聖衣大好き(ペルセウス編その1)

 

 まさか!まさか!まさか!!あんなへっぽこぴーに負けるなんて!!

 アルゴルは粉々になったメドゥサの盾を見て、今日も嘆いていた。胴体部分は何とか自然修復したが、盾だけはどんなに頑張っても元に戻らない。ついにあきらめて、世界で唯一聖衣を修復することができる男の所へ行こうと決心を固めたのだが、周囲が色々と余計なお世話を焼いてくれた。

「牡羊座の兄さんは黄金聖闘士1,2を争う変人だよ。」

シャイナは楽しそうに笑う。

「機嫌を損ねたら超だっせぇデザインに変えられちまうって、星矢が言ってたね。」

魔鈴が更に付け加える。

「俺は、聖衣の墓場とやらに捨てられちまうって聞いたが・・・。」

ダンテが割ってはいる。

「聖衣の扱いが悪いと、一日中説教されるらしいな。」

アステリオンが付け加える。

「修復の代金は、体で支払うらしいぞ。」

カペラが意地悪く笑う。

「あんた結構いい面してるから、きっと元に戻してもらえるさ。尻の穴無事だといいね!あははは!」

かくして、シャイナをはじめ、白銀聖闘士たちの笑い声に見送られ、アルゴルは白羊宮へと向かったが、その足取りは今だかつてなく重かった。

 

 

 白羊宮

 鬼が出るか、蛇が出るか。出て来たのは子供だった。

「おじさん、何用?」

 貴鬼はアルゴルをいつもの愛想笑いで見上げた。そして、アルゴルはそんな貴鬼の顔をじーっと見つめていた。誰もが一度は間違える「まさか、このチビが牡羊座?!」を、アルゴルも、案の定やってしまったのだ。

「おいら、おじさんの顔は好みじゃないなぁ。」

 いつまでも無言で自分を見つめているので、貴鬼は痺れを切らして、プイと顔を横にそむけた。

「(しまった!嫌われた!!。)」

アルゴルは心の中で叫び声をあげる。とんでもない姿に変形させらてしまった聖衣を想像し、険しい顔尽きが真っ青になってゆく。しかし、たとえ愉快な聖衣になったとしても、盾なしの原状よりかはマシかも知れないので、思い切って貴鬼に頭を下げた。

「聖衣を直してくださいませんでしょうか!」

「おいら、まだ修行中だよ。」

 貴鬼の笑いは子悪魔そのものだった。ムウはテレポテーションを多用して移動するので、その姿を見たものは少なく、市場のおっちゃんやおばちゃん、同僚の黄金聖闘士くらいだろう。おかげで、ムウの姿を知らずに訪ねてくる者の半数以上が、貴鬼をムウと間違えて、勝手に話をはじめてしまう。そんなお馬鹿な客をからかうのが楽しくて、貴鬼はあえて名乗らない事が多かった。そして、ここにひっかかった馬鹿がまた一人・・・。

「ムウさまなら中だよ。入っていいか聞いてきてあげようか?」

 子供にからかわれたことに気づき、アルゴルは頬を引きつらせる。しかし、変わり者と噂の高いムウが、何で機嫌を損ねるかわかったものではないので、ぐっとこらえて、貴鬼に丁寧に願い出た。それこそ、ムウの子供だったら、とんでもないことになってしまう。

 程なくして、貴鬼の案内により、アルゴルは白羊宮内の工房に通された。薄紫の髪をした青年を目にして、アルゴルは息を飲む。この方が、かの有名な牡羊座の変人!!。端正で上品な顔立ちだが、何故眉毛が点なのだ!、心の中でつっこみを入れながら、深々とムウに頭を下げる。

「ペルセウス座のアルゴルです。聖衣の修復をお願いに参上しました。」

 アルゴルを無視して、ムウは床に置かれたペルセウスの聖衣ボックスを作業台の上にのせた。頭を下げていたアルゴルはムウがしゃがんで聖衣ボックスを大事そうに持ち上げるの見ることが出来たので、急いで頭をあげる。

 ムウが触れると、聖衣ボックスは静かに開いた。そして、セロハンテープで補修された、見るも無残な盾をボディーから取り外す。トレイの上でベリベリとセロハンテープをはがし、盾を粉々の状態に戻すと、ムウは小さくため息をついた。

 アルゴルはムウと目が合って、固まってしまった。

 青銅聖闘士に負けて、ペルセウス座の聖衣の命ともいえる、メドゥサの盾を大破させてしまったなんて、口が裂けても言えない!。自称白銀聖闘士最強の自分が、まさか、まさか、まさか!青銅聖闘士なんかに負けるなんて!!

 しかし、ムウは情け容赦なかった。

「青銅聖闘士にこうまで見事に粉砕されるとは、硬度に問題があったんでしょうかね。一体どういう修復の仕方をしたら、青銅聖衣で粉砕される盾ができるのか・・・・。」

 心の傷をナイフで抉られたうえに、傷口に塩までぬられて、アルゴルは何も言うことが出来なかった。そして、ムウには聖衣を想う心はあっても、他人を思いやる心がまったくなかった。

「あぁ・・・可哀想に・・・。せっかくの美女が、こんな哀れな姿になってしまって。今度生まれ変わったら、もっと大事にしてくれる方の所へお嫁にいけるといいですね。」

 粉砕された盾の一部に語りかける姿を、アルゴルは笑うことは出来なかった。彼はムウの何千倍も割れた盾に語りかけ、涙をこぼしていたのだ。

「さて、イヤガラセはこのくらいにしておいて、修復しますか。」

 さらりとそういいのけて、ムウは聖衣に微笑みかけた。噂に聞く以上の性格の悪さにアルゴルの頬が引きつる。しかし、ムウは気品あふれる微笑をたたえたまま、アルゴルに話を続けた。

「私、この聖衣大好きなんです。特別サービスで直してあげましょう。」

「ほ!本当ですか!!!有難うございます!有難うございます!」

 アルゴルはムウの手を握り締め、涙を流しながら何度も何度も礼言う。盾を直してくれるなら、性悪でも麻呂眉でも何でもかまわなかった。


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