ミクロ戦記その3

ミクロ戦記−第2章−

 東海支部は太平洋に面する半島の岸壁をくり抜いて建設された軍事基地で14階層におよぶ多階層構造の基地施設である。主にコマンドネービーと一部のコマンドエアーがこの支部に所属している。基地の海中部分はサーベイヤームサシ級と呼ばれる主力艦や水中移動用マシンのマリンコンドルやシースパイダーが格納されている。基地となった岩盤は元々は鉱山跡で、かつて共に戦った地球人協力者片貝あきら博士の依頼でミクロジウムと呼ばれる物質を発掘していた。

 東海支部の14階層のうち10階に当たる部分が司令室になっている。現在の基地司令官はエバンス。ミクロマンコマンドの最古参の一人である。東海支部司令室に衝撃的な通信が入った。エバンスは司令室の専用シートに腰掛け、基地周辺の自然の景色が映るモニターを眺めていた。

 「救援部隊のスミス隊からの通信です。そちらに繋ぎます。」オペレーターのアンナは妙に明るい口調でエバンスに伝えた。

 「富士山地球本部はすでに陥落した模様。ひどい有様だ施設のあった部分は爆発でクレーター状になっている。敵の姿はない。生存者は・・・いや、この状況では生存の可能性はゼロだ。そろそろ燃料も限界だ。航空写真の撮影後、直ちにそちらに帰還する。」救援に向かったスミスからの通信だ。

 「スミス、気を付けて帰ってこい。敵が潜んでいる可能性もある。」

 「了解。」

 「信じられん・・・。コマンド部隊の留守中とはいえこんなにも短時間であの地球本部が陥落するとは・・・。」

 「あとは富士山地球本部と目と鼻の先にあるこの基地に敵が目を付けるかどうかだな。」ツヨシがエバンスに近寄る。

 「北海道のノーザンライトとの通信も途絶えている状態だ。それも気になる。」

 「警戒しておく必要があるな。エバンス、避難民の受け入れ準備は完了しているのか?」

 「開いている第16格納庫に仮設の居住施設を設置した。水と食料、衣類は名古屋支部から相当量送ってもらっているので心配はない。エルビス達が彼らを迎えに行っている。」

 ウォーゼルは激しい体の痛みで意識を取り戻した。かなり長い時間意識を失っていたようだ。目を開けると天井が明るい。炎の光がゆらゆらと天井を照らしている。

 「!?」ウォーゼルは体の痛みを堪えて体を起こした。周囲を見回す。そこは洞窟か何か、自然の地形をくり抜いた場所だった。鉱山跡?いや、そんな大がかりなものではない。獣の巣穴か何かだ。外は吹雪いているのかビュービューと激しい風音が聞こえてくる。焚き火がウォーゼルの頬に温もりを感じさせた。誰かが助けてくれたのか・・・・。

 ザッザッザッ。雪をかき分ける音が聞こえる。誰か近づいてくる。ウォーゼルはとっさに武器を探した。手元にあるのは薪ぐらいだった。気配を出来るだけ消し身をかがめる。足音が直ぐ近くに近づいた瞬間ウェーゼルは立ち上がり身構えようとした。

 「!!」右足に激痛が走る。ウォーゼルは前につんのめり、足音の主を巻き込み倒れ込んだ。足音の主は思いの外小柄だった。そしていい香りがする。

 「気がついたのね。」

 「女!?」ウォーゼルが巻き込んで一緒に倒れ込んだのは女・・・レディコマンドだった。

 「ちょっと情熱的すぎるわよ。」彼女はそういってはにかんだ笑顔を見せた。

 「す、すまない。」

 「どいてくれない?男性と抱き合うのは嫌いじゃないけど今はそういう気分じゃないの」彼女はイタズラっぽい笑顔でそう言った。

 「すまない」ウォーゼルは身をよじらせて彼女の上からどいた。右足に激しい痛みが走った。

 「怪我人はおとなしくしてなさい。ええっと」

 「ウォーゼルだ。君は?」

 「わたしはアニー。」

 「君はここで何をしているんだ?他に誰も見あたらないが仲間はいないのか?」

 「ええ、一人よ。昔は仲間と一緒にいたけど今は私一人でここで暮らしているの。ここで植物の研究をしているの。」アニーはウォーゼルを壁面にもたれかからせる。ウォーゼルの顔が痛みで微かに歪む。

 「こんな所で植物の研究?何の為に?」ウォーゼルは顔を歪ませながらアニーに続けて訊いた。

 「ええ、こんな所でも菌類や植物は生きているの。何の為にって?そうね、いろいろな薬を作りたいからかな。今からは痛み止めを作ってあげる」アニーはにっこりと笑って傍らに散らばるコケを拾い集める。

 「サイボーグに痛み止め?」

 「サイボーグでも痛みを感じているのは生身の体のほうなのよ。わたしに任せて置いて。」

 東海支部の14階層の内8階に当たる部分は岩盤を深く堀り込んだ全長幅1メートル奥行き80メートルの堀り込み式滑走路になっている。離陸には電磁式のカタバルト、着陸にはワイヤーと空母への着艦に使うフックを用いる。空母を持たない東海支部のコマンドネービーの防空能力の主力がこの滑走路を用いて出撃する。この滑走路の出入り口は普段、迷彩塗装を施されたネットで外部からは巧みにカモフラージュされている。滑走路の上階は管制室となっており、岩肌部分にせり出している。

 管制室は9階と10階の間にあたり司令室と繋がっている。管制室には常に数人のオペレーターが勤務していて、航空機の離着陸を常時コントロールしている。

 「レーダーに機影4、識別信号は味方、ジェットミラーです。部隊コードは276」アリーナの若くはつらつとした声が響く。

 「276、ティモンズ隊だ。アリーナ回線を開け。」

 「東海支部管制室、こちらディモンズ、応答してくれ。」

 「こちら東海支部管制室。ディモンズ機聞こえていますか?」

 「OK、感度良好だ。着陸許可を頼む。もう燃料が限界に近い機体もいる。」

 「ディモンズ、着陸を許可します。ガイドビーコンに従って着陸姿勢を取ってください。」

 「了解。」

 「各機ガスの残量は?」

 「こちらホーナー機、目盛0.6」

 「ヘインズ機、目盛0.3」

 「ハンセン、目盛0.7」

 「ヘインズ、お前から行け。次はホーナー、そしてハンセンだ。こちらは上空待機する。」

 「了解」ヘインズのジェットミラーは速度を落とし着陸体勢に入る。ハンセンもそれに続く。滑走路上では作業員がワイヤーとネットを用意する。ヘインズの機体が限界まで速度を落とし滑走路に近づく。

 キュキュキュキュッ。ランディングギアを下ろし難なく着地する。作業員がヘインズの機体に近づき、トラクターで格納庫に搬送する。続いてホーナー、ハンセン、ティモンズも無事着陸した。

 「ふー、ここへの着陸は何回やっても緊張する。」搬送されるジェットミラーの中でティモンズが柄にもなくぼやいている。

 東海支部10階司令室と同じフロアーに作戦室がある。部屋の中央には大机があり、その天板はモニターで、東海周辺の衛星写真が投影されている。富士山地球基地に当たる位置には赤いマーカーが置いてある。基地司令官エバンスとツヨシ、スミス、ティモンズ、参謀のエドガーがいる。エバンスがコンソールを操作すると画面上に新たなウインドウが開き生々しい廃墟いや、巨大なクレーターの写真が映る。

 「スミスが富士山地球本部上空で撮影してきた画像がこれだ。救援が間に合わなくとも手ぶらで帰ってこないところがスミスの良いところだ。」エバンスが廃墟の写真を指して言う。

 「酷い状態だな。このクレーターがかつての富士山地球本部の跡とはとても思えん。」

 「ディモンズ、敵は記録にない航空戦力と空挺部隊が主力の部隊というんだな。」

 「はい、見たことのない飛行タイプの人型兵器でした。」

 「富士山頂のレーダーサイトに引っかからずにこれだけの事をやってのける敵・・・。」エドガーが眉間にしわを寄せ考え込む。

 「他の拠点の状況はどうなんです?」ティモンズが聞く。

 「昨日からどの拠点とも音信不通だ。何者かに各拠点の通信ケーブル網を切断されている。先日、音信不通となったノーザンライトだけでなく他の拠点との通信網も麻痺している状態だ。これに関しては現在インテリジェンスエリアが調査中だがおそらくは富士山地球本部を襲った連中の仕業だ。」

 「全拠点が音信不通なんですか!!」ティモンズが信じられないといった表情で聞きかえした。

 「そうだ、各拠点の詳しい状況は分かっていない。現在、衛星軌道上のミクロサテライトに日本の各拠点の最新の衛星写真を撮らせている。撮影が完了次第、ここに画像が送られてくる。その画像が入ればある程度他の拠点の状況が分かるはずだ。」

 

 ミクロサテライトとは衛星軌道上に設置された拠点で隕石にカモフラージュされた大型の静止衛星である。月と数個の静止衛星で構成されるムーンゲートの一角をなす基地で、唯一有人の静止衛星である。

 ミクロサテライトにはSPコートと呼ばれる処理を受けたミクロマン達とフードマン達が勤務している。ミクロサテライトの任務は大気圏内外の偵察、地球の気象観測と天文観測、無重力化での化学実験など多岐に渡り、地球圏外の情報を収集する情報センターでもある。

 また、月に続く第2のコマンド・スターの拠点でもあり、数百人のコマンド隊員が在籍している。現在のミクロサテライトの責任者はエリック所長である。彼は古参のミクロマンコマンドで、スパイマジシャン・ヘンリーの後を受けミクロサテライトの所長となっている。

 エリックのボディスーツは地上で活動する他のコマンドとは明らかに異なってきらびやかに輝いている。これはSPコートと呼ばれる表面処理で、多目的フードを装備できないミクロマン達が宇宙空間の過酷な環境下で活動するために必要な処理である。ミクロサテライトに配属されるミクロマンは必ず受ける必要のある処理である。

 「撮影完了後すぐに画像を東海支部に送ってやれ」エリックは部下達に指示する。

 「思った以上に厳しい状況だな。ヨーロッパ支部とアメリカ支部は大丈夫のようだが・・・・地球組に任せるか。こちらは地球組を手助けしてやる事しかできんしな」エリックは撮影された画像を見てため息をついた。

 「この前の謎の電波といい、無数の隕石群といい、この所ここも落ち着かないしな。」エリックはシートの背もたれに体重をかけて背骨を伸ばした。

 「エリック所長、何か人の様なものがミクロサテライトに近づいてきます。」シュルツが叫んだ。シュルツが指さした方向には隕石群があり、その中に赤い人型の物体が見える。

 「望遠カメラを」エリックは姿勢を正すとモニターに見入る。

 「画像が荒くてよく分かりませんが地球圏では初めて見るタイプです。大きさは我々フードマンに近いサイズのようです。」シュルツがモニターを見ながらエリックに答える。

 「外には誰かいるか?」

 「エステベスがアンテナパネルの清掃作業中です。」

 「エステベス、聞こえるか?一旦、清掃作業を中断して漂流物を回収しろ。」

 「漂流物?了解。」エステベスはキョロキョロと宇宙空間を見渡す。赤い物体が浮かんでいる。エステベスは命綱を付けるとその漂流物に近づいた。

 「ミ、ミクロマンのようです。生きているようです。」

 大型の静止衛星ミクロサテライト、エリック、シュルツ、エステベスは漂流していたミクロマンの収容された医務室に集まっていた。ベッドには赤いミクロマンが横たわっている。外見上男性の様である。左手には武器らしきものを装備している。思ったより小柄だな・・・・。エステベスは思った。

 「モニターでは分かりませんでしたが、彼は我々の仲間ミクロマン・マグネパワーズです。」シュルツが横たわるミクロマンの姿を見て言う。

 「マグネパワーズ?確かに味方なんだなシュルツ」エリックがシュルツに尋ねる。

 「はい。マグネパワーズは我々フードマンと交友のある同じミクロマンの種族です。彼らについてはハンスが最も詳しいのですが。残念ながら現在は連絡が取れません」

 「う、ううっ」赤いミクロマンが微かに呻く。意識を取り戻したようだ。顔のコーティングが解除され赤いミクロマンの素顔が現れる。彼はゆっくりと目を開け周囲を見渡した。

 「ここは?」

 「ここは人口衛星ミクロサテライト。私はここの責任者のエリックだ。」

 「あなた方が私を救助してくれたのですか?」

 「そうだ。君は宇宙空間を漂流している所を発見されたのだ。」

 「ありがとうございます。エリックさん。私はアーサー、ミクロマン・マグネパワーズのアーサーです。」

 「アーサー、君がアーサーか。我々は君が送った通信をキャッチしたのだ。」

 「エリックさん。邪悪な軍団・・・新たなアクロイヤー軍団が向かっています。私は彼らがこの惑星にたどり着くより早くあなた方ミクロマンとコンタクトを取り、それ伝えたかったのです。」

 「そうか・・・・。もしかすると我々が置かれている現在の状況に関係があるかもしれん。」

 「現在の状況?」

 「そう、我々の拠点が謎の敵によって壊滅させられたのだ。」

 「壊滅!?」アーサーは目を見開いた。

 「本格的なレーダー設備を持った拠点が敵を察知することも出来ず。たった数時間で陥落してしまった。」

 「残念です。恐らくそれはアクロイヤー軍団の仕業です。」

 「アクロイヤー・・・・。我々は20年も昔に彼らを駆逐したはずだった。しかし新たな敵と共に奴らも再び現れた。」

 「なぜ、あなた方の倒した敵が再び現れたのか・・・その答えはあなた方のよく知っているある人物が答えてくれるはずです。」

 「我々のよく知っているある人物?」

 「そう、彼は我々の協力者でもあるのです。私は彼に会い、そして後から来る仲間と合流しなくてはならないんです。」

 「彼の名前は?」

 「彼の名前は片貝あきら・・・彼は今はプロフェッサーKと呼ばれている」

 「片貝あきら・・・・あきら君・・・。彼が・・・・」

 「よし、我々が君をあきら君の元に送り届けてやろう。」エリックは右手を差し出し、アーサーの右手を取るとぎゅっと握った。

 「本当ですかエリックさん。是非ともお願いします。!!」アーサーはエリックの右手を握り返した。

 「空いているミクロナサを1機君に貸そう。何もしなくてもオートパイロットであきら君の元に君を届けてくれる。」

 「感謝します。エリックさん。」

 そして数分後、ミクロマン・マグネパワーズ・アーサーを乗せたミクロナサはミクロサテライトから地球に向けて飛び立った。

 東海支部、ようやく避難民が到着し、彼らの収容が行われていた。エバンスがゲート前まで出向いて彼らを出迎えた。避難民達はみな疲労困憊した様子だった。無理もない突然取る物も取らず避難せざるを得なかったのだ。

 「ご苦労だったなエルビス」

 「はい。敵の追撃はありませんでしたが、思ったより避難民の人数が多くて・・・」

 「手分けして避難民の収容と登録作業を急いでくれ。」

 「はい」エルビスは敬礼し持ち場に戻った。

 ・・・・敵の追撃は無かった?コマンド部隊の護衛が多少いたとしてもこの大人数の避難民を追跡するのは容易いはず。富士山地球本部の爆発に巻き込まれ戦力を失ったか?

 「エバンス司令、司令室にお越し下さい。」アンナだ、何だろう・・・・何かあったのか・・・。

 数分経ってエバンスは司令室に到着する。

 「ど、どうした何事だ?」

 「ミクロサテライトから画像が送られてきていたのですが、途中で衛星通信が途絶えました。ミクロサテライトの周辺で強烈な妨害電波が発生している模様です。」

 「レーザー通信はどうだ?」

 「何度か試してみましたがレーザーが戻ってきません。レーザー受信部にトラブルがあったのかも知れません」

 「レーザー受信部だけならいいがな」アンナがぎょっとした表情になる。

 「ミクロサテライトにはコマンド・スターがいる。少々の事では破壊される筈はないがこの状況は油断ならんな。」

 「ミクロサテライトから送られてきた画像は?」

 「送られてきた画像は全部で19枚、内1枚はデータの大部分が破損しています。」

 「モニターに出してくれ。」

 「はい」アンナがコンソールを操作する。モニターに次々と各拠点の画像が映し出される。

 北海道支部ノーザンライトフォース所属のアルファ、ベータ、ガンマの3つの基地、仙台支部、千葉支部、東京支部臨海基地、山梨支部、富士山地球本部、名古屋支部、滋賀大津支部、東海支部、福井基地、敦賀基地、生駒山レーダーサイト、大阪摂津支部、大阪南港基地、和歌山基地、神戸三宮支部。中国地方以西のデータは届かなかった。ノーザンライトガンマライト基地、千葉支部、山梨支部、富士山地球本部、生駒山レーダーサイト、和歌山基地は既に廃墟となってしまっている。画像で見る限り完全に破壊されている。

 「北海道、関東、富士山地球本部、関西に察知されることなくほぼ同時の攻撃か。中国、四国、九州にも攻撃が行われている可能性が高いな。中国地方以西の情報があれば・・・」

 「ここは大丈夫なんでしょうか・・・」アンナが不安げにエバンスに聞く。

 「恐らく奴らはここにも来る。敵より早く戦力を集結できなければ我々は敗北する」

 数時間前のミクロサテライト。アーサーを乗せたミクロナサは地球に向かって飛び立っていった。

 無事にあきら君の元に行ってくれアーサー・・・・・。エリックは窓からミクロナサのブースターの光を見て彼の無事を祈っていた。

 「シュルツ、画像の送信は済んだか?」

 「現在11枚目を送信中です。」シュルツはモニターに新しいウインドウを開いて送信状況を確認する。

 ビビーッビビーッ警報が響く。

 「エリック所長、何か巨大な物がすごい速度で急速に接近してきます。」エステベスが叫ぶ。

 「何!!モニターに出せ。」

 モニターに映し出されたのはミクロサテライトの数百倍の大きさがあろうかという隕石だった。

 「隕石のようだな。どこから出てきたんだ昨日までは無かったぞ。シュルツ、隕石の軌道を確認しろ。」

 「了解。」シュルツが軌道計算を始める。

 エリックはモニターに映る隕石をじっと見ていた。少々大きいが隕石が接近してくるのは日常茶飯事である。

 いや、よく見ると所々に窓があり、表面は岩石ではなく金属板のようでせある。一見薄汚れていて隕石のように見えるが巨大な人工物だ。

 
 「隕石じゃない人工物だ!!」

 「軌道計算完了。このままのコースを進めばミクロサテライトに衝突します。」

 「緊急回避!!右舷のブースターを全開にしろ」エリックが叫ぶ。ミクロサテライトの右舷に当たる部分にある18基のブースターが噴射され、ミクロサテライトがゆっくりと左に動く。巨大な人工物はすごい速度で接近してくる。

 人工物はミクロサテライトの移動に合わせるように若干軌道を左にずらし、さらにその速度を上げた。

 「ミクロサテライトをかすめます。」シュルツが叫ぶ。

 「各員衝撃に備えろ!!」

 ドガーン、ガリガリガリガリガリッ

 飛来する人工物は轟音と共にミクロサテライトに接触、ミクロサテライト右舷の構造物を根こそぎなぎ倒しながらすり抜け、地球の大気圏に突入していった。

 「くそっ被害を確認しろ!!」エリックはシートにつかまりながら周囲の様子を見た。何人かは衝撃で床や壁にたたきつけられうずくまっている。

 「今の接触で右舷のバーニア6基とレーダーユニットと通信アンテナがかなり持っていかれた模様。」シュルツは出血する額を手で押さえながら報告する。

 ドガーンドガガーン。爆発音が響く。床から振動が伝わる。

 「何だ!!」

 「右舷の5番、11番.12番のバーニアが爆発しました。燃料に引火したようです。隔壁が緊急閉鎖されましたのでこれ以上の誘爆はありません。」

 「シュルツ、地球側に通信を送れるか?」

 「だめです。左舷の通信アンテナは無傷ですが、現在ミクロサテライトの表面が帯電しているため通信不能です。送信中のデータも一部破損したようです。復旧に2時間程かかります。」

 「画像がエバンスに無事届いていればいいが。」

 

 富士山地球基地陥落から既に10日が経過していた。本部から無事撤退した最後のコマンド隊員やポリスキーパー達が続々と東海支部に帰還していた。

 東海支部10階司令室。何人かの隊長が報告に来ている。

 「無事帰還しました。」テツジと数人の隊長が司令官エバンスに敬礼する。

 「バーンズ長官とボブソン長官は無事脱出したのか?」

 「我が隊は両長官の脱出を確認しておりません。しかし司令室の炎上を目撃しております。もし司令室にお二人が残っていたとすれば生存は絶望的だと思われます。」テツジは敬礼姿勢のまま報告する。

 「そうか・・・・。」エバンスは腕を組んだまま黙り込んでしまった。

 「指令・・・。」テツジは直立姿勢のままエバンスに促す。

 「すまん、ご苦労だった。解散、各自休んでくれ。」エバンスはテツジ達に敬礼し解散させた。

 「ハッ」再び敬礼するときびすを返して司令室を出ていった。

 「エバンス指令、インテリジェンスエリアのダニーからの通信です。」アンナがエバンスに報告する。

 「繋いでくれ。」

 「ザッザザザ・・・・こちらダニー・・・・エバンス、そちらはどうだ無事か?」ノイズだらけの聞き取りづらい通信状況だ。

 「どうもこうも避難民でてんやわんやだ。いま敵に襲撃されると支えきれん。」

 「東海支部は心配ない。・・・・奴ら・・・・なっていない。」

 「通信状態が良くないな今どこに居るんだ。」

 「我々の・・・富士川付近・・・る。」

 「富士川いるのか?本部は既に陥落している。東海支部に帰還してくれ。」

 「了解・・・。先・・伝え・く・・奴らの目標は関・・と・・・の拠点・だ。我々の指揮系・・・を・・断する作戦だ。・・そちらに帰還す・・・」通信が途中で途絶えてしまったダニーの通信機の状態は相当悪いようだ。

 「ダニー・・・・無事ここに到着してくれればこれほど心強い味方はいない。」

 仙台支部、仙台市内のビルの地下に人知れず建設された基地である。デュアルの引率する訓練生達はここで冬季訓練や研修を行っている。

 デュアル達に救出されたクラークはここ仙台支部の医務室に収容されていた。

 「彼の容態に変化は?」デュアルは医務室に入ってきた。クラークが収容されてからずっとここに日参している。

 「生命の危機は去りましたが、まだ意識は戻りません・・・・。生命維持装置の残存エネルギーが限界点まで減っていましたから脳に何らかの影響があったのかも知れません。」ジャブスがクラークの体に付けられた医療機器の数値を見ながら少々自信なさげに言う。

 「もう少し発見が早ければ・・・・。」デュアルは歯がみする。

 「でも後少し発見が遅ければ彼は今頃死んでましたよ。回復の兆しはあるんです。あとは本人の回復力だけです。私は教官や皆さんは出来うる努力はすべてなされたと思ってます。そう自分を責めないで下さい。」

 「ありがとうジャブス。だが・・・・」

 「もっと優秀なドクターの元に運べばもっと的確な治療ができるかも知れません。」ジャブスが悲しげな表情をデュアルに向けながら言う。

 「優秀なドクターか・・・・富士山地球本部のディオかノーザンライトのアインか・・・。いや、すまん。ジャブス君は十分やってくれている。」

 誰かが医務室のドアをノックする。ジャッキーがドアを開いてのぞき込む。

 「デュアル教官、やっぱりここにいたんですね。ヘンリー指令がお呼びです。」

 「わかった直ぐ行く」デュアルは急いで司令室に向かった。

 司令室は仙台支部の最下層地下12階にある。デュアルは司令室のドアを開き、中に入る。

 「お呼びですかヘンリー指令」

 「ご苦労、デュアル教官。そこにかけたまえ」

 「所でデュアル君、富士山地球本部が陥落したのは知っているね。」

 「はい、ここに到着して直ぐに耳にしました。」

 「どう捉えている?」

 「レーダー網を迂回しつつ通信網を分断、主戦力の留守中に一気に攻撃、陥落させるのは容易ではありません。ただし・・・」デュアルは途中まで言って口ごもった。

 「ただし、内通者がいれば・・・。」ヘンリーは言葉を足す。

 「はい、不可能な事ではありません。むしろ内通者さえいれば容易に実行できます。」

 「誰が内通したかは分かりませんが通信ケーブル網や主要戦力の所在などは機密事項になっています。内部の者でもすべては把握していません。到底、部外者に分かるものではありません。」

 「内通者はかなり上位の機密事項に明るい者という事か。」

 「残念ながら。」

 「このことは誰にも言ってないな。」

 「はい、この事に関しては口にするのは今が初めてです。」

 「この件は信頼できる者を使って内密に調査しよう。」

ミクロ戦記その5