ミクロ戦記その8


 硫黄島・・・。ここにはアクロイヤーが建設した基地がある。

 この基地の最下層は巨大な工場になっている。

 最下層の工場の壁面にはパイプ状の水槽がならんでいる。水槽群は大きく3つの区画に分けられている。そして、水槽の内部にはアクロイヤー化されつつあるミクロ人間が収容されている。この膨大な数の水槽の中の一つに一人のレディコマンドが収容されている。

 レディコマンドの収容された水槽の前に一人のスパイマジシャンが立っていた。デビットである。水槽の前でたたずむ彼のもとに何者かが近づいた。

 「デビット、この女にえらくご執心のようだな。」デビットが振り返るとそこにはアーデンクールが立っていた。

 「アーデンクール・・・・。」

 「お前の女か?」

 「いや、そう言うわけではないが・・・。」

 「フフフ、そうか・・・。こいつがどういう女か知らんが蘇生は諦めた方がいいぞ」

 「!?」

 「これはただの入れ物だ。脳波は既に停止し肉体の制御機能も完全な状態ではない。かろうじて生きているだけの屍だ。」

 「・・・。」

 「屍でも欲しいというならお前にくれてやるがな。」アーデンクールはデビットの絶句する様子を見て高笑いした。

 同じ頃、基地の最上階の対空砲塔にサタンダーは陣取っていた。砲塔の天井部分は可動式のドームになっており、戦闘時には開放される。砲塔のフロアー部分は円形で4カ所にアクロカノンのカノン砲が設置され雄二に備えている。

 フロアーの中央には回転式の砲台が設置されており、本来ミクロマンが固定砲台として使用されていたビルドバズーカと呼ばれる砲が3基鎮座している。

 ビルドバズーカの照準は北北東の方角に合わされている。標的を示すテレビモニターには名古屋の町並みが映っている。

 このビルドバズーカの砲身部分にはオレンジ色で塗られた円筒形の発射装置が取り付けられている。そして、発射装置の先端には複雑な形状をした弾丸状のものが装備されている。これがアーデンがもたらした新兵器「空間歪曲弾」である。

 異次元空間に歪みを発生させる異次元発生装置「アーデニス000(トリプルゼロ)」の原理を応用し開発された新兵器「空間歪曲弾」この兵器の信管が作動すると内蔵している異次元発生装置が作動し、着弾した付近の空間をゆがめ異次元に放り出す。

 「ミクロマンどもめ自ら開発した兵器で攻撃される気分はどんなものか・・・」サタンダーはまだ発射せぬ新兵器の威力を想像してほくそ笑む。

 「閣下、そこにいたのですか。」レッドスターがサタンダーの元に近づく。

 「レッドスターか・・・。腕の加減はどうだ?」

 「完璧に回復しました。いつでも戦闘できます。それより総統・・・。」

 「何だ?」

 「あの男、信用してもよろしいのでしょうか?」

 「あの男?デビットか・・・。フフフ、最初から信用などしていない。ヤツの能力が利用できればそれでいいのだ。」

 「・・・安心しました。いまの所ヤツは怪しい動きは見せていませんが必ず何か変な動きを見せるはずです。」

 「それについては貴様に任せる。」

 「は。」レッドスターは鉄球状の手で深く敬礼した。

硫黄島の基地内の一室、そこはデビットの私室としてあてがわれていた。室内は飾り気もなく壁面は所々痛んだままになっている。

 部屋の中央には緑色の水晶体カプセルが2つ置かれている。中には2つの人影が見える。 一つは半分アクロイヤー化したミクロマンの女性、もう一つは全身緑色に変色した幼いミクロマンが入っている。カプセルのメーターは二人がまだ生存している事を示している。

 「すまない、お前達・・・。もう少し早く助けてやれたらこんな姿には・・・。」デビットは緑色のアクロイヤーの収まったカプセルにすがりつく。

 ハワイ基地の滑走路上。先だって整備班長の指示で応急修理に必要な部品の調達に当たっていた整備員達は、あらためて奇妙な部品の組み合わせに困惑していた。

 「ジェットミラーの推進装置と主翼、それにアースジェッターの主翼、全部二つずつ!?」

 「一体、何なんだ、その護衛機って?」

 「詳しくはわからんがかなり大型の機体みたいだぜ。」

 キィィィィィィィィィン。微かにエンジン音が聞こえてくる。

 「あれだ!」整備員達が聞こえて来た航空機の音で空に視線を移す。

 「ブルクレーン回せー。」墜落にそなえて車両を滑走路脇に配置する。
 謎の航空母艦と500機余りの艦載機を強行突破して来た仙台支部からの輸送機と5機のコズミックファイターが姿を現し、着陸態勢に入った。

 「無駄話止め!来るぞ!」整備班長の号令で一斉に整備員達は応急修理の準備に入った。

 リチャードの輸送機が着陸脚を出し、着陸するとすぐさまダーレス機が非常着陸用スキッドを展開して滑走路に無事着陸した後、4機のコズミックファイターが続いて着陸する。

 コズミックファイターは傷だらけの無惨な姿だったが不思議な事に輸送機のレスキュー3号、4号にはただ一つの傷も付いてはいなかった。

 少々ふらつきながらも無事に着陸したダーレスの機体に救命員と整備員達が駆けつけ、風防を開放する、救命員は傷の酷さに絶句した。普通なら意識を失っている。負傷したダーレスを操縦席から下ろすと応急手当を始めた。

 「麻酔を使うぞ?いいな?」傷だらけになったダーレスの腕に麻酔注射を向けた。

 「んな大袈裟なモノ持ち出すんじゃねえ!XXXめ!」医師は麻酔注射の手を止めた。

 安静にするように言った医師に向け、苦しいながらも自らを奮い立たせていつもの調子
で毒づきながら、近くから整備の様子を見守る。

 「頼むぞ、これに修理方法が書いてある」シンはダーレス機の修理に当たっていたバーミンガムに電子解説書の操作ボタンを押して手渡す。

 「…解かった、こうやればいいんだな?」バーミンガムはシンに聞き返すが、シンはもうその場を離れ、食料を運んできた荷車に立ち寄ってから滑走路の隅に座り込んだダーレスの元に向かった。

 「ダーレス・・・・。」リチャードがばつの悪そうな表情を浮かべながら歩み寄り、手に持っていたオレンジジュースの入ったコップを差し出した。

 「………」黙ったままだ、こいつ、最初に思っていたような奴じゃねえな…だが、どう言葉を掛けてみりゃいいものか…ダーレスはリチャードに返す言葉が見つからないまま、差し出されたコップを受け取った。

 「………」リチャードの視線は整備中のコズミックファイターに向けられている。

 「おう…すまねえ」リチャードからオレンジジュースを受け取るや一気に飲み干してから答えるダーレス、

 「・・・・大丈夫か?」リチャードがつぶやくように言う。

 …実際、いい奴じゃねえか…こんな時の言葉がすぐに出ねえ…くそっ…

 「ん?コズミックが欲しくなったか?でもやらね〜ぞ」止血処置の終わった頭部の包帯を締め直し、いつもの調子でリチャードに答える。

 その後の沈黙に耐え切れず、シンに話を振ろうとしたが、いつの間にかシンは機体の方へ向かい、整備を手伝っていた。

 整備や補給の騒音の中でも、そのまま2人には沈黙が続いた…。

 「航空ドロイド隊全機、F機関冷却と光子エネルギー補給、完了しました!」完全に補給と機体冷却を終えたトビキチら航空ドロイド隊がシンに報告して来る。

 「エネルギー障壁、はちきれる位張れるだっぜ!、ここで一曲…」歌おうとしたヒエンはシンに睨み付けられると、渋々引き下がった。

 「ヒエン、何かにつけて歌おうとする癖、止めた方がいいであります!」シュトルヒに窘められるヒエン。

 「でも、ダーレスさんの機体…スゴい事になってますね…」間に入ったトビキチの言葉にカメラをダーレス機の方へと向けるドロイド達。

 「写真撮って、スパークさんに見せるだっぜ!」

 「異議無し!」3体の航空ドロイドは応急修理中のダーレス機を楽しそうに撮影し出した。

 ダーレス機の推進機関は取り外され、主翼の代わりとしてジェットミラーの推進装置と主翼を取り付けられ、穴だらけになった垂直尾翼の代わりにはアースジェッターの主翼が取り付けられていた。

 割れていた風防は液状透明硬化樹脂により、ほぼ元通りに修復され、噴射装置整流板も交換され、操縦席内の計器も交換されていた。

 変わり果てた姿のコズミックファイターを前にしてダーレスが言った。

 「…これがコズミックかよ…飛べるんだろうな?」整備員に食って掛かるダーレスにシンが声を掛けた。

 「ああ、俺も点検したが、飛行に支障は無い」

 「よう、リチャード!行くぞ!」

 「了解だ。だが、輸送機の速度に合わせられないようなら黙ってハワイ基地に引き返せ。」リチャードは事務的な口調でダーレスに返答した。

 輸送機と5機のコズミックファイターは再び、ブラジリア目指して飛び立って行った。

 ハワイを出てちょうど丸2日が経過していた。輸送隊は既に南米大陸上空を飛行していた。

 ハワイ基地で取り付けられた計器は外気温度が上昇している事を告げていた。視界の彼方には巨大な偶像がそびえ立っている。

 「何だ?ありゃ?」やや苦痛は残るものの、応急修理された機体にも慣れて来た頃、いつもの口調でダーレスが言った。

 「あれはキリストというこの地を征服した者達が神と崇める存在の像だ、征服者という
連中は、概して巨大な像を作りたがるものだ」

 シンは輸送機のリチャードに通信を送った。

 「ブラジリア基地はどこだ?」

 「その征服者が作った巨大なキリスト像の中だ。」リチャードは相変わらずそっけない口調で答えた。

太平洋上・・・。激しい雨が降り海面は激しくうねっていた。海上を進む巨大なクジラの様な母艦・・・。母艦の甲板を激しく雨が打ち付ける中、作業員達がアーデンジェットの出撃準備にかかっている。

 「判っているな。攻撃後はこのポイントに集合。母艦はこの位置にいる予定だ。」部隊指揮官らしいアーデンが部下に説明している。この部下は新兵なんだろうか・・・・。

艦載機のアーデンジェットが次々と発進する。瞬く間に悪天候の洋上に450機に昇る大部隊が展開した。

艦橋のギルダーはその様子をじっと見ている。

 「全員無事に帰ってくるといいですね。」女性オペレーターがギルダーに言う。

 「そうだ・・。失わなくていい命は失われるべきではない・・・・。」

10/16追加分

オペレーター達が発艦を完了した航空隊と交信している。

「我が艦は航空隊発艦完了後潜行し。予定のポイントで待機する健闘を祈る。」

「了解、コントロール。今日はルーキーが多数いる。非常用の着艦ネットとワイヤーの用意を頼む。」

 「了解、ネットとワイヤーの準備は任せておけ、何ならオシメも用意しておくぞ。」

 「ブルーリーダーより各機、敵拠点の防衛力は脆弱だ。各自、戦果よりも生存を優先しろ。これが終わったら一杯飲ませてやるぞ。」

 「了解」

 450機のアーデンジェットの大部隊が3隊に分かれノーザンライト攻撃に向かった。

 東京巣鴨・・・ここに重大な犯罪を犯したミクロマンを収監したスガモプリズンと呼ばれる施設がある。ここにある男がいた・・・。

 693号・・・・。彼はアクロイヤーよりアクロイヤーに近い心を持つ男と呼ばれている。

 男は扉に背を向けごそごそと何かをしていた。ブレストに無理矢理開けた穴にどこからか調達してきた針金を2本繋ぐ。男は恐る恐る2本の針金を接触させる。

 バシュッ。火花が飛び散る。

「フフフフフ・・・・約束は守れそうだぜ」ダガーは脂汗を浮かべた顔に不敵な笑みを浮かべた。

 「693号、食事だ。」看守のポリスキーパーが食事ののせられたトレーを鉄の扉に設けられて穴から渡す。

 看守のポリスキーパーが手を入れた瞬間ダガーはその腕を掴んで引きずり込む。

 「!!」

 看守のポリスキーパーは突然腕を引ずり込まれて自分に何が起きているのかすぐに理解する事が出来なかった。ダガーはブレストから延ばした2本の針金を掴み、ポリスキーパーの腕に接触させる。

 バシュッ。

 一瞬のスパークの後、ポリスキーパーはぐったりした。ダガーはポリスキーパーのスーツを探る。カードキーの束が入っている。ダガーはすかさずそれを奪い取り扉の鍵を探しだし、扉を開いた。

 「フフフフ、あばよ」ダガーはポリスキーパーのパルサーショットを奪うと長い通路を駆け出していった。

10/22追加分

 東海支部、太平洋に面する半島の岸壁をくり抜いて建設された軍事基地で14階層におよぶ多階層構造の基地施設である。現在、陥落した富士山地球本部にかわり地球本部の施設となっている。

 基地の海中部分では東京湾での戦いを終えたサーベイヤームサシ級が修復に取りかかっていた。

 東海支部の14階層のうち10階に当たる部分が司令室になっている。現在の基地司令官はスミス。戦線離脱したエバンスにかわって司令官となった。エバンス同様ミクロマンコマンドの最古参の一人である。

 「ワイルダーはどうしてる?」

 「ドックで作業中です。」オペレーターのアンナが報告する。

「そうか、繋いでくれ」

 「了解、繋ぎます。」

一瞬ノイズが入ってワイルダーの姿がスクリーンに映る。

 「お呼びですか司令」ワイルダーが敬礼する。なぜかコマンド系のスーツでなくレスキュースーツに身を固めている。ワイルダー、元レスキュー隊員でかつてはM255のナンバーを持っていた。元来血気盛んな性格で他の隊員達からいさめられることが多かった。現在は本人のたっての願いでコマンドエリアに転属している。

 ワイルダーの後ろにはずらりとレスキューサーボが並んでいる。ほとんどが4号ミュー、水中作業用に特化されたレスキューサーボだ。

 「コマンドエリアに配属になったと聞いているがそのレスキュースーツはどうした?」

 「先日の戦闘で壊しまして、今新しいのを新調してもらってるんですが先日の負傷者用のスーツが最優先ですので・・・・仕方ないんで古いのを使っております。」ワイルダーはスミスの指摘に苦笑いしながら応える。

 「仕方ないな。で、サーボの準備の方は進んでいるか?」

 「はい。バージル、ウォーレンと手分けしてレスキューサーボ4号ミューの準備に当たっています。電子頭脳のプログラム修正は先ほど全機終了しましたので今日中にはすべての作業が完了します。」

 「そうかご苦労。不備のないよう頼むぞ。」

 「了解。しました」

ワイルダーが敬礼を済ませると回線が切れる。ワイルダーは作業している二人に向き直る。

「バージル、ウォーレン、スミス司令からだ不備のないよう頼むとの事だ。」

 「了解。」バージルは返事をしつつメンテナンスを続けている。

 「・・・」ウォーレンはワイルダーを一瞥すると黙って頷いた。

 「やれやれ相変わらず愛想のない連中だぜ・・・。」ワイルダーはそう言うと肩をすくめて作業に戻った。

11/1追加分
京都市内某所のホテルの一室・・・・。窓からは京都駅ビルが見えている。スパイマジシャン・デビットがいる。そして数人のミクロマンがいる。そのミクロマン達はデビットと同じブレスト形状のスーツを着込んでいる。だがそのスーツの下半身部分はデビットのスーツとは著しく違って奇形的なほど華奢にできている。

 「デビット、敵陣営への潜入調査、ご苦労だったな。」

 「リーダー・ダリウス、任務とはいえエバンスとブラッキーには悪いことをしました。」

 「気にすることはない遅かれ早かれ彼等は処分される身だったのだ。」

 「・・・・」

 「で、やはりあそこにアレはいたのか?」リーダー・ダリウスと呼ばれたミクロマンがデビットに視線を向ける。

 「はい、ですが未だに意識がない状態です。」デビットがそう言うとミクロマン達は顔を見合わせた。

 「・・・・デビット、君もアレの危険性が十分に理解できているはずだろう。」

 「はい・・・そして現在もランダムに発生している扉・・・次元の裂け目を発生させる原因となっている事も・・・。」

 「それなら分かっているな。」ダリウスは冷ややかな目でデビットを見る。

 「・・・・・」デビットは次にダリウスが命じる事が分かっているのか顔を伏せたまま黙っている。

 「デビット、やつらが動き出すまでにアミュレット=シルマと地球人タカシ=アマハを処刑しろ。君の細君とアミュレット=シルマとの関係は知っている。だが、ある機関からの命令でな。」

 「・・・・勅命という事ですね。」。

 「我々ミクロマンと地球人が共存していく上で著しく秩序を乱す者は存在してはいかんのだ。」

 「やはり我々が進めてきた計画は所詮は同族を生け贄にする血塗られた道なんですね。」

 「ミクロアース再建には必要な事だ。」

 「・・・ならばアクロイヤーやアーデンをそうしたように彼女も地球人との共通の敵にしたらどうです。」ダリウスを睨みつける。

 「・・・・・あの女がアクロイヤーとして生まれてきていたならそうしたとも・・。」

 デビットはダリウスのその言葉を聞くとをさらに睨み付け強く拳を握りしめた。

11/10追加分
雨雲が空を覆い、激しい雨が岸壁を激しく叩く豪雨の硫黄島・・・・。

 デビットはこっそりと基地に戻ってきた。

 「今お帰りかデビット。」

 「!!」ギョッとして振り返るデビット、そこにはアーデンクールがいた。

 「すこし島の周囲を見回ってきた。」

 「ふん、仕事熱心だな。」

 「お前も用がないのなら見回りでもしてきたらどうだ。」

 「見回りはしないが面白い実験に従事していてな」

 「?」

 「適当なサンプルがないので君の細君の身体を使わせてもらった。」

 「なにっ!!」

 「アクロイヤー化した姿はお前の好みで内容だからな、ミクロマンに近い姿にしてやったよ。」

 「きさまっ」デビットはアーデンクールに掴みかかる。

「やめな」アーデンクールの背後から聞き覚えのある女の声が響いた。

 「そ、その顔はヘ、ヘレン!?」

 「デビット、アルデバランの技術で元の美しい姿に戻れたのよ。」

 「ヘレン・・・。」女にすがりつこうとするデビット

 「仲間殺しの汚い手で触らないで頂戴。」手に持った剣をデビットに突きつけるヘレン。 「なっ。」デビットは思わぬヘレンからの残酷な言葉に絶句し後ずさる。

 「待ってくれヘレン、俺はお前のために・・・・。」

 「もう私はお前の知っているヘレンではない。」

 「私はルキファー様の下僕なのだ。」デビットはあまりの事に崩れるようにしてその場に跪いた。

 「ううっうぁぁぁぁぁぁ。」デビットの悲痛な叫びが響いた。

11/14追加分
 ブラジリア基地、輸送機と5機のコズミックファイターは、地球の宗教上の偉人の像の中にあるブラジリア基地の航空機発着場に入って行った。

 輸送機が誘導された滑走路わきに、すでに患者搬送用の用意が整っており、発動機が完全に停止するのを待つ事なく、クラークは医療要員達とジャブスによって手際よく車輪付きの担架に移し変えられ、基地の治療室に向かって走って行った。

 「ジャブスってヤツ、戦闘中は何もしなかったクセにこういう場ではちゃんと動けるだな・・・。」リチャードはジャブスの手際の良さに妙に感心した。

 機体幅が大きい為、隣接したサーベイヤー用発着場に着陸した5機のコズミックファイターは機首を下ろし、風防が開かれるとシンとダーレスが降りて来た。

 「依頼はここまでだったな、帰りはどうするよ?」ダーレスがリチャードにミネラル水のボトルを渡しながら問い掛けた。

 「いや、俺には別命があるのでそれまで待機だ」そう言うとリチャードはボトルの口を開けて水を一口含んだ。

 「そうか、ではここで任務完了だな、帰還する前に気に掛かる事があるので調べて来る」シンはダーレス機の各部を一通り点検し終え、近くに居た整備員に電子マニュアルを手渡した。

 「トビキチ、ヒエン、シュトルヒ、ダーレスと別命あるまでブラジリアで待機しろ、俺は…約束を果たさねば成らない…!!」何か連絡が入ったらしくシンはドロイド達に待機命令を出した。

 「傭兵部隊ブレイカーズのシン副長ですね、司令から追加の依頼です」
飛行背嚢に推進剤を補充しているシンの横にやって来たレスキュー隊員が、依頼書をシンに手渡した、目を通したシンは、レスキュー隊員に尋ねた。

 「作戦開始は?」

 「作戦準備が必要ですので出発時期はこちらから指示します、それまで待機していて下さい。外出許可も出てますのでブラジル観光にでも出ていてくれとのことです。」

 シンは静かに発進口の方を向き、力強い言葉で応えた。

 「無論依頼は受ける…その前に、俺は約束を果たさねば成らない!行かせてくれるな?!」

 「え…はい…もう外出ですか?作戦開始までには、まだ時間がありますが…」

 「約束を果たしたら必ず戻ってくる!」応えるや否やコズミックファイターにシンが乗り込み、各部の点検を始める、

 「ブラジリア基地管制室!ブレイカーズ副官のシンだ、約束を果たしに行く!出させてくれ!」

 「司令の許可を取る少し待機していてくれ。」

 「・・・・。」

 「ブレイカーズ、離陸許可が下りた。こちらの指示に従って離陸シークエンスに入ってくれ。」数分の沈黙の後、返答がくる。
 コズミックファイターはクレーンでカタパルトの台座にのせられる。シンがサムズアップで準備完了を知らせると。警告灯がグリーンからレッドに変わる。

 その瞬間、コズミックファイターの巨体は急加速され空中に射出される。

コズミックファイターとレスキュー3号が整備に入っている格納庫わきでリチャードとダーレスがたたずんでいる。

 「…一応、治療カプセルに入る事を勧めておく」

 ミネラル水のボトルを片手にリチャードが傍らの空き箱に座っているダーレスに言うと数度、深呼吸してから返答が帰って来る。

 「ま、傷口塞がりゃいいからな…出発まで入って行くか」額の包帯も血液と汗でにじみ、ダーレスがかなりの苦痛に耐えている事は誰の目にも明らかだった。

 「歩けるなら、ついて来い」

 「ああ、そうするぜ」

 時折、後ろを振り向きながらリチャードはダーレスを、クラークの手術に当たっている集中治療室の隣りにある治療室に連れていく。そこの一角に数十機の治療用カプセルがあり、空きのカプセルに、何とか自力で付いて来たダーレスを収容した。

 「じゃ、俺寝るわ…」

 「………ああ」リチャードはカプセルのふたを閉めた。

 「ドクター、宜しくお願いします。」治療室の職員にダーレスの処置を頼むと、リチャードはパイプ椅子を運んでその傍らに座った。

ブラジリア基地集中治療室。ドクターマン・ケーンとジャブスと数人のレディコマンドとドクター・ベシアが手術台を囲んでいる。クラークの手術に取りかかっている。
 ベシアはメディカルーエリア所属のベテラン医師でその脳に高度な最新医療技術のデータベースを持っている。このデータベースにはメディカルエリアが蓄積した医療データのすべてが記録されている。
 執刀にはドクターマン・ケーンが当たっている。

 「ドクターマン・ケーン。今回のケースは医療データにあります。」

 「ドクター・ベシア、手術手順をモニターに映してくれ。」

 「了解しました。」

 「ジョブス、よく見ておくんだ。君は日本に帰って同種の手術をするケースもありうるんだ。」

 「はい、ドクターマン・ケーン・・・・。」

 「やはり、ブレストが機能不全を起こしている。体内に十分なエネルギーを供給していないな。こういう時はミクロジウム移植が一番てっとり早いんだが・・・。」

 「ドクターマン・ケーン。プロフェッサーKのもとにミクロジウムを送りましたので現在どの基地にもミクロジウムのストックはありません。」

 「分かっている。治療プラン変更。パンチ化手術に変更する。」

 「君、保管庫にあるパンチボディをスタンバイモードにしておいてくれ。」ドクターマン・ケーンが傍らのレディコマンドに指示する。

「ミクロマンパンチですか?」

 「そうだ、残念だがやはり現状ではこれしかない。ヘンリー司令もそれを感じて患者をここに運ばせたはずだ。」

 「・・・・・。」

「ドリル・・・・」

 「パルサーメス・・・。」

 「鉗子・・・」静かな治療室にドクターマン・ケーンの声だけが響いている。 

11/15追加分

 鈴鹿レーダーサイト、ここはアクロイヤーの攻撃によって破壊された生駒レーダーサイトに代わって急遽建設された天文観測所である。所長は元SHIDダイニングエリア長官にして天文学者のマックスである。

 彼は地球本部陥落の後、鈴鹿レーダーサイトが稼働可能な状態になった時、志願してこのレーダーサイトの所長になった。

 マックスはここである事実に気づいていた。それは最近、太陽系内で発生しては消えていく次元の歪み「扉」の発生パターンに一定の規則性があるという事だ。そして発生間隔は徐々に短くなってきている。そして広く分散し発生しては消えていく次元の歪みの発生点はある一点を目指して接近していっている。それはムーンベースのあるクレーターであった。

 マックスは今日も次元の歪み「扉」を観測していた。鈴鹿レーダーサイトに設置されている光子波望遠鏡には過去3ヶ月間に発生した次元の歪み「扉」の座標とエネルギー量が記録されている。あいかわらず座標はムーンベースに接近していっていた。

 「光子波望遠鏡を用意してくれ。」マックスは近くにいた所員に光子波望遠鏡を用意させる。

 「・・・・・」所員は不満げな表情で無言のまま光子波望遠鏡を用意する。マックスはこの態度に腹立たしさを感じたがぐっと押さえて観測作業に入った。

 「サンプルA空間座標x44y72z49・・・・エネルギー量・・・・0!?」マックスは観測結果が映し出されるモニターを見て目を疑った。続いて他の観測結果を呼び出す。

 「サンプルB、サンプルC、サンプルD、すべてエネルギー量0・・・。」

 「すべての扉が消えてる・・・・。」マックスは呆然とした。

 ミクロサテライトの救命カプセルカタパルト、ここではアーデン・バルガー襲撃による犠牲者の葬儀が行われていた。外宇宙側に向けられたカタパルトのレール上には9つの棺を積んだカプセルが設置されている。棺の側ではエリック他生き残ったミクロサテライトの職員が整列している。ブレストを完全に破壊され死亡が確定した者達の葬儀である。

 「ミクロサテライトを守り散っていった戦士達の霊に敬礼。」エリックの号令のもと、生き残ったミクロマン達は死者に対して敬礼を送った。

 「鈴鹿レーダーサイトからの通信です。」側に待機していたミサイラーがエリックに告げる。

「こちらに繋いでくれ。」

 「やぁエリック、久しぶりだね。」

 「マックス、どうして君が鈴鹿に?」

 「色々あってね。ここに落ち着いた。」マックスはぽりぽりと頭をかいている。

 「で、用件はなんだ?」

 「鈴鹿のレーダーサイトで宇宙空間で発生した次元の歪みをそれぞれ観測していたんだが。突然、申し合わせたように全部が同時に消滅してしまった。」

 「時空の歪みが消滅?詳しく経過を説明してくれないか。ミクロサテライトは設備のトラブルで通信網が麻痺していたんだ。」

 「分かった。出来たらすぐに専用衛星回線を設置してくれないか。データをそっちに送るよ。」

 「OKだ。すぐ回線を用意させる。」

11/18追加分
 硫黄島・・・。ここはアクロイヤーが建設した前線基地。この基地の最下層は巨大な工場になっている。工場の壁面には大きく3つの区画に分けられたパイプ状の水槽がならんでいる。水槽の内部にはアクロイヤー化されつつあるミクロ人間が収容されている。

 一人のレディコマンドの収容された水槽の前に一人のスパイマジシャン・・・・デビットが立っていた。その手にはスパイマジシャン専用の装備のステッキが握られている・・・・。

 デビットは何度かステッキをレディコマンドの胸の辺りをめがけ振り下ろすがその度に直前でその手を止め、そのまま力なくステッキを下ろした。

「今更こんな事をして何になるのだ。こんな事をしてヘレンが元通りの優しい妻になるのか?息子が元通りの身体にもどるのか?・・・・・・・。そして仲間の待つ帰るべき所に戻る事が出来るのか?」デビットは自分に問いかける。

 「何も状況は変わりはしない。だがアミュ・・・アミュレット=シルマ。彼女を殺せばこの苦しい任務は終わる・・・・・。」デビットは逆手に持ったステッキを大きく振り上げる。

11/29追加分
 東海支部コンピュータールーム。ここはエデュケーションエリアの所轄で富士山地球本部から移した過去25年間のミクロマンの歴史とも言うべき作戦記録が収められている。 二人のスパイマジシャンがコンピューター端末と向き合ってる。

 一人はヘインズ、もう一人はダイソンである。ヘインズはハッキングの達人で電話回線から情報を瞬時に集める情報収集の専門家である。ダイソンは現役を退いたとはいえデータの収集や解析に長じたスパイマジシャンである。

 「ダイソン先生、やっぱりジェットミラーのコックピットよりモニターの前の方が落ち着きますよ。データ整理よりは情報収集の方が専門ですがね。」

 「ははははは、ヘインズ、今は人手不足なんだそうぼやくな。まあ、今はお前が手空きで助かったよ。下手をすると一人で過去25年間のデータの整理をやらされる所だったからな。」ダイソンは豪快に笑った。

 「一応アクセス履歴も整理しておきますね。」

 「ん?!」ヘインズはモニターに映し出されるデータの異常に気づいた。

 「ダイソン先生。ちょっと見て下さい。」

 「どうした?ヘインズ」

 「ここ最近何度かに渡って外部からコマンドエリアの作戦データベースがダウンロードされてます。」

 「ダウンロード?どこの回線からだ?」ダイソンが聞く前にヘインズは回線を洗い出していた。

 「地球人協力者用ホットラインからです。」

 「地球人協力者用ホットライン?片貝あきら博士と一部の地球人協力者にしか作戦データベースへのアクセス権は与えられていないはずだが誰の回線だ?」

 「どの協力者のホットラインでもないんです。」

「凍結済みの回線か。」

 「ええ、1999年に凍結しているハズなんですが何故か回線が生きてます。」

「回線のデータは?」

 「わかりません。何故かこの回線のデータはすべて抹消済みになっています。」

 「抹消済みの回線・・・・嫌な予感がするな。一応S.A.S.を呼んでおいてくれ。そして、この凍結回線以外のホットラインはすべて切断だ。」

 「いいんですか?」

 「ああ構わん、コイツは必ず全データベースの破壊にやっていくる。ここ何度かのアクセスはデータファイルの所在の確認だ。」

 「他の地球人協力者への報告は?」

 「無用だ。コイツに気取られる。スミス司令にだけ伝えればいい。」

 「司令室にキーワークの達人のアイリスがいます。彼女にも手伝ってもらいましょう。」

 「ああ、そうしてくれ。」

ミクロ戦記その10