にいちゃんといっしょ(にいちゃんと年下の憂鬱)

 

8歳になるデスマスクとシュラ、7歳のアフロディーテは闘技場で埃まみれ泥まみれになって訓練に励んでいた。
訓練が終わる頃には三人は文字通りボロ雑巾のようになり、へなへなとその場にへたり込む。

それに合わせたように面倒見役のアイオロスが大きな荷物を抱えて現れた。

アイオロス「お前ら、なにサボってんだ!」

シュラ「もう無理です、動けませんっ!!」

デスマスク「今日はもう終わりにしようぜ、アイオロスっ!!」

アフロディーテ「ボクも賛成っ! 午後はサガと勉強のほうがいい……」

アイオロス「残念でした。サガは午後からオレと勉強会!! お前らは年少組みと一緒に訓練だっ!!」

シュラ「うそつき、勉強会なんて絶対嘘だ!!」

デスマスク「どうせ大人の勉強会だろう! ふざけんな!」

アイオロス「あぁん? なにか言ったか!?」

片眉を吊り上げ握り拳を作ったアイオロスに、シュラとデスマスクは顔を青ざめさせて首をぶんぶんと横に振った。

アイオロス「いいか、てめぇら! 午後のサガとの大事な時間を邪魔したらただじゃおかないからな。しっかりアイオリアたちの面倒みろよっ!!」

アフロディーテ「やっぱりガキの面倒みなきゃいけないんだ……」

アイオロス「つべこべ言わずに、さっさと着替えて休んで昼飯食って来いっ!!」

デスマスク「へいへい、分りましたよっ!」

アイオロス「ちょっと待て、これをもって帰れっ!」

アイオロスは積み重ねていた三つのダンボール箱を三人の前に投げ出した。

シュラ「なんですか?」

アフロディーテ「まさか中身は黄金聖衣っ!?」

デスマスク「んなわけねーだろう。ダンボールだぜ、これ」

アイオロス「新しい服だ。お前達、すぐにボロボロにしちまうからなぁ」

デスマスク・シュラ・アフロディーテ「あたらしいふくぅぅぅぅぅぅ!?」

アイオロス「おうとも、この前新しい服が欲しいっていってただろう? プロテクターもボロボロになって、今のじゃ着けている意味がないしなぁ。だから神官に頼んでおいたんだ」

デスマスク「アイオロスの割には気が効くじゃん!」

シュラ「アイオロス、大好きです!!」

アフロディーテ「アイオロス、ありがとうーーーっ!!」

訓練でボロ雑巾のようになった服とプロテクターを着ていた三人は瞳をキラキラに輝かせながら、ダンボール箱を開けた。

デスマスク「あ゛っ!?」

シュラ「げっ!?」

アフロディーテ「なにこれ!?」

デスマスクは黄ばんだキトンに顔を歪ませ、シュラは染みと継ぎはぎだらけの訓練着に絶句し、アフロディーテはクタクタヨレヨレのプロテクターに唖然となった。

アイオロス「なんだその不満そうな顔は!」

デスマスク「だって、またおさがりじゃねぇかよ!!」

シュラ「アイオロス、新しい服だって言ったじゃないですか!」

アフロディーテ「こんなボロいやなんだけど!!」

アイオロス「はぁぁ? お前ら、なにを贅沢言ってるんだ、ばかっ!」

デスマスク「誰がこんな継ぎはぎだらけの服を喜ぶってんだよっ!!」

シュラ「そうですよ、このズボンなんて血の染みとか、なんかよく分らない染みもついてるじゃないですか!」

アフロディーテ「……お古なんてヤダッ、恥ずかしい」

アイオロス「ばっかやろーーーーっ!!

デスマスク・シュラ・アフロディーテ「ぎゃっ!!」

3人はアイオロスに殴り飛ばされ、ますますボロ雑巾になった。

アイオロス「お前らにはそれで十分だっ! 毎日、毎日服を破いて、プロテクターボロボロにしているんだから、新しい物なんて勿体ないだろうが!!」

デスマスク「俺達だって好きで毎日ボロボロになってんじゃねーよ!」

アイオロス「言い訳するんじゃないっ! プロテクターや服がボロボロにならないようにちゃんと動けば問題ないだろう!」

シュラ「そんな無茶な!!」

アフロディーテ「もともとがボロなんだから、すぐにボロになるんだ!」

アイオロス「ばっかやろーーーっ! これはなっ、聖域のかぁちゃんやばぁちゃん達が、精魂こめて繕ってくれたものなんだぞっ!! ありがたいと思え!」

デスマスク「そんな暇あったら新しいの縫ってくれればいいのになぁ!」

シュラ「そうだよ。新しいやつのほうが作りがいもあるってもんだよ」

アフロディーテ「本当、本当。こんなぼろいプロテクターなんて最悪っ! 汗臭いし、ヨレヨレだし」

アイオロス「革がなじんでて着易くて、動きやすいじゃないか!!」

アフロディーテ「やだっ! 最悪、ほら、ここなんて落書きが……っって、これアイオロスのじゃない!?」

アイオロス「あん!?」

デスマスク「あぁぁん? おぉ、アフロディーテの手甲の裏に名前が書いてあるぜい、アイオロス!」

シュラ「これ何年前のですか? 自分の持ち物に名前書くなんて、子供じゃあるまいし」

アイオロス「……名前なんて書いたことがないんだが? ちょっと見せてみろ」

アイオロスはアフロディーテから手甲を奪うと、それを乱暴に裏返しにしてしげしげとそこを見つめた。

年中組み三人も背伸びをしてアイオロスの手の中の手甲を見つめる。

アイオロス「うわぁぁ、なんだこれ。すっごい懐かしいなぁぁ」

シュラ「アイオロス……っていう文字の後、何か書いてありますよ」

デスマスク「サ……が?」

アフロディーテ「これサガのお古でもあるってこと? サガが名前を書いて使って、その後アイオロスが名前を書いて使ったってことかな?」

アイオロス「違う、違う。俺がガキンチョの時のおまじないだ!」

デスマスク「おまじない!?」

アイオロス「そうとも。サガと仲良くなってラブラブになるおまじない!」

シュラ「はぁ? なんですかそれ、そんな子供っぽいことをアイオロスが!?」

アイオロス「うーーん、あの頃はまだ俺だってガキだったし、サガと殆ど口もきいたことなくてな。そんで、教皇にどうしたらサガと仲良くなれるかって相談したら、普段身に着けているものに自分の名前と相手の名前を書いて、ボロボロになるまで使い切ると相思相愛になるって言われてさ」

アフロディーテ「え!? そんなこと信じたの、バカみたい」

アイオロス「教皇のおまじないをバカにしちゃいかん! なんかおまじないしてると思うと、修行も恋愛も俄然やる気がでてきてなぁ!!」」

シュラ「で、どれくらい使ったんですか?」

アイオロス「3時間くらいかな」

デスマスク「は?」

アイオロス「あの時、即行でいろんな物に俺とサガの名前を書きまくって、その日のうちガンガンに修行しまくって、全部ボロボロにしてやった!!」

えっへんとアイオロスは鼻の穴を膨らませた。

アイオロス「効果があったのかどうかは未だに分らんが、 実際に今のサガと俺はラブラブだから、やっぱり教皇のおまじないも伊達じゃないってことさ!! それにしてもまさかめぐりめぐってアフロディーテの手甲になって戻ってくるとはなぁぁぁぁ」

アフロディーテ「それじゃ大事な思い出もいっぱい詰まってるし、これはアイオロスが持っていれば?」

アイオロス「おぉ、そうだよな!!」

アフロディーテ「うん、そうしなよ。ボクは新しい手甲で我慢するからさ!」

デスマスク・シュラ「こいつズルイっ!!」

アイオロス「あ!? そ、それはダメだ……」

アフロディーテ「でもこれはアイオロスの大事なものでしょう!」

アイオロス「う、うーん、そうなんだが……」

シュラとデスマスクは慌てて自分達のおさがりにもアイオロスの名前が入ってないか確認し始めた。

アフロディーテ「サガとの甘酸っぱい思い出は大事にしなくちゃだよ、アイオロスっ!」

アイオロス「でもダメだ!! これは今はアフロディーテの物なんだから、アフロディーテが使え。俺は、もうサガとラブラブになれたし、このおまじないは必要ないからなっ!!」

アフロディーテ「ちっ、ダメか……」

三人は舌打ちをして同時に肩を落とした。

 


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