★MISSION IMPOSSIBLE(File
No.626262 人質カノン)
しばらくして兄貴が帰ってきた。
兄貴はリビングのソファのジーンズに眉を寄せた。せっかく病院行ってカウンセリング受けて眉間がつるつるになったのにな。
これで兄貴がこれ以上おかしくなったらシュラのせいだ。兄貴は無言でアイオロスのジーンズを掴んだ。まさか思いっきり匂いをかぐとかキモイことしないでくれよ。←お前はいつもしておるのじゃな
兄貴はそのまま風呂場にいって、鶏のジーンズを洗濯機に放り込んだ。どうやらかなり臭うらしい。
その後、兄貴はアイオロス(シュラ)を探し始めた。風呂、書斎、リビング、倉庫、キッチンを探した兄貴は、眉間の皺を増やしてため息をついた。
そりゃジーンズ脱いでパン一のアイオロスが隠れているってなったら、眉間の皺も増えるな。兄貴はダイニングテーブルの下を覗き込んで眉間の皺を一本増やすと、今度は花瓶の花を引っこ抜いて花瓶の中を覗いた。また一本皺が増えた。←アイオロスはそれほど小さくあるまい
冷蔵庫を開けて皺を増やし、キッチンの引き出しを開けてまた増やし、カーペットの下を覗き込んだり、床にはいつくばってソファーの下を覗き込んだりした。
兄貴脳内のアイオロスっていったいどんな大きさなんだ。あの筋肉団子が花瓶の中とか入るわけないだろうが。
あ〜、せっかく今日は病院にいったのに、また明日病院行きか?←しっかり連れて行くように
兄貴はついに勝手に俺の部屋に入りやがった。俺の部屋に勝手に入るなと、あれほど言ったのに、ふざけるな。
俺は天井裏から降りて、兄貴に蹴りを入れようかと思ったが、仕事中なので私情はこらえることにした。
そもそも俺の部屋にアイオロスが隠れているわけないだろうが。俺の部屋にいないことを確認した兄貴は、隣の自分の寝室に入っていった。
ようやく、おねだり兄貴の登場か!?
と、俺は気持ち悪くなったが、寝室に行った兄貴はベッドで寝るアイオロスを見て硬直した。
ベッドの中でアイオロス(シュラ)がシーツから手を出して、くいくいと指で手招きをした。兄貴の眉間の皺がレベル10になったのを俺は見逃さなかった。
だが兄貴はすぐに無言で扉を閉めた。
で、兄貴はおねだりモードのスイッチが入ると思いきや、そのままアイオロス(シュラ)を無視してコーヒーをいれて、リビングで本を読み始めた。
いつになってもおねだりモードになるどころか、アイオロスが寝室にいることに突っ込みや怒りも出てこなかった。
しかも、夕方になっていったん風呂に入った兄貴は飯の準備を始めた。
なんかどうみてもいつもの生活してるんだが、アイオロス(シュラ)のことは無視か?
まさか兄貴にはすでにあれがアイオロスじゃなくてシュラだってばれてるのか?←お前がばらしたのであろうやっぱりおねだり兄貴はアイオロスの幻想だった。←その通り
このまま行くと、俺は天井裏で一晩明かすのか?ていうか、俺の飯は……。こんなときは兄貴のクソまずい飯の匂いでも腹がなる。
白羊食堂で一回休憩しようと思ったら、なんと本物のアイオロスが双児宮に現れた。
「サガ、飯を食わせてくれ」
「ああ、おはよう。アイオロス」
「は?もう夜だ、おはようじゃないだろう。サガはおちゃめさんだな」
アイオロスが馬面になったが、兄貴は思いっきり眉間に皺を寄せて睨みつけた。
そりゃそうだ、兄貴はアイオロスが今の今まで自分のベッドで(勝手に)寝ていたと思っていたんだからな。ていうか、なんでここで本物登場してんだよ。ちゃんと本物は排除しておけ、永遠に。
「今日はカノンはいないのか?」
「ああ。でかけている、明日まで帰ってこないらしいが……あの馬鹿、一体どこでなにをしているのか」
アイオロスが俺がいないことに気がついてますます鼻の下を伸ばした。
馬鹿は余計だ、俺は馬鹿を装っているだけだ。「明日まで帰ってこないのか……、それは俺を誘っているってことか?サガ。分かった、今夜はたっぷりいいことをしよう」
だからどうしてそうなる。兄貴のせりふには、誘うような言葉は一言もなかった。やっぱり鶏の思考回路はまともな俺には理解不可能だ。
アイオロスがキッチンに立つ兄貴に抱きついたが、兄貴に思いっきり肘鉄をくらい脚を踏まれて悲鳴を上げた。やっぱり二人きりになっても兄貴はおねだり兄貴にはならなかった。
アイオロスがシュラにふかしこいてただけだ。俺も腹がへったので天井裏からおりた。←サガが心配で下りたのか
本物のアイオロスが来たってことは、シュラの作戦は失敗で俺が家を不在にする理由はないからな。
今日は仕方ないから兄貴のクソ不味い飯を食ってやる。「カノン…?出かけたのではなかったか?」
「喋っている暇があったらさっさと飯作れ」
俺の姿に気がついた兄貴に俺は適当に言って、兄貴の寝室に入った途端、シュラの汚い尻が目の間に飛び込んできた。
奴はちょうど窓から逃げ出すところだったらしい。
全裸で服だけ抱えて片足を窓にかけている姿は、間男そのものだった。
俺はカメラを持っていなかったことを後悔した。俺がドアを開けた瞬間、奴は身体をびくっとさせて振り返った。
粒目にはうっすら涙を浮かべていたのを俺は見逃さなかった。
どうやら本物登場にしょんべんちびる寸前らしい。いや、もうちびったか?←ちびったのう
すっかり子山羊化したシュラは、顔を真っ青にして震えながらも俺の顔を見て安心したようだ。
もしかしてアイオロス乱入かと思ったのか?
つか、アイオロスごときにそんなにビクついて、本当に子山羊だな。「カ、カノンか……驚かせるなよ」
「今日は中止か?」
「ったりまえだろう。アイオロスにこのことがばれたら、俺……」
子山羊が生まれたてみたいにぶるぶる震えだした。
もしかしてアイオロスが怖いのか?ださっ!←子分であるからのぅ「アイオロスッ!」
俺が言うと、シュラは驚いて1mくらい飛び上がると頭を抱えてしゃがみこんだ。
「うわぁ、ごめんなさい、アイオロス。俺は別にサガになんて興味ありません。嘘です、嘘。ちょっと魔がさしただけです、だから怒らないでください」
がくがく震えていたシュラは、アイオロスの気配がまったくないことに気がついて、顔をあげて俺を睨みつけた。
俺は別にアイオロスが来たとは言ってないからな。「お前、本当にチキン野郎だな。あの鶏男が怖いのか?」
「怖いに決まってんだろうが!サガを掘ったって知れたら、絶対に殺される」
子山羊男は顔を真っ青にしていった。
「今日はアイオロスは女神のお呼び出しで日本にいるはずだったんだ。それなのに、どうしてギリシャにいるんだ!」←お前がアイオロスに教えたのであろうそんなこと俺が知るわけないだろうが。
「と、とにかく、俺は今日は帰るからな」
シュラは裸のまま慌てて窓から逃げて行った。
今回は結局ホモもなかったし、収入もあったから美味い仕事だった。
アイオロスは兄貴のクソ不味い飯を食ったあと、しばらく双児宮にいたが、日本に戻るといって帰っていった。
あいつ、いったい何をしに来たんだ?