ミクロ戦記その4

 東海支部はちょっとした騒ぎになっていた。ある男が司令室にいるエバンスの元にやってきたのだ。その男は普段は昼寝ばかりしてるようなのんびり屋だが、ふらりと出ていってはどこからともなく何かしらの重要な情報をキャッチして何食わぬ顔で帰ってくる。そしてこの今も情報を持って帰ってきた。その男とはスパイマジシャン・デビッドである。

 「いままでどこでどうしてたんです。重傷を負ったと聞いていましたが」

 「腕は富士山地球本部が陥落する前にディオに治してもらった。いや、治療したというよりは新しいのに交換してもらったって感じだ。」デビッドは左腕を何度も曲げ伸ばしする。

 「そんなことより、重要な情報を得てきた。聞いてくれ。」

 「重要な情報?」

 「敵の持っていた命令書から次の奴らの作戦が判った。奴らは宇宙から襲来する増援と合流し、東京臨海基地と大阪南港基地とを同時に攻撃するつもりだ。しかも東京臨海基地の方は地球人協力者の会合が行われる日に合わせてだ。俺たちの重要拠点と協力者を同時に消す作戦って事だ。」

 東京臨海基地、大阪南港基基地、富士山地球本部は日本の全拠点とネットワークを結び、指令を下す指揮系統の中枢に位置する3大基地である。東京臨海基地は関東以東、大阪南港基基地は関西以西。富士山地球本部は東海と中部、そして東京臨海基地、大阪南港基基地をも統括する最重要拠点であった。既に富士山地球本部は破壊され、関東関西の各拠点との連絡は絶たれている。ここで残る二つの拠点を失えば指揮系統は完全に分断される。

 「!!」エバンスはあまりのことに絶句してしまった。もし、仮にミクロマンにとっての理解者である地球人協力者達の大部分にもしもの事があれば今までの地球人との間に築き上げてきた折角の友好関係が無に帰する事になる。拠点はまた築けばいいが、25年もの歳月をかけてようやく築いた地球人協力者との関係をぶち壊しにする訳にはいかない。

 「地球本部陥落後、敵の追撃が無かったのはそういう事か」

 「エバンス、急がないと防ぎきれないぜ。俺は疲れたんで休ませてもらう。」デビッドはそう言うと司令室を出ていった。

 「アリーナ、東海支部所属全部隊の指揮官を緊急召集してくれ。アンナ、生きている衛星通信機を使って全拠点に増援要請を頼んでくれ。」エバンスは冷静な口調でオペレーターに指示する。

 今からならまだ間に合う。絶対に地球人に被害を出してはならない。エバンスはぐっと唇をかみしめた。

 東海支部の作戦室、エバンスの召集命令の下、全部隊の指揮官が集結した。富士山地球本部から生還し、東海支部に再編成された者を含め、総勢で32名。

 「緊急事態だ。敵の作戦が判明した。敵の次の目標は東京臨海基地と大阪南港基地だ。我々はまず東京臨海基地に襲来する敵を全力で殲滅する。」

 「大阪南港基地はどうするんですか?」指揮官の一人が挙手して言った。

 「もちろん大阪南港基地への攻撃も阻止する。しかし、それは北陸と九州、四国の部隊に任せる。ここから大阪南港基地へ向かうにはあまりに時間が掛かる。」

 「他に質問が無ければ作戦を伝える。これは緊急を要する作戦だ。そのへんは理解してくれ。」そう言うとエバンスは指揮官達に作戦を説明し始めた。

 東京湾に面する埋め立て地の一角、地球人達が様々なイベントの会場として使っている施設の地下に東京臨海基地はある。その日は全国地球人協力者会議が開催されていた。地球人協力者達がお互いの情報交換の為、この会議に出席していた。そしてその様子を窺う3つの影・・・。

 「フフフ、地球人ども何も知らずに集まって来よるわ。」その声の主は背中の部分に紋章の入った黒いマントを翻した。

 「さすがに奴らの内部にいるだけに情報は確かだな。」

 「保身のために仲間を売るとはなかなか利口な奴よ。」

 「奴は信用できるのか?」

 「デモン三人衆より余程使える。」

 「そういえばそろそろ時間だ。その三人衆のデモンブルーはまだ到着せんのか?」

 「まだだ。」

 「時間にルーズな奴らだな。デモン三人衆、所詮は使えぬ連中か・・・・。」

 「フン、使えぬ連中であろうと使いこなさなくてはならん。」

 「そうだ役に立つ内は何でも利用するのだ。」

 全国地球人協力者会議の会場内は各地から集まった地球人協力者達で賑わっていた。遠く海外からやってきた地球人協力者達もいる。彼等の護衛のため、ミクロマン達が同行している。ジョニーとフランクも地球人協力者の護衛同行してきたメンバーである。

 「ジョニー、すごいな。こんなに沢山の協力者がいるとは驚きだ。」フランクは珍しげにキョロキョロしている。

 「ああ、この人数が一堂に会するのは珍しい事だからな。」ジョニーはフランクの落ち着きのなさに辟易としながらぶっきらぼうに答えた。

 「無事に済めばいいな。帰って早くカプセルで一服したいよ。」

 「気を抜くなよ、敵が襲撃してくるかもしれんのだ。」

 「了解了解。」フランクは相変わらずのんきであった。

 東京湾上空。大型航空機である移動基地を中心に三十数機の航空機が緩旋回をしながら警戒している。海上にはサーベイヤームサシが待機している。サーベイヤームサシの周辺はマリンコンドルとシースパイダーが巡回している。

 「こちらサイモン隊、定時連絡、東品川上空異常なし。」

 「こちらティモンズ隊、有明上空異常なし。」

 「こちらハンニバル隊、新木場上空異常なし。」

 「こちら移動基地、どんな些細な異変も見逃すな。」移動基地に乗り込み航空隊を指揮しているのはベテランスパイマジシャン・ディックである。本来前線指揮を行うダンが現在不在で有るため指揮を担当している。

 「各隊警戒行動にもどる。」

 一方、サーベイヤームサシは鉄鋼埠頭付近を航行していた。

 「ツヨシ艦長。我が艦上空をティモンズ隊がパスします。」スレンダーが上空を見上げながらティモンズ隊のダイヤモンド編隊を眺めている。

 「空組の連中も張り切ってるな。こちらも負けられん。」

 東海支部司令室。出撃中のエバンスに代わってスミスが指令の席に着いている。

 「無事エバンスたちは東京に到着したようだな。」 

 「はい。衛星通信の回復がもう少し遅れていたら東京、大阪の拠点をも失う状況になっていました。」アンナがゆったりとシートにもたれてくつろぎ気味に答えた。

 「通信ケーブルの修理状況はどうだ?」

 「手の空いているレスキュー隊が仮設ケーブルを敷設中ですので。通常の有線通信の大部分は今日中に回復します。」

 晴天の東京上空、雲霞の如く迫り来る影が多数・・・・。中には見覚えのあるものも多くいる。コウモリの翼を持つ怪物・・・アクロボットマン。かつてミクロマン達を震撼させた強敵ジャイアントアクロイヤー。多数のアクロジェット。湾曲した2本の鋭い角がその頭部から突き出ているロボットが1体。アーデンロボ・・・。

 「アクロイヤーどもこのアーデン・レイカー自らが指揮を執るのだ。能力の限りを尽くして戦え」アーデン・レイカーが操るアーデンロボが腕を振り上げるとその軍勢は一気に急降下を始めた。

 「いい気になりやがって・・・・」デモンレッドは聞こえない程度の小声でつぶやいた。

 ビーッビビーッ。東京臨海基地の上空を警戒していたサイモン機のレーダーが多数の敵機を捉え、けたたましく警報を鳴らした。 

 「東京臨海基地上空、敵機影多数。」サイモンはレシーバーに向かって叫ぶ。

 「こちらでも機影を確認した。何故こんな近くに来るまで捕捉出来なかったんだ!!」ディモンズが叫ぶ。

 「フフフ、今頃気づいても遅い。」アーデン・レイカーが操るアーデンロボは急降下を始める。アーデンロボの急降下にタイミングを合わせるように海上に水柱が起こる。すぐ近くにいたマリンコンドルが水柱に巻き込まれる。小さな魚群らしき影が水中を駆けめぐっている。乗組員は無事なようだが他の船が救助を行う余裕はまったくない。

 「ツヨシ艦長、エイロイヤーです!!水中からの攻撃に気を付けて下さい!!」マリンコンドルとシースパイダーの部隊は潜行し、エイロイヤーの迎撃に向かう。エイロイヤーの軍団は小魚の魚群のように殺到する。

 「機関停止。1〜8番爆雷用意、爆破深度20。爆雷射出後スクリュー反転、全速後退!!」ツヨシの怒号が響く。

 サーベイヤームサシの後部に装備されたクレーンが転回し8発の爆雷を水中に向け射出する。爆破深度は20メートルに設定されている。エイロイヤーが殺到する手前に爆雷が沈降する。エイロイヤーの2割ほどが通過した時、爆雷はちょうど深度20に達し爆発した。エイロイヤーは爆発の衝撃でバラバラになりながら吹き飛ばされる。無数の泡が水面を真っ白にする。

 「9〜12番爆雷用意、磁気信管で前方8に射出。」サーベイヤームサシのクレーンが再び転回し3発の磁気信管装備の爆雷を水中に向け射出する。直ぐさまサーベイヤームサシの手前で水柱が起こる。

 「エイロイヤー、2匹、右舷に接近、回避不能!!」サーベイヤームサシの右側で爆発が起こる。

 「被害状況は!!」

 「右舷装甲版破損。浸水中」

 サーベイヤームサシが激しい戦闘を繰り広げている時、アーデン・レイカーが操るアーデンロボと多数の敵機が水柱をすりぬけ、水面すれすれを猛スピードで突き進む。目標はおそらく全国地球人協力者会議の会場である。

 「突破された!!誰か止めてくれ!!」ツヨシが叫ぶ。上空は移動基地ですら戦闘に参加せねばならない程の激しい空中戦となっており手の空いている機体はなかった。

 「右舷の浸水が止まりません。」

 「急げ。」ツヨシは喉をからしながら叫ぶ。

 速度の低下したサーベイヤームサシに生き残ったエイロイヤーが攻撃を仕掛ける。

 ドガガーン!!サーベイヤームサシの右舷にさらに着弾、艦橋が激しく揺すぶられる。海中をさらに多数のエイロイヤーが接近する。

 「くそっ、何て数だ。」

 東京臨海基地の一画。3人のアーデンが上空の戦闘を眺めている。

 「レイカーはなかなか頑張っているようだな。」

 「ふふふ、所詮アクロイヤーどもは出来損ないの連中だ。我々には到底及ばん。」

 「上空の連中が頑張っているうちに我々は仕事を終わらせよう。」

 「うむ。」

 3人は軽々とジャンプし全国地球人協力者会議の会場となっている東京ビッグサイトの中に入っていった。

富士山地球本部跡。樹海の中に巨大なクレーターがぽっかりと朽ちを空けている。人影が二つ。一人はミクロマン、一人はアクロイヤーらしい。

 鉄球状の手首と奇形的に細い手足、黒いボディ・・・・。海底で蘇生したミクロマンがヘドロに侵され変化した姿がこれであるという。

 「遅かったな抜け出すのに苦労したのか?」

 「いや、東海基地は混乱していて抜け出すのにどうという事はない。」

 「こちらが提示した提案は飲んでくれるんだな。」

 「ふふふ、残念だが攻撃は一切中止しない。」

 「あんたと家族の命は保障してやる。残りの提案はあんたのこれからの働きしだいだ。」

 「おい、約束が違うぞ。」

 「あんたはまかりなりにも長官職だぜ、俺達を信用させるために情報を漏らした事も考えられる。」

 「ぐっ。」

 「次は今回の任務の次はブラッキー長官の暗殺をしてもらおう。」

 「何!」

 「あんたなら出来るはずだ。スパイマジシャンのあんたならな。」

 「まぁ末永く仲良くなろうや。」そういうとアクロイヤーは樹海に消えていった。

 全国地球人協力者会議会場、東京ビッグサイト資材搬入用通路。4台のジャイロがパトロールしている。ジャイロとは円盤状の駆動装置にカウルと操縦席を取り付けた小回りの利くマシンである。先頭のジャイロにはフォスターが乗り込んでいる。

 フォスターはこの通路の警備責任者である。フォスターと3人のレスキュー隊員が地球人用の通路をジャイロで疾走する。

 「ん?」フォスターは通路の角に何者かが立っているのを発見した。フォスターは左手を挙げて後続のジャイロに停止を指示する。後続の3台はすぐに指示に従って停止した。

 「気を付けろ何かいるぞ。」フォスターは通路の角の何者かを警戒しつつ凝視する。3本の角とマント・・・・。

 「ア、アーデン!!」

 「ちっ、発見されたか。」

 「ザコか、騒がれるのもかなわん今すぐ始末してやる。」

 「こちらフォスター、侵入者を発見。アーデンだ!!」フォスターはジャイロのコンソールにある通信機に向かって叫んだ。

 3人のレスキュー隊員達は立ちつくしている。

 「バカめ通信は妨害済みだ。」アーデンはファスターに襲いかかる。レスキュー隊員達はとっさにアーデンに向かってパルサーショットを乱射する。アーデンはマントを翻しそれをすべて受け止めた。

 「その程度のエネルギー兵器ではこのマントは傷すらつかんぞ」アーデンは突進を止めずフォスターにつかみかかった。フォスターはパルサーガンを取り出しアーデンに向ける。

 しかし、次の瞬間パルサーガンは宙を舞った。

 アーデンはフォスターの右手を掴みジャイロから引きずり下ろす。

 「メイドの土産に教えてやろう私の名はアーデン・ライザー。」アーデンはフォスターの右肩に手をかけ右腕を引き絞る。メリメリと骨の軋む音が響く。

 他のレスキュー隊員達は誤射を恐れて攻撃ができない・・・。それにパルサーショットの射撃がまったく威力を発揮できない事は先ほど思い知らされていた。

 「ぐあぁぁぁぁっ」あまりの痛みにフォスターが叫ぶ。ゴキッ。腕の折れる音が聞こえた。

 「仕上げだ。」ライザーはフォスターの腹に拳をめり込ませた。ボディアーマーが砕け散る。半円形の爪のついたライザーの拳はフォスターの腹部を裂いて内臓に達している。そしてライザーはフォスターを血の海に沈めると残りのレスキュー隊員に襲いかかった。一瞬のうちに葬られるレスキュー隊員達、それは戦闘ですらなかった。

 「ふん、所詮劣等種だ。私と戦いを楽しむ事もできんのか。」アーデン・ライザーは資材搬入用通路を走り去った。

 今まさに沈みつつあるサーベイヤームサシの艦橋でツヨシは一矢報いる最後の手段を講じようとしていた。光子波エンジンを暴走させるのである。

 「いまさら言っても遅いが20年の平和が我々をこうも弱体化させたのか。」

 ツヨシが機関を暴走させようとした瞬間上空で何かが光った!!

「何だ!!」その光は急速に接近する。大きな光が1つと小さな光が1つ。ツヨシは我が目を疑う。

ツヨシが見た光はそれが太陽の光を反射し輝いている光だった。ツヨシはレーダーを確認する。それはレーダーにしっかりと映し出されていた。しかし警戒アラームはまったく鳴っていない。

「味方!?」

 フィィィィィィン。独特の風切り音も同時に聞こえる。時折アクロボットマンがその光に突っ込んで行くが逆に簡単に破壊されてしまう。

 「みんな大丈夫か!!」その光の主から通信が入る。

 「僕たちがアメリカに渡ってる内に忘れられたかな。」青いヘルメットと背中に青色の携帯型飛行装置ダッシュウイングが見える。

「ケン!!」

 「おっと思いの外苦労しているみたいだね。」

 「キム!!」

ケンとキムーはスーパーミクロマンの頑丈なボディを生かして次々と肉弾戦で敵を粉砕していく。

 「増援を連れてきた。」

 ツヨシはひときわ大きな光を凝視するそれは接近するにつれ人の形をしている事が判る。赤いボディ。力強い腕!!

 「ロボットマン!!」

 グォォォォン。独特の機動音を響かせ次々とアクロボットマンを叩き伏せていく。それはあまりに力強い。それはあまりに頼もしい姿だ。

 「わ、我々のために彼が来てくれたのか。」ツヨシは思わず涙ぐむ。幸い艦橋のキャノピーがそれを隠してくれている。

ロボットマンのドームはスモークが張られ中に誰かいるようだがツヨシにはよく見えなかった。

「ロボットマン!?こいつらまだ戦力を温存してあったのか!!」アーデンロボを駆るレイカーが叫ぶ。

 「ライザー、不味い。敵の増援だ。こっちは残存兵力を後退させ体勢を立て直す。」

 その時、ライザーは既に会議の会場に扉一枚までに迫っていた。

 「なに?待て、レイカー。まだこっちの作戦が。」ライザーは慌ててレイカーに通信を送る。

 「悪いが少々旗色が悪くなってきたんでな。」レイカーはライザーの制止を無視して機体を急旋回させ南に向かって全速力で逃げ去った。アーデンロボが引き上げるのを見てアクロボットマンもそれに従った。

 「レ、レイカーめぇ。全軍撤退だ。」ライザーの指示の元、全軍散り散りに逃げ出した。

 上空の移動基地は激しい戦闘でダメージを受け何カ所かから煙を噴いていた。周りを守るジェットミラーも飛んでいるのがやっとの状態だった。

 「敵が引き上げていく・・。」エバンスは思わずつぶやいた。

 「追撃しますか?」ティモンズがコックピット越しに指先で移動基地に合図をおくる。

 「いや、今の戦力では追撃は危険だ。それより今は生存者の救助が先だ。」

 「了解。我々は東京臨海基地に補給に向かいます。」

 「ご苦労。救助は移動基地とアースジェッターが担当する。」

エバンスは移動基地から残骸の浮かぶ海上を眺める。この戦いでは敵味方共に数多くの死傷者を出してしまっていた。

ミクロ戦記その6