・ブッ」何時旬ローレンスの声が聞こえたが通信は途中でとぎれた。レーダーサイトと本部の通信回線は地下有線ケーブルで行っている。回線に何か異常があったのかもしれない。 「まずいぞ、通信ケーブルにトラブルだ・・・。」

 富士山地球本部の上空、分厚い雲の上。二十数体の物体が音もなく飛行している。月明かりに照らされたその黒光りするその姿は人型をしているが背中にコウモリのような羽を持ち、まるで悪魔のような姿だった。その胸には異形の敵アクロイヤー、デモングリーンの姿があった。

 「フフフ、ミクロマン共め、拠点の位置さえわかってしまえば・・・・・今から存分にこのアクロボットマンの威力を思い知らせてやる。」アクロボットマンと呼ばれるコウモリの羽を持つ人型の物体の胸の部分にデモングリーンは張り付くような形で乗り込んでいる。そして、ミクロマンに対する激しい憎悪に身震いしていた。

 「よし、降下開始だ!!」二十数体のアクロボットマンは分厚い雲に頭?から突入していく。アクロボットマンは雲の中を自由落下していく。一瞬にして雲を突き破る。眼下には樹海が広がり、その中に数カ所ドームが見える。ミクロマンの地球本部だ。

 「死ねぇぇっ!!」デモングリーンは叫んだ。アクロボットマンの各部からミサイルらしきものが多数射出される。

 ドドドドドドーン。連続した爆発音が地球本部に響いた。

 「よしアクロ兵を降下させろ」デモングリーンが指図すると上空に待機しているアクロボットマンの翼部分から数え切れないほどのモノが降下してきた。一瞬でパラシュートが開く、地上から見た姿はまるで降りしきる雪のようだった。

 「何だ?」地球本部の格納庫でマシーンZを整備中だったダニエルは爆発の振動でよろけた。

 「て、敵!?」上空降下する多数のパラシュートの影を見てスコットが叫んだ。夜間の降下訓練の知らせは無かった。それに見て確認できるだけでも百近くのパラシュートが降下している。

 「ロボットマシーンZとタンクにエネルギーと弾薬の補給を頼む」スコットとその場にいた戦闘可能なミクロマン達は近くの銃座に座ると各個に砲撃を始めた。この銃撃でいくつものパラシュートを打ち落とすが、所詮は有効なダメージを与えることもできず、散発的な反撃にしかなっていない。

 地球本部の司令室にはバーンズとボブソン、参謀のエックスとエースがいた。参謀達は一般にコマンドリーダーと呼ばれ、コマンドエリア各軍の作戦立案を担当している。参謀達はバーンズに個々の考えを述べていた。

 「現在、近隣の拠点に救援要請をしています。援軍到着まで何とか手持ちの戦力で持ちこたえましょう。敵の戦力は新型のロボット兵器24、降下兵役200と報告されています。持ちこたえれば何とかなります。」

 若き参謀エースである。エースはエデュケーションエリアから生え抜きのエリート参謀でエデュケーションエリアでは航空隊指揮を専攻していた。コマンド・エアー所属の参謀である。

 「ほとんどの部隊が留守中の地球本部の現状ではもはや防衛作戦を展開できるような状態にはありません。私は早期撤退を進言します。」

 エックスはコマンドリーダーの中でもっとも戦歴の長い老獪なベテラン参謀で地球本部設立前からミクロマンコマンド達の参謀役であった。現在はコマンド・アーミー所属で。そのベテランらしいそつのない作戦立案で誰からも信頼されている。

 「本部を捨てよう。退路を確保しつつ東海支部に撤退する。」

 「戦わずに逃げるって言うんですか!!私なら現状の兵力で防衛作戦を展開できます。撤退には反対です。」エースはバーンズに詰め寄った。

 「エース、気持ちは分かる。しかしこの本部にいるのは戦闘訓練を受けていない非戦闘員ばかりなのだ。彼らの安全を確保しつつ戦闘を行うのは不可能だ。」バーンズが諭すようにエースに言う。

 「ボブソン長官はどう考えているんです!!」

 「エース、残念だが私の考えも同様に撤退だ。今なら最低限の犠牲で撤退する事ができる。」ボブソンはゆっくりと静かに自分の考えをエースに告げた。

 「あなた方は臆病者だ!この25年で腰抜けになってしまったんだ。かつてのあなた方ならこんな結論は出さなかったはずだ。」エースは明らかに取り乱していた。エースにとってバーンズやボブソンは英雄だった。その英雄が逃げる事を選択するのがまだ若いエースには理解できなかったのだ。

 「エース、言い過ぎだ。バーンズ長官やボブソン長官、それに私だって戦えるのなら戦う事を選択している。戦って勝つことだけが作戦じゃないんだ。戦いとは負けない事が重要なんだ。今日勝てなくとも明日勝てばそれでいいんだ。」  「わかりました。」エースは項垂れたままそれ以上の言葉は発しなかった。

 「エース・・・・。」エックスにはもはやエースにかけてやる言葉が思い浮かばなかった。

 「ローレンス、すべての回線で撤退命令を伝えろ。そして各エリアのホットラインをここに繋いでくれ。」バーンズはレシーバーを握って通信室のローレンスに指示する。

 「て、撤退するんですか!?」ローレンスは予想もしていなかったバーンズの言葉に絶句した。

 「ローレンス急げ、君の行動に全員の生命がかかっているんだ。」

 「了解・・・。」地球本部全部にバーンズの指示を伝えた。

 「非戦闘員の撤退指揮はメイスンとマックスに頼む。ハワード、情報部の連中を動員し樹海の南西部に展開、非戦闘員撤退の支援を頼む。コマンドエアーの現存する航空戦力をすべて投入しハワード達を支援してくれ。」バーンズは各エリアの長官と各部署の担当者に次々と指示を出す。

 「エックスとエースはボブソンの副官を頼む。」

 「ボブソン、すまないが君はコマンドアーミーの兵力を集結させしんがりを頼む西のゲートに敵を侵入させないようにしてくれ。」

 「バーンズ、君はどうするんだ。」

 「全員の撤退を確認した後、撤退する・・・・。」

 「全員、出動だ、一刻も早く撤退を完了させるんだ。」

 「了解」エースとエックスの二人は先に司令室から出る。

 「バーンズ、後で必ず会おう。」ボブソンはバーンズに笑顔を残して司令室を出ていった。バーンズ・・・・ヤツは死ぬ気だ・・・・・。

ミクロ戦記その3