ミクロ戦記その7


 木星と土星との間の宙域、無数の残骸が漂流している。ここは本来フードマンが建設した20基にも及ぶコロニー群があった場所である。残骸に記載されているナンバーから判断するとこの残骸はコロニーのものである。

 残骸の間を縫うように進む船影。船体の側面には船名が記されている。「RE−413」コマンド・スター所属の連絡艇である。連絡艇にはパイロットとその他に3人の乗組員がいる。フラッグスとタケシ、ブロディである。

 フラッグス達はこのコロニーに居住するミクロマンやフードマン達の為に格闘術を指導する任務でコマンドエリアからこのコロニーに派遣されて着たのだ。

 「酷い有様だな。これでは今回の任務は遂行しようがない。」フラッグスがタケシとブロディに話しかける。

 「教官、何者かの攻撃を受けたのでしょうか?」タケシは窓から外の残骸に目をやる。

 「いや、よく見て見ろ、攻撃による破壊とは違うようだ。破壊された部分は強い力でねじ切られている。この損傷の具合はレーザー兵器やミサイル兵器によるダメージとは思えない。恐らく例の次元の裂け目が発生したのだ。」フラッグスの目は外の残骸の隅々を見ている。

「しかし、次元の裂け目が発生したとしてもここまでの被害が出るでしょうか?」

 「わからん。だが、旧ムーンベースの事故現場の損傷具合に酷似している。」

 「生存者はいるのでしょうか?」ブロディが不安げにフラッグスに尋ねる。

 「この様子だと生存者は絶望的だな・・。」

 「どうします?引き上げますか?」パイロットがフラッグスに尋ねる。

 「いや、取りあえず周辺のデータ収集をしておこう。」

 「了解」RE−413のカメラが周辺の残骸の写真を撮る。次々とモニターに投影される映像。

 「ん?」ブロディがその映像の中に見慣れないものを発見した。

 「教官、何かあります。」

 「どれだ?」映像に見入る3人。

 残骸の影に銀色の物体が浮かんでいる。大きさは直径15センチ、長さ30センチ程度の円筒形。物体の表面の所々にメーター類が配置されている。銀色の物体には損傷らしい損傷はないようだが機能は停止しているようだった。

 「引き寄せられるか?」

 「やってみます。」パイロットは船に装備されているアームを操作し銀色の物体を船の側まで引き寄せる。

「何なんでしょうか?」タケシは銀色の物体を眺めつつフラッグスに聞く。

 「わからんが我々の技術で造ったものではない・・・。だが、以前、私が月にいた時、友人のサラムにこれと似た装置を見せて貰った記憶がある。記憶が正しければ・・・。異次元発生装置のモジュールの一つだ。」

「異次元発生装置!?」

 「これを地球圏まで曳航するのは無理か。」

 「これを曳航するとなると少々航行に支障が出そうです。」パイロットはアームを操作しながら答えた。

 「あ、待って下さい。確か近くにタイタンズフリートの船が航行中です。彼等に物体の収容を要請してみてはどうです?」

 「よし。そうだな、彼等に頼むとしよう。」フラッグスはレシーバーを取ると通信を送った。

 「こちらコマンド・スター所属の連絡艇RE−413、現在近くを航行するタイタンズフリート、応答してくれ。こちらコマンド・スター所属の連絡艇RE−413・・・・・・。」

 多数のアーデンジェットに守られて太平洋上を飛翔している鯨のような姿の航空母艦の甲板上で発艦態勢を取っていたアーデンジェット操縦席の上に斧槍を構えて急降下するシン、柄を長く成型した黒の牙が、乗っていた者ごと風防を貫き、甲板にまで亀裂を入れた。

 次々とエレベーターで甲板に上って来るアーデンジェットを睨み付けると、甲板に両足を着け、黒の牙を振り下ろすと、刀身が少し沈み込み、甲板にシンを中心に幾つもの亀裂が走り始める。

 脈動を始めた黒の牙を、全身の力を込めて両手で引き抜くと、先端の刀身にはβ滑走路での一件よりも小ぶりの黒い球体に包まれていた、シンは黒の牙を構え吹き荒れる暴風のようにエレベーターを、高射砲や対空ミサイル発射装置を、手当たり次第に次々破壊した。

 刀身の光が収まってきた頃を覚ったシンは、両断したアーデンジェットから必死に這い出して起き上がろうとしているアーデンの頭を蹴り上げ、叫びながら黒の牙を振り下ろした。

 「砕け散れ!」黒の牙に残された力を叩き込まれ、不運なアーデンは頭から両断され、身体内部の臓物や血液を撒き散らし、断面を表に甲板に死体を晒した。次の瞬間、シンは飛行背嚢の噴射装置を起動させ、火の手が上がる甲板を飛び立った。

 「このXXX!!」ダーレスが叫び、目前のアーデンジェットを照準捉えた瞬間、操縦桿の引鉄を引いて機首下部の大型砲を叩き込んだ、やや青みがかった白く長い光弾が推進装置を貫くと、アーデンジェットは炎に包まれて墜落していく。

 先ほど空母の甲板上で幾つも爆発が起こって以来、敵の増援は無く、対空砲火も止んでいる。

 「輸送機の!さっさと抜けるぞ!」

 「飛び出して行った奴はどうするんだ?」リチャードは怒鳴るような口調でダーレスに言う。

 「ああ、奴なら絶対切り抜ける、シンならな!」

 行く手を阻む敵機に向かい、大型砲で敵機を葬り去り、ドロイド達がエネルギー障壁で攻撃を防ぎつつ、5機のコズミックファイターは輸送機と共に煙を発して墜落していく敵機の群を擦りぬけ、突破して行く。殆どの敵機が追撃を中止し引き返して行く。

 「俺達嫌われたみたいだな、もう追って来な…」

 ダーレスが言いかけた時、炎と煙を発しつつもアーデンジェットの1機が搭載されている全兵器を発射しながら猛追して来た。ミサイルが噴射炎を曳き、光弾が大気を引き裂いて輸送機の後方に迫る。

 「危ない!障壁展開!」

 即座にエネルギー障壁を展開するトビキチ、素早い障壁展開により放たれた光弾の群れを受けとめる、が、ヒエンが報告して来た。

 「ありゃ、障壁発生装置がオーバーヒートだっぜ」一度に多数の光弾を受け過ぎてしまった為、加熱してしまい、暫く障壁は使用不可能になってしまった。

 「…間に合えぇぇ!!」ダーレスは多弾頭ミサイルが展開し、弾頭が輸送機に吸い込まれるかのように飛んで来るのを確認するや、コズミックファイターの機体を盾にして弾頭と輸送機の間に滑り込んだ。

 弾頭が爆発し、コズミックファイターの各部に決して軽くはない損傷を与えた。

 「おい!輸送機の!」ダーレスは強制的に開いたままの回線でリチャードに言った。

 「俺達はプロだ、逃げねえし、仕事はキッチリとケリ付ける!」通信機にも被弾したのか回線状況が悪い。
 「XXX野郎!潰してやる!!」ノイズ混じりでダーレスの声がレスキュー3号のレシーバーから響く。

 ダーレスはコズミックファイターを反転させ、F機関の出力を上昇させる。

 ダーレスは不調の通信機に向かい、叫びに近い声で送信する。
 「追撃は俺が食い止める!トビキチ、シュトルヒ、ヒエン、リチャードを頼むぞ!!」

 操縦席にも一撃受け、飛行するのがやっとの機体で追撃隊を輸送機から引き離すダーレス。

ダーレス機に殺到するアーデンジェットの部隊。ダーレスが死を覚悟した瞬間なぜか彼等は急旋回し母艦へと戻っていった。

 「???」

 「おーい、輸送機!無事か?」息が上がっているのかダーレスの口調は苦しげだった。

 「敵の追撃はどうだ?」

 「おい、今言った事忘れたか?俺達はプロだってな!」

 飛行背嚢を背負ったシンが追いついて来たようだ。

 ダーレスは輸送機の近くに戻ろうとするが機体が言うことを聞かない。輸送機との距離を縮める事が出来ない。むしろ輸送機との距離は離れつつあった。

 「リチャード、ハワイ基地までどの位だ?」

「ダーレス、もうすぐハワイ基地見えてくるはずだ。機体はもちそうか?」

 「リチャード、応急手当の手配をしてくれ!、ダーレスが負傷している!それと航空機用集光子機関もだ!」シンは冷静に、だが早口でリチャードに告げた。

 「判った、ハワイ基地で治療と応急修理の要請をしておく。」リチャードはそう言うと通信機を取った。

 「こちら仙台基地所属の輸送隊だ。ハワイ基地、応答してくれ。」

「こちらハワイ基地管制塔、仙台基地から連絡は受けている燃料食料の補給の手配は完了している。ガイドビーコンを受信したらその指示に従って着陸してくれ。」

 「了解、現在、護衛機の乗員が負傷中だ。合わせて治療と応急修理を要請する。」

「ドクターとメカニックも用意しておく安心してこちらに向かってくれ。」

 「了解、感謝する。」

 謎の航空母艦のブリッジ。何人ものアーデンオペレーターがシートに着いている。彼等の後方の一段高い位置にキャプテンシートがあり、そこには指揮官らしきアーデンが座っている。

 「ギルダー様、ファイガー隊が命令通り帰還しました。」オペレーターが報告する。

 「よし。他の部隊も順次着艦させろ。」ギルダーと呼ばれる指揮官のアーデンが腕組みをしつつ艦載機の着艦の状況を見ている。

 「了解。」オペレーターは手際よく着艦の指示を出す。

 「敵輸送隊は最終戦闘区域を突破、戦線を離脱しました。」レーダー手がギルダーに報告する。

 「フフッ、手加減したとは言え500機もの航空隊の中を堂々と突破するか、大した連中だ。サタンダー総統への手みやげにしようかと思ったが・・・・。もう少し彼等との戦いを楽しんだ方がよさそうだな。」ギルダーはうっすらと笑みを浮かべた。

しばらくしてオレンジのボディアーマーを身につけたアーデンがいらだちを隠せない様子でブリッジに駆け込んできた。

「ギルダー、いきなりの帰還命令とは何事だ?」

 「ファイガー、たかが輸送隊相手にこれ以上損失を出す必要もあるまい。彼等は我々が思っていた以上の戦闘能力を持っている事はこれで理解できたはずだ。」

 「確かにな、奴らの戦闘能力はヘルダーの報告書にある以上だった。だがこの母艦に搭載しているアーデンジェット隊の戦力で叩き伏せる事も可能だ。」ファイガーは不服そうな表情を浮かべる。

 「いや、先ほどの戦闘で彼等には我々の未確認の兵器が配備されている事が判った。あの戦闘機は警戒する必要がある・・・・。」

 「それに、ヘルダー達が彼等に敗北した理由が判ったような気がする。」

 「どういう事だ?」ファイガーはギルダーの今の一言が気になった。

 「ファイガー、敵戦闘機の動きを見ただろう」

 「ああ、戦闘機の1機が身を挺して輸送機をかばったようだが。」

 「先発隊のヘルダーの報告書には彼等があのような行動をすることは報告されていなかった。報告書では凶暴で好戦的な戦闘種族であるような報告がなされていたが、どうもそれは正確な評価ではないようだ。我々の知っている範囲での戦闘種族の行動とは違っている。」

 「ヘルダー先発隊に対して彼等の方から攻撃を仕掛けてきたという話だったが・・。彼等ミクロマンの奇形種であるアクロイヤーという連中が言っている事もどの程度の信憑性を持っている疑問だな。」

 「ギルダー、ヘルダーの報告書には虚偽の報告があるという事か?」

 「いや、それは現状では判らない。だが、彼等の特性を正確に報告していないのは疑いない。私にはもう少し彼等の事を研究する必要があるように思える。」

 「何を今更。もう戦いは始まってしまっているんだぞ。ルキファー様もしびれを切らせているのだ。」

 「もう少し時間があれば・・・。」ギルダーはブリッジのモニターに映る海原を眺めていた。

 連絡艇RE−413何度目かの通信を送った直後、返答が返ってきた。ブロディがさもほっとしたという表情を浮かべた。
 「こちらはタイタンズ・フリート所属艦プロメテウス。艦長のエイミスです」

 「回線をそちらに回します。」デイターはそう言うとフラッグスの手元の通信回線に繋ぐ。

 「よかった・・・私はスパイマジシャンのフラッグス。地球から来ました。他の乗員はタケシとブロディ、そしてパイロットのサーボマン・デイター21です」

 「フラッグス諜報員、事情を説明いただけますか?」

 「わかりました。だが、その前に・・・ひとつ回収していただきたいものがあります。このまま放置しておくわけにはいきません。この小さな連絡艇では、運搬にも不安なものがありまして・・・」

 「なるほど、その回収物とは?」

 「・・・異次元発生モジュールです」

 「なんですと?」通信機ごしにエイミスの驚いた声が聞こえる。

 「我々は、ここで異次元発生モジュールと思われる物体を発見したのです。映像をそちらに送ります」フラッグスがデイターに合図を送るとプロメテウスのブリッジのスクリーンに映像が送られる。

 「カシアス、そっちの部屋にも映っているか?」エイミスが誰かとやりとりしているのが通信機から伝わってくる。

 異次元発生モジュール、もしこれが何者かが兵器として使用されたものだとしたら・・・。フラッグスはふと不安になった。

 硫黄島・・・。岩ばかりの島の海岸に巨大な円筒形の物体が焼けこげた金属の地肌をむき出しにしながら突き刺さっている。円筒形の物体は外観から宇宙船のように思われる。その周囲には10p足らずの人型の物体が忙しそうに何かの作業をしている。

 「ついに我々の日本攻略作戦拠点の完成だ。」サタンダーは基地の設計図を片手に握りしめ、震えている。

 「サタンダー総統、まったく見事な出来映えです。」

 「ダイガー殿、これもあなた方の援助のおかげです。ミクロマン共の攻撃を受けることなく無事に建設が終わりました。」

 「サタンダー総統、早速ですが、この基地に我々が運んできた新兵器を収容していただこうと思います。」

 「新兵器!?それはいかなる物で?」

 「一つは異次元空間に歪みを発生させる異次元発生装置「アーデニス000(トリプルゼロ)」です。これがあればアルデバランからの大量の補給物資や兵員を一瞬でここに運び込む事ができます。また、逆にここから別の場所に物資や兵員を輸送する事も出来ます。そして、この装置の原理を応用し開発した空間歪曲弾とその発射装置です。」

 「空間歪曲弾?」

 「そうです。この兵器は信管が作動すると内蔵している異次元発生装置が作動し、着弾した付近の空間をゆがめ異次元に放り出すという物です。威力の程はすでに実証済みです。人間共が使う核兵器とは違い、使用後の環境破壊もありません。」

「ふふふ、デビルス総統が不在なのは残念ですが、まずはサタンダー総統にこの空間歪曲弾の威力をお目にかけましょう。手始めに既に所在の判っている名古屋のミクロマンの拠点を異次元空間の藻屑としてやりましょう。」

 「す、すばらしい。」

「この空間歪曲弾があればミクロマンなど容易く葬り去る事ができます。」ダイガーはその新兵器に対する絶大の自信から満面の笑みを浮かべていた。

 東海支部司令室。エバンスの戦線離脱が伝えられ、皆一応に沈痛な面もちで勤務に就いていた。

 「エバンス司令の後任は誰になるんでしょう・・。」ローレンスはつぶやいた。

 「!!」一瞬、場が凍り付いた。

 「後任の司令官が誰になるかなんて、あなたにはどうでもいいことでしょ。」アリーナが荒々しい口調で返す。 

 「・・・。」ローレンスはアリーナの過剰な反応に言葉を失ってしまう。

 唐突にドアが開き、司令室にスミスが入ってくる。彼らしくもなく何か複雑な表情を浮かべている。

 「どうしたんですか?」

 「上の通達で本日付けで私が東海支部司令官に正式に就任する事となった。」

 「就任おめでとうございます。スミス司令。」ローレンスがスミスに向かってそう言うとアリーナが彼を険しい表情で睨み付けた。ローレンスはその表情にたじろぎうつむいた。

 「エバンス司令の戦線復帰は絶望的という事なんでしょうか?」

 「現状では元通りの回復は難しいようだ。仙台ではブラジリアのドクターマン・ケーンの元に患者を運搬したようだが。タッチの差でその輸送便に便乗できなかったらしい。一応冷凍処理を施して治療を待つ状態だそうだ。」

「今の東京臨海基地に自前で輸送機を出すゆとりがあると思えないしな。手空きのドクターがいない今、冷凍処理は妥当な処理であるとは思うんだが・・・・。」

 「沢山の負傷者が今も治療を待っている状態ですからね・・・。」

 硫黄島、太陽はその姿を水平線に沈め、島はもうすでに薄暗闇に包まれている。海岸の岩影にスパイカーのシースパイダーとマリンコンドルが巧みに隠されている。時おり歩哨がライトを照らしつつ海岸を巡回しているが岩影に隠されたスパイカーには気づいていない。スパイカーの側に人影が二つ。ステルスとダニーである。歩哨の隙をついて崖を駆け上がる二人。

 崖を登り岩山を抜ける。ステルスが岩影から身を踊りだそうとしたときダニーが叫んだ。

 「待て、ステルス。アレを見ろ。」

ステルスは身を隠しつつダニーが指さす方向を見た。

そこはサタンダー達が建設した基地だった。巧みに岩のようにカモフラージュされているが周囲でアクロイヤー達が作業しているため基地である事が判る。

 「アクロイヤーめ、こんな所に軍事拠点を建設していたとはな・・。」ダニーは双眼鏡を取り出し詳しく状況を見る。基地施設の近くに宇宙船が数隻・・・・。何十人もの緑色のアクロイヤーがその宇宙船から基地施設内へ沢山の荷物を運んでいる。

 「ステルス、新種のアクロイヤーが何かを基地に搬入しているぞ。」

 「荷物の大きさから考えると恐らく弾薬と食料だろう。」ステルスも双眼鏡を構え様子を窺っている。

 「!!」ダニーが何かに気づいた。

 ダニーはアクロイヤーの中にマントを翻し搬入を指揮している人影を見付ける。双眼鏡の倍率を最大にする。徐々にその姿が大写しになる・・・。そしてその姿は。

 「アーデン!!」

 「何!?」ステルスがダニーが見ている方向に双眼鏡を向ける。

 「ダニー、確かにあれはアーデンだ・・。だがかつて侵略軍として地球に来た連中ではない。」

 「ステルス、暗闇に乗じて何とか基地内に潜入するぞ。」

 「判った任せてくれ。」そう言うと同時にステルスの身体が透き通っていく。

 「いつもの光学迷彩だな。」

 「ああ。」

 「新開発のステルススーツを早く支給してもらいたいもんだ。」

 「行くぞ。」透き通った影となったステルスは敵にその存在を気取られる事無く基地に近づいていく。

 「よし。」ダニーは昔ながらの方法で基地に近づいていく。

 作業に気を取られて二人に気づく者はいない。ステルスはいち早くゲートを抜け、基地内部に忍び込む。ダニーもそれに続いた。
基地内部には円筒状の吹き抜けになっており、その内側部分に螺旋状に階段が取り付けられ、それは地下まで続いている。壁面の凹凸に身を隠しつつ地下を目指す。途中何度かアクロイヤーに出会うが二人は巧みにすり抜けた。

 基地最下層、そこは巨大な工場になっていた。壁面にはパイプ状の水槽がならんでいる。水槽群は大きく3つの区画に分けられている。そして、水槽の内部には10センチ大の人型の物体。いや、ミクロ人間だ。

 「これは。」ステルスが光学迷彩モードを解いて姿をあらわす。

 「人間だ・・・。」

 二人はさらに奥の区画に向かう、その区画は半分アクロイヤー化した人間が収容されている。

 「こっちはアクロイヤーだ。奥に行くほどアクロイヤーに近づいている感じだな。」

 「ああ、まるでアクロイヤー工場だな・・・・。」

「!!」二人は顔を見合わせた。

 「これは名古屋や大阪で拉致された人間達だ。」ステルスは視界いっぱいに広がる水槽を見回す。老若男女を問わず収容されているようだ。

 「どうする?この状態ではこの基地施設は破壊できん。」

 「この人数を二人で救い出すのは不可能だ。データを収集して一旦引き返そう。これに関しては本部に指示を仰ぐ必要がある。」

 来た道を再び引き返そうとする二人は気づかなかった・・・。膨大な数の水槽の中の一つに一人のレディコマンドが収容されている事に・・・。

 ミクロサテライトから見てちょうど地球の裏側にあたる位置の衛星軌道上、コマンドスター宇宙艦隊所属の宇宙基地がある。この基地はアメリカ航空宇宙局NASAが廃棄した人工衛星を改造した大型宇宙基地で、ミクロサテライトと同様に地球の衛星軌道上に浮かんでいる。

 だが、ミクロサテライトと大きく違っている点はこの基地は移動可能で、有事の際には衛星軌道上から離脱し宇宙戦艦4、高速宇宙艦、護衛艦16、宇宙戦闘機他216機を要するコマンドスター宇宙艦隊の旗艦として作戦行動を行うのである。 

 スターコマンドベース。その施設はそう呼ばれている。スターコマンドベースに1機のミクロナサが帰還した。機体側面にはRE−067と書かれている。

 「エッジ司令。金星宙域に調査に向かったRE−067が戻りました。」フードマン・ハインリッヒがエッジの方に振り向き報告する。

 「調査結果をこちらに報告するように言え。」エッジは司令室のシートに腰掛け、中央モニターに目をやった。

 「デイター05、調査結果を報告しろ。」

 中央モニターにRE−067とデイター05が映し出される。

 「金星宙域の次元断層の調査結果を報告します。調査開始時点では次元断層は消滅していましたので次元断層自体の調査は出来ませんでした。ただ、同宙域を調査中、次元断層からはじき出されたと思われる無数の浮遊物を発見しました。損傷が激しいため原型をとどめていない物ばかりでした。唯一原型をとどめていたのがロボットマシーンZの左腕部分と思われる浮遊物でした。当機はそれらを発見、サンプルを回収しました。左腕部分の部品ナンバーからこれは既に廃棄されたマシーンZの先行試作機Z−0のものと判明しました。」

 「マシーンZの先行試作機?なぜ金星にZ−0が・・・まさかこの一連の次元断層はあの事件に関係があるとでもいうのか?」

 「ムーンベースのタカオを呼び出しますか?」

 「そうだなサラムのいない今この件については彼が最も詳しい。だが、まだムーンベースへの直接の通信が回復していない状態だという事だが。」

 「いえ、先ほどスパイロイド28が既に中継衛星の設置を完了させていますので短時間の通信は可能になっています。スパイロイド31の作業が完了すればミクロサテライトとの通信も回復します。」

 東海支部作戦室、部屋の中央に3つのテーブルがコの字型にセッティングされ、テーブルに囲まれるように硫黄島周辺の海図が置かれている。部屋の奥には大型モニターがあり、その前に帰還したステルスとダニーが陣取っている。

 二人を囲むように各エリアの長官と各支部、近畿、中部エリアの各基地の司令官。各戦闘部隊の指揮官らがテーブルにつく。主な参加者はジョン、ボビー、ミラー、ヘンリー、ホームズ、ディック、ケン、キリーら。

 「硫黄島の状況はこうです。」ダニーがマジシャンステッキを指示棒がわりに掴んできた情報を開設する。モニターに硫黄島の景色が映し出される。

 「一見、ただの岩山だな・・。」

 「巧みにカモフラージュされてると言うわけか。」

 「海岸沿いのこの岩山が基地施設です。そして硫黄島のアクロイヤー基地の役割は予想以上に大きい物があります。日本攻撃の為の軍事拠点、物資輸送拠点、そしてアクロイヤー工場・・。」

 「アクロイヤー工場!?」一同はあまりの事に息を呑んだ。

 「そうです。硫黄島の基地には現在、名古屋、大阪で捕らえられた地球人、ミクロ人間、ミクロマン、およそ1000人が捕虜として収容されています。既にこのうちの数百人がアクロイヤー化され、残る人々も近くアクロイヤー化されます。基地施設で労働に従事しているアクロイヤー1の多くは処理された捕虜達のようです。」

 「ノーザンライトの報告にあったあれだな。」メイスンが手元のファイルをめくる。

 「アクロイヤー化された人々を回復させる手だてはあるのか?」

 「はい、それに関してはジュード、ビルームリー、ディオを中心とした医療チームが治療薬開発を進めています。完成は時間の問題だとの事です。」

 「そこで今回、私が提案するのは捕虜救出と同時に敵軍事拠点を完膚無きまでに破壊する大規模作戦です。」エースが起立しモニター前に歩み出る。

 「そんなムチャな事が可能なのか?」

 「それに関してはダニー、ステルス両名が敵拠点の詳細な情報を収集をしてきてくれましたので心配には及びません。」エドガーが補足する。

「では作戦内容を説明します。」エースが説明を始める。

「この作戦の遂行にはコマンドエリアの陸海空の各部隊、レスキュー隊、ポリスキーパー隊の参加と各隊の連携を必要とします。」

 「ふーん、面白そうだな。」ワイルダーが目を輝かせている。

 「同胞1000人の命がかかっているんですよ。」タクミがあきれ顔でワイルダーを諫める。

エースは作戦内容の説明を続けた・・・。

 同じ頃、都内某所の名門ホテル最上階・・・・。そこはカーテンが閉め切られ薄暗い部屋だった。何人かの地球人達とミクロマンがテーブルを囲んでいた。

 「片が・・・いや、プロフェッサーK、よく来てくれた、作戦は無事に進んでいるのかね。」テーブルの一番奥にどっしりと座っていた男が口を開く。

 「総理、お久しぶりです。南米での作戦の件はご安心下さい。マグネパワーズが無事作戦を遂行してくれました。」プロフェッサーKと呼ばれる男は

 「マグネパワーズか・・・。」

「総理、海上保安庁の巡視艇の借り受けの件なんですが、特別許可を頂いたそうでありがとうございます。・・。」今度は別の男が総理と呼ばれる男に話しかけた。

 「ジョン君から報告のあった硫黄島の作戦の・・だね。許可はするが、ただし、捕虜救出後の情報操作はしっかり頼むぞ。昨年の鈴鹿と亀戸のアーデンクール襲撃事件では一部で騒ぎが広がってしまったそうだからね。」

 「アーデンクール襲撃事件は何とか事態の収拾は出来ましたがお陰で一時、地球人協力者がお互いを疑い疑心暗鬼になるという最悪の事態になりましたね。我々はアレで彼等の恐ろしさを学びました。今度の名古屋、大阪の件の証拠隠滅と情報操作は既にM.I.Sに当たらせています。必要以上の混乱は起きないと思います。」

 「頼むよ、この先、解散総選挙を控えて必要以上の混乱は避けたい。」

 「お任せ下さい。」

 ミクロサテライト・・・・。マグネタイタンズ、グラップラーズは3時間にも渡ってアーデン・バルガー戦い続けていた。既にグラップラーズの3人は倒れ伏している。

 「なかなかしぶとい連中だ。」バルガーはさも嬉しげな口調で言う。

 「なんてヤツだ。」ガンボディは息を荒げながらも攻撃を続ける。

 「このぉっ」レザーマスターが左肩のチョッパーを回転させ体当たりをしようとする。

 「やめろレザー、武器は使うな周りの施設を破壊してしまう。」

 「使うなったってようっ」レザーマスターは攻撃する手だてがなくただひたすら防戦に徹する。
 火山と武蔵、嵐の3人はその時、レザーマスターのチョッパーの音で意識を取り戻していた。火山は周りの様子を窺う。

 「そろそろ時間切れだ、おまえも沈め」バルガーの爪がレザーマスターを襲う。

 「ぐはぁっ」レザーマスターは受け止めきれずはじき飛ばされる。レザーマスターはコンソールに叩きつけられる。

 「もはやお前一人だ・・・。」バルガーはガンボディに迫る。
 ガンボディに気を取られているバルガーはグラップラーズの3人が意識を取り戻した事に気づいていない。

 「武蔵、嵐・・・」声を出さず口の動きで合図を送る。武蔵、嵐は火山のその合図に気づき頷く。

「死ねっ。」バルガーの爪がガンボディを貫こうとする。ガンボディはその爪を受け止め組み伏せようとする。

 「今だっ!」火山、武蔵、嵐の3人が一斉に飛び出しバルガーに飛びかかる。

「何っ!!」バルガーは不意に飛びかかる3人に手足を掴まれる。

 「貴様ら放せっ!」バルガーは手足をバタつかせて必死に抵抗する。

 「誰が放すもんか!」武蔵はバルガーの右足を掴んだ腕にさらに力を込める。

 「お前達・・・」ガンボディは目を丸くしている。

 「死んだふりをしてチャンスを待ってたんです。」嵐もそう言うとバルガーの左足ほ掴んだ手にぐっと力を込めた。

 「これで最後だっ」レザーマスターの呻くような声がバルガーの背後で聞こえた。

 ギュィィィィィン。背後でチョッパーの回る音が響く。

 ギュァァァァッ、レザーマスターの肩のチョッパーがバルガーのボディアーマーの背中の部分を切り裂く。大量の火花が飛び散る。

 「ぐあーっ止めろーっ。」バルガーの叫び声が響く。

「沈むのはお前の方だっ!!」レザーマスターのチョッパーがさらに回転数を高め、そして同時にガンボディがヒザの弾丸を全段ぶち込んだ。一瞬の内に周囲が爆煙で見えなくなる。

「やったか!?」レザーマスターが周囲を見渡す。

 入り口近くでバルガーはうずくまっている。

 「ちっ油断した・・・。また出会う事があれば決着はつけてやる。」バルガーはその場から消滅した。どこかにテレポートしたようだった・・・。

 「勝った・・・。」

 「勝たせてくれたようなもんだ。」ガンボディが口を挟む。

 「生存者を探しましょう・・。」武蔵が皆を促した。
 
 「ジェット、片づいた。下りてこい。」ガンボディはバッカスで待機しているジェットモグラーに通信を入れた。

 「わかったんだな。」レシーバーからジェットモグラーののんきな声が返ってきた。
 
 ミクロサテライトの職員の生存者は一カ所に集められていた。その中にはエリックやシュルツがいた。

 「ありがとう、君たちが我々を助けてくれたのか・・。私はここの責任者のエリックだ」エリックはずきずきと痛む頭を抑えながらガンボディに握手を求めた。

 「よろしくなオレはガンボディ、そこにいるのがレザーマスター、そしてあの3人が火山と武蔵そして嵐だ。」ガンボディが握手に応える。

 「なるほど君たちが・・・。シリウスから君たちがここまで来た顛末は聞いてる。」

 「で、バルガーとかいうヤツは何なんだ?」

 「アーデン・バルガー、かつてアーデン軍団を率い地球を侵略しようとした敵の一人だ。バルガーが何故ミクロサテライトを襲ってきたのか一切わからん・・・・。」

「どういう事情かわからんがオレたちは地球に向かう途中なんだ。ここで船に燃料と食料を補給したい。」

 「補給を許可しよう、だが今は施設内の点検と整備の方を優先させたい。」

 「判った。点検と整備が終わるまで待たせてもらおう。」

 「いや、君たちには一仕事してもらう。」

 「一仕事?」

 「見ての通り人手不足でな。施設の修復を手伝ってもらいたい。」

 「燃料と食料の代金って事だな。」

 「そうだ。」エリックは笑顔で答えた。

 「シュルツ、施設内を調べてくれ。」

 「了解。」シュルツは何人かのフードマンを従え施設内の点検に向かう。

数時間後、シュルツがファイルを片手に戻ってきた。

 「点検作業が完了しました。まず、人的被害ですが、死亡者9名、重軽傷者23名、行方不明者1名、行方不明者はエステベスです。続いて施設内の被害ですが、ドッキングベイ付近のゲートが数カ所、司令室のコンソールの一部が破壊、脱出カプセルが紛失しています。また、データベースへの不正アクセスの痕跡がありました。脱出カプセルですが、今のところ使用者は不明なのですが。エステベスが使用した可能性が高いと思われます。」

 「エステベスか・・・。無事ならいいのだが。」

 太平洋上、アーデン母艦の甲板上、数百人のアーデン兵たちが整然と整列している。
 ギルダーは檀上に上がり配下の兵達に檄を飛ばしている。

 「諸君、先日の敵輸送隊との戦いは非常に残念な結果となった。これには私はいささか失望している。誇りあるアーデン軍の戦いぶりとも思えん。」

 「・・・・。」誰もそれに口を挟む者はいなかった。

 「だが、しかし戦いに勝ち負けは付き物、生きて返れば次の機会も来る。諸君には名誉挽回の機会を与えようと思う。」ギルダーの言葉にアーデン兵達はざわつく。

 「ミクロマン共が拠点を置く北海道を空爆する。これは後に続く占領部隊の仕事をやりやすくする為の作戦だ。」

 ハワイ基地、整備班長室、整備班長専用の端末にファクトリーエリア長官ジェシーからの突然の指示書が届いた。仙台からブラジリアに向かう輸送隊の護衛任務に付いている新型戦闘機の部品調達依頼である。

 修理用部品のリストがモニターに映し出される。整備班長バーミンガムはその内容に驚いた。

 「ジェットミラーの推進装置と主翼、アースジェッターの主翼?」バーミンガムがリストに目を通し終わった時、ファクトリーエリア長官ジェシー自らの通信が入った。

「バーミンガム整備班長、難しい内容だが宜しく頼む。」

 「ジェシー長官、これはまたハワイ基地始まって以来の特殊な修理内容ですね、指示された部品は何とか部下に調達させます。」

「急な事で済まないが頼む。」

 「任せて下さい。うちのチームは太平洋エリア一の整備班です。しかし、何故一機の戦闘機を救うためにここまでする必要があるんです?別の機体を用意させる事も出来ますが・・・。」

 「この地球にミクロアースと同じ運命を辿って欲しくないからだ。」

 「一介の整備員の私には長官の考えはよく理解できませんが、それは余程重要な機体なんでしょう。安心していて下さい。」バーミンガムはジェシーに敬礼した。

ミクロ戦記その9