兄貴といっしょ(誕生日プレゼント)

 

11月30日

この日アイオロスはご機嫌だった。

誕生日という名目の飲み会が始まる前から、頬が緩みっぱなしだった。なんと誕生日プレゼントにサガをもらえる予定なのである。

1ヶ月も前からサガにおねだりし、土下座をし、ようやく勝ち得たサガとのムフフの権利である。普段ならできないようなあーーんなことや、こーんなことも誕生日特別プレゼントということでできる予定なのだ。

しかも今回はこの飲み会もサガが全部セッティングしてくれていた。

サガが自分のために働いてくれている。それだけでもアイオロスは幸せで、サガ尽くしの誕生日に機嫌が悪いはずがない。

アイオロスは「今夜は寝るもんか」と気合を入れながら、ご機嫌で酒をあおった。

さっさと飲み会を終えて、しっぽりまったりしたいのが本心だった。

夜の楽しみが待ちきれないのか、そわそわしながらアイオロスは周りを伺った。本来なら視線はサガに一転集中のはずなのだが、どうも他に気になることがあるらしい。

アイオロス「なぁ、シュラ」

シュラ「アイオロス、誕生日おめでとうございます」

アイオロス「おぅ、サンキュ! っていうか、それはもういいから」

シュラ「はい?」

アイオロス「なにか忘れてないか」

シュラ「なにをですか?」

アイオロス「なにをって……」

デスマスク「おいおい、アーオロス! なにをしけた面してんでぇ! これからサガとしっぽり濡れ濡れなんだろう」

シュラ「そうですよ! もっと期待に股間を膨らませないと!」

アイオロス「あぁ、まぁな」

話をはぐらかされたアイオロスはちらりとサガを見た。するとサガが立ち上がった。

シュラ「ほら、サガがもう我慢できないから、はやくしたいって言ってますよ」

サガ「は、はぁぁ!? 勝手な勘違いをするな。手洗いに行ってくるだけだ、馬鹿者っ!」

サガは思いっきり白い視線を酔っ払いたちに向けると、すたすたとトイレへと消えていった。

アイオロス「でな、私の誕生日プレゼントはどうなってんだ?」

シュラ「それならサガが今夜たっぷりご奉仕してくれますよ」

アイオロス「そうじゃなくて、お前達からのプレゼント」

デスマスクとシュラは「げっ」と顔を見合わせて呻いた。

シュラ「実は……まだ届いてないんです。手配はしてたんですが、運送会社のミスかなにかで」

アイオロス「なんだとーーー!?」

アイオロスの酒臭い怒鳴り声が黄金聖闘士達の耳をつんざいた。

 

一方、すっきり顔でトイレから出てきたサガは、リビングから聞こえるアイオロスの怒鳴り声に首をかしげた。

アイオロス「ばっかやろう、プレゼントは一体どうなっているんだ!」

ミロ「そんなに怒鳴らなくてもいいじゃん、大人気ない」

アイオロス「大人げなくて結構。私はそれだけ今日を楽しみにしていたんだぞ」

デスマスク「俺達が悪いわけじゃないんだぜ」

アフロディーテ「やっぱりサガはよくなかったんじゃない?」

サガ(私?)

宴会場に入ろうとしたサガはアフロディーテの言葉に足を止めると、コソコソと壁に張り付いて聞き耳を立てた。

シュラ「サガは使えないからな。だから俺が口をすっぱくしてサガはやめておけって言ったんだ」

カミュ「しかし私達に選択の余地はありませんでした」

アルデバラン「サガはそんなにダメなんですか?」

シュラ「ああ、サガは使えない! そんなのずいぶん前から有名だ」

サガ(そ、そんな。いくら私が裏切り者で二重人格で欝だからといって、シュラに使えないと思われてるとは……。少なくともアイオロスは私を望んでプレゼントに欲しがったんじゃ……)

アイオリア「でも、しっかり金は貰ってるんだろう? よく分らないけどさ」

デスマスク「当然だ! 無駄に高い金払ってねーぞ!」

サガ(なぬ!? 私がいつアイオロス相手に金を貰ったのだ!)

アイオリア「金払ってるのに、仕事してないってことか。酷いな。兄さんはあんなに楽しみにしてたのにっ、許さんぞサガはぁぁぁ」

ムウ「金だけもらって働いていないってことですね」

サガ(……それは給料のことか? いやしかしデスマスクが言うほど、そんなに給料は貰っていないはずだ。昔の悪行の請求と水道費を天引きされているし、手取りは毎月生活していくのがやっとなのに)

アフロディーテ「サガは最低っ。おかげで悪くない私らがアイオロスに怒鳴られたじゃない」

サガ(そ、そんなアフロディーテ、私は精一杯仕事をしているではないか……たぶん。今日だってアイオロスのためにちゃんと準備をしたのだぞ。下げたくもない頭をムウにさげて料理を作ってもらったし……しっかり睡眠もとって今夜に備えているし)

シュラ「いや、仕事してないってわけじゃないと思うが」

ミロ「さっきと言ってること違うじゃん」

シュラ「サガは使えないっていうのは確かなんだが、働いていないわけじゃない」

サガ(ドラゴンにあっさり負けたお前に、使えない呼ばわりされる覚えはない!!)

アイオロス「働かないから使えんのだろう。サガはもう二度と使うなよ」

サガ(そ、そんなアイオロスまで!!! お前が教皇代理の時に、私がどれほどサポートしているか忘れたのか!! それに尻の痛いのだって我慢してるのだぞ!!)

シュラ「まぁ、肩を持つわけじゃないですが、一応働いているみたいですよ。以前、夜中に電話した時に、サガはきちんとヤってましたから」

サガ(え!? わ、私が誰と夜中にそんなことを!? そんな最中に電話を貰っても、出れるわけがないし……)

デスマスク「あ〜、そういえば朝早く電話したときもばっちりヤってたな」

サガ(あ、朝から誰とやるっていうのだ。アイオロス、否定しろ!)

カミュ「24時間営業中ってことですか」

サガ(誤解だカミュ。私はそんなにふしだらで不真面目ではない。昼間は仕事をしたり、病院へ行ったり、風呂にはいっているのを皆知っているではないか! そもそも私宛に電話など、今までかかってきたことがない。ま、まさか私の知らない間に別人格が!?)

カノン「24時間ヤってますっ! の割には、このざまかよっ、ぶははははは」

サガ(おのれカノン、24時間年中休業のお前に笑われる筋合いはない!)

アイオロス「くっそーーーっ、すっごく楽しみにしていたのに、サガはふざけんなっ! 死んでわびろーっ!」

サガ(がーーーーーんっ!)

シュラ「まぁまぁ、アイオロス。少し飲みすぎですよ」

アイオロス「うるさいっ、私の誕生日を台無しにしたバツだ!」

サガ(わ、私がなにをしたというのだ、アイオロス)

サガはショックでガクガク震えながら、ペタンと床に尻をつけた。

デスマスク「教皇、このままじゃアイオロスがおさまりそうにないんで、なんとかしてやってください」

シオン「うむ、しかし余がゆうても仕方なかろう」

ミロ「適当にアイオロスなだめてくださいよ、教皇っ」

シオン「しかしのぉ、こればっかりは余にもどうにもならぬ」

シオンは目を閉じると一時熟考した。

シオン「よし、女神に一つ伺ってみるとしよう。女神ならなんとかしてくださるやもしれぬ。山羊よ、どこでも繋がる電話をかしてたもう」

シュラ「はい、教皇」

シュラは慌てて携帯電話をシオンに手渡した。

シオンが携帯電話を耳にあてると、ない眉を寄せた。

シオン「何も音がせぬ!」

シュラ「え?」

シオン「音がせぬとゆうておろう」

ぺしっとシオンがシュラに携帯電話を投げつけると、シュラは苦笑しながら急いで城戸邸の番号をプッシュする。

アイオリア「なぁ、なんで教皇は女神と小宇宙で会話されないんだ。電話より早いじゃないか」

ミロ「最新機器が使いたいんじゃねーの?」

カノン「バッカだな、お前ら。教皇は、女神と小宇宙で会話したくないに決まってんだろう」

ミロ「なんで?」

カノン「小宇宙だといつまでたっても切れないからな。その点携帯なら、電池がないとか電波がとか言って、用件だけですませられるだろう」

アイオリア「あっ、そうか」

シュラは電話の相手に用件をつげると、シオンに改めて電話を渡す。

シュラ「女神がすぐに電話にでます」

シオン「うむ」

沙織『おじぃ〜さまぁん、お電話ありがとう、私、さ・お・り! 今城戸邸にいるのよ!』

シオン「女神、ご機嫌麗しゅう存じます」

沙織『堅苦しい挨拶はいらないわぁ。おじーさまからのお電話なんて、沙織うれしい〜。どうしたの、おじーさま。沙織がいなくて寂しくなっちゃった?』

シオン「そうではございません。少々、身勝手な願いがございまして」

沙織『シオンのお願いならなんでもきいてあげるわよ!』

シオンの顔が引きつったのを見て、黄金聖闘士達は苦笑をもらした。会話は聞こえなくても、電話の向こうで沙織がどんなことを言ったのか、その顔を見れば簡単に想像つくからだ。


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