にぃちゃんといっしょ(兄ちゃんと燃える下心1)

 

デスマスク「おう、シャカ!場所借りるぞ。」

デスマスクは蓮華の台座の上に浮んでいるシャカに声をかけると、ワインとつまみを台座に置き、全員に声をかけた。

デスマスク「おう、おめぇら!いつもの儀式行くぞ。」

デスマスクを始め、アイオロス、シュラ、カミュ、アフロディーテはシャカに跪き、一斉に拍手を打ち、手を組んで祈った。

デスマスク「おシャカさま、今晩も処女宮で、酒盛りさせて頂きます!」

シャカ「よかろう!」

全員に祈られて悦に入っているシャカは、こうして毎晩快く酒盛りの場所を提供してくれるのであった。

 

デスマスク「今日は、シュラからの土産のドイツワインだ!」

デスマスクはワイングラスを人数分並べると、ワインを一気に注いだ。乱暴に注がれたワインはグラスから溢れ処女宮の床を汚した。

カミュ「デスマスク・・・こぼれています。もったいない。」

シュラ「心配するな。ワインはいつも通り、売るほどある。」

カミュはシュラが指差したほうを見ると、箱に詰められたワインが大量に山積みになっていた。

デスマスク「それじゃ、かんぱーーい!」

皆は乾杯の音頭と共に、一気にグラスを空ける。そこからは、もう自由である。手酌で飲むもよし、酌をして回るもよし、ラッパで飲むもよし・・・・。

 

アイオロス「おい、サガはどうした?サガは?」

すでに宴会が始まって30分は過ぎているというのに、姿を見せないサガに、アイオロスは苛立ちを募らせていた。

デスマスク「おいおい、そういや今日の首謀者はどうした?」

シュラ「首謀者?お前じゃないのか?」

デスマスク「いや、今日はサガの号令なんだが・・・。」

アフロディーテ「そうよ!サガが来るっていうから、私も来たのに。冗談じゃないわよ!」

カミュ「まったくだ。サガがいないのでは話にならん。」

デスマスク「んなこと俺っPiにいわれても、知るか!」

一向に姿を見せないサガに、全員が処女宮の入り口の方をじーっと見据えると、程なく階段を上る複数の足音が聞こえ、一同は顔を見合わせ笑い、酒を煽った。

最初に入ってきたのは、手に大皿料理を持ったミロだった。その後ろには、ムウとカノンが同じように料理を持っている。最後に現れたサガが大事そうに抱えているものを見て、先に宴会をはじめていた者たちは、小首をかしげた。

デスマスク「おい、酒なら売るほどあるぜ。」

サガはにやりと笑うと、ワインの入った箱を置く。

サガ「ふ、これは特別なワインだ。」

ムウ「シオンさまのワインですよ。私は知りませんからね。」

ムウの返事に一同は感嘆の声をあげた。シオンのワインということは、間違いなく最高級品である。

午前中、シオンが日本出張で不在なのを見計らい、教皇の間の図書館でここぞとばかりに本をあさっていたサガは、帰りにワインの箱を運ぶ神官の姿を見つけ、一本貰って帰ろうかと声をかけたところ、教皇のワインだからという理由で断られてしまった。今では口にすることもなくなってしまったが、偽教皇であったサガは教皇のワインが最高級品であることを熟知していた。サガががっくりと肩を落とすと、心優しい神官が見かねて、このワインが白羊宮に届けられることを教えたため、サガは何とかワインを手に入れようと、宴会作戦を思いついたのである。
幸い教皇は女神のお呼び出しで、日本へ島流しの刑だ。サガはカノンとミロにムウを宴会に誘うように仕向けさせ、どさくさにまぎれて自分も白羊宮に乗り込み、あたかも偶然見つけたように、シオンのワインを探し出して『これは美味いワインだ!』と声をあげた。するとミロとカノンが『飲みたい!飲みたい!』と駄々をこね始め、サガの作戦どおり、宴会の目玉としてワインの持ち出しに成功したのである。

デスマスクはワインのラベルを見ると、唸り声を上げた。

シュラ「どうしたデスマスク?」

デスマスク「貴腐だな・・・。」

シュラ「そうだろうよ。トカイワインか?」

教皇の飲むワインは、偽教皇時に贅沢三昧していたシュラ・デスマスク・アフロディーテも飲んだことがある。

デスマスク「いーや、これは更に桁が違う、と思う。」

シュラ「桁?」

デスマスク「ただの貴腐ワインじゃねぇ。これ1本で、お前の土産のワイン1箱、いや2箱ってとこか。いーーや、値段がつかないかもしれん。教皇の畑で教皇の為に作られたワインという奴だな。」

ムウ「よくわかりましたね。」

宴席に再び感嘆の声があがる。皆、教皇のワインに過剰な期待を込めて視線を注ぐと、無造作にムウが一本とりあげ、有り難味もなくさっさとコルク栓をあけようとした。

アイオロス「ちょっとまて、ムウ!」

ムウ「なんですか?」

アイオロス「これって、数本しかないのだろう。教皇の許可は貰っているのか?勝手に飲んで怒られないのか?」

ムウ「さぁ、だから私は知りませんよと言ったではありませんか。」

サガ「大丈夫だ、アイオロスが何とかしてくれる。な、アイオロス。」

愛しいサガに満面の笑みを向けられ、アイオロスはだらしなく鼻の下を伸ばすと、首がもげんばかりに頷いた。

デスマスク「いや、ちょっと待て!!」

ムウ「今度はなんですか?」

デスマスク「それを飲んだら、こっちのワインは飲めなくなる・・・。シュラのワインも十分美味いが、それと比べるのは黄金聖闘士と青銅聖闘士を比べるようなものだ・・・。まず、シュラのワインをあけてからにしよう。」

ムウ「そうですか。せっかくワインに合わせて料理を作ってきたのに。」

シュラ「大丈夫だ、赤も白もあるからな。だから、先にこっちを飲んでくれ。」

円陣に黄金聖闘士たちが座った中央に、大きな銀皿に乗った料理が差し出される。今日のムウの手料理はホテルのレストランで出てきそうな上品なものばかりであり、何故かチョコレートケーキまでのっている。

デスマスク「おう、じゃあ、もう一度仕切りなおしだ!!いくぞおめぇら!!かんぱーーーーい!!」

皆は乾杯の音頭と共に、一気にグラスを空ける。そこからは、最高級ワインを横目に、ドイツワインをいつもの調子でガンガン空にしていった。

 

ムウの手料理がなくなり、無数の空き瓶が転がる頃には、宴会は大盛り上がりになっていた。

ミロ「教皇のワイン!!!飲ませろ!」

サガ「『飲ませてください』だ、馬鹿もん!」

ミロ「のませてくらさーーーい!」

のませてくらさーーーい!

一部ののりのいい者達がミロに続いて唱和する。

デスマスクとサガがようやく教皇のワインの蓋を開けると、処女宮に歓声があがった。注がれたワインは、淡い琥珀色で、華やかな香を漂わせている。

一番最初に口をつけたサガが、珍しく上機嫌に声をあげた。

サガ「美味い!これでこそワインだ!!」

その後も処女宮に美味い美味いと声が続く。

ミロ「うめーーー!こんなうめーもの飲んだの初めてだよ!」

アフロディーテ「美味しい!なにこれ!!」

カノン「うめぇ!これがコンビニで売ってたら、俺は毎日飲むぞ!」

デスマスク「売ってるわけねぇだろ、ボケ!いや・・・それにしても美味いな。」

シュラ「甘すぎるが・・・それが嫌にならないほど美味いな。」

アイオロス「ああ、たしかにジーサンがよく飲んでいるワインより、更に美味い。」

カミュ「ふむ、サガが思わず長々と偽教皇になりすましてしまったのも、わかりますね。美味い。」

いつもならば、カミュの言葉に鬱になるサガだが、まったく気にせず更に教皇のワインを注いで煽る。普段、あまり酒を飲まないサガが、頬を赤らめているのを見て、双子の間に無理矢理割って座っていたアイオロスは、更にサガのグラスにワインを注いだ。もちろんサガを酔い潰そうとたくらんでいるのである。

アイオロス「サガァ、そんなにこのワインが好きなら、私の分も飲んでいいぞぉ。さ!ガンガン飲んで、飲んで!」

サガ「すまんな、アイオロス。遠慮なく頂くぞ。」

デスマスク「おいおい、数が少ないんだから、ありがたく飲めって・・・足りねぇ!おい、一本足りねぇぞ!」

デスマスクは教皇ワインを数えてみるが、4本しかない。確かサガは5本持ってきたはずである。

カノン「だれだ!かっぱらった奴は!」

シュラ「お前しか考えられんだろう。」

カノン「何だと?!俺は小さな悪事はしねーんだよ!」

アフロディーテ「デっちゃん!大変!!」

デスマスクは、アフロディーテが隣に座ったムウを指差したのを見て、眉を天まで吊り上げた。きちんと正座して座ったムウの膝の隣に空き瓶が転がっているのである。それは他ならぬ教皇のワインの瓶であった。料理をもくもくと食べていたはずのムウが、いつの間にか勝手にワインをあけていたのである。

アフロディーテ「ちょっとムウちゃん!一人で一本飲んじゃったの!?」

アフロディーテは白い肌を真っ赤に染めて朦朧としているムウを見て言った。しかしムウはまったく反応しなかった。

アフロディーテ「ムウ。どうしたの?大丈夫??」

アフロディーテがムウをつつくと、ムウはそのまま隣のサガの膝の上に倒れた。

シュラ「おおおお!!ムウが壊れたぞ!!今日も電池切れか?」

デスマスク「いや、この酒、飲みやすい割には、滅茶苦茶アルコール度数高いからな。潰れたんだろう。」

アイオロス「こら、ムウ!サガの膝枕は私専用だぞ!どけ!」

ムウの薄紫の髪を引っ張り、サガの膝枕から引き摺り落とそうとしたアイオロスの手をはたいたのは、他ならぬサガであった。

サガ「ムウは子供なんだ。可哀想だろう。寝かせてやれ。」

アイオロス「さ、サガぁ?。ムウはもう20歳だぞ。」

サガ「ふっ、何を言っている。子供は寝る時間だ。」

いよいよサガの言動もおかしくなってきた。これはチャンスと、アイオロスは酔いつぶれたムウを睨みつつも、更にサガのグラスに酒を注いだ。


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