兄貴といっしょ(誕生日プレゼント)

 

それから数週間後。

人馬宮で筋トレをしていたアイオロスのところに、大きな荷物をかかえたシュラとデスマスクが息を切らせて入ってきた。

さらにその後からはミロ、アイオリア、カミュ、アフロディーテが続いている。

アイオロス「どうした、珍しいメンバーだな」

ミロ「白羊宮からシュラがデッカイ荷物持って上って来るのが見えたから、ついてきた」

アイオロス「で、なんでその荷物を私のところに?」

シュラ「覚えてないんですか!? あれだけ騒いでおいて!」

デスマスク「ふざけんなよ、鳥頭。おめぇのせいで俺たちがどれだけ苦労したか」

アイオロス「???」

アイオリア「誕生日プレゼントだよ、兄さん。今日、ようやく届いたんだって」

アイオロス「あぁ!! やっと来たのか! サガワ遅すぎ……っ」

ハッとなってアイオロスは慌てて口を噤むと、辺りの気配をうかがった。

カミュ「大丈夫です、サガは双児宮にいますから」

アイオロス「そうか。よかった」

デスマスク「まったく、こんなことなら横着しないで、アメリカに買いにいけばよかったな」

アフロディーテ「今更しょうがないわよ。とにかく届いたんだからいいんじゃない?」

ミロ「で、何買ったの!! 俺、金だけ出して、知らないんだよね」

アフロディーテ「私も知らなーい」

デスマスク「てめぇら、アイオロスの誕生日プレゼントなんて興味ねーって言ってたじゃねぇか」

シュラ「しかもその金のほとんどは教皇の負担だしな」

カミュ「アイオロスのことですから、どうせ筋トレマシーンでしょう」

アイオリア「その大きさからして、間違いないみたいだね。兄さん、俺にも使わせてよ!!」

アフロディーテ「その割には、これが届かなかった時の怒り方は普通じゃなかったのよね。だから気になるじゃない?」

カミュ「アイオロスがそんなに楽しみにするほどの筋トレマシーンですからね」

ミロ「アイオロス、中身見せてくれよ!!」

アイオロス「おう、シュラ。開けてくれ」

シュラはアイオロスに言われて包装を解き、梱包されている中身を取り出しにかかった。

数分後 ようやくお披露目となったアイオロスへの誕生日プレゼントに、ミロ達はキョトンとなった。

ミロ「なにこれ?」

カミュ「……台車ですか?」

アイオリア「筋トレマシーンには見えないけど」

アイオロス「なんだこりゃ!?」

アイオロスの素っ頓狂な声が人馬宮に木霊した。

シュラ「なんだこりゃ、ってアイオロスが欲しいっていったんじゃないですか!」

デスマスク「勘弁してくれよ、まじで鳥頭になっちまったのかよ!」

アフロディーテ「私、これ知ってる! ブッシュ大統領の愛車でしょ!」

カミュ「ああ、この前コイズミ首相が乗っていたってやつですか」

ミロ「ブッシュ?」(→セグウェイに乗るブッシュ大統領セグウェイ公式サイト

アイオリア「コイズミ?」(→小泉首相、立ち乗り型電動自転車「セグウェイ」で出勤

アイオロス「セグウェイ?……が欲しいって、私は言ったんだが」

シュラ「これがそのセグウェイですよ」

デスマスク「おめぇ、ブッシュファミリーの仲間入りでもするつもりなのか?」

アイオロス「セグウェイって、誰でも乗れる自転車じゃないのか?」

シュラ「は? なんですか、それ。セグウェイは自動二輪車です。はい、説明書」

アイオロスは渋々と説明書を受け取り、ぱらぱらとめくってからシュラに突っ返した。

シュラ「アイオロス?」

アイオロス「読むの面倒くさい……ていうか、これが本当にセグウェイか? 私が世間知らずだからって騙してないか?」

デスマスク「おいアイオロス、これはセグウェイだ。てめぇが欲しい、欲しいって騒いでいたセグウェイだ」

目をパチクリさせているアイオロスに、シュラ達は疑惑の眼差しを向けた。

デスマスク「もっと嬉しそうにしろよ、アイオロス」

アイオロス「いや……しかし、これが本当にセグウェイか?」

シュラ「しつこいですよ、アイオロス。もしかしてセグウェイって名前だけしかしらないんですか?」

アイオロス「ぎくっ!」

デスマスク「どうやらそのまさからしいな」

アイオロス「そ、そんなことはないぞ。そうだ、アイオリア、ちょっと乗ってみろよ」

アイオリア「え? 俺が乗っていいの? 兄さんが貰ったのに?」

アイオロス「いいから、ちょっと乗ってみろ」

アイオリア「でもなんか、これ……」

アイオロス「乗れ! 兄ちゃん命令だ!」

アイオリアは渋々ステップに乗ってハンドルを握った。

アイオロス「これ、走るのか?」

シュラ「ええ、走りますよ」

アイオロス「…………かっこ悪いと思うのは、私だけか? 今時の若者はこれがかっこいいのか?」

デスマスク「いや、お前の審美眼は間違っちゃいねー」

ミロ「ぶははははは、アイオリアだっせーーーっ!!!」

アフロディーテ「ぷはははは、このいけてなさがアイオリアに似合うっていうか……、アイオリアが乗ってもださいっっていうか」

デスマスク「ミロですらいけてないって思うセグウェイって、相当いけてないよな」

アイオリア「兄さん、俺もう下りていい?」

アイオリアは恥ずかしさに顔を真っ赤にしながらセグウェイから下りた。

アイオリア「ミロ、ちょっと乗ってみろよ」

ミロ「え? やだよ」

アイオリア「いいから、乗ってみろ」

アフロディーテ「ミロたんでもいけてないかどうか見てあげるわ、乗ってみなさい」

ミロは渋々とステップに足を乗せ、ハンドルを握った。

アイオリア「これどうやったら走るんだ?」

アフロディーテ「シュラ、キー頂戴!」

シュラ「ほらよ」

アフロディーテはシュラからキーを受け取るとキーを差し入れ、ハンドルを握るミロの手の上に自分の手をそえて、前にハンドルをちょっと倒した。

ミロ「わっ、うおぉぉ、走った!!!」

アイオロス「うわっ、走るともっとかっこ悪い」

ミロ「これ、どうやってコントロールすんだよーーーー!!!」

ミロはハンドルを倒しすぎ、ゴロンとバランスを崩してセグウェイから転げ落ちた。

アイオロス「なんだあのかっこ悪い玩具は……」

シュラ「それを欲しがったのはあなたですよ、アイオロス。なんでセグウェイが欲しかったんですか? 名前しかしらないのに」

デスマスク「俺もそれは知りたい。あんなに怒鳴られといて、結果はこれか? 納得行く説明が欲しいもんだな」

アフロディーテ「大方、名前だけ聞いて新しい筋トレマシーンだとでも思ったんじゃないの?」

アイオロス「そ、それはだな……」

アイオロスが冷や汗をたらしながら口ごもった時、運悪くサガが人馬宮に上って来た。

アイオロス「あっ、サッガ〜!!」

シュラ「ちっ、また面倒なのが来たな」

デスマスク「むしろサガに、このくっだらない無駄遣いをこっぴどく叱ってもらおうぜ。何せ、あいつもこのプレゼントの被害者だからな」

アフロディーテ「本気自殺までおいやられたからね」

シュラ「大して欲しくもない物に、俺たちがどれだけ振り回されたか。それだけで、サガが切れるに値するな」

パタパタと見えない羽を羽ばたかせてサガに走りよったアイオロスは、セグウェイの前にサガを連れて行った。

シュラ「聞いてください、サガ。アイオロスは誕生日に無駄に高いものを強請ったくせに、それがなんだか知らないで、欲しがったんですよ」

デスマスク「いい迷惑だぜ、大して欲しくもないものをよ!」

サガ「これは!!」

くわっとサガが瞳を見開き、怒りに震えたのをみて、シュラ達をニヤリと笑った。

ミロ「超だっせーーーよ……」

サガ「カッコイイ」

ミロ&アイオリア「な!?」

シュラ&デスマスク「は?」

カミュ&アフロディーテ「え?」

サガ「カッコイイーーーーーーーっ!!

アフロディーテ&アイオリア「えええええーーーー!?」

サガは目をキランキラン輝かせた。

サガ「これはセグウェイ! セグウェイであろう、アイオロス!! セ・グ・ウェ・イ!!」

アイオロス「そうだぞ、サガっ!」

サガ「あぁぁ、これがセグウェイか〜、やはり本物はカッコイイなぁ〜」

ミロ「え? かっこいい?」

アイオリア「どこが?」

サガ「このセグウェイ、いったいどうしたんだ? なんで人馬宮にあるんだ?」

うっとり喘ぎながらサガはセグウェイを上から下から、舐めるような視線で眺め回した。

アイオロス「私の誕生日プレゼントがこれなんだ、少々遅れてしまったが」

サガ「むむっ、セグウェイを届けるのが遅れるとは、確かにサガワはダメだ! 使えない!!」

シュラとデスマスクは互いに顔を見合わせた。

デスマスク「おいおい……なんか今回の一件きな臭くないか?」

シュラ「何か裏がありそうだな」

サガ「ああ、憧れのセグウェイ、なんてかっこいいんだ!! 私も乗ってみたい……アイオロス、心底お前が羨ましいぞ」

アイオロス「サガも乗ってもいいんだぞ!」

サガ「え? 本当に乗ってもいいのか? これ、アイオロスのなのだろう? アイオロスが誕生日プレゼントでも貰ったのに、いいのか!!」

アイオロス「ああ、サガに乗られるならこいつも本望だ!!」

サガは興奮と緊張で震える手で説明書を受け取ると真剣に読み始めた。

アイオロス「ところで、サガ?」

サガ「うるさいっ、今話かけるな!!」

瞬き一つせず真剣に説明書を読むサガに、アイオロスは苦笑した。


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